表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十三章 かりそめの楽園編
428/518

その425 メス豚と人間兵器

 不意に現れた四人目の妖人。

 【手長足長】の死体を調べた水母(すいぼ)によると、彼ら深淵(マーヤソス)の妖人とは、体内にインプラントを埋め込まれた改造人間だという。


『まさかヤツらが人間兵器だったとはね』


 ちなみに我々も水母(すいぼ)の手術によって頭に角を――魔力増幅器を――埋め込まれているが、それとは似て異なる物らしい。

 魔力増幅器は名前の通り、魔核の働きを助けるための補助具。例えるなら、補聴器や眼鏡のような仕組みとの事。

 対して、改造人間に施されているのは純粋に兵器としての手術。例えるなら、体にマシンガンやミサイルを埋め込むようなものなんだそうだ。

 何それ怖い。てかヤバ過ぎでしょ。


『けど水母(すいぼ)。兵器とかいう割には、ヤツらの魔法はそれ程大した物じゃない気がするけど?』

肯定(せやな)素体(ベース)となる生物の能力値の低さによるものと推測される』


 ああ、そういう。

 深淵(マーヤソス)の妖人に施された手術は、人間を魔法兵器化するための処置。

 ご存じの通り、人間には魔法が使えない以上、素体としてこれ程不適切な存在はないだろう。

 こんなの魚に羽根を移植するようなものだ。

 それならトビウオがいるだろうって? あれは勢いを付けて滑空しているだけだから。鳥のように自由に羽ばたける訳じゃないから。


『本来の改造生物はもっと凶悪(やばたん)。個人で完全武装の装甲車に匹敵するとされている』


 それって生身で戦車と戦えるって事? 流石にエグくない?

 そんなのが敵に出て来たら、どうやったって敵わないんだけど。

 私が水母(すいぼ)と話している間に、【三十貫】と【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】は【言の葉(ことのは)】下へと集まっていた。


「ん。んんっ」

「いい所に来てくれた。助かったよ【言の葉(ことのは)】」


 【言の葉(ことのは)】は仲間の感謝の言葉に嬉しそうにコクコクと頷いた。

 そして悲しそうな顔で首なし死体を見つめた。


「【手長足長】はヤツに――あの角の生えた黒い子豚にやられた。見た目に騙されるなよ。ヤツは殺しのためならどんな卑怯な手でも使う化け物だ」


 をい! 言い方!

 てか、さっきのは卑怯とかそういうのじゃないから。あくまでも勝利を掴むための作戦だから。

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の大男、カルネが、敵を警戒しながらこちらに近付いて来た。


「クロ子どうするよ? このままアイツらを逃がしちまうのかよ」


 【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】と【三十貫】は、見るからに疲弊している。

 魔法の使い過ぎによる魔力欠乏だ。

 彼らも自分達が不利である事には気付いているだろう。放っておけば確かに撤退するかもしれない。

 クロカンの副隊長、ウンタがカルネの言葉を否定した。


「だからと言ってどうする? 新たに現れた女の妖人――【言の葉(ことのは)】の力は見ただろう? あんな相手とどうやって戦うんだ」


 そう、それな。

 【言の葉(ことのは)】は命じるだけで、その言葉を聞いた全員を従わせる事が出来るという、デタラメな力の持ち主だ。

 「死ね」と命じなかったのは、範囲内に味方がいたからか、あるいはそこまでの強制力はないからなのか。


「こうやって両手で耳を塞いで、声を聞かないようにすればいいんじゃねえか?」

「それでどうやって戦うつもりだ? 相手には【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】と【三十貫】だっているんだぞ」


 ウンタの言う通り。パワープレイに長けた【三十貫】。トリッキーな魔法を使う【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】。二人の後ろで範囲魔法を使う【言の葉(ことのは)】。

 私には正面からこのフォーメーションを崩せるビジョンがどうしても浮かばなかった。


 この時の私は、突然現れた四人目の妖人、彼女の持つ規格外の能力と、それに続く水母(すいぼ)による改造人間の説明で、どこか集中力を切らしていたようだ。

 こちらの方が人数は多いし、相手は三人中二人が疲労している。ビジョンが浮かぶとか浮かばないとかそういうのは無視して、勢いのままに押すべきだったのかもしれない。

 私がためらっている間に、ここから事態は更に悪化する事になる。

 そう。五人目の妖人の参入である。




 フシュー・・・フシュー・・・


 闇の中から呼吸音が近付いて来た。

 【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】がハッと背後を振り返った。


「【百足(むかで)】?! 【言の葉(ことのは)】、【百足(むかで)】も来ているのか?!」


 コクリと頷く【言の葉(ことのは)】。

 やがて大きな影が姿を現した。

 身長は約二メートル。第一印象は巨大なミイラ男。

 全身を布や包帯でグルグル巻きにしていて、肌はほとんど露出していない。

 ミイラ男は――【百足(むかで)】は――周囲を見回すと、かすれた声で呟いた。


「姉しゃん。こひすら、殺せはひーの?」


 いや、聞き取り辛いな。

 何を言ったのかはよく分からなかったが、殺すと言ったのだけは理解出来た。

 てか、コイツも深淵(マーヤソス)の妖人――改造人間なのかよ。全く、コイツら何人いるんだ?

 【言の葉(ことのは)】は困り顔で【手妻(てづま)陽炎(かげろう)】に振り返った。


「【百足(むかで)】。今日の所は一旦引き上げだ。お前は敵の足止めを頼む」


 大男は――【百足(むかで)】は、意外そうに大きく息を吐いた。


「フシュルルルル・・・。なんて? せんいん殺せはひーしゃないか」

「ダメだ。ヤツらは手強い。特にあの黒い子豚は別格だ。例えお前でも戦えばタダでは済まないだろう」


 【百足(むかで)】は包帯の奥の目玉をギョロリと動かして私を見つめた。


「ウソら」

「ウソじゃない。見ろ。【手長足長】の死体だ。【手長足長】はヤツにやられたんだ」

「てなかあしなか?! そんな!」


 【百足(むかで)】は首無し死体を見つけると、大きく体を震わせた。


「そんな・・・そんな・・・オオオオオオオオオン!」

「し、しまった! 【三十貫】、【言の葉(ことのは)】、巻き込まれる前にこの場を離れるぞ!」

「んんっ!」

「(コクリ)」


 何だ? 何が起きている?

 深淵(マーヤソス)の妖人達は【百足(むかで)】一人を残してこの場を逃げ出した。

 【百足(むかで)】は大声で叫びながら、顔に巻かれた包帯をむしり取った。


「ひっ!」

「な、なんて顔だ!」


 包帯の中から現れたのは、ドロドロに歪んだ顔だった。

 一体どういうケガをすれば、こんなにヒドい顔になるのだろう?

 肉はただれ、皮膚は引きつりキズだらけ。鼻なんて半ばから崩れ落ちている。

 それは百足(むかで)の名の通り、無数の百足(むかで)が顔中を這いまわっているかのような、恐ろしい容姿だった。

 いや、本当の恐ろしさはここからだった。


「オオオオオオオ! オオオオオオオ! ヒイイイエエエエエ!」


 【百足(むかで)】は涙を流し、唾をまき散らしながらこちらに近付いて来た。


「な、なんだコイツ! 泣いてるのか!?」

「汚ねえ! 唾が飛び散って――痛っ!」


 【百足(むかで)】に向かって槍を突き付けていたサッカーニ流槍術の弟子が、鋭い痛みに声を上げた。

 異常事態を察した仲間が、裂ぱくの気合と共に【百足(むかで)】に向かって槍を突き出した。


「キエエエエエ! ――うっ! な、何だとっ!?」


 槍は【百足(むかで)】の腹に突き刺さった。

 しかし【百足(むかで)】は痛みを感じないのか、涙に濡れた手で、槍を握っている男の手を無造作に掴んだ。


「い、いぎゃああああああ!」


 辺りに漂う肉の焦げる刺激臭。男は自分の手が溶ける痛みに絶叫した。


「クロ子!」

『みんな下がって! ヤツに近付いたらダメ!』

「ヴオオオオオオオオ!」

「うわっ! 唾が――って、いててててて!」

「顔が! 手が! 火傷したみたいに痛ェ!」

「なんだよコレ!」


 私は背中のピンククラゲに振り返った。


水母(すいぼ)、これって!?』

『観測完了。個体名【百足(むかで)】の能力は、自身の体液を溶解性の物質に変化させるものと推測される』


 マジかよ。それってガチの人間兵器じゃん。




 第五の深淵(マーヤソス)の妖人、【百足(むかで)】の固有魔法は、自分の体液を――涙や唾液を――溶解性の物質に変化させるというものだった。

 【百足(むかで)】の爛れて引きつった顔は、自身の能力で負ったキズによるものだと思われる。

 てか何だよそれ。改造人間って何でもありだな。

 飛んで来た唾が少しかかったのだろう。クロカンの大男、カルネが悲鳴を上げた。


「いててて! クロ子、何とかしてくれぇ!」


 何とかって――あっ。普通に魔法で攻撃すりゃいいのか。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』


 不可視の弾丸が【百足(むかで)】の胴体に命中。パンッ! と乾いた破裂音を上げた。

 さっきまでは【言の葉(ことのは)】がいたから、同士撃ち(フレンドリーファイア)を警戒して攻撃魔法が使えなかったが、【言の葉(ことのは)】達は【百足(むかで)】の暴走に巻き込まれるのを恐れて、この場を逃げ出している。

 つまりは魔法も使い放題という訳だ。

 私と同じ事に気付いたのだろう。クロカンの副隊長、ウンタも隊員達に指示を出した。


「クロカン! 魔法銃だ! 各自発砲開始!」

「こ、圧縮(コッキング)!」

圧縮(コッキング)! カルネ、サボるな!」

「お~痛、分かってるって。圧縮(コッキング)!」


 カシャン、カシャンと連続して魔法銃の作動音が響き渡る。

 そして約一秒後――


 パンッ! パパパン!


「やったか?!」


 コラ。誰だ無駄にフラグを立ててるヤツは。

次回「メス豚、取り逃がす」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 遺伝子操作で魔核を強化された前人類と亜人と違って魔核のマの字も持たない人間じゃ、人間兵器に改造した際のスペックに雲泥の差が生まれるのは当然の結果だな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ