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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十三章 かりそめの楽園編
414/518

その411 メス豚、敵を誘い出す

 我々は亜人の兄弟、ロインとハリスを送り届けるために、彼らの生まれ故郷、隣国ヒッテル王国へとやって来た。

 宿屋の前まで到着した私達だったが、そこで頼れるピンククラゲ水母(すいぼ)が、我々を尾行している存在を察知したのであった。




 事前に予約していた事もあって、私達はすぐに宿の大部屋に通された。

 あ、勿論、犬達は別な。彼らは馬小屋のある柵の中に入れられている。

 マサさんもいるし、ちゃんと大人しくしているはずである。

 お前も動物なのに、人間達と一緒に宿の中に入っていいのかって? ほら、私は可愛い子豚ちゃんだから。室内犬ならぬ室内豚だから。

 いやまあ、ぶっちゃけ私的には別に犬達と一緒に馬小屋で寝泊まりしても良かったんだけど、女戦士マティルダが抱っこしたまま離してくれないっていうか。宿の人も別に何も言わなかったし。


『ゴホン。――それで水母(すいぼ)。例の監視者だけど、今どうしてる?』

情報不足(さあ?)


 水母(すいぼ)のピンククラゲボディーは高性能観測機器の集合体だが、流石に壁越しに通りの人間一人一人を個別に観測出来る訳ではないようだ。

 私は『そいっ』。マティルダの腕から逃れると、広い部屋を横切り、よいしょと窓によじ登った。


『どう? ここからなら見える?』

視界良好(ばっちり)


 水母(すいぼ)の体から細い触手が一本、ニュルリと伸びると、壁を背にして佇んでいる男を指し示した。

 いかにもチンピラ然としたガラの悪そうな男だ。

 道行く人達からさりげなく避けられているのが分かり易くて助かる。

 マティルダとクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達も、窓の周りに集まって来た。


「急にどうしたの? クロ子ちゃん」

「どうしたクロ子。――アイツがさっきスイボが言っていた尾行者か?」

「どれどれ? へえ。ヤツがカロワニーとかいうヤツの手下なのか」


 カロワニーは、前ペドゥーリ伯爵の弟で、現当主の後見人として権勢をふるっている、今回の事件の黒幕である。

 てか、カルネ。お偉い伯爵様があんなチンピラなんて雇うわけがないだろうが。


『どう見てもアレは貴族の部下とは思えないわね。どっちかと言えばアゴストファミリーの構成員なんじゃない?』

「アゴストファミリー・・・ランツィの町でザボの店を襲ったヤツらの仲間か」


 クロカンの大男カルネは、不愉快そうに眉間に皺を寄せた。

 彼は背中の荷物を降ろすと、布に包まれた長い得物をピシャリと叩いた。


「どうするクロ子? やるのか? あの時は酒を飲んじまってたせいで戦えなかったが、今日は違うぜ。今回はこの通り、武器もあるしな」


 いや、だからなんでお前はそんなに好戦的なんだよ。

 あの時のリベンジをしたい、という気持ちは分からないではないけど。


『それより気になるのは、なんでアゴストファミリーが町に到着したばかりの私達を尾行しているのかって所よ』

「? どういう意味だ?」


 今の我々は人間の傭兵団という事になっている。つまりはメラサニ村の亜人ではないのだ。

 だというのに、我々は町に到着して早々にこうして尾行を受けている。正体が亜人だとバレていないにもかかわらず、だ。

 相手がアゴストファミリーだとすると、あまりに手際が良すぎるんじゃないだろうか?


「回りくどいなぁ。だから何だってんだよ? じゃあお前はあれがアゴストファミリーのヤツらじゃないって言うのかよ」

『その可能性もあるって事。人は見かけによらないって言うし、あの監視者だって敵じゃないかもしれないでしょ? 今の所、相手の目的も正体も不明な以上、こちらから攻撃を仕掛ける訳にはいかないって話よ』


 現在、ハッキリしているのは、こちらに監視者が付いているという事だけだ。これだけで相手がアゴストファミリーだと決めつけるのは流石に早計だろう。

 ここでウンタが、「ちょっといいか?」と手を上げた。


「なあクロ子。俺達がこの国に来る時に使った船の手配と、今、俺達が泊っている宿の手配はアーダルトがやってくれたんだよな?」


 せやな。私達には人間の町に伝手もないし、大変助かりましたわ。

 ウンタはタイロソスの信徒、教導者のアーダルトに振り返った。


「アーダルト。あんたはこういう旅にも慣れているようだが、いつも自分で手配しているのか?」

「そうだ。俺達タイロソスの信徒は、仕事で移動する事が多い。だから神殿に言えば懇意にしている船の紹介くらいはすぐに――あっ」


 ここでアーダルトはハッと目を見開いた。

 ん? なんぞ? ――って、あっ! そういう事か!

 私は残念な物を見る目になった。


『あ~、これはやっちまったな、アーダルト』

「アー兄さん、神殿の事務員に頼んじゃったんだ」

「・・・ついいつもの癖で。スマン。今回は俺のミスだ」


 アーダルトは気まずそうに目を逸らした。

 そしてカルネは話について行けずに、キョトンとしている。


「それがどうかしたのか?」

「タイロソス神殿にはアゴストファミリーの協力者がいる。そいつから俺達の情報が敵に流れたかもしれん、という話だ」


 そう。タイロソス神殿の事務員の中には、アゴストファミリーに通じている者達がいるのである。

 実際、私もその存在を自分の目で確認している。(第十二章 亜人の兄弟編 その400 メス豚とアゴストファミリー より)

 とはいえ、これはアーダルトを責めるべきではないだろう。私もうっかりしていたし。そもそも、神殿の手助けなしにこれだけの大人数の移動の足と宿泊先を確保するのは難しかった。

 ここは起きてしまった事は仕方がないとして、切り替えるべきだろう。


「・・・助かる」

『でもまあ、これで相手がアゴストファミリーだという事がハッキリした訳ね。それ以外の誰が、町に到着したばかりの傭兵団に見張りなんて付けるんだ、って話だし』


 見た目がチンピラな男は中身もばっちりチンピラだったようだ。うん。やっぱ人は見た目だわ。

 相手の正体がハッキリした事で、カルネは元気を取り戻した。


「なんだ、やっぱりアイツはアゴストファミリーだったんじゃねえか。それでどうするクロ子? 戦うのか?」


 全くお前は・・・カルネの言葉を認めるのは(しゃく)に触るが、これから楽園村を目指すにあたって、敵の手駒を減らしておくのは悪くない選択だ。


 よし。やるか。


『みんな戦いの準備! ここでアゴストファミリーを叩いておくわ!』

「よっしゃ! それでこそクロ子だぜ!」


 いや、だからアンタが私の何を知っているんだっての。




 我々が宿を出ると、(くだん)の監視者はすぐにこちらの後を付けて来た。

 クロカンの大男カルネが後ろを振り返って呟いた。


「知ってると結構バレバレだな」

『こら、カルネ。後ろを見ないの。こちらが尾行に気付いている事が相手にバレちゃうでしょうが』


 ちなみに我々は全員で移動している。

 本当なら雰囲気イケメンの兄ロインはともかく、弱気ショタ坊こと弟のハリスには、安全のために宿に残っていて貰いたかったが、アゴストファミリーの目的がハリスである以上、彼を残して行っては意味がない。

 そう。我々は彼を餌に、アゴストファミリーの実行部隊をおびき寄せて叩くつもりなのだ。


「ワンワン! ワンワン!」

『流石に黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊は必要なかったんじゃない?』

「何言ってんだ。コイツらだけ残していくのは可哀想だろうが」


 そんな理由もどうだろうな。まあ、こう見えてもマサさんの選んだ精鋭だし、足手まといにはならないか。


「それでクロ子。どこでヤツらを迎え撃つつもりだ?」

『う~ん。こちらはこれだけの大人数だし、敵もそう簡単には手を出して来られないと思う。可能性があるとするなら、我々が町の外に出た時くらい? 広い場所で取り囲んで逃げられないようにしてから、攻めて来るんじゃないかしらね』


 四十人もの集団同士が戦うのだ。町中だとそれこそ大騒ぎになるだろう。

 全く。だから全員で行くのはよそうと言ったんだ。

 それをみんな付いて来たがるもんだからさ。


「ならば一先ず町の外を目指すべきか」

「おい、後ろに付いて来ているヤツが増えてるぞ! ヤツら俺達の誘いに乗ったみたいだぜ!」

「カルネ、大きな声を出すな。それにお前、さっきクロ子から後ろを見るなと言われたばかりだろうが」


 カルネは「わ、悪い」と慌てて顔を正面に向けた。しかし、それでも背後が気になって仕方がないらしく、歩きながらもチラチラと目を泳がせている。

 コイツめ。あんたが見なくても、ちゃんと水母(すいぼ)が見張ってるから大丈夫だってーの。


『ほらほら、みんなも怪しまれないように自然に自然に。いつものように歩いていればいいんだからさ』

「自然にって言われても、そう言われると返って意識してしまうんだが」

「おい、ハリィ。お前右手と右足が一緒に動いてるぞ」

「えっ? あ、本当だ。ええと、右手が前の時は左足が前で・・・って、うわっととと!」

「ちょ、気を付けろ。人が多いんだから真っ直ぐ歩けよ」

「ワンワン! ワンワン!」


 てか、大丈夫かいなコイツら。

 そういうお前はどうなんだって? 私は女戦士マティルダに抱きかかえられてますが何か?

 ちなみにマティルダ達、タイロソスの信徒達はこういった荒事には慣れているのか、平気な顔で歩いている。

 ――いや、そうでもないか。私を抱いたマティルダの腕にはいつもより力が入っている気がするし、横を歩いている青年戦士ビアッチョの呼吸も少し乱れている。

 戦いを前に彼らも緊張しているのだ。


 こうして歩く事約一時間。ようやく道の周りの建物がまばらになり始めた。

 どうやら町の外れまで来たらしい。

 その間、追跡者は次第に数を増やし、今では我々と同人数――いや、若干相手の方が数が多くなっていた。

 敵ももう隠すつもりはないようだ。


「この辺でそろそろいいんじゃねえか?」


 カルネはそう言うと、待ち兼ねたように武器を包んでいた布をほどいた。

次回「クロカンvsアゴストファミリー」

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― 新着の感想 ―
[一言] 相手組織の現状もきちんと確認しないでやり合うってクロ子もすっかりバーサーカーに、アーダルト達も傭兵なら神殿や貴族と繋がりの有る連中相手には慎重に行動する様に止めなきゃ
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