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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
458/518

その455 ~カロワニー・ペドゥーリ私設部隊~

◇◇◇◇◇◇◇◇


 カルテルラ山の山奥に作られた亜人達の村。楽園村。

 ここはその楽園村から一キロ程山を下った先にある林の中。そこでは武装した兵士達が行軍中の大休止――長目の休憩を行っていた。


「亜人村に勝手に攻め込んだ部隊があるだと?! バカ者が!」


 テントの中。床几(しょうぎ)(※折畳式の携帯用腰掛け)を蹴り倒して立ち上がったのは、頭のハゲあがった中年の騎士。

 小柄で細身の体型。ギョロリと大きな目がやたらと印象的な神経質そうな男。

 彼こそがこのカロワニー・ペドゥーリ私設軍団の総指揮官。ランズベルト・ドッチ男爵であった。

 ドッチ男爵は禿頭(とくとう)(ハゲ頭)を真っ赤にゆで上がらせると、連絡兵を怒鳴り付けた。


「功にはやって抜け駆けをしおって! 一体どこの部隊だ!」

「も、モントレド様の部隊でございます」

「モントレドだと?! ・・・ちっ。あヤツめ。こんな事になるのなら、多少文句を言われようが本隊の近くに留めておくべきだったか」


 ドッチ男爵は不快感も露わに大きく舌打ちをした。

 実はドッチ男爵は、抜け駆けをした部隊の将とはあまり折り合いが良くなかった。

 それもそのはず。ドッチとモントレドは共にカロワニーの家臣。爵位も同じ男爵という事もあって、共に派閥を代表する立場にあったのである。


「こうしてはおれん! すぐに兵に出発の準備をさせよ! モントレドのヤツを追うのだ!」

「お待ちを! 今から追っても意味はありません!」

「なんだと?! ならばこのままモントレドの好きにさせろと言うのか! 貴様ふざけるな!」


 激昂し、思わず腰の剣に手を掛けるドッチ男爵。

 かたわらに控えていた部下達が慌てて主人を止めに入った。


「ひっ――そ、そうではありません! モントレド様直属の部隊が亜人の村に攻め込んだのは事実。しかし、すぐに逃げ帰って来たのです!」

「なんだと? それは一体どういう事だ?」


 今回の作戦の目的地、亜人村には、ろくな戦力がない事は事前の調べで分かっている。

 それに村の周囲には堀もなければ柵もなく、防衛のための施設は何一つない事は偵察でも確認済みである。


「窮鼠猫を噛むとは言うが・・・。亜人共が予想外の抵抗を見せ、苦戦中というのであればまだ分かる。だが、亜人共に追い払われて逃げ帰って来たと言われても、にわかには信じ難いが・・・」


 ドッチ男爵は「ふうむ」と顎ヒゲを撫でながら考え込んだ。


「よし、モントレドの部隊に伝令を送れ。この俺直々にヤツに問いただしてやろう」

「はっ!」


 部下達が慌ただしく命令を実行する中、ドッチ男爵はドッカと床几(しょうぎ)に腰かけると、いかにして今回の件を政治的に利用してやるか、その方法を思案するのだった。




「モントレドが死んだ、だと?」


 伝令の兵士の言葉はドッチ男爵にとって信じ難いものだった。

 いや、彼だけではない。この場にいた部下の騎士達も、彼同様、予想外の凶報に愕然としていた。

 騎士の一人がハッと我に返ると、伝令の兵に詰め寄った。


「待て! モントレド様の側にはベルフィゴ殿が付いていたはずだ! あの剣豪が守っている限り、仮にかの狂人ドルド・ロヴァッティであっても、モントレド様を手にかけるのは不可能ななずだ! モントレド様が討たれた時、ベルフィゴ殿はどこにいた?! 彼は一体なにをやっていたんだ?!」

「べ、ベルフィゴ殿はモントレド様のご遺体のすぐ側で死体となって発見されたそうです。おそらくモントレド様をお守りしようとしたものの、それを果たせず討ち死になされたのではないでしょうか」

「あのベルフィゴ殿がやられただと? ・・・ば、バカな。信じられん」


 ベルフィゴはモントレド男爵の家臣の中でも、勇猛で鳴らした凄腕の騎士である。

 カロワニー・ペドゥーリの家臣全体を見回しても、彼に匹敵するだけの腕前の騎士はおそらく二人。

 【ベッカロッテの二鳥槍】と呼ばれる二人だけだろうと言われていた。


「モントレドが死んだ・・・か」


 ドッチ男爵はもう一度、先程と同じ言葉を口にした。

 最初に感じた衝撃が去り、脳がその言葉を現実の物として咀嚼すると共に、彼の中では「これは俺にとってまたとない追い風なのでは?」という考えがムクムクと湧き上がっていた。


(戦力的に考えれば、モントレドが死んだのはともかく、ベルフィゴを筆頭とするヤツの配下の騎士達までやられてしまったのは、確かに痛手だ。だが、モントレドすら討ち取った亜人共をこの俺が制圧すればどうなる? 名実共に俺がモントレドより上だと証明する事になるではないか)


 亜人ごときがどうやってモントレド男爵を――剣豪ベルフィゴを討ち取ったのかは分からない。

 だが、そんな奇跡のような出来事が立て続けに二度も三度も起きる訳がない。そんな事が起こり得るはずがない。


(亜人がベルフィゴを倒す事が出来たのは、あり得ない程の奇跡の賜物(たまもの)。偶然に偶然が重なった結果に違いあるまい)


 この出来事は、亜人にとっては百に一度、いや、千に一度、万に一度の奇跡。逆にベルフィゴにとっては人生における最大最悪の不運。

 ならばこの出来事は自分にとってはどうなのだろうか?


(考えるまでもない! そんなのは幸運以外の何物でもないに決まっているではないか!)


 幸運の神ラキラの顔を見た人間はいないという。

 ラキラは現れたと思った時には、既に目の前を通り過ぎているからである。

 人間にとって幸運というのは後になってから気付く物。チャンスは失ってからそれがチャンスだったと気付く物なのである。

 しかしこの時、ドッチ男爵は確かに幸運の神の素顔を見た気がした。

 幸運の神ラキラは自分に微笑んでいる。

 ドッチ男爵は強く確信した。


 男爵は未だにショックから抜け切れていない部下達を見つめた。


(この愚図共め。一体いつまでガン首を並べて呆けておるつもりだ)


 男爵は内心で彼らに毒づくと、「コホン」と一つ、咳ばらい。

 部下達の注目を集めた。


「お前達! 急ぎカロワニー様の所に使いを出せ! こちらにマルテルとダルタニアンを送って貰えるよう、要請するのだ!」

「マルテルとダルタニアン?! 【二鳥槍】の二人を?! あの二人を呼び寄せるのですか?!」


 部下達は驚きの声を上げた。

 マルテルとダルタニアンは、カロワニーの家臣の中でほぼ唯一、剣豪ベルフィゴに匹敵すると言われている凄腕の騎士達である。

 ドッチ男爵はその二人を呼び寄せ、自軍に加えると言うのだ。

 男爵は小さく笑みを浮かべた。


「亜人共はまぐれとはいえ、あのベルフィゴを打ち取ったのだ。指揮官としては万全に備えるのが当然ではないか」

「それは・・・た、確かに。おっしゃる通りでございますが」


 部下達は一応、口ではそう答えたものの、微妙な表情で互いに顔を見合わせている。

 ドッチ男爵も彼らの気持ちが理解出来なくはないが、亜人達がベルフィゴを討ち取っているという事実がある以上、一応は用心しておく必要があった。


(まあ。そんなまぐれが二度も三度も起きるとは思えんがな。しかし、保険を掛けておくに越したことはあるまい)


 幸運の神ラキラは賭け事の神でもある。

 今の所、ほぼこちらの勝ちが決まっている盤面とはいえ、ラキラ(賭け事の神)の気まぐれ一つで全てをひっくり返されてはたまらない。


(だが【ベッカロッテの二鳥槍】がいれば盤石というものだ。本人達の性格はともかく、あれで腕の立つヤツらではあるからな)




 こうしてドッチ男爵の使いは出発した。

 彼は山を降り、ペドゥーリ伯爵家の屋敷に着くと、カロワニー・ペドゥーリに面会した。

 兵から報告を受けたカロワニーは、男爵の要請を受け入れ、【二鳥槍】の派遣を決定した。

 そこから実際に【二鳥槍】の二人が出発するのは、更に二日後の事。

 つまりは合計で約三日間。ドッチ男爵の部隊は現在の場所に留まり、待機を続ける事になったのである。


 ドッチ男爵の慎重な(あるいは臆病な)性格故に発生した、この三日という時間。

 たったの三日間。されど三日間。

 追い詰められた楽園村とクロ子達にとって、この僅かな猶予は値千金の時間となるのだった。

次回「メス豚と兄弟の帰宅」

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