その412 クロカンvsアゴストファミリー
ここは【西の王都】ベッカロッテの郊外。
西の王都、なんて呼ばれていても、そこは流石に地方都市。
一歩町から外れるとご覧の通り、畑だらけの田園風景が広がっている。
そんなのどかな景色に不似合いな、ガラの悪い男達。
その中でもひと際いかつい顔をした男に私は見覚えがあった。
『ねえ水母。アイツって確か、ランツィの町のアゴストファミリーの事務所で、偉そうにふんぞり返っていたヤツだよね?』
『完全に一致。ヴァロミット』
私の背中でピンククラゲがフルリと震えた。
やっぱりか。
顔に大きな傷の入った、いかにも『ザ・ヤクザ』といった感じの強面の男。
その名はええと・・・バンバンジーだっけ?
『完全に不一致。ヴァロミット』
水母は、ちゃんと聞け、とでも言いたげに鋭く震えた。
そうそう、それそれ。そのヴァロミットな。
ヴァロミットだかバンバンジーだかがいる以上、コイツらがアゴストファミリーである事は最早疑う余地もないだろう。
まあ、最初からそうだと思っていたんだけど。
ていうか、ヴァロミット。あの時は妙に大物感を漂わせていたのに、こんな風に現場にも出て来るんだな。ちょっと意外。
クロコパトラ歩兵中隊の副隊長、ウンタが私に振り返った。
「どうしたクロ子。敵に知ってるヤツがいるのか?」
『ああうん。あそこのいかつい男。多分アレ、アゴストファミリーの幹部だと思う』
「なに? そうか分かった」
ウンタは小声で隊員達に指示を出した。
「みんな今のを聞いたな? あのキズの男は敵の組織のリーダーだ。捕まえて今回の事件の裏を聞き出したい。絶対に逃がすなよ」
「「「おう!」」」
「「「ワン!」」」
おおう。みんなの(※黒い猟犬隊の犬達も含む)やる気がスゴイぜ。
でも今のセリフだと、私達の方が悪者に聞こえないか?
バンバンジー改め、ヴァロミットが小さく手を振ると、アゴストファミリーの構成員達が私達を取り囲む形で散開した。
その動きには淀みがなく、手慣れた空気すら感じられた。流石はマフィア。こういった荒事にも慣れっこなんだな。
ヴァロミットは手下の配置が終わった事を確認すると、やたらとドスを効かせた声で叫んだ。
「ガキ二人は生かして捕らえろ! それ以外は全員ブッ殺せ! 俺達アゴストファミリーのメンツを潰したヤツらを生かして帰すな!」
「「「おおーっ!」」」
うわっ。やっぱホンマ物の悪役は凄みが違うわ。転生前の女子高生だった頃ならおしっこチビリそう。
こうしてアゴストファミリーとクロカンの戦いは始まったのであった。
アゴストファミリーの構成員達は、私達を取り囲む形で散開している。
それに対して我々、クロコパトラ歩兵中隊は守りの形。互いが互いの背中を守るように密集隊形を取っている。
とはいえ、勝負の鉄則は先手必勝。守りに入っている時点で不利は否めない。
どれ、ここは私がスピードを生かして先行し、敵を引っ掻き回してやりますかね。
『風の鎧――なに? ウンタ』
私は身体強化の魔法を唱えて前に出ようとしたのだが、ウンタの伸ばした手に押しとどめられた。
「ここは俺達に任せてくれ。クロカン! 魔法銃構え!」
「よっしゃ! 待ってたぜ!」
ガチャッ!
金属パーツの擦れる音を立てて、一斉に魔法銃が突き出された。
こちらの味方の三人の傭兵――タイロソスの信徒達は、初めて目にする武器に驚きに目を見開いた。
「ええっ?! コレなに?!」
「なんだ?! コイツらが持っていたのって槍じゃなかったのか?!」
「鉄の棒? にしては妙な形をしているな。一体どういう風に使う武器なんだ?」
戸惑いの表情を浮かべているのは、ヴァロミットの手下達も同じだった。
彼らは襲い掛かるのも忘れて、マヌケな顔で自分達に付きつけられた銃口を見つめた。
「なんだなんだ? コイツら何を構えてやがる?」
「槍じゃないみたいだが、こんなもんでどうする気だ?」
バカめ。その一瞬の戸惑いが命取りだ。
「撃て!」
「「「圧縮!」」」
カシャン! カシャン! カシャン!
軽快な音と共に、魔法銃のボルトハンドルが下がると、銃尾が機械式にロックされた。
そして約一秒後。
パンッ! パパパパーン! パン!
圧縮の魔法が崩壊。破裂音が鳴り響くと同時に、解放された圧縮空気が鉛の弾丸を勢い良く押し出した。
強力なエネルギーを受けた弾丸は、威力を増しながら銃身を加速。銃口から飛び出すと標的に襲い掛かった。
「なっ! ギャーッ!」
「痛っ! ち、血が! 俺の腹から血が!」
「何だ?! 何が起きてるんだ?!」
痛みと衝撃で次々に倒れるヴァロミットの手下達。
運良く弾に当たらなかった者達も、突然、目の前で血を吹いて倒れた仲間達に、分けが分からずに混乱している。
そんな敵を尻目に、クロカンの隊員達は、手慣れた動きで次々に次弾を装填している。
この冬の間中、ずっと狩りで魔法銃を使い続けて来た成果が出ているようだ。
「な、なんだ?! コイツら一体、何をしやがった?!」
ヴァロミットは一人だけ後ろにいたおかげで無傷。そして後方にいた事で全体を俯瞰で見る事が出来たようだ。
しかしそんな彼でも、やはり何が起きたのか理解出来なかったらしい。
さもありなん。魔法銃の弾の速さは音速にこそ及ばないとはいえ、たかが人間の目で秒速百数十メートルで飛翔する小さな鉛玉を視認するのは不可能だ。
おそらくヴァロミットには、破裂音と同時に部下の体から血が吹き出して倒れたようにしか見えなかったのだろう。
まるでタチの悪い悪夢そのもの。究極の分からん殺しである。
クロカンの大男、カルネは、混乱の只中にあるヴァロミットに銃口を向けた。
「ウンタ。敵のリーダーは俺がやるぞ。構わないよな?」
「ああ。だがさっきも言ったが、ヤツには聞きたい事がある。絶対に殺すなよ」
「はんっ! んなコトくらい言われなくても分かってるっての」
「ならば任せた。クロカン! 撃て!」
「「「圧縮!」」」
カシャン! カシャン! カシャン!
再度、軽快な金属音が鳴り響く。
ヴァロミットの手下達は、自分達に何が起きたのかまでは分っていないものの、この合図と音が自分達を狙うものである事くらいは理解したようだ。
彼らは恐怖に駆られて、この場から背を向けて逃げ出した。
だがその判断は少し遅い。既に魔法は発動されている。こうなってしまえば誰にも弾丸の発射を止める事は出来ない。
パンッ! パパパパーン! パン!
「ギャアアアア!」
「痛え! 痛えよ!」
「足が! 俺の足が!」
「ひっ、ひっ、ひいいいっ」
あちこちで襲撃者達が倒れ、情けない悲鳴を上げている。
痛み。そしてそれを上回る恐怖が、彼らの理性のタガを外していた。
「なんだ・・・なんでアゴストファミリーのヤツらは倒れているんだ? アーダルトさん、コイツら何をやったんですか?」
「・・・分からん。あの妙な形をした武器に秘密があるようだが」
「さっき小さな礫を詰めていたみたいだし、きっとそれを飛ばしたんじゃない?」
混乱しているのは味方のタイロソスの信徒達も同様だ。
それはそうだろう。いざこれから切り合いが始まる! と思った途端に、次々に敵が負傷して倒れたのだ。
何でこうなった? と戸惑うのも当然だろう。
そんな男達に対して、女戦士マティルダだけは魔法銃の仕組みにおぼろげながら気が付いたようだ。
ただの可愛い物好き女子じゃないんだな。
私は彼女に対しての評価を少しだけ上方修正した。
「おっしゃ、狙い通りだぜ!」
「くそっ・・・テメエら、一体何をしやがった・・・」
カルネの嬉しそうな声に私は慌てて振り返った。
彼の視線の先には、怒りに声を震わせながら、地面に膝をつくヴァロミットの姿があった。
押さえた右足からは赤黒い血がにじみ出している。カルネの放った弾で負傷したようだ。
ウンタは良くやったとばかりに軽くカルネの背中を叩くと、私に振り返った。
・・・ん? あれ? ひょっとして戦いって終わっちゃったの?
えっ? マジで? 私、今回、全然何もやってないんだけど。
ちょっと待って、ちょっと待って。
私、ずっと見てただけって言うか、指揮すら執ってなかったんだけど。
クロコパトラ歩兵中隊の隊長って私なんだけど。
これじゃウンタが隊長みたいじゃない?
『クロ子、隊長降格?』
『おいよせ止めろ。シャレにならんて』
私はピンククラゲの指摘に食い気味にツッコミを入れた。
「どうしたクロ子。カロワニー・ペドゥーリがロイン達の楽園村に対して何を企んでいるのか。アイツが知っている事を聞き出しに行くぞ」
『ああん。待ってつかーさい』
なんだろう。今日のウンタ――というか、クロカンの隊員達は妙に頼もしい気がするんだけど。
確かに魔法銃の力あってこそなんだろうけど、それはそれとして、妙に場慣れしている感があるっていうか。
思えば彼らも、大モルト軍との戦い。そしてそれに次いでDQN竜こと天空竜との戦いにと、着実に経験を積み重ねて来た訳だ。
その結果が今日の姿に繋がっていると。
これはアレか。私はいつも一緒にいたがゆえに、彼らの成長に気付かなかったと。つまりはそういう訳だな。
『なる程なる程。言うならばこれが我が子の成長を感じる親心というヤツか。ふむ、悪くない気分だ』
「お前、何言ってるんだ?」
私はウンタから不審者を見るような目で見られながら、彼の後ろに続いたのであった。
次回「メス豚と妖術使い」




