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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
455/518

その452 メス豚、人間の部隊を見つける

 ベッカロッテの町の裏社会を牛耳る犯罪組織アゴスト。

 その幹部ヴァロミットは死の間際にこう言い残した。


 一連の黒幕にいるのは、カルトロウランナ王朝の裏で暗躍する犯罪組織。

 厄災を呼ぶ北西の風の名を持つ犯罪組織、ヴェヌド。

 この地の新たな支配者カロワニー・ペドゥーリすらも、このヴェヌドの手のひらの上で踊らされているだけ。

 もっとも、カロワニー本人はそんな風には思っていないだろうが。


『――なんて言われてもなあ』


 私はブヒっと鼻を鳴らした。

 正直、今更、黒幕が外国のシンジケートとか言われても困ると言うか。

 ぶっちゃけ、全部ヴァロミットの妄想なんじゃね?

 だったらいいな。

 ヴェヌドってアゴストの親組織みたいだし、その可能性もワンチャンあるかも?

 誰だって自分の推し(・・)が一番な訳だし。

 仮にもし、ヴァロミットの話が本当だったとしても、その場合は私らの手に余るというか、しがない亜人村の一部隊ごときじゃどうしようもないというか。


『つまりは考えるだけ無駄って訳か。よし。この話は一旦忘れよう』


 これぞ私の得意技。問題の先送りである。

 それでいいのかって? 考えたってどうしようもないものは考えたってしゃーないだろうが。

 『アリとキリギリス』の童話を知らないのかって?

 それってアレだろ。夏の間、歌い遊んでいたキリギリスが、冬になって食べる物がなくなって困るという話。要は将来に備えるのは大事ですよっていう寓話。ンな事くらい知ってるっての。

 だが待って欲しい。

 キリギリスの成虫が生きられる期間は六月から九月という。

 元々キリギリスは夏の間しか生きられない虫なのである。

 もし仮にキリギリスがアリを見習って心を入れ替え、夏の間にせっせと食べ物を貯えていたらどうなっていただろうか?

 キリギリスのやった事は全くの無駄。彼は他人の言葉に踊らされ、一度しかない人生(虫生?)を棒に振っただけの愚か者になってしまうのである。

 屁理屈だって? ならばここから更に考えを進めてみよう。冬になってキリギリスが寿命で死んだ後、彼が貯えていた食料はどうなるだろうか?

 一番考えられる可能性は、彼に食べ物の貯え方、つまりは貯蓄のノウハウを教えた者が全てを手に入れる。そう。アリの財産になったのではないだろうか?


『おっとろしいヤツやでアリ。これってアレだ。「不安産業」とか「不安マーケティング」とかいうヤツ。相手の不安や恐怖を煽って、特定の商品やサービスの購買に誘導するというテクニック。アリのヤツ、真面目に働いているように見せかけて、随分とえげつない事を考えるもんじゃわい』

「おい、クロ子。さっきから何をブツブツ言ってるんだ?」


 アリの悪辣な企みに戦慄する私に、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の副隊長ウンタが声を掛けた。


「おおい、クロ子。荷造りは終わったぜ! こっちはいつでも出発オッケーだ!」


 ついでにクロカンの大男、カルネがこちらに手を振った。

 やれやれ、やっと出発の準備が整ったか。あまりにヒマだから、ついつい余計な考察までしてしまったわい。




 この場所は昨日、アゴストファミリーとの戦いがあった場所から少し離れた林の中。

 我々は戦いの後、ここに場所を移してキャンプを行ったのである。

 流石に死体がゴロゴロ転がっている場所で寝泊まりする訳にはいかんからな。

 死体にハエがたかって衛生も悪いし、匂いに釣られてクマなどの危険な肉食獣がやってくるかもしれない。

 そもそも単純に気分も悪いし。

 といった訳で、我々は別の場所にキャンプ地を移す事にしたのだった。

 サッカーニ流槍術の師範代サステナだけは、やれ疲れただなんだとブーブー文句を垂れていたが、そんなの知らん。イヤならここに残れば? と言ってやったらようやくテントを片付け始めたのだった。

 子供か。全く世話が焼ける槍聖だこと。


 でもって今は翌朝。

 クロカンの隊員達は、村にいた頃は泊りがけで狩りに出るのも珍しくなかったせいか、テントでの寝泊まりでもそれ程疲れは残っていない様子である。

 タイロソスの信徒、女戦士マティルダも、傭兵として戦争に参加した経験があるそうで、テント寝で特に問題はなさそうだ。

 サステナ? アイツは夕食もそこそこに速攻でテントに潜り込んでいびきをかいてたな。

 まあ、前の日の晩は【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】達、深淵(マーヤソス)の妖人達との戦いでほぼ徹夜状態だったし、そこに朝から慣れない山歩きが重なった上、最後はアゴストファミリーとの戦いまであった訳だし、無理もないが。

 実際、休める時には休む事だって大切だ。

 我々も昨夜の見張りはマサさん達、黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊に任せて、全員ぐっすり寝たのだった。


『それじゃ、しゅっぱーつ! 道案内はロインに任せるわね』

「分かった。こっちだ」


 楽園村の亜人兄弟の兄、雰囲気イケメンことロインは、我々の先頭に立つと歩き始めた。

 昨日、この林を見た途端、彼は「この林には狩りで来た事がある」と言い出したのだ。

 その後もしばらくあちこち確認して回っていたが、どうやら記憶に間違いはなかったらしい。

 ロインが言うには、「ここからなら朝から出発すれば昼には俺達の村に着くだろう」との事だ。

 やれやれ、ようやく村に到着か。思えばここまで随分長くかかったもんじゃわい。

 弱気ショタ坊こと弟のハリスが嬉しそうに兄に声を掛けた。


「もうすぐ僕達の村に戻れるんだね、ロイン兄さん」

「そうだな。父さんと母さんも心配してるだろう」


 二人の楽しそうな雰囲気に釣られた黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達が、興奮に尻尾をブンブン振りながら彼らの足にまとわりついた。


『こら! ロインの邪魔をしない! あんた達には周囲の見張りを命じておいたでしょうが!』

『『『応!』』』


 相変わらず返事だけはいいんだよな。返事だけは。

 山の中に散って行く黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達。しかし彼らはすぐに戻って来た。

 なんぞ?

 彼らのリーダーのマサさんが仲間を代表して私に報告した。

 リーダーはお前だろうって? どうやら彼らの中ではリーダーはマサさんで私はボスなんだそうだ。


『黒豚の姐さん、人間です。この先に武器を持った人間達が大勢います』


 不穏な知らせに我々の間に緊張が走ったのだった。




 林に潜む武装した男達。

 マサさん達黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊が見つけて来た人間達である。

 ちなみにここにいるのは私とマサさん達、案内役の黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達だけ。

 私達なら、最悪、相手に見付かっても、この山に住む野生動物という事で誤魔化しが効くからな。

 という訳で、やたらと付いて来たがった槍聖サステナ含めた隊員達はあの場で待機(おるすばん)である。


『人数は三十人程。中々整った装備だし、どう見てもアゴストファミリーの残党とは思えないわね。今の所、最も可能性が高そうなのはカロワニー・ペドゥーリの私兵あたりかな。だとすればここにいるのが全員とは限らないか。他にも山に入っている部隊がいるかも』


 つまりはここにいるのは全体の一部。

 カロワニーの本隊はこの先にある楽園村を取り囲むように、広く分散しているのではないだろうか?


 厄介な事になったわい。


 私はブヒっと鼻を鳴らした。

 保守派の旗頭、ゴッドの娘が殺されたのが一昨日の夜の事。

 その連絡を受けてから兵士を差し向けたとすると、どう考えても辻褄が合わない。敵の動きが早過ぎる。


『つまりカロワニーは、暗殺指令と並行して兵を動かしていた。ないしは暗殺の成功を待っていられない何かしらの事情が出来た。くそっ。カロワニーを焦らせる物。それが分かれば敵の弱みが分かるかもしれないってのに』


 こんな時、ニュースサイトもまとめ動画もない世界は本当に不便だ。

 前世だったら即、スマホでググっていた所なんだが。全く、歯痒いったらありゃしない。

 私の背中でピンククラゲがフルリと震えた。


超不満顔(イラってる?)

『別にイラってなんてないから。――俺をキレさせたら大したもんだ。でもキレてないですよ。まあ、俺をキレさせたら生きて帰れませんよ』


 お笑い芸人の長〇小力のネタである。

 それはさておき。出来ない事をこれ以上、あれこれ考えていても仕方がないか。


『先ずは人間の兵士達に見付からないように楽園村までたどり着かないとね。マサさん達黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊は数頭ずつに分かれて周囲の探索をお願い。人間達の包囲が手薄な場所を見つけて頂戴』

『『『応!』』』


 あ、コラ、バカ! こんな場所でそんなに元気よく吠えたら――


「何だ? 犬の鳴き声がしたぞ」

「山の下の方だったな。おい、誰か様子を見て来い」


 ほら、言わんこっちゃない。人間の兵士達が反応しちゃったじゃないの。


『散開! 報告はウンタ達クロカンの隊員達にヨロシク!』

『『『応!』』』


 犬達はワンワンキャンキャン、尻尾を振りながらこの場から散って行った。

 さて、私はどうするかな。このままみんなの所に戻ってもいいけど・・・よし。


風の鎧(ヴォーテックス)! ここは念のため。先の偵察も兼ねて少しだけ先行しとこうかな』


 敵の動きも予想外に早かった事だし、他にも何か想定外の事があるかもしれない。

 村の大体の場所はロイン達から聞いているし、猫の子一匹ならぬ豚の子一匹なら、兵士達の包囲の目を掻い潜るのも難しくはないだろう。

 私は身体強化の魔法をかけると、ヒラリと木の上に駆け上った。

 そしてそのまま何事もなく、兵士達の頭上を無事通過。

 仲間達よりも一足お先にこの旅の目的地――楽園村を目指したのであった。

次回「メス豚と略奪兵達」

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