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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
467/518

その464 メス豚と防衛戦の始まり

2025年最初の更新です。

今年もよろしくお願いします。

 我々が物見やぐらの上から見守る中、遂にカロワニーの軍勢がその姿を現した。

 人数は数百から千といった所か。

 とはいえ、見えているのがその人数というだけで、後方には後詰が控えているのだろう。

 兵士達はほぼ全員、温かそうな厚手のマントに身を包んでいる。

 春とはいえ、朝晩の山はえらく冷え込むからな。カロワニー軍は数日に渡って野営をしていたため、あんな恰好をしていると思われる。


 そんな地味集団の各所に、こちらはピカピカの甲冑を着込んだ者の姿がチラホラと見受けられる。

 おそらくは部隊の隊長クラスか。

 てか、あんな目立つ格好をしていたら、狙撃手の恰好の的だろうに。

 自分の身の危険よりも戦場で良く目立つ事を重視しているのか、それとも、こちらをたかが亜人と侮っているのか。

 多分、両方か。


 兵士達が歩く度に、彼らが持つ槍の穂先がまるでさざ波のようにきらめきを放つ。

 一見美しいその光景の中に、弓兵の姿は見当たらない。

 まあ、今回は砦を攻める訳でもなければ、野戦をする訳でもないからな。

 ただの山村を制圧するのに飛び道具は必要ないと考えたのだろう。

 理屈は分かるが、こちらとしては遠距離から物量で押されたら手の打ちようがなかったので、これに関しては正直助かった。


『要はアレだ、トレードオフ。特化した編成はハマれば強いけど、どうしても対応力は下がるわな。失敗したなカロワニーよ。カードゲーマーなら、どんなデッキにも汎用カードを入れるのが常識だろうに』

意味不明(イミフ)


 ついこぼれた私の言葉にピンククラゲがツッコミを入れた。律義か。


「な、な・・・。と、とんでもない数じゃないか。アンタら本当にあんな人数と戦うつもりなのかい?」


 私の背後で長老会のエノキおばさんがワナワナと震え、かすれた声を上げた。


『戦うもなにも、何もしなけりゃあの兵士が全員村になだれ込んで来るんだけど? それで良い訳? てか、始めたのはこっちじゃないから。始めたのは向こう。私達は向こうが攻めて来たからそれに対して応戦しようとしているだけだから』

「そ、そりゃあそうなんだろうけどさ」


 エノキおばさんは怯えた目でカロワニー軍を見下ろしながら、ごにょごにょと言葉を濁した。

 燃える建物の中に飛び込んで孫を助けた肝っ玉おばさん、エノキおばさんにとっても、この人数は予想外だったようだ。


 いや、違うか。


 人数というのはそれだけで十分に人に圧力を与える。

 そもそもエノキおばさんを含めた楽園村の村人達は、想像の中でしか戦いを――戦争というものを知らない。

 これだけの数の”敵”を、実際に目の当たりにした事など一度もないのだ。

 それを言うなら、元日本人のお前はどうなんだって?

 まあ、今生の私はそこそこ戦争を経験しているからな。

 平和な日本に生まれた前世の頃ならともかく、今じゃこのくらいの数ではビビリもしないというか。

 勿論、危機感くらいは覚えはするものの、エノキおばさんのように頭が真っ白になって浮足立つような事はない。

 私は――そしてクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達は、そんなウブなネンネじゃないのだ。


 その時、黙ってカロワニー軍を眺めていたイケオジ――槍聖サステナが、「うげっ!」と大きな声を上げた。


「ウソだろう?! あの悪趣味な格好! まさか”二鳥”がいるのかよ?!」

『どいつ?』(※私)

「どいつ?」(※エノキおばさん)


 ドイツ、ドイツ、ジャーマン。

 じゃなくて。

 私はキョトンとするエノキおばさんに振り返った。


『さっきサステナが言ってた二鳥ってヤツ。それってどいつの事?』

「ああ、そういう事ね」


 サステナには――というか、人間には私の言葉は豚語? 豚の鳴き声にしか聞こえない。

 エノキおばさんは私に代わってサステナに尋ねた。


「ああん? そんなのあそこにいるヤツらに決まってるだろうが。【ベッカロッテの二鳥槍】。ホラ、あの奥にいる、ええとアレだ。なんかこう、鳥みたいなケバケバしいヤツら。見えんだろ?」


 サステナは眉間に皺を寄せると、汚らわしそうに敵軍の中央を指差した。

 鳥みたいにケバケバしいって、お前そんな説明で分かる訳が・・・あ、アレか。

 先程も言ったが、地味なマントを羽織った兵士達。そんな集団の中にあって、その二人の原色バリバリな鎧は確かに異彩を放っていた。

 例えるならば、灰色の土鳩の群れに混じった色鮮やかな南国の鳥とでも言うか。

 なる程、二鳥とは良く言ったものである。


「アレがンな可愛いモンかよ! かぁ~っ、折角、俺をコケにしたヤツらに一泡吹かせてやるつもりだったのによ! 面倒臭い事になりやがったぜぇ~」


 この傍若無人を絵に描いたような男にしては珍しく、サステナは心底イヤそうな顔をすると、バリバリと頭を掻きむしったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 遠く後方の物見やぐらの上にいるエノキですら、カロワニー軍の数に気圧された程である。

 村の南、新興住宅地でカロワニー軍を待っていた村長のユッタ達、村民会の代表者達は、敵の威容を前にすっかり腰砕けになっていた。


「ゆ、ユッタ、ど、どうする?」

「どど、どうするって、あ、相手の要求を聞きに行かないと・・・」


 カロワニー軍の先行部隊と初めて接触してから四日間。彼らはこの貴重な時間で何一つ具体的な対策を打つでもなく、話し合いをするだけに無駄に浪費していた。

 その上、それだけの時間をかけて決まった事は、『村長と村民会の代表が相手の話を聞いた上で、改めて対応を練る』という、ただそれだけの事。問題の先送りとしか思えない結論しか出せなかった。

 なる程。これでは村の若者達がクロ子の下に義勇兵として参加する訳である。

 村長のユッタと、貧乏くじを引かされた代表達は、今朝から胃の痛む思いをしながら、村の外れに近い家の中でカロワニー軍の到着を待っていた。

 しかし、そんなカロワニー軍の戦力は彼らの想像を遥かに上回っていた。


「そ、そうは言うがな、ユッタ。四日前にやって来た時は話し合いにすらならなかったんだろ? 今回はあの時よりも人間の数が多いって話だ。それってつまり、それだけ相手も本気で俺達と戦う気でいるって証拠なんじゃないのか?」

「お、俺はまだ死ぬわけにはいかないぞ! 一番下の娘が嫁に行くまで、俺が家族を守らなきゃいけないんだ!」

「う、ウチだってそうだ。俺が死んだら誰がウチの家族の面倒を見てくれるんだ」

「い、今更そんな事を言われても」


 人間達の軍隊は恐ろしい。かと言って村民会の決定を無視しして逃げるのも憚られる。

 進むに進めず、退くにも退けず。

 彼らは恐怖と責任感の板挟みになりながら、待機していた家から出る事も出来ず、いつまでも震える声で言い争いを続ける事しか出来なかった。


 バンッ!


「「「ギャ――ッ!」」」

「なんだ、お前達。まだこんな所にいたのか?」


 その時、大きな音を立ててドアが開け放たれた。――実際には普通に開いただけだったのだが、怯えている男達には心臓が止まりそうな程の大きな音に聞こえた。

 家の外から不思議そうにこちらを見ているのは、額に小さな黒い角を生やした傭兵姿の青年。

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の副官、ウンタであった。


「ここはもうすぐ戦場になるぞ。村の者達は大至急、村の南側に避難するように言われているのを聞いていなかったのか?」

「そ、それは・・・」


 ユッタ村長達はバツが悪そうに互いに顔を見合わせた。

 ウンタが怪訝な表情を浮かべたその時だった。彼の首にかかったピンク色の塊がフルフルと振動した。


「待ってくれ、クロ子から連絡が入った。ウンタだ。どうしたクロ子?」

『こちらクロ子。ウンタ、今どこにいる訳? さっきからマサさんがあんたを捜して走り回っているんだけど』


 このピンク色の塊は、メラサニ村での防衛戦の際にも使用された水母(すいぼ)の子機である。

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の主要なメンバーは、今回の戦いでも通信機としてそれぞれクロ子から持たされていた。


「戦闘前に各分隊の様子を見回っていた所だ。今は村の外れ近くの家の前にいる。大通りのすぐ横。南に大きな畑がある家だ」

『待って――確認した。今からマサさんをそっちに向かわせる』


 クロ子から――正確にはクロ子の言葉を中継した水母(すいぼ)から――指示を受けたのだろう。遠くでマサさんがワンワンと吠える声が聞こえた。


「クロ子。それなら誰かを一緒によこしてくれないか? 家の中に六人。逃げ遅れた村人がいるんだ。急いで後方に避難させなければならない」

「あ、あの、僕達だったら――」

助言(りょ)。付近にマティルダが存在』

『あー、じゃあマティルダに向かって貰うわ。水母(すいぼ)、ボイチェンお願い。【あーあー、こちらクロ子。マティルダ、聞こえる? 逃げ遅れた村人達の案内をヨロシク。場所はマサさんについて行けば分かるから】』

「わわっ! 急に男の声が! え、ええと、こちらマティルダ。分かったわ。あっ! マサさん待って!」


 初めて聞く渋い男の声の後、次いで女戦士マティルダらしき慌てた女性の声。

 この会話を聞きとがめた槍聖サステナの「おい、クロ子! 今の声はなんだ?! お前また俺に面白そうな事を隠してやがったな!」「【ウザッ! サステナ、ウザッ!】」という喧噪を最後に通信は切れた。

 この騒々しいやり取りに、ウンタはやれやれと小さくかぶりを振ると、ユッタ村長達に振り返った。


「さっき何か言いかけていたみたいだが、何か俺に言いたい事でもあったのか?」

「・・・いや、うん。もういいよ。これ以上ここにいても僕達には踏み出す勇気が持てそうにないし。それに君達にも迷惑をかけてしまいそうだからね」

「? そうか」


 ユッタ村長達は申し訳なさそうに――それでいながら、どこか憑き物が落ちたような表情で弱々しく微笑んだ。

 ウンタが曖昧に返事を返すと、家の外で犬の鳴き声がした。


『ワンワン! ウンタ! ここにいたんですかい!』

「ま、マサさん、は、速いよ! ええと、ウンタ。私はここにいる人達を後方に連れて行けばいい訳?」

「ああ、そうだ。任せていいか?」


 ユッタ村長達はウンタに促されるがままに外に出た。

 諦めがついたためか、さっきまであれ程高く感じていた敷居が、やけに抵抗なく感じられた。


「ウンタ君だっけ? 他所の村の君達にこんな事を頼むのも情けない話だけど、僕達の村の事をどうかよろしくお願いします」

「出来る限りの事はするつもりだ」


 ユッタ村長の頼みに、ウンタは言葉少なく頷いた。


 やがてカルテルラ山に角笛の音が響き渡った。

 それは開戦の狼煙(のろし)

 長く厳しい楽園村防衛戦の始まりを告げる合図であった。

次回「メス豚と楽園村防衛戦」

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― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。 今年も楽しい小説をよろしくお願いします。 とうとう開戦!心踊りますなあ! 新兵達の仕上がりはいかに。
あけましておめでとうございます! あのサステナが警戒するとは(ふたり同時だとめんどくさい程度?)二鳥とやらの実力やいかに… 水母の子機によってまたしてもこの世界には存在しない遠隔会話が可能に!
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