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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十二章 亜人の兄弟編
394/518

その391 メス豚と誘拐犯

 行方不明になった村人。

 村の周囲に現れるようになった不審な人間達の姿。

 弱気ショタ坊ハリスは、それらの問題を領主に訴えるため、村長である父親の代理として、領主の館へと赴く事になったのであった。


『なる程ね。それでロインは弟の事を心配して、一緒に山を下りたと』

「俺だけじゃないぞ。村の男衆数人も一緒だ」


 私の生暖かい視線が気になったのだろう。雰囲気イケメンの兄ロインは、仏頂面で答えた。

 そりゃそうか。普通、幼い子供を一人だけで送り出したりはしないわな。


「村を出て直ぐに俺達は尾行され始めた。おそらく例の人間達だったのだろう」


 楽園村を出たハリス達は、自分達を尾行してくる存在に気付いたという。

 相手は十分に距離を取っていて、こちらから近付くと逃げてしまったそうだ。気にはなるものの、これではどうにも出来ない。

 ロイン達はハリスの護衛を任されたとはいえ、彼らは戦闘に長けた軍人でもなければ専門の訓練を受けた諜報部隊でもない。平和な村の腕の良い狩人に過ぎなかったからだ。


「俺達は出来るだけ急いでペドゥーリ伯爵様の屋敷に向かう事にした。尾行の人間達が何を企んでいるにしても、伯爵様の屋敷の近くで何かしてくるとは思えなかったからだ」

「屋敷まで後もう少し、という所でした。武器を持った人間の男達が十人程、待ち構えていたのです」


 どうやら尾行者は、何らかの方法で仲間に連絡を送っていたようだ。

 ハリス達の進行方向に武装した集団が待ち構えていたそうだ。

 身の危険を感じたハリス達は、急遽、道を外れて遠回りをする事にした。


「一度港の方に出て、北側から伯爵様の屋敷に向かうことにしたのです。港に出れば人間の目にも晒される危険もありますが、全員、目立たないように、顔の下半分はマフラーで覆っていました。パッと見ただけでは誰も僕達の事を亜人だとは気が付かないはずだと考えたのです」

「だが、後で思えば、それこそがヤツらの狙いだったんだろうな」


 ロインは苦々しげに吐き捨てた。

 港に出た彼らは直ぐに人間達に取り囲まれる事になったのである。

 その中にはなんとペドゥーリ伯爵の家紋の入ったマントを着た者達の姿もあったという。


『それってつまり、ペドゥーリ伯爵がハリスを狙っていたって事?』

「そこまでは分からん。あくまでも俺達が見たのは、伯爵様の家紋が入ったマントだけ。それも追手の中に数名混じっていただけだったからな」

「きっとカロワニー様が雇った者達だと思います。もしもペドゥーリ伯爵家が関わっているのなら、町の衛兵も追手に加わっていたと思いますから」


 なる程。ここでようやくカロワニーとやらが出て来る訳ね。

 カロワニーはペドゥーリ伯爵当主の父親の弟。つまりは叔父さんである。まだ幼い(※三歳児という話だ)伯爵の後見人でもある。

 ハリス達は自分達を襲ったのはカロワニーの私兵ではないかと考えているようだ。


「僕達は一か八か、荷物を捨てると川に飛び込みました」

「流石に追手のヤツらも川の中までは追って来なかった。おかげで俺達はどうにか逃げ伸びたという訳だ」


 マジか。この真冬に川に飛び込んだとか。お~ブルブル。考えるだけでも背筋が凍りそう。そりゃあ襲撃者も追って来なかった訳だ。

 この捨て身にの行動により、ハリス達はどうにか襲撃者達の手から逃れる事が出来た。

 しかし、彼らは川の中で離れ離れになってしまった。

 ロインは辛うじてハリスを見つけると、二人で停泊中の船に逃げ込んだのであった。


『その船がこの国に向かう船だったって訳ね』

「はい。隠れた直後に船員達が次々に乗り込んで来て、身動きが取れなくなって困っていた所で出航してしまったのです」


 再び川に飛び込もうにも、船員達の目があってそれも難しい。

 そもそも、亜人の彼らがペドゥーリ伯爵領に住んでいるのは、伯爵家の人間だけが知るトップシークレット。

 町の人間は自分達の土地に亜人が住んでいる事すら知らないのだ。

 そして一度川に飛び込んだ事で、二人のカモフラージュは解けている――亜人の特徴である口元を隠していたマフラーはなくなっている。

 飛び出したが最後、亜人である事がバレて大騒ぎになるのは確実だった。

 こうしてロイン達は完全に身動きが取れなくなった状態で、船の目的地であるサンキーニ王国の港、ここトラベローニ地方の港町へとやって来たのであった。

 そこからの話は、町の副監督官・・・ええと、何って名前だっけ? あ、そうそうマッシモ! マッシモ副監督官から聞いた通りである。


 なる程なる程。これで二人の事情は分かった。分かったけど、一つだけ解せない箇所がある。

 村長代理のモーナが「ちょっといいかしら?」と声を掛けた。


「あなた達の事情は分かったわ。自分達の村の事を私達に秘密にしていたのも理解したわ。けど、一つだけ不思議なのは、どうして自分達を襲って来た人間達の正体まで黙っていたの? カロワニーだっけ? その人間の貴族が怪しいって分かっていたのよね?」


 そう、そこだ。

 今まで二人は頑なに自分達をさらおうとした相手の名前を言おうとはしなかった。

 二人の中ではそのカロワニーとやらが犯人である事は疑いようもないはずだし、カロワニーに恩義がある訳でもなさそうだ。

 ならばなぜ、二人は今までずっと犯人の名前を秘密にしていたのだろうか?

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の副隊長、ウンタも同じ事を思っていたのだろう。小さく頷いている。


「は? どうしてって?」

「だって相手は人間の貴族だぞ?」


 ロインとハリスの兄弟は信じられない物を見る目で我々の事を見つめた。


「ええと、皆さんは人間の貴族が怖くないんですか?」


 ・・・あ~、そういう。

 その瞬間、私達の間に何とも言えない微妙な空気が流れた。

 つまりロイン達は、カロワニーの――伯爵家の貴族の名前が出る事で、我々が関わり合いになるのを嫌って自分達に協力してくれなくなるのでは、と危惧したのだろう。

 いや、嫌って協力しなくなるだけならまだいい。人間の貴族を恐怖するあまり、自分達の命を狙って来る可能性もある。

 二人を殺した所で何がどうなるとも思えないが、パニックに陥った人間は、得てして極端な行動に出るものだ。

 そう考えれば、彼らが我々の事を警戒していた気持ちも理解出来る。

 ロイン達、楽園村の亜人達にとってみれば、ある意味ではペドゥーリ伯爵領はこの世界の全て。ペドゥーリ伯爵はその土地を治める、世界の王にも等しい存在なのだろう。

 カロワニーはその伯爵家の(※現時点での)最高権力者。

 つまり、二人にとってカロワニーに狙われるという事は、この世界のどこにも逃げ場が無くなったと宣言されたにも等しい事にもなるのだ。


 そして我々が微妙な顔になるのも当然である。

 隣国ヒッテル王国はこのサンキーニ王国と同規模の国。そしてペドゥーリ伯爵家は、国の一地方を統治している貴族家である。

 大陸の三大国家の一つ、大モルトの大軍(のハマス軍)と存亡を掛けたガチバトルを繰り広げ、最近、新家アレサンドロ家の当主の奥さんと直接化粧品(コスメ)の取引まで始めた私らからすれば、この国と同規模の外国の地方領主と言われた所で、「ふ~ん、それで?」という感覚でしかない。

 警戒する事はあっても恐怖までは覚えない。

 あ、カロワニーは領主ですらなかったわ。うん。だったら尚更だな。


「けど、亜人的には本当は向こうの感覚の方が普通なのよね。クロ子ちゃんと違って」

「そうだな。どうやら俺達の感覚は少々おかしくなっているようだ。クロ子と関わってから」


 おい。二人共、他人のせいにするんじゃない。

 ピンククラゲ水母(すいぼ)がヤレヤレといった感じで触手を広げると、『自業自得(ざんとう)』と呟いた。

 言ってくれるじゃないの。

 私は鼻先で水母(すいぼ)をブヒブヒとこねくり回した。


抗議(ちょ)不快感(やめ)


 私は一通り水母(すいぼ)を蹂躙して満足すると、ロイン達に向き直った。


『二人の事情は分かったわ。けど、この国までカロワニーの追手と思われる者達が来ている以上、今までのようにのんびりはしていられない。それで? 二人はこれからどうするつもり?』

「俺達は――」

「僕は出来ればペドゥーリ伯爵領に帰りたいです」


 兄の言葉を弟のハリスが遮った。


「みんなが心配しているというのもありますが、カロワニー様が我々を狙っているというのを伝えないと」

「それなら逃げ延びた仲間が、村に戻って伝えてくれているはずだ。だったらお前は今まで通り、安全な場所に身を隠しているべきだ」


 どうやら、村の事を心配するハリスと、弟の身の安全を心配するロインで意見が割れている様子。


「ロイン兄さんはみんなが心配じゃないんですか? 村には兄さんの婚約者のサロメ姉さんもいるんですよ」

「い、今はアイツの事は関係ない。お前が気にする必要はない」


 おっと。ロインには村に婚約者がいる模様。

 目を泳がせて動揺するロイン。

 雰囲気イケメンだし、村長の息子だからな。周りの女が放っておかなかったのだろう。

 私はブヒッと鼻を鳴らした。


『フン。それが何? リア充自慢ならウチの小隊の副隊長だって負けてないんだけど? 最近は村の女の子と付き合い始めたんだから』

「おい、バカを言うな。止めろ」


 さっきの仕返しだわい、ブヒヒのヒ。

 ウンタは思わぬ流れ弾に慌てて私の口を塞いだ。

 モーナがロインに向き直った。


「安全な場所に身を隠すと言っても、この国に頼れる人はいるの? このメラサニ村の場所は追手にバレているのよ」

「そ、それは・・・」


 ロインは悔しそうに顔を伏せた。


「ここはカロワニーにとって違う国だし、ここにはクロ子ちゃん達クロカンの隊員達もいるから、楽園村にいるよりはずっと安全だとは思う。けど、あなた達のために私達の村の者達が危険にさらされるというのなら、私は村長代理として黙って見過ごす事は出来ないわ」

「・・・・・・」


 モーナの決意を込めた言葉に、ロインは何も言い返す事が出来なかった。

 彼女は立ち上がると、ウンタとじゃれていた私に目配せした。


「二人には考える時間が必要だと思う。私達は席を外しましょう」


 こうして我々はロインとハリスを残して、別の部屋へと移動したのだった。




「それでクロ子ちゃんは、二人をどうしたいの?」


 部屋のドアを閉めると、モーナは私に尋ねた。

 どうしたいとは?


「さっきはああ言ったけど、私はクロ子ちゃんが二人を村に迎え入れるつもりなら、それでもいいと思ってるわ」


 ハリスはともかく、ウンタの話によるとロインはかなりの腕の立つ狩人らしい。

 何だかんだと激しい戦いが連続した事で、我々クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)は非常に消耗が著しい。

 もしもロインが入ってくれれば、即、隊長候補の頼もしい逸材ではある。

 とはいえ、う~ん・・・


『正直、何も考えてなかったけど』

「そうなのか? お前の事だから、何か深い考えがあってあの二人を保護したんだと思っていたが」


 ウンタは意外そうな顔で私を見下ろした。

 深い考え? そんなモンないから。それってアンタの買い被りだから。

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達、特に古株の隊長クラスは、どうも私に対して過剰な幻想を抱いているようだ。

 自分達には分からない事や出来ない事でも、クロ子なら理解しているし出来るに違いない。

 そんな信頼? 尊敬? そんな感じの空気を時々彼らから感じる時がある。

 ンな訳ないから。私だって出来ない事は出来ないから。結構、その場の思い付きや勢いで行動してるから。


『あの兄弟の事は成り行き次第なあ。まあ私がどうこうと言うより、先ずは二人がどうしたいのか聞いてからになるかな』

「意外と普通ね」

「意外と普通なんだな」

『・・・いや、二人共私の事を何だと思ってる訳?』


 そんな事を話しながら待つ事しばらく。やがて部屋のドアがノックされた。

次回「メス豚、ガチムチと戦う」

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― 新着の感想 ―
[一言] 人口が人口だし居住地が隣国だしこの問題の解決のハードル高過ぎだな、平時ならカロワニー一派をどうにかしてペドゥーリ伯爵家と話を付けてめでたしめでたしだけど状況が悪すぎる
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