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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十四章 楽園村の戦い編
451/518

その448 メス豚と山の中の乱戦

 野山に咲き乱れる色とりどりの美しい花。

 その美しい光景を前に、私は思わず学校で習った古今和歌集の和歌を思い出していた。


 いつまでか 野べに心のあくがれむ 花し散らずば千代も経ぬべし。


 僧侶歌人の素性法師(そせいほうし)の歌である。

 現代語に訳すと『一体いつまで私は春の野辺に心惹かれるのだろう。もし花が散らなければ千年もこの憧れは続くことだろう』。

 つまりは、春に芽吹いた美しい花々には、いつまでも時間を忘れて見入ってしまう、といった意味である。

 そう。正に今、私の前に広がる光景そのものである。


『・・・それじゃあまあ、花の美しさは十分に愛でた事だし、そろそろいただきますか』


 私はあんぐりと口を開けるとムシャリと花を齧り取った。

 もっしゃもっしゃ・・・う~ん、微妙。見た目は美味しそうなんだけどな。そういや私、前世でもお刺身の上に乗った食用菊とかあまり得意じゃなかったっけ。

 お前は何をやっているんだって? いや、綺麗な花で心が満たされた事だし、次は食欲の方も満たそうかなと。

 風情も何もあったもんじゃないなって? いや、私って花より団子派だから。つまりはアレだよアレ、『衣食足りて礼節を知る』ってヤツ。えっ? 違う?

 もっしゃもっしゃ、もっしゃもっしゃ。

 そんな事を考えながらも、私はモリモリと花を貪り続けていった。

 こうして山の一角の美しい光景は、私の手によって(食欲によって?)見るも無残な姿になり果ててしまったのだった。

 ごちそうさまでした。


「おおい、クロ子。テントを張り終わったぜ――って、ああ! お前何をやってんだよ!」


 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の大男、カルネが私を呼びに来てギョッと目を見開いた。


「あ~あ、ヒデエなこりゃ。せっかくお前が退屈そうにしてるから、キレイな花が咲いる場所を教えてやったってのによ。まさかこんな風に全部食っちまうとは思わなかったぜ」


 カルネは残念そうな顔で辺りを見回した。


『えっ? あれって「どうぞ召し上がれ」って意味じゃなかったの?』

「どうしてそうなるんだよ。お前、食う以外の事が頭にないのか――って、まあいいや。テントの準備は終わったぜ。次はどうする? 少し早いが今度は飯の仕度を始めるか?」


 カルネはそう言うと、チラリと背後を振り返った。

 我々が早目に日程を切り上げ、キャンプの準備を始めたのは、テントを張るのに丁度いい場所を見つけたから――ではない。

 こうやって隙を作る事で、後方に潜んだ追跡者達を誘い出すのが目的である。

 孫氏の兵法に(いわ)く、『()く敵人をして自ら至らしむる者は、(これ)を利すればなり』。

 敵をこちらの考え通りに動かすには、相手にとって利になることを見せる事で思考を誘導するのである。


 ちなみに【今サッカーニ】ことサッカーニ流槍術師範サステナは、チャチャッと適当に組んだテントに潜り込み、いの一番に休んでいる。

 みんなまだ働いているというのに協調性のない。と言いたい所だが、これから始まる(予定の)戦いを前に少しでも体力を取り戻そうしているのだろう。

 慣れない山歩きで大分へばってたからな。

 性格的にはちとアレな所があるが、こと戦いに対しては流石は槍術師範。こういう心構え? 兵法? に関しては大いに参考にすべき点があるだろう。

 考えに沈んだ私にカルネが不満げに声を掛けた。


「おい、クロ子」

『あっと、ごめんごめん。ええとそうねぇ――』


 私が返事をしようとしたその時だった。


「ゥオン! ゥオンオン!」


 辺りに犬の鋭い鳴き声が響き渡った。

 周囲を見張っていたマサさん達黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の声だ。


『誘いに引っかかったようね。カルネ、急いでみんなを集めて頂戴!』

「おうよ! 敵襲! 敵襲!」


 どうやら狙い通り。我々は上手く敵を誘い出す事に成功したようだ。




「ワンワン! ワンワン!」

「クソッ! コイツはヤツらの所のワン公共だ! ヴァロミットさん! ヤツらやっぱり俺達を待ち構えてやがりましたぜ!」

「うるせえ! 今更後に引けるかよ! 全員突撃だ!」

「「「オオオオオオオオ!」」」


 おうおう、勇ましい事で。

 ここまでは慎重に気配を消しながら我々の後を追って来ていたものの、所詮はヤクザ者。

 詰めが甘いと言うか、最後の最後に短慮な所が出てしまったようだな。


「魔法銃構え!」


 クロカンの副隊長ウンタの号令で、隊員達は横一列。片膝立ちになって魔法銃を構えた。

 槍聖サステナは、明るい場所で初めて見る魔法銃での戦いを興味深そうに眺めている。

 やがて――


「ワンワン! ワンワン!」

「うっ! や、やべえ!」


 黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達に追われるように、見るからにヤクザ者といった感じの崩れた男が木立の影から飛び出した。

 男は待ち構えていた銃口の列を見て一瞬ギョッとしたが、直ぐに「こうなりゃ一か八か」と割り切ったのか、雄叫びを上げながら我々に襲い掛かって来た。

 だが流石にそれは蛮勇が過ぎるというものだ。


「撃て!」


 カシャン! カシャン! カシャン!


 金属の擦れる音と共に、魔法銃のボルトハンドルが下がると、銃尾が機械式にロックされる。

 そして次の瞬間――


 パンッ! パパパパーン! パン!


「ギャアアアアア!」


 男は全身に鉛の弾丸を受けると、走っていた勢いのままに顔面から地面にヘッドスライディングした。うわっ、痛そう。


「ワンワン! ワンワン!」

「うおっ! や、ヤツら待ち構えてやがるぞ!」

「ビビってんじゃねえ! 足を止めるとヤツらの妙な武器にやられるぞ!」

「「「ウオオオオオオオオ!」」」


 次々にガラの悪い男達が現れると、倒れた男を踏み越えるようにしてこちらに殺到した。

 正に入れ食い状態。これぞこちらの思うつぼ――と言いたい所だが、この勢いはちょっとマズイかも。

 流石に敵の数が多すぎる。

 それに戦争でもスポーツでも、こういう捨て身の攻撃というのは案外バカにならないものだ。


『ウンタ! 警戒!』

「分かっている。クロカン! 小隊員の半数は盾を持て! カルネ!」

「任せろ! 腕自慢のヤツらは俺に続け! 仲間の壁になるぞ!」

「「「おう!」」」


 大男カルネはその場に魔法銃を投げ出すと、盾を構えて隊員達の前に出た。


 ガン! ガンガン! ガガン!


 あちこちで武器と盾、肉体と肉体が激突する音が響く。


「うおおおおお! 押せ押せ! 乱戦になれば飛び道具は使えねえぞ!」

「クロカン! 怯むな! 敵を押し返せ!」

「おおおおおお!」

「ワンワン! ワンワン!」

「魔法銃部隊は慎重に狙いを定めろ! 絶対に味方に当てるな!」


 こういう時、発射までにラグのある魔法銃は結構厳しい。

 たかが一秒程のラグとはいえ、その僅かな時間で射線に味方が入らないとも限らないからだ。


「へっ! ようやく俺の出番って訳だな」


 ここで槍聖サステナが槍をしごきながら前に出た。

 彼は心から楽しそうに口角を上げると、まるで散歩でもしているような自然な歩みで戦場へと足を進めた。


「ほいっ!」

「ぐわあっ!」

「なっ?! ヤバイ! コイツ【今サッカーニ】だぞ!」

「ほほう。俺を知っているヤツがいるのか。なら俺の槍が【梵鐘(ぼんしょう)割り】という事も知ってるよな? イヤアアアッ!」

「ギャアアアアア!」


 サステナが裂ぱくの気合と共に槍を振り下ろすと、なんと、槍の穂先は相手の頭を真っ二つに勝ち割った。

 だが槍の勢いはそれでも止まらず、深々と胸まで切り裂き、そこでようやく止まった。

 このあまりにショッキングな光景に、戦場は一瞬シンと静まり返った。

 敵はおろか、味方のクロカンの隊員達でさえ、思わず戦いの手を止め、驚愕の表情でサステナを見つめている。

 全員の視線が集まる中、サステナは無造作に槍を薙ぎ払うと、死体から槍を抜き取った。


 てか、マジかよ・・・。


 達人恐るべし。

 こっちの世界に転生してこちら。結構、色々な戦いを見て来たつもりだったけど、頭から人が真っ二つにされる所なんて初めて見たわい。

 【梵鐘(ぼんしょう)割り】だっけ? 大層な銘の付いた槍だけど、お前それ、さっき何気に地べたに放り出してなかったか?

 名槍にそんな雑な扱いをしちゃイカンだろ。

次回「メス豚、出損ねる」

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