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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十一章 冬休み編
372/518

その369 ~ミルティーナとナタリア~

◇◇◇◇◇◇◇◇


 王都の貴族街を走る一台の馬車。

 その車内でルベリオはホッと安堵のため息をついていた。


「急にお城に呼び出されたから何事かと思ったら、まさか”新家”アレサンドロ家の当主様との面会だったなんて」


 ルベリオの屋敷に大モルトの使者が来たのは今朝の事。

 何を聞いても、上からの命令、としか言わない男に、「一体何事だ?」と不審には思ったものの、サンキーニ貴族としては大モルトからの命令に従わないわけにはいかない。

 ルベリオは身の危険を感じながらも、急ぎ王城へと向かったのだった。


「そりゃあ自分の主人が、敗戦国の男爵家の、しかも僕みたいな子供に会うと言ったらあんな顔にもなるか」


 どうやら今回の面会は新家当主、ジェルマン・アレサンドロ本人たっての要望で準備された物らしい。

 なる程。使者の男がムッツリと仏頂面をしていた訳である。

 要は男が何も説明をしなかったのは、ルベリオに対しての嫌がらせだったのである。

 彼はジェルマンを尊敬しているからこそ、ルベリオのような子供が主人に目を掛けられたのが許せなかったのだろう。

 分かってしまえば、小者臭いと言うか、陰湿と言うか。


 ルベリオのジェルマンとの面会時間はそれ程長くはなかった。

 おそらく十五分程だったのではないだろうか?

 そしてそのほとんどの時間は、ルベリオがどのようにしてハマス家当主、カルミノ・オルエンドロを討ち取ったか、その説明に充てられた。

 ジェルマンはほとんど相槌もうたずに――それでいて興味深そうに――黙ってルベリオの話を聞き終えると、最後にねぎらいの言葉をかけた。

 ここで面会時間は終わり。ルベリオは部屋を出たのであった。


「まさか、当人の口から直接話が聞きたかっただけだったなんて。大モルトの当主なだけあって、武勇伝を好む方なのかもしれないね。僕の話で満足して貰えたなら良かったんだけど」


 この急遽決まった王城での面会。

 ルベリオは当人の口から話を聞きたかっただけだと思ったようだが、実の所、それはただの口実でしかない。

 そんなものは報告書で分かり切っている事であり、今更、ジェルマンは説明を必要としていなかった。

 彼の真の目的はルベリオと直接会って、その人となりを見る事。

 ルベリオが使えそうな人間かどうかを見定める事にあった。

 ジェルマンは多忙な中、時間を作ると、毎日のようにサンキーニ王国の主要な人物と面会していた。

 この者は今のままの仕事を任せておいて大丈夫か、あるいはこちらに取り込んでより重要なポストに就かせるべきか、それとも名ばかりの閑職を与えて政治の中心から遠ざけるべきか、そういった点を判断する際の参考にするためである。

 ルベリオと面会したのも、平たく言えばその一環であった。

 果たしてジェルマンはルベリオをどう見定めたのか?

 それはこの時点ではジェルマンの胸中にのみ秘められ、誰にも明かされる事はない。




 ルベリオを乗せた馬車は、やがて貴族街の一角にある彼の屋敷に到着した。

 少し前までとある男爵家が使っていた屋敷で、イサロ王子がルベリオのために使用人共々購入。つい先日、彼に与えた物である。


「あれ? あの馬車は・・・」


 ルベリオは見慣れた馬車が館の入り口近くに停まっている事に気が付いた。

 次の瞬間、屋敷のドアが開くと、顔の一文字の傷跡のある青年が飛び出した。

 最近ルベリオの家臣になった、元半グレ集団のリーダー、ハディックだ。


「ルベリオ――じゃなかった、男爵、でもなかった、ええと、そうだ、ご当主様! ヤバイ事になったぞ! おい、一体どうするんだ?!」


 ハディックは慌てた様子で馬車に駆け寄った。

 ハディックと彼の仲間達は、連日、屋敷の執事のアルノルドから、男爵家の家臣としての厳しい指導を受けている。

 仲間達は直ぐに音を上げたものの、ハディックは意外に――と言っては彼に失礼だが、辛抱強くアルノルドの指導に付いて行っていた。

 そんなハディックを見て、仲間達も渋々心を入れ替えた。

 それから努力の甲斐あって、少しは見られるようになって来た・・・のだが、どうやらあまりの出来事に、付け焼刃のメッキが剥がれ落ちてしまったようだ。

 ハディックはまだ動いている馬車に駆け寄ると、そのままドアを開けた。

 いずれも貴族の家臣としてはあり得ない行動である。

 御者は慌てて馬車をその場に停車させた。


「おい、ルベリオ、じゃなかったご当主様! あの女は何なんだ?! なんでこの国の王女なんかがこの屋敷にやって来てんだよ?!」

「えっ? ああ、やっぱりあの馬車はミルティーナ様の馬車だったんですね」


 ルベリオはハディックの剣幕に若干腰が引けながらも、納得した様子で頷いた。


「納得してんじゃねえよ! お前男爵なんだろ?! アルノルドのヤツに叩きこまれたが、男爵ってのは子爵の下、その子爵の上に伯爵ってのがあって、その伯爵の上が王家だって! なんでその王家のお姫様が、最底辺の男爵家の屋敷なんかに来てるんだよ! お姫様ってのは城にいなきゃいけないんじゃねえのか?!」


 貴族の爵位はいわゆる五爵。公・侯・伯・子・男の五つの爵位の事を言う。

 ちなみにサンキーニ王国には公爵と侯爵という爵位は存在しない(※実質上はアロルド辺境伯は侯爵のような立場だが)ため、伯爵が爵位の最高位となる。

 ルベリオは困り顔で苦笑した。


「そうなんだけど、ミルティーナ様はああいうお方だから」


 ハディックはルベリオののほほんとした態度に、「ああもう!」とイライラと頭を掻きむしった。


「いいから来やがれ! お嬢とお姫様が大変なんだからよ!」

「ナタリアが?!」


 この言葉に、流石のルベリオも慌ててイスから立ち上がるのであった。




 屋敷の応接間では二人の少女がテーブルを挟んで向かい合っていた。


「・・・ふぅん。それでルベリオと一緒に王都にね(ピキッ)」

「そうなんです。お父様は最後まで心配していたけど、お母様がどうにか説得してくれて。ルベリオと一緒だから何も心配ないって言ったんですけど」

「へえ、そう。(ピキピキ)」


 慌てて駆け込んだルベリオは、二人がお茶を手に話し合っているのを見て、思わず拍子抜けしてしまった。


「ハア、ハア・・・。なんだ、ハディックの話だと今にも取っ組み合いのケンカが始まりそうな感じに聞こえたけど、穏やかな雰囲気じゃないですか」

「いや、お前にはこの光景が穏やかに見えるのかよ」


 ハディックは、「お前、本当に目玉が付いているのか?!」と呆れ顔でルベリオに振り返った。

 確かに彼の言う通り、部屋には戦場もかくやという空気が張り詰め、使用人達は怯えてギリギリまで二人から離れている。

 良く見れば窓の外にも人影が。

 どうやらハディックの仲間達が、ナタリアの事を心配して覗き込んでいるようである。


「「あっ、ルベリオ!」」


 ミルティーナ王女とナタリアが同時にこちらに振り返った。

 彼女達から(※主に王女から)生じた得も言われぬ圧に、ハディックは思わず一歩後ろに下がった。


(なに?! この俺がビビっているだと?! 女とは言え、さすがこの国の王族だぜ)


 ルベリオは、何だか良く分からない感心をするハディックをその場に残し、勇敢にも――あるいは無神経にも、部屋(地雷原)へと足を踏み入れた。


「ミルティーナ様、今日は突然どうされたのですか?」

「そんなの決まっているじゃない。ルベリオが王都に戻ったっていうのに、ちっとも屋敷(ウチ)に顔を出さないないから、仕方なく私の方から出向いてあげたのよ」

「それは――申し訳ありませんでした。この屋敷を手に入れたばかりで、色々と忙しかったものですから。けど、よくこの場所が分かりましたね? 殿下から聞いたのですか?」


 ちなみにイサロ王子はこの屋敷の場所を妹に――ミルティーナ王女には教えてはいない。

 彼女には、「ルベリオは屋敷を手に入れたから、今後はそちらで生活する事になる」と、そう言っただけである。

 そして王女の母――ベレトニーネ王妃は、この屋敷の場所までは知らない。

 知る必要もないし、知らなければ娘の前で間違えて口にしてしまう事もないからである。

 そう。ミルティーナ王女の母と兄、二人がルベリオの屋敷の場所を秘密にしていた理由。それは王女が屋敷の場所を知れば、こうなってしまう事が分かり切っていたからであった。


 ならば王女はどうやってこの場所を知ったのか?

 実はルベリオは屋敷を手に入れた後、その事を王妃の実家の屋敷に報告に行くつもりでいた。

 しかし、先程も説明したように、王子はルベリオの屋敷の場所をミルティーナ王女に知られたくなかった。


「という訳で屋敷には行くな。母上と妹には俺の方から言っておくから」

「そうですか・・・分かりました」


 ルベリオはイサロ王子に言われてその場は納得したものの、これまでずっと王妃の実家の屋敷でお世話になったのに、一言もないのはあまりに不義理が過ぎると心配した。

 そこでルベリオは、これまでの事情をしたためた手紙を二人に送る事にしたのである。

 そしてその手紙には屋敷の事が詳しく書かれていたのだった。


 ミルティーナ王女は誇らしげに胸を反らした。


「屋敷の特徴を貴族街に詳しい使用人に聞いたら、直ぐにここだって分かったわ」

「そうなんですか」

「王女殿下は聡明でいらっしゃるのですね」


 素直に感心するルベリオとナタリア。

 なぜルベリオは――というよりもこの二人は――あんなに知恵が回るのに、どこか抜けた所があるのだろうか?

 ハディック達は思わず手で顔を覆うと天を仰いだのであった。

次回「胸の小さな痛み」

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