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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十三章 かりそめの楽園編
446/518

その443 メス豚と敗北を認める勇気

成  造マニュファクチャリング(ソイル)


 私は魔法を発動。土がモコモコと盛り上がると、地面に直径2~3メートル程の穴が開いた。

 深さは2メートル弱。結構深い。

 月明かりの下だと、暗くて底が見えない程だ。


『準備出来たわよ』

「ああ。みんな行くぞ。よいしょ」

「かなり深いぞ、足元に気を付けろ」


 私の合図で、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達は、布に包まれた大きな塊をそっと穴の底へと下ろした。

 次いで小さな塊も。その隣に並べられる。

 クロカンの大男、カルネが、布に包まれた大きな塊――トトノの死体に向かって呟いた。


「トトノ・・・家族の下に連れて帰ってやれなくて済まねえ。後の事は俺達に任せて、安らかに眠ってくれ」


 ちなみに小さな塊は、トトノと一緒に殺された黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬のものである。

 隊員達は、もう一つの塊を――タイロソスの信徒、青年戦士ビアッチョの死体を――ゆっくりと穴の底に下ろした。


「マティルダ」

「・・・うん、分かってる。ありがとう」


 クロカンの副隊長、ウンタに促され、女戦士マティルダは死者に最後の別れを告げた。


「さようなら、ビー君。これまで大変な事もあったけど、一緒にいられて楽しかったよ」


 マティルダは手に持っていたひと掴み程の花を穴の中に投げ入れた。


「私、一人になっちゃったな」


 静まり返った山の中、誰かが鼻をすすり上げる音が聞こえた。




 深淵(マーヤソス)の妖人との戦いは、我々の敗北に終わった。

 そう。我々は負けたのだ。

 確かに私達は五人の妖人を倒した。【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】を始め、その誰もが、非常に手強い相手だった。

 その敵に対し、我々は一人の犠牲者も出さずに勝利した。

 この点だけを見れば、我々の完封。完全勝利と言ってもいいだろう。

 だが、敵はその隙に胡蝶蘭館に侵入していた。

 一応は私も、第六の妖人が存在する可能性も考えて、見張り用の犬達とアーダルト達タイロソスの信徒の三人。それと犬の言葉が分かる者も一人ぐらいいないといけないだろうという事で、隊員達の中でも腕っぷしの強いトトノを残していた訳だが・・・

 まさかそのアーダルトが裏切る事になろうとは。流石に予想の範囲外だった。

 最初にアーダルトの不意打ちでトトノが殺され、次いで青年戦士ビアッチョもやられた。

 第六の妖人――【無貌(むぼう)】と名乗っていたそうだ――は、アーダルトと共に、館に残っていた護衛の兵士を次々と殺害。

 遂にはゴッドの娘、ベルベッタ・ペドゥーリの命を奪い、夜の闇の中へと消えたのであった。


 そう。敵は最大の目的を――ゴッドの娘を殺すという目的を――果たしたのである。

 それまでの過程で、どれだけ我々が勝利していたとしても――たとえそれが一人も味方の命を損なわない完全な勝利だったとしても、敵に目的を達成された時点で我々の負けなのである。


 カードゲームで例えるのなら、こちらのフィールドは強力なモンスターがズラリと並んでいる状態。それに対して敵のフィールドはガラガラ。全てのモンスターがこちらのモンスターにやられてしまい、全くの空っぽ。そんな状況。

 ここで相手はモンスターを召喚。相手はそのモンスターカードの持つバーン効果(相手ライフに直接ダメージを与える効果)で私のライフを直撃。

 これによってライフはゼロに。私の負けである。

 いくら盤面で勝っていようが、そんなものは関係ない。

 ライフがゼロになれば終わり。こちらの負けである。

 今回はそんな負け方。

 しかも、最後にはトトノという犠牲者も出し、アーダルトという裏切り者まで出すという、最悪のおまけ付き。

 認めよう。我々は殺し屋達に完全敗北したのである。




 全員が死者に最後の別れを告げ、私が穴を魔法で埋め直した所で、槍聖サステナ率いる館の警備兵達が帰って来た。

 そういやお前らいたな。色々な事があったからすっかり忘れてたわ。

 兵士達はマントを担架のように広げ、その上に深淵(マーヤソス)の妖人達の死体を乗せている。

 首のないぐちゃぐちゃの死体は【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】のものだろう。

 てか、これだけ遅くなったのは、【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】の圧殺死体を回収するために、寄り道していたせいだったのか。

 サステナのヤツめ。だったらわざわざ死体から首を切る必要なんてなかっただろうに。

 何をしたいのか、良く分からないヤツだ。


 サステナは我々の姿に気が付くと、急ぎ足でこちらに向かって来た。

 どうやら、直感というか、達人の勘的な何かで、厄介ごとの気配を敏感に感じ取ったらしい。


「おう、テメエらこんな所で何してやがんだ? 俺らに後始末を押し付けて、自分達は先に帰って寝てるんじゃなかったのかよ?」


 違った。単に恨み事が言いたかっただけのようだ。


「んだよ、そのシケたツラは。――おい、館で何かあったのか?」


 しかし流石は槍聖。サッと険しい表情になると、探るような目でこちらを見つめて来た。

 ウンタは私に振り返った。私はブヒッと彼に頷いた。


『それなんだけど――まんまと敵にしてやられたわ』




 論より証拠。口で説明するよりも、見て貰った方が話が早い。

 私はサステナを伴ってゴッドの娘の寝室へと戻っていた。


「なっ?! 館の大婆様は亜人だったのかよ!」


 老婆の死体にギョッと目を剥くサステナ。

 どうやら彼も、直接ゴッドの娘に会った事はなかったようだ。

 驚くサステナの姿に、クロカンの副隊長、ウンタが小声で私に尋ねた。


「クロ子、ヤツをここに案内して大丈夫なのか?」

『大丈夫って、何が?』

「何がって――お前、まさか気が付いてないのか? ここにいるのは俺達だけなんだぞ?」


 私達だけ? それって一体どういう意味――と聞き返そうとして、私はハッと気が付いた。

 館に残っているのは、生きているのは私達だけ。そう。犯人達は消え、ゴッドの娘も、ゴッドの娘を守っていた兵士達も全員殺されてしまっている。

 実は住み込みの使用人達はいるのだが、彼らは別棟――中庭を挟んで離れた建物に住んでいるため、今回は関係ない。

 そんな状況でサステナ達は戻って来たのだ。


『私達が戻って来た時には、全員殺されていました。犯人は逃げ出した後でした』


 そんな言葉を果たして信じて貰えるだろうか?

 第一発見者を疑え、というのは、ミステリーのセオリーだ。

 誰がどう考えても、私達が一番怪しい存在ではないか。


 そんな簡単な事に思い至らなかったとは。

 どうやら私はショックのあまり、自分でも気付かないうちにかなり気が動転していたようだ。


『これってひょっとしてヤバイ? どうしようウンタ』

「そんな事を俺に聞かれても。クロ子が平気な顔でサステナをここに連れて来るから、何か考えがあるものだとばかり思っていたんだが・・・」


 いやいや、無い無い。状況を説明しなきゃ、という思いでここに連れて来ただけで、全くのノープランだったから。

 しまった。これやっちまったかも。

 久々の超特大のやらかしに、私は顔からサーッと血が引くのを感じていた。

 これって、一連の事件の黒幕、カロワニー・ペドゥーリのみならず、保守派の貴族達まで敵に回しかねないんじゃね?

 私がどう言い訳をしようか、内心で戦々恐々としていると、サステナがゆっくりとこちらに振り返った。


「・・・・・・」


 サステナは黙ってジッと私を見つめている。

 その目からは彼の考えは読み取れない。

 どうする? どう出て来る?


「その様子だと、テメエらも大婆様が亜人だとは知らなかったみてえだな」

「? どういう意味だ?」

「どういう意味も何も、言葉通りの意味に決まってるだろうが。お前達も亜人なんだろ?」

『は?』

「えっ?」


 サステナの思わぬ言葉に、我々は思わず絶句してしまった。




 サステナは驚く私達を指差した。


「そこのデカイヤツ。そう、お前。確かカルネだったか? 酒好きってんで、この土地の酒を差し入れしてやったら、マフラーを外して嬉しそうに飲んでただろ?」

「カルネ! お前というヤツは!」

「ま、待て、話せば分かる! まさか飲んでる所を誰かに見られているとは思わなかったんだ!」


 ちなみに、クロカンの隊員達は、自分達の正体が亜人だとバレないように、食事の際は見張りを立て、部屋で全員で食べている。

 私? 私は隠すものなんて何も無いからな。普通に外で拾い食いとかしていたけどそれが何か?(そもそも拾い食いなんてするな、という意見はスルーで)

 サステナが差し入れしてくれたお酒は、あまり多くなかったらしく、カルネはみんなに黙って独りでコッソリ飲み干したそうだ。

 何が「話せば分かる」だ。この卑しんぼめ。


「俺も最初はビックリしたぜ。まさかカルネが亜人だったとはな。けど、一度そうと気付けば、他のヤツも兜の隙間から見える口元とか、明らかに普通じゃない事が分かったぜ。お前ら全員が亜人かどうかまでは知らねえが、相当数、亜人が混じっているんじゃねえのか?」


 クロカンの隊員達は驚きの顔を見合わせた。

 我々の御用商人、ザボの用意してくれた鎧の兜には、確かに息抜き用のスリットが入っている。

 けど、まさかその僅かな隙間から見える中身で、そこまで予想するとは。

 私はサステナの洞察力? 直感? に舌を巻いた。


「テメエらが亜人だから、同じ亜人の大婆様を殺す訳がねえ――とか言う程、俺の頭はハッピーじゃねえ。なにせ人間同士が戦争だなんだで殺し合うような世の中だ。だったら亜人が亜人を殺すのだって別におかしな話じゃねえからな。だが、お前らは本気で深淵(マーヤソス)の妖人共と戦っていた。俺の目は節穴じゃねえ。殺し合うつもりで戦っているかどうかくらい、その場にいりゃあ肌感で分かる。だからテメエらがカロワニーに雇われた殺し屋じゃない事だけはハッキリしている。なら一体、お前らは何の目的で戦っている? お前らは何を知っている? このペドゥーリ伯爵領の裏では何が動いている?」


 サステナはジッと私を見つめた。


『バカのカルネのせいでバレちゃってるみたいだから、これ以上隠してる意味も必要もないけど・・・私達の事情を知ってアンタはどうするつもりなの?』

「――と言っているが?」

「んなの決まってんだろうが」


 サステナはニヤリと白い歯を見せた。


「この槍聖サステナ様に恥をかかせたヤツらに落とし前を付けてやるのよ!」

後二話でこの章も終わる予定です。

次回「メス豚と新たな助っ人」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >誰がどう考えても、私達が一番怪しい存在ではないか。 これを一番心配してたのでうまく回避できて良かったです クロ子たちは読者と違ってベルベッタが亜人だった謎とか説明してくれる人が居ないので…
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