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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十三章 かりそめの楽園編
431/518

その428 メス豚、居心地の悪い思いをする

『くああ~っ。・・・ふう。寝た寝た』


 私は屋根の上(・・・・)で大あくびをした。

 ここは山の中の大きな館、胡蝶蘭館。春になると綺麗な胡蝶蘭が咲き乱れる事から、その名で呼ばれているらしい。




 我々は槍術指南役サステナの案内で、ゴッドの娘、大婆様ことベルベッタ・ペドゥーリの住むここに案内された。

 何でも「俺がお前らを雇ってやるから、深淵(マーヤソス)の妖人を倒す手伝いをしろ」との事。

 相手に相談もなく、そんな大事な事を勝手に決めるとか。

 自己中と言うか、ワンマンと言うか。

 呆れる私達に、槍聖サステナはさも当前のように答えた。


「どの道お前らも深淵(マーヤソス)の妖人に狙われてるんだろう? だったらわざわざ個別に相手をしてやる理由はねえ。要はアレだ。戦力の集中ってヤツよ」


 まあ、理屈は分かる。

 謎の魔法を使う改造人間。深淵(マーヤソス)の妖人の雇い主は、カロワニー・ペドゥーリ。

 まだ幼い三歳の甥を新当主に据え、彼の後見人としてペドゥーリ伯爵家を牛耳る今回の一件の黒幕である。

 カロワニーにとって、保守派の旗頭であるゴッドの娘は目の上のたん瘤。自らの権力基盤を揺るがすアキレス腱である。

 出来る事なら早急に退場してもらいたい――もっと言えば、殺してでも消しておきたい。そんな相手である。

 ゴッドの娘を護衛するサステナにとって、我々は共に深淵(マーヤソス)の妖人に狙われている者同士。

 だったら別々に二ヶ所で戦うより、一か所に集まって協力したい所だ。

 ましてや我々は敵の一人、【手長足長】を倒している。つまり十分に戦う力を持った存在である。

 妖人の数が二人も増えた今、積極的に戦力的として取り込んだ方が無難。サステナはそう考えたという訳だ。


『まあぶっちゃけ、我々にとっても願ったり叶ったりと言うか。丁度、宿屋を追い出されて今夜の寝床を失った所だったし、渡りに船だったんだけどね』


 勝手に決められたのはちとアレだったけど、こちらとしても寝泊まりする場所が確保できるのは大助かりである。

 といった訳で我々は寝不足でフラフラになりながらも、胡蝶蘭館を目指したのだった。

 館の警備兵達は、突然現れた得体の知れない武装集団(※子豚と犬を含む)を前に、眉をひそめた。


「――サステナ殿。この者達は一体?」

「あまり勝手な事をされては、警備に支障が出るのですが」

「ああん? テメエら、俺のやる事に何か文句でもあるのかよ」


 サステナの機嫌はみるみるうちに急下降。まるでチンピラのごとく、警備兵達にメンチを切った。

 いい歳をしてこのキレ方どうなの? 沸点低すぎない?

 警備兵達は自分の仕事をしているだけなのに、何という理不尽。何というパワハラ。

 とはいえ、「じゃあ仕方がねえな。お前ら帰っていいぜ」とか言われてしまうと、こっちも困ってしまう。

 我々は心の中で、「サステナ頑張れ」とエールを送りつつ、状況を見守ったのだった。

 結果を言うと、サステナのゴリ押しがまかり通り、我々は館への滞在を許される事となった。

 私はマサさん達、黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達に振り返った。


『私達は今から少し仮眠を取るけど、マサさん達はその間、この館の周辺の見回りをお願い出来る?』

『分かりやした、黒豚の姐さん』

『『『応!』』』


 徹夜で衛兵から事情聴取を受けていた我々とは違い、マサさん達黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達は宿屋でぐっすり眠っている。

 山道を歩いたくらい、彼らにとっては散歩以下。まだまだ元気一杯。私の命令を受けると、すぐさま山の中に駆け出して行った。


「あ! お、おい、お前らどこに行く?!」

「さ、サステナ様! 犬達が勝手に!」


 突然走り出した犬達に、慌てる警備兵達。

 サステナも驚きの表情で我々に振り返った。

 この騒ぎに、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の副隊長、ウンタは恨めしそうに私を見下ろした。


「クロ子、お前また勝手な事を。説明させられる俺の身になってくれ――心配するな。犬達には周辺の見回りに行かせただけだ」

「見回りに行かせただと? さっきお前達は一言も命令などしてなかったではないか」

「怪しいヤツらめ。サステナ殿、コイツらは一体、何者なのですか?」


 なんだかすっかり警戒されてしまったようだ。しまったな。

 とはいえ、いつまた深淵(マーヤソス)の妖人やアゴストファミリーの部下達が襲撃してくるかも分からない。

 現実的な話。館の警備兵に頼り切りにするのではなく、自前の監視の目は確保しておきたい所だ。

 サステナは警部兵達の疑問の声には答えず、胡乱な目でジッと私を見つめた。

 なんぞ?


「ボソリ(ふむ。コイツは俺の想像以上の掘り出し物だったのかもしれんな) テメエらが持ってる武器は飾りか? たかだか犬っころが走り回ったくらいで、オタオタするんじゃねえよ。いいからお前らは自分達の仕事をしてろ」


 サステナはそう言い放つと、会話を切り上げて館の中に入って行った。

 相変わらず身勝手なヤツ。ウンタ達、クロカンの隊員達も慌ててその後に続く。


『ウンタ。私はマサさん達が敵を見つけた時に備えて、外にいるから』


 館の中も気になるが、案内された部屋によっては外の音が聞こえ辛いかもしれない。

 マサさん達が何らかの異常を発見した時、すぐに合図の声が聞こえるよう、私は外にいた方がいいだろう。


「分かった。だが、深淵(マーヤソス)の妖人はどいつもこいつも得体のしれない技を使う相手だ。くれぐれも一人で先走るようなマネはするなよ?」

『言われなくても分かってるってーの。風の鎧(ヴォーテックス)


 私は身体強化の魔法を使うとダッシュ。館の壁を蹴って駆け上り、屋根の上へと登った。

 お~、絶景かな絶景かな。山の風がきんもちいい~。


「お、おい! い、今のはなんだ?! 子豚が壁を駆けのぼって行ったぞ!」

「お前達、アレはなんだ! 一体、何を隠している!」

「クロ子・・・あれだけ勝手な事をするなと・・・。はあ。全くお前というヤツは・・・」


 騒ぎ声に下を見下ろすと、警備兵達が驚きの表情でウンタに詰め寄っているのが見えた。

 ウンタは片手で顔を覆い、ため息をついている。

 おおう。なんかゴメン。

 私は居心地の悪さにブヒッと小さく鼻を鳴らしたのだった。




 てな事があって現在。

 空を見上げると、太陽は頂点を過ぎた辺り。午後の二時から三時といった所だろうか?

 館は中も周囲も静かな物だ。

 立哨の警備兵の姿がなければ空き家じゃないかと勘違いしてしまいそうだ。

 クロカンの隊員達はまだ寝ているのか、誰も姿を現していない。


 いや、違う。


 私は『風の鎧(ヴォーテックス)』。身体強化の魔法を使うと、屋根の上から飛び降りた。


『他のみんなはどうしたの?』

「うわっ!」


 突然、背後から声をかけられて、小さな傭兵少年はビクリと飛ぶはねた。

 楽園村の亜人兄弟。弱気ショタ坊こと弟のハリスだ。


「な、なんだクロ子か。みんなならまだ部屋で寝てるんじゃないかな?」


 なんだまだ寝てるのか。寝坊助共め。そう言う私もついさっきまで屋根の上で寝てたんだがな。

 それはそうと、ハリスはこんな所で一体、何をしていたんだろうか?


『一人でどうしたの? お腹が空いて寝られないとか?』

「違うよ。――いや、そう言われてみれば、確かにお腹も空いているかも」


 ハリスは防具の上からお腹の辺りを軽く撫でた。


「ねえクロ子。ここってペドゥーリ伯爵様の館なんだよね」


 ハリスはそう言うと、複雑な表情で館を振り返った。

 それが何? って、ああ、そういう事か。


 ハリス達が楽園村から出たのは、本来であれば誰も立ち入れないはずの楽園村の周辺で、怪しい人間達の姿が見られるようになったのが原因だった。

 彼は村長である父親に代わり、この状況をペドゥーリ伯爵に訴えるため、雰囲気イケメンの兄ロイン達と一緒に山を下りたのである。

 その後の話は長くなるので割愛するが、彼らは途中で謎の人間達による襲撃を受け、逃げ回っている間になんやかんやあって、最終的には我々の保護下に入る事になったのだった。(第十二章 亜人の兄弟編 「その391 メス豚と誘拐犯」より)


 つまり何が言いたいのかと言うと、ペドゥーリ伯爵の屋敷は、ハリス達が目指していた場所だったという事だ。

 勿論、彼らが目指していたのは別邸であるこの胡蝶蘭館ではなく、当主が住んでいる本宅だし、その上、途中で彼らを襲った襲撃犯の中にペドゥーリ伯爵の家紋の入ったマントを着た者達がいた事から、全てはペドゥーリ伯爵の――正確に言えば、現在、ペドゥーリ伯爵家を牛耳っているカロワニー・ペドゥーリの――企みではないかと考えられている。

 つまりはペドゥーリ伯爵家こそが全ての黒幕。その屋敷に保護を頼みに行った彼らの行為は、体中に生肉を括り付けて、肉食獣の檻に入りに行くようなものだった、という訳だ。

 そしてこの館の主人こそは、そのカロワニー・ペドゥーリと敵対する人物。

 ハリス達のご先祖様を保護してくれたゴッドペドゥーリ。その実の娘、ベルベッタ・ペドゥーリ。

 巡り巡って、その人物の館に自分はやって来ている。

 その数奇な運命に、弱気ショタ坊ハリスが感慨深い思いを抱くのも当然というものだろう。


『そう言えばゴッドの娘――じゃなかった、館の主人には会った訳?』


 ハリスはフルフルとかぶりを振った。


「ベルベッタ様は誰とも会う事はないんだそうです。なんでも、(槍聖)サステナ様も声だけしか聞いた事がないとか」


 マジで? 伯爵家の槍術指南役で館の護衛のサステナまでとか。

 それはまた、徹底しているというか、重度の人嫌いというか。

 てか、よくもまあそこまでの偏屈婆さんを、保守派の貴族達は旗頭に担ぎ上げられたもんだ。

 よっぽど他に人材がいなかったのか、それ程ペドゥーリ伯爵領ではゴッドの威光が強烈なのか。

次回「メス豚、作戦を練る」

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