その466 メス豚vsカロワニー軍
遂に始まった楽園村防衛戦。
戦いは事前の予想通り、数に物を言わせて攻めかかる敵軍に対し、我々防衛側が押し込まれてしまう所から始まった。
私は村を駆け抜けながら通信機の先の分隊長達に呼びかけた。
『みんな! ここは我慢のしどころだから! ここを乗り切らなきゃ待っているのはジリ貧の未来! 勝ち目がなくなるからね!』
「「「おう!」」」
なぜか敵の攻撃が遅れた事で、思わぬ準備期間が出来たとはいえ、たったの四日程度では出来る事は限られている。
本来ならメラサニ村のように、村の周囲をグルリと堀と土塁で取り囲んで要塞化してしまうのがベストだが、流石にそれには時間が足りない。
そもそも、楽園村の規模はメラサニ村の十倍以上。
戦争に耐えられる物だと、建設に年単位を考える必要があるだろう。
とかなんとか言っている間に隣の陣地に到着。
ここはカルネの第一分隊が担当している場所である。
さて、カルネはというと――いた。ってか、あのバカ、防衛ラインの外に出ちゃってるじゃない!
カルネはバリケードの外。複数の兵士に囲まれて防戦一方となっている。
こちらに振り返った隊員達がカルネを指差して叫んだ。
「クロ子! 来てくれたのか! このままじゃカルネが――」
『分かってる! とうっ!』
私は大きくジャンプ。彼らの頭上を飛び越えると、バリケードの上に着地した。
上ってから気が付いたが、バリケードの一部が大きく破損している。
どうやらカルネはここを超えて侵入して来た敵を押し返した結果、一人だけ防衛ラインの外に出てしまい、退くに引けない状況になってしまったようだ。
『伏せろ、カルネ! 最も危険な銃弾乱れ撃ち!』
「クロ子か?! って、おい、バカ止めろ!」
カルネはこちらに振り返ると慌てて地面に体を投げ出した。
その直後、戦場に破裂音が連続して鳴り響いた。
パパパパーン!
「ぎゃっ!」
「ぐえっ!」
「い、痛え! な、何だ?! 何がどうした?!」
「大丈夫か?! 一体何があったんだ?!」
突然の痛みにバタバタと倒れる兵士達。
カルネは混乱に乗じて、這う這うの体で包囲から抜け出した。
「クロ子! テメエ、俺まで殺す気かよ!」
『だからちゃんと当たらないように狙ったでしょ。伏せるように言ったのはあくまでも念のため。下手に動かれて自分から当たりに行く羽目になってもイヤだったし』
味方の攻撃を避けようと動いた先で逆にそれに当たってしまう。フレンドリーファイアあるあるである。
『それよりも危なかったわね。私の到着があと少し遅れてたらやられていたわよ』
「いや、確かにそうなんだけど、なんだろうな。なんだか素直に感謝したくない気分なんだが」
恩知らずにもブツブツと不満をこぼすカルネ。
いやいや、そこは普通に感謝する所じゃね?
言い争いをしながら陣地に戻った我々に、第一分隊の隊員達が次々に声を掛けた。
「ありがとう、クロ子。助けに行こうにも敵が攻めて来ていて持ち場を離れられなかったんだ」
「ホントに助かったぜ、クロ子」
『ホラホラ、こういうのよ。カルネ、あんたも素直になりなさい』
「うぐっ。悪かったよ。助かった」
カルネは空気を読んだのか、渋々といった感じで私に頭を下げた。
『それじゃ水母、カルネのケガの治療をヨロシク。後、ここには例の物が置いてあったと思うけど、誰か取って来てくれない? その間に私はバリケードの穴をちゃっちゃと塞いどくから。最大打撃!』
最大打撃は物を浮かせるという現象に特化した魔法である。
私は散らばっている残骸の中から適当に目に付いた物を浮かせると、崩れている箇所へ詰め込んだ。
この魔法のような(いやまあ実際に魔法なんだが)光景に、敵サイドから大きなどよめきが上がった。
「なっ! 木材や瓦礫が空中に浮かんでいるぞ!」
「一体どんなトリックだ?!」
トリックちゃうねん。何の種も仕掛けもないんだわコレが。
やっぱ魔法サイコー。異世界バンザイ。
私は作業を終えると隊員達に振り返った。
『応急処置は終わったけど、適当に積み重ねただけだからね。他の箇所より強度は下がってると見て注意しといて』
「ああ、問題無い。あそこまでやってくれたら後はこっちでやっておくよ」
隊員達のうちから数名が、早速、補修箇所に取り付いて補強の作業を開始している。
数日に渡ってこの手の工事を続けて来た彼らの手つきに澱みは無い。この場は任せても大丈夫そうだ。
体のあちこちに包帯を巻かれたカルネが、紐に繋がれたナイフをジャラジャラ引きずりながらこちらにやって来た。
「ホラよ、クロ子。さっきお前が言ってた物ってコレの事だろ?」
『そうそう、それそれ。サンキューな』
これさえあればクロ子さんは無敵だぜ。
カルネに続き、他のケガ人の治療も終えた水母が、フワフワと宙を漂いながらいつもの場所に着地した。
『水母もお疲れさま。あ、みんなは危ないから離れて離れてて。――流星鎚!』
私が魔法を発動すると、紐に繋がれた刃物が、まるでヘビのようにうねりながら私の周囲を旋回し始めた。
これぞかつてメラサニ村防衛戦でも使った私の近接戦用必殺技。なんちゃって鞭剣こと流星鎚である。
『それじゃまあ、ちょっくら敵の数を減らして来るから。風の鎧!』
私は身体強化の魔法をかけると、ダッシュ。流星鎚のチェーンを振り回しながら、単独、敵中に飛び込んで行ったのであった。
流星鎚の魔法とは、指定した物体を私の周囲に一定の距離で飛び回らせる、という効果を持つ魔法である。
ソフトボール大の木の球に繋がれた二本の紐には、それぞれ等間隔に四か所。ナイフが括り付けられている。
ナイフと言っても、サバイバルナイフのようなストロングなヤツではなく、刃渡りが十センチ程の、パッと見はカッターナイフのような品だ。
鉄が貴重なこの世界では、これでも結構高価な品らしい。
これらのナイフ? 小刀? は先日、村を襲撃したカロワニー軍の先発隊、私が倒した兵士達から奪った略奪品である。
ちなみに指揮官と思わしき御一行の死体からは、特に高価な品々が手に入った。
「おっ。この剣は――」
『どうしたの、サステナ? その剣がどうかした?』
指揮官の取り巻き。多分、最初に私が仕留めた騎士が身に着けていた剣を見た槍聖サステナは、目をすがめると考え込む仕草を見せた。
「コイツはかなりの業物だぜ。この青味を帯びた美しい刀身。ひょっとして【天下八剣】の一振り【晴嵐剣】かもしれんな」
えっ? 何そのカッコよさげな響き。天下八剣とか晴嵐剣とか、中二っぽいワードにオラ、ワクワクすっぞ。情報の続きを早よ早よ。
「天下八剣ってのは、まあ何だ。剣術家周りなら誰でも耳にした事のある有名な八本の剣って感じだな。逆に言えば超有名過ぎて、その名が付けられた偽物がゴロゴロしている、いわばバッタモンの代名詞にもなっているって代物だ」
ほうほう。骨董品界隈の古伊万里焼の大皿みたいなモンかな?
人間とはどこの世界でも似たような事を考えるのがいるもんだ。
「まあ、コイツがマジモンの天下八剣かどうかはともかく、名剣である事は間違いねえ。つまりは見栄や格好つけで腰に下げていいようなモンじゃねえって事だ。案外、コイツの持ち主は、名の知れた剣士だったのかもしれねえな」
そう言って死体を見下ろすサステナの目は、どこか達観しているように感じられて、妙に私の印象に残ったのであった。
ちなみに晴嵐剣(仮)は、今回の防衛線参加の報酬としてサステナにあげる事になった。
もし、本物の天下八剣なら勿体ない事をしたのもしれないが、現状ではあくまでもその可能性があるというだけの物。
そんな疑惑の品でサステナ程の戦力が雇えるなら、むしろお買い得だ。悩むまでもない。
くれてやるから、是非持って行ってくれい。
とまあ、話が逸れたな。
今回の二代目流星鎚は、そういった経緯で誕生した、いわば現地調達品である。
ナイフのサイズも形もバラバラなため、見た目もバランスもひっじょ~に良くない。
だが、現地調達には現地調達なりのメリットがある。それは――
『それは使い潰しても、いくらでも替えが効くという物だ! さあ、大人しく私の剥ぎ取り素材の元となるがいい!』
「ぎゃあああああ!」
「な、なんだコイツは! バカ、よせ! 来るな!」
私は当たるを幸いに、戦場を縦横無尽に駆け回った。
兵士達は予想外の攻撃に悲鳴を上げて逃げ惑う。
ハハハ! 圧倒的じゃないか我が軍は!
やはり流星鎚は近接最強だな!
唯一の問題は周りに味方がいる場所では使えないという点だが、今回の場合は特に問題なし。
ブラッディーの名のごとく、犠牲者の山を築いてくれようぞ。
テンションアゲアゲの私の背中でピンククラゲがフルリと震えた。
『着信アリ――「こちらウンタだ。クロ子、今どこにいる? そろそろ第二分隊が限界に近い。援軍に行けないようなら後退の許可を出してやってくれ」「おい! クロ子! テメエ俺を置いてどこに行きやがった?! 遊んでいるなら戻って来てこっちに手を貸しやがれ!」』
ウンタと、そしてこのやかましいのはサステナだな。
さしものサステナも戦いの連続に息が乱れているようだ。あっちに戻らないとマズイか? いや、その前に第二分隊に後退の指示を出さないと。
私は流星鎚の魔法を解除。
解き放たれた刃物は一直線に宙を飛び、たまたま進行方向にいた不幸な敵兵に絡みついた。
グサグサッ。
「うぎゃあああああ!」
『おお、痛そう・・・。それはそうと、ちょっと調子に乗って深入りし過ぎたみたいね。急いで陣地に戻るわ』
『軽い相槌』
私は『最も危険な銃弾!』。ついでに近くの敵兵に牽制の魔法をお見舞いすると、素早く踵を返して立ち去るったのだった。
次回「メス豚、誤魔化す」




