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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十三章 かりそめの楽園編
442/518

その439 メス豚とツンデレおじさん

 私は巨漢のミイラ男【百足(むかで)】を倒した。

 いやまあ、最後の最後に止めを刺したのは水母(すいぼ)だったかもしれないけど。

 そして私の容赦ない戦い方に、ドン引きするクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達。

 なぜ、敵を倒したというのに、こんな微妙な気分を味あわなければならないのだろうか?

 解せぬ。


『ボス! ボス! クロ子ボス!』


 黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達が、ワンワンキャンキャン吠えながら、私達の下へと駆け寄って来た。

 中には興奮のあまり、クロカンの隊員の足にしがみつき、腰をカクカク振り出す者もいる。

 あ~うん。犬ってそういうものだよね。

 黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊のリーダー、ブチ犬マサさんが走って来ると、腰を振っている犬に噛みついた。


『ガウッ! 見苦しいマネはよさんか! 黒豚の姐さん、こっちの敵はウンタとあっし達で片付けましたぜ』


 片付けたって、ウソ、マジで?

 私が慌てて彼らの背後を見ると、そこにはクロカンの副隊長ウンタと槍を担いだ片目の男――槍聖サステナの姿があった。

 てか、サステナ、来てたのか。

 【三十貫】との一対一の戦いでは、結構、相手に粘られてしまった。

 どうやらサステナはその間に私に追いついたようだ。

 私はポテポテとウンタに近付くと、彼に(ねぎら)いの言葉を掛けた。


『ごくろーさん。倒してくれて助かったわ。厄介な相手だったけど大丈夫? ムリしたんじゃない?』

「クロ子か。そっちも無事、片付いたようだな。正直、サステナが来てくれなければどうなっていたか分からなかった。なにせ俺は戦うどころか、マササン達黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の足を引っ張ってしまっていたからな」


 ウンタはそう言うと申し訳なさそうに顔を歪めた。

 【言の葉(ことのは)】はお願いしただけで相手を従わせられるという、チート魔法の持ち主である。人間の言葉がまともに理解出来ない犬達はともかく、ウンタが苦戦するのは仕方がないんじゃないだろうか。

 それが分かっていながら、なぜウンタをこっちに回したのかって? いや、何というか、その場の雰囲気?

 脳死でついつい、ウンタに頼んじゃったんだよ。

 まあ、それだけ私が無意識レベルで彼の事を信頼しているとも言える。

 だが、今回ばかりはその信頼が裏目に出てしまったようだ。私の命令は彼にとってかなりのムチャ振りになってしまったのだ。

 軍隊では上官の命令は絶対。部下は上官からやれと言われれば、命を()してでもそれをやらなければならない。

 これは私も反省しないとな。


『ああうん、ムチャな命令を出してゴメン。それと、サステナもお疲れさん。本当に助かったわ』


 サステナは私のお礼の言葉を無視すると(まあ彼は私の言葉が分からないんだけど)【言の葉(ことのは)】の死体の横にしゃがみ込んだ。

 なんぞ?

 彼はおもむろに仰向けに倒れた彼女の服の襟を掴むと、左右に押し広げた。

 月明かりの下、少女の白い胸元が露わになる。

 ちょ、お前! 死体とはいえ、女の子の服を脱がすとか、何考えてんねん!

 私はサステナの突然の破廉恥行為に、サッと頭に血が上った。


『サステナ! お前、何やって――って、こ、これは』

「おい、クロ子。この女は一体!?」

「・・・ふん。なる程。どうりで槍で突いても血が出ねえ訳だ。妙な手応えも納得だぜ」


 思わず絶句する私とウンタ。

 サステナは小さく鼻を鳴らした。

 そう。彼は決してスケベ心や死者を辱めるために、【言の葉(ことのは)】の胸元を開いた訳では無かったのだ。

 露わになった少女の胸。そこには――


『・・・惨い』


 そこには本来付いているべき乳房が無かった。彼女の乳房は手術によってえぐり取られ、引きつった傷跡からは、用途不明の金属パーツの数々が飛び出していたのである。


「く、クロ子。この女、体から金属が生えているぞ。深淵(マーヤソス)の妖人というのは、本当に人間なのか?」

『間違いなく人間よ。クロカンと一緒。手術で体にインプラント――機械を埋め込まれた改造生物。それが深淵(マーヤソス)の妖人の正体なのよ』

「手術で、機械を・・・」


 ウンタは思わず、といった感じで兜の額の部分を――中に角のある部分を――触った。

 広義で言えば、深淵(マーヤソス)の妖人の受けた改造手術も、私やクロカンの隊員達が受けた水母(すいぼ)の手術も、同じ類のものに分類されるだろう。

 ただし、水母(すいぼ)の手術が元々医療目的の物だったのに対し、改造生物の技術は完全な軍事用。

 生き物を兵器にする。ただその目的のために開発、研究されたものだ。

 そのため、被験者の体にかかる負担や、命の危険は軽視、ないしは、最初から考慮されていなかったのだろう。


 サステナは黙って【言の葉(ことのは)】の胸元を閉じた。

 そして彼女の顔に手を伸ばすと、両のまぶたを閉じ、涙の跡をスカーフの端で拭ったのだった。


「違和感の原因が分かってスッキリしたぜ。あー今夜は久々に走り回ったせいで腰に来そうだ」


 サステナは、年寄り臭く「よっこいしょ」と立ち上がると、腰に手をつき、軽く体を反らした。

 私はふと思いついて彼に尋ねた。


『ねえ? 倒した相手の首級(しるし)を上げないでいいの?』

「――と、クロ子が聞いているが?」


 【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】との戦いの後、サステナは死体の確認にこだわった。

 仕方なく私が最大打撃(パイルハンマ)の魔法で岩をどかしてあげると、彼は【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】の頭部が奇跡的に無事だった事に喜び、その場で首を切り飛ばし、槍に括り付けたのだった。

 まあ、昔の日本でも、合戦の時にはそうやって敵の首級(しるし)を上げてたらしいから、やってる事自体は理解出来るんだけど。

 実際に目の前でやられるとドン引きだったわ。


「はんっ。冗談は止せ。女の首が手柄になってたまるかよ。つーか、逆に俺の評判が下がりかねねえわ」


 サステナは不機嫌そうに吐き捨てると、我々に背を向けた。

 なんだお前、いい歳してツンデレなのか?

 い、要らないから置いて行くだけよ! 別に可哀想とか思った訳じゃないんだからねっ!

 思わずブヒッと笑みを浮かべる私に、サステナはイヤそうに眉間に皺を寄せた。


「・・・おい、クロ子。何だてめえ、その何か言いたそうなツラは。お前まさか下らねえ事とか考えてるんじゃねえだろうな?」

『ツンデレおじさん乙♪』

「――と言ってる。言っておくが、言葉の意味は俺にも分からん。聞かれても答えられんぞ」

「いや、それ絶対、ロクでもない意味に決まってるだろうが! そのムカつく顔を見りゃ分かるんだよ! おい、クロ子! テメエ俺をナメてんじゃねえぞ!」


 図星を刺されてキレるツンデレおじさん。

 まあまあ、そんなに照れなさんなって。


「おい、待てよ! ふざけんな! おおい、誰かこの豚を捕まえろ!」


 ブヒヒヒ、ほ~ら、捕まえてご覧なさ~い。

 私は身体強化の魔法をかけると、ヒラリヒラリと蝶のように舞いながらサステナの手を掻い潜るのだった。




 一通りサステナと戯れて満足した私は、後の事を彼らに任せて、胡蝶蘭館へ戻る事にした。

 我々に後始末を丸投げされ、サステナはブー垂れていたが、改造生物という存在に興味は惹かれていたようだ。

 ブツクサ文句を言いながらも、兵士達が死体の検分を行うのを大人しく監督していた。

 お前は見て行かなくて良かったのかって?

 う~ん。あれって軍事用の技術の塊じゃない。正直、素人がちょっと見たり調べたりして分かる程度の、底が浅い物とは思えないんだよね。

 だったら見てても意味がないかなって。

 頼れる水母(すいぼ)先生も、流石に改造生物については完全な専門外みたいだし。

 私の背中でピンククラゲが小さくフルリと震えた。


情報不足(さーせん)

水母(すいぼ)に分からないものが、私やサステナ達に分かるはずないのよね』


 一人だけ私達から遅れていたクロカンの大男、カルネが大きな声で文句を言った。


「おおい、みんなもっとゆっくり歩いてくれよ。【百足(むかで)】のせいであちこち火傷したみたいにヒリヒリして痛えんだよ」

「カルネ頑張れー」

『館に戻れば火傷に効く薬もあるんじゃない? まあ、無くてもカルネなら唾でも付けときゃ治ると思うけど』

「だな」


 我々の真心のこもった投げやりな応援に、亜人の兄弟、弱気ショタ坊こと弟のハリスが苦笑した。


「ええと、もしも館に置いてなくても、きっとアーダルトさん達が持ってると思いますよ? 以前も荷物の中から傷薬を取り出して使っているのを見ましたし」


 アーダルト達タイロソスの信徒達は、我々のようななん(・・)ちゃって(・・・・)傭兵団ではなく、商隊の護衛や山賊狩りにも参加した経験のあるガチの傭兵である。

 仕事先でのケガや病気にも対応できるよう、自前の薬も携帯しているようだ。

 我々? 我々は基本、水母(すいぼ)頼みだけどそれが何か?


 そんな話をしているうちに、ようやく館が見えて来た。

 やれやれ、これでゆっくり眠れるわい。

 我々の間にホッと緩んだ空気が流れた。

 その時だった――


「! おいクロ子! 館の門の所を見ろ! 誰か倒れているぞ!」

「あの恰好は兵士じゃない? マティルダだ! タイロソスの信徒のマティルダが倒れているんだ!」


 館の門の外、うつ伏せに倒れているのは、タイロソスの信徒の女戦士、マティルダだった。

 周囲に彼女の同僚達――アーダルトとビアッチョの姿は見えない。

 念のためにと、彼らには館の護衛として残って貰っていたのだが・・・私達がいない間に一体何があったんだ?


 この時の私達は知らなかった。

 深淵(マーヤソス)の妖人による襲撃の最後のステージ。

 波乱と殺戮の夜は、まだ終わっていなかったのである。

次回「暗殺者・無貌むぼう

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