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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十章 竜殺し編
349/518

その346 メス豚と狩りの時間

◇◇◇◇◇◇◇◇


 昨夜から降り続いた雪は一旦は止み、朝には青空を覗かせたものの、昼前には空は再び厚い雲に覆われていた。

 そんなメラサニ山の上空に浮かぶ大きな翼。

 天空竜である。

 灰色の体色は曇天の空に、まるで保護色のように溶け込んでいる。

 先日、ランツィの町を襲った天空竜は、雪のように白い体を持っていた。

 対比物の無い空にいるために判断が付かないが、実は体も一回り程小型で、頭の角もやや短いようだ。

 あの白い雄の天空竜のつがい(・・・)

 雌の天空竜であった。


「ギエエエエエエエッ!」


 天空竜(雌)は、苛立ちを露わに大声で鳴いた。

 すぐ後ろを飛んでいたハイエナ竜こと大鳥竜が、その声に驚いてパッと散らばる。

 彼女の苛立ち。それは餌となる大型動物の姿が見つけられない事にあった。

 天空竜のすぐ横を大鳥竜の一匹が横切る。

 獲物が見つからないなら、周りを飛んでいる大鳥竜を捕まえれば良さそうなものだが、天空竜は決して大鳥竜を襲わない。

 その理由は、天空竜よりも大鳥竜の方が飛行技術が優れているせいである。

 つまり、捕まえたくても、簡単には捕まらないのだ。

 そして二つ目の理由が、せっかく苦労して捕まえても、大鳥竜の肉は臭味が強くて食べられたものではないのである。

 大鳥竜の内臓には、腐臭を放つ成分が溜め込まれた臓器があって、余程上手く仕留めない限り、その臓器が破れて肉に臭味が広がってしまう。

 捕まえるのが難しく、苦労して捕まえたとしても、食べられない程味が不味い。

 天空竜にとって大鳥竜は、目障りなだけで全く何の役にも立たない存在なのである。


 天空竜(雌)が苛立っている理由は、餌が見つからない以外にもう一つあった。

 彼女のつがいの相手となる天空竜(雄)。

 彼は数日前、餌となる人間を求めて、この辺りで一番大きな町を襲った。

 その時、小さな黒い子豚と戦いになり、大きなケガを負ったのである。

 今も彼女の夫は、巣が作られた洞窟に籠り、体の傷を癒している。

 狩りに出られるような体ではないのだ。

 こうして天空竜(雌)は、夫の分も、二人分の獲物を獲らなければならなくなったのであった。


 天空竜(雌)は大きく翼を翻した。

 これ以上北に飛ぶと、平地に出てしまう。

 彼が大怪我をする羽目になった人間の町というのがどの辺りにあるのかは分からないが、迂闊に近付くべきではないだろう。


 人間といえば、確か・・・


 彼女はふと、山の中に人間の村があったのを思い出した。

 一つは崖のそばの小さな村。もう一つは周囲を柵に囲まれた、そこそこの大きさの村だった。

 ちなみに言うまでもなく、亜人達の村――崖の村とメラサニ村の事である。


 あの時は餌になる人間は誰もいなかったけど、ひょっとして今なら戻っているかもしれない。


 彼女は僅かな期待を胸に、村のある場所へと向かったのだった。




 崖の村には人間は(※亜人の村人は)いなかった。

 彼女はしばらく村の上空を旋回していたが、動く者の姿は見つけられなかった。

 彼女は失望と共に、もう一つの村へと飛んだ。

 そしてメラサニ村へと到着した途端――


()()()()・・・』


 彼女は喜びに思わず喉を鳴らした。

 村の中には相変わらず人間の姿は無かった。しかし、あちこちの建物から白い煙が上がっていたのである。

 家の中で人間達が火を焚いて暖を取っているのは明らかだ。

 そう。ここには人間が――彼女の獲物がいるのである。


 彼女は喜び勇んで村に降りようとして、ハッと気が付いた。

 村の外。開けて広場のようになった場所に、二十人程の人間の姿があったのである。

 ちなみに彼女は「人間」としか認識していないが、彼らは亜人と呼ばれる存在である。

 全員が額に小さな角を生やしている。クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達であった。

 亜人達は彼女の姿に気付いていないのか、ダラダラと広場を歩き回っている。


「ギャアアアアア!」


 ようやく見つけた獲物の姿に、天空竜は歓喜の声を上げた。

 その声で流石に亜人達もこちらに気付いたようだ。驚きの顔で見上げるが、恐怖で足がすくんでいるのか逃げようともしない。

 天空竜は急降下。彼らに襲い掛かった。


「よし! かかったぞ! 全員退避!」


 小柄な亜人がそう叫ぶと、彼らは蜘蛛の子を散らすようにそれぞれ別方向に逃げ出した。

 天空竜はあまり狩りが上手くない。

 獲物の動きに目移りしているうちに、結局、誰一人捕まえる事が出来なかった。


「天空竜が地上に降りたぞ! 今だ!」


 ザザザッ!


 広場の周囲の茂みが一斉に立ち上がった。

 いや違う。人間が木の枝を体に縛り付けて、茂みに擬態していたのだ。

 姿を現わしたのは、大モルト軍の兵士達、約二百人。


「ヤツを空に逃がすな! 総員、かかれ!」


 指揮官のマルツォの声と共に、兵士達が(とき)の声を上げると天空竜に襲い掛かったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『よし! 初動は満点ね!』


 私は大モルト兵の後方。広場の縁でブヒッと鼻を鳴らした。

 ちなみに今日の私は胴体に厚手の布を巻いている腹巻ファッションだ。

 ダサいって? 仕方ないだろ。まだ毛が生え揃っていないんだから。北風が身に染みるんだよ。


楽観禁物(調子に乗らない)


 私の背中でピンククラゲがフルリと震えた。

 分かってるっての。前回はそれで痛い目に遭っているからな。二度も同じミスをしてたまるもんかい。


 我々は天空竜との戦いの場に、メラサニ村の外の広場を選んだ。

 別にどこでも良かったのだが、大人数で戦える開けた場所が近場ではここくらいしかなかったのだ。

 先日のランツィの町での戦いの時は、途中で町の外に戦場を移した事で思わぬ苦戦を強いられてしまった。

 しかし、それは一対一での戦いだったため。こちらの戦力が十分に整っている現状なら、広い場所で戦った方が数の力を生かす事が出来るのだ。


 天空竜はあまり目が良くない。

 いや、動体視力自体は普通に良いのだが、遠目が利かないのだ。

 つまり、動く獲物には反応出来ても、動かない遠くの獲物を見つける事は出来ないのである。

 我々はマルツォの部隊を木の葉で偽装させると、戦場として選定した広場の周囲に潜ませた。

 そして広場には囮としてクロカンの隊員達を二十人程。

 彼らには天空竜から見付かりやすいように、適当に動いているように命じた。


「適当にったって、何をしてりゃいいんだ?」

「どうする? 剣でも振っているか?」

『あ。装備は没収ね。天空竜が警戒するといけないから。それと動いていろとは言ったけど、この後には天空竜との戦いが控えているし。疲れるような動きもダメね』

「「「一体、どうしろってんだよ!」」」


 そこはホラ、いい感じになるように。ね?

 彼らは私のムチャ振りに見事に応え、天空竜をおびき寄せる事に成功したのだった。


 こうして始まった、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)アンド、大モルト軍マルツォ部隊の合同部隊VS天空竜との戦い。

 今の所、主導権は我々が握っている、と考えていいだろう。

 てか、さっきから気になってたんだけどこの天空竜。この間戦ったヤツとは大きさも色味も違ってる気がするんだけど?

 アレは天空竜(雄)だったから、コイツは天空竜(雌)か。

 今回は合同部隊の初戦闘になるし、最初は弱っているヤツを相手にしたかったんだがな・・・思い通りにはいかないか。


「馬突槍! 構えーっ!」


 マルツォの指示に、まるで丸太のような巨大な槍が現れた。

 初めて見た時は破城槌かなと思ったくらいだ。

 破城槌は、城の城門を破壊するための兵器である。お寺の鐘の鐘つき棒を思い浮かべて貰えばいいだろう。

 勿論、破城槌がつくのは鐘ではなく、城の城門だ。

 馬突槍はその名の通り、馬に乗った敵の騎士を馬ごと突き殺すのを目的として作られた武器である。

 外見は槍を大きく、太ましくしたような形をしている。

 これを三人で抱えて、騎兵に体当たりするのである。

 要はアレだ。爆弾三勇士。

 こっちは自爆必死の破壊筒ではなく、サイズアップした巨大槍なんだが。

 こんなトンデモ兵器、私は前世では見た事も聞いた事もないので、多分、地球にはない、この世界のオリジナル兵器なんだろう。

 流石、大モルトは修羅の国。年中戦ってるだけあって、発想がイカレてるわ。


「おおおおおおおっ!」


 ドシーン!


「ギャアアアアア!」


 おおっ。冗談みたいな絵面のくせに、破壊力はバツグンだな。

 弓矢を跳ね返す天空竜の鱗も、流石に大の大人三人分の運動エネルギーを乗せた巨大槍は防げなかったようだ。

 ごん太の槍が天空竜の後ろ脚、太ももの辺りにブッ刺さる。

 隊長らしき人物が兵士を怒鳴り付けた。


「そこじゃない! 翼だ! 翼を狙え! 空に逃がすな!」


 いや、言ってる事は分かるけどさ。

 天空竜の翼は背中に付いている。いくら馬突槍がデカくっても、その位置は流石にムリなんじゃないか?

 それはそうと、お前は何もしなくてもいいのかって?

 クロカンの隊員達も、最初に囮になっただけで、その後は全然働いていないじゃないかって?

 いやまあ、そうなんだけどさ。

 私らには私らの役目ってモンがあるんだよ。


(シャ)――――――ッ!』


 その時、天空竜(雌)が大声で吠えると天を仰いだ。

 次の瞬間、天空竜から莫大な魔力があふれ出る。

 クロカンの隊員達の顔が青ざめた。


「ひいっ!」

「な、なんて魔力量だ! まるで魔力の竜巻だ!」


 魔力を感じる事の出来る者なら、誰でも恐れを抱く程の莫大な魔力量。暴力的な魔力の奔流。

 天空竜の最大にして最強の切り札。

 ランツィの町での戦いの時、土壇場で全てをひっくり返したチート魔法。

 強力無比な範囲攻撃。

 発動、即、命中の回避不可能攻撃。

 落雷の魔法が。

 今。

 我々の頭上から。


 ・・・・・。


「ギャッ?!」


 ふう。作戦が上手くいったようだ。

 天空竜はギョッと目を剥いて周囲を見回した。

 魔法は確かに発動した。

 しかし、雷は落ちなかった。

 天空竜は何が起きたのか理解出来ずに、慌てふためいている。

 大モルト部隊の指揮官、マルツォが「はんっ」と鼻を鳴らした。


「敵は動揺している! このスキを逃すな!」

「「「「おおーっ!」」」」


 さあ、ここからは狩りの時間だ。

次回「メス豚vs天空竜(雌)」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 馬突槍は普通の騎兵だけでなく、竜騎兵もいる世界だからこそ発展した兵器って感じでロマンがあっていいですね~。 でもそうなると天空竜を倒してもドラゴンスレイヤーは名乗れない?
[良い点] >魔法は確かに発動した。 >しかし、雷は落ちなかった。 これはいかなるトリックか!?避雷針!? と思いましたが分かりましたよ モクモクと上る白煙は暖を取る為だけではなく… [気になる点]…
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