その334 メス豚vs天空竜(雄)
遂に始まってしまった、DQN竜こと天空竜との戦い。
ハイエナ竜は仲間をやられた怒りか、はたまた敵に対する威嚇なのか、獲物を貪るのを止めて一斉に吠え始めた。
「「「ギャアギャア! ギャアギャア! ギャアギャア!」」」
『ええい、やかましいわ! 打ち出し×10! アンド、打ち出し×10! も一つおまけに打ち出し×10!』
史記・項羽本紀に曰く。先んずれば人を制し、遅れれば人に制せられる。
戦いの鉄則は先手必勝!
私は魔法を連続発動。幸い、さっきまで天空竜が暴れていたせいで、打ち出しの弾丸になる瓦礫は辺り一面にイヤと言う程散らばっている。
ババババババ!
自重を忘れた私の魔法で、周囲の瓦礫が一斉に打ち出される。
まるで横殴りの礫の雨だ。
「ギャア! ギャア! ギャア!」
「ギャア! ギャア! ギャア!」
いくらハイエナ竜達が風の鎧の魔法で体を強化をしていても、礫という物理的な攻撃は防げない。
ハイエナ竜達は無数の礫を食らってバタバタと倒れた。
辺り一面にハイエナ竜達の羽根が大量に舞い散る。
ブヒッ。見ているだけで鼻がムズムズしてきそう。
無事だったハイエナ竜、そして軽傷だったハイエナ竜達は、慌てて空へと逃げ出した。
残念無念。打ち出しの魔法は初速が全ての短射程攻撃。ああなってしまえば届かない。
とはいえ、ハイエナ竜の相手は、いわばついで。私の真の敵は目の前のデカブツである。
『・・・予想通りとはいえ、全然効いてないのね』
『グルルルルル・・・』
私の攻撃は天空竜の分厚い鱗に阻まれ、全くダメージを与えられなかったようだ。
だが、いくら効かないといっても、攻撃を食らって嬉しいはずもない。
天空竜は怒りに低い唸り声を上げた。
えげつない殺気に、思わず尻尾を巻いて逃げ出したくなる。
まあ、尻尾を巻くも何も私の尻尾は最初から巻いているんだがな。
豚のイラスト等で、尻尾が上向きにクルリと巻いて描かれているのを見た事がある人もいるだろう。
実は豚のご先祖様、野生の猪の尻尾は普通に下に垂れている。
それが人に飼育され、豚に品種改良されていく過程で筋力が弱くなり、尻尾を維持する筋肉が衰えた結果、クルンと丸まってしまったのである。
同じように人間に飼われたオオカミの子孫、例えば柴犬なんかも尻尾が上向きに巻いている。
あれも運動不足から来る筋肉の低下によるものなのである。
勿論、意識すれば真っ直ぐに伸ばす事だって出来るのだが――って、私は何を言っているんだ。今はそんな説明をしている場合じゃないだろうに。
確かに打ち出しの魔法による瓦礫の礫は、天空竜の分厚い鱗に阻まれて効果は無かった。
しかしこちらもそれは想定内。そもそもあの巨体だ。さっきの攻撃なんて、ヤツにとっては砂を掛けられた程度にしか感じないのだろう。
『だけどコイツを食らっても平気でいられる?! EX打ち出し!』
極み化された魔法によって、地面に転がっていた柱が唸りを上げて天空竜に飛ぶ。
さしもの天空竜もこの攻撃は予想外だったらしく。慌てて体をのけぞらした。
柱は勢い良く天空竜の胸元にぶつかると、バカーン! 大きな音を立ててバラバラに砕け散った。
シット! 焼けて炭になっていた事で強度が落ちていたのか。もっと頑丈そうな柱を使えば良かった。
しかし、突き刺さる事こそなかったものの、打撃によるダメージはあったようだ。
天空竜は怒りの咆哮をあげた。
『殺――――ッ!!』
『うはっ、怖っ! もう一丁、行ってみようか! EX打ち出し!』
私は今度は焦げ跡の少ない柱を選んだ。行ってこい、Goー!
『邪ッ!』
天空竜の前足が素早く振り下ろされると、柱の矢は真っ二つにへし折られて地面に転がった。
マジか。てか、正面からの二発目は流石に食らってくれないのね。
『こうなるとさっきの攻撃が失敗したのが痛いわね。――ってヤバ、とうっ!』
私は大きくジャンプ。天空竜のフック気味の攻撃で、さっきまで私がいた場所がゴッソリ抉られた。
危な。あんな凶悪な攻撃、かすっただけでも一発アウトだわ。
『はわわっ! もう一丁来たか! とうっ! そして、躱してからのEX打ち出し!』
はわわって、私は萌えキャラか。自分で言ってて照れるわ。ブヒッ。
私は着地点を狙って繰り出された攻撃を、大きくバックステップして回避。すかさず極み化した魔法を叩き込んだ。
「ギャアアアアアアッ!!」
『くそっ! これでもダメなのか! どんだけ分厚い鱗をしてんのよ!』
柱は天空竜の肩口に命中したがそれだけ。地面にゴロリと転がった。
まあ、そこらに転がっていたただの柱だからな。武器として先を尖らせて攻撃力を上げてたわけでもないし。過剰な期待はするだけ無駄か。
しかし、着実にダメージは与えているようだ。
天空竜が怒りの目で私を睨み付ける。
その身体が大きくうねりを上げた。
やばっ! 体当たりか! 私は真横に全力でジャンプ。今度はガチのギリギリで回避に成功した。
ひゅう、今のは危なかった。流石はデカイが売りの天空竜。面で攻撃されると避けるだけでも一苦労だ。
あれだけの質量は水母の魔力障壁でも防げないし、今のを繰り返されるとヤバイんじゃない?
『この野郎、お返しだ! EX打ち出し!』
天空竜は大きく体を捻ると、私が飛ばした柱をヒラリと回避した。
ちょ、今のタイミングを躱すのかよ。もう私の攻撃に慣れたっていう訳? 萎えるわー。マジ勘弁して欲しいんだけど。
私が飛ばした柱はそのまま天空竜の背後、燃えていた家に命中。炎で柱の強度が落ちていたのか、家は火の粉をまき散らしながらバラバラになって崩れ落ちた。
熱っち! 火のついた破片がここまで飛んで来たわい。って、こいつは使える!
『打ち出し×10! 物理アンド火属性攻撃!』
火がついたままの建材や熱せられて赤くなった石が天空竜にバチバチと命中する。
『ギャアアアアアアア!』
『はっはっは! 熱かろう! 元を辿ればばお前がつけた火だ! 自業自得ってヤツね!』
『挑発過剰』
天空竜は痛みと怒りに我を忘れたのか、突然大暴れを始めた。
ちょ、危なっ! 水母の言うように、ちと煽り過ぎたか。
私は慌てて大きく距離を取った。
『ギュア?!』
天空竜は私の姿を見失って、慌てて辺りを見回した。
舗装されていない地面は、冬の乾燥した空気にさらされている。そんな場所でバカみたいな巨体で暴れたもんだから、大量の砂煙が巻き上がり、視界を遮ったのだ。
それなら条件はお前も一緒だろうって? ノンノン。多少、砂煙が上がった所であの巨体を見失う訳がないだろう?
『火属性攻撃を食らえ! 打ち出し×10!』
『ギャアアアアアアア!』
再び熱く焼けた瓦礫が天空竜を襲う。
こうかは ばつぐんだ!
天空竜は癇癪を起した子供のようにイライラと足を踏み鳴らした。
たまたまヤツの近くに転がっていた兵士が、ぶっとい足に踏みつけられ、地面に赤い染みを作る。
私はその光景にハッとした。
潰されるまでピクリとも動かなかった所を見ると、今のは死体だったのだろう。
しかし、ひょっとして倒れている兵士達の中には、まだ息のある者もいるかもしれない。
そう。先程見かけた、あのそばかすの少年兵のように・・・
『くっ。正直、他人の心配をしながら戦えるような相手じゃないんだけど・・・。ああ、もう! 気付いてしまったものは仕方がないか! おい! こっちを見ろ、デカブツ!』
私は天空竜に向かってダッシュ。
ヤツが私の姿を捉えた。と思った所で進路変更。
相手のすぐ横をすり抜けると城壁へとジャンプ。
そのままアクションゲームさながらに垂直の城壁を壁走りした。
目指すは城壁の上。そこまでこのままダッシュで行ける――かと思ったけど、流石に惑星の引力は手強かった。
私はあっという間に最初の勢いを失い、遂には城壁から剥がれ落ちた。
『あわわわ、お、落ちる! 水母さん、水母先生、水母神様、お願い! ・・・おお、楽ちん楽ちん。ありがと水母』
『無茶し過ぎ』
ピンククラゲから触手が伸びると、落下直前に私をキャッチ。
そのままフヨフヨと空中を漂い、私の体を城壁の上へと運んでくれたのだった。
あー怖かった。こんな事なら最初から水母に頼んどけば良かった。勢いだけで行動するもんじゃないな。反省。
私は城壁の上に着地。辺りを見回した。
城壁の高さは十メートル程。大体、うちの学校の校舎(三階建て)くらいか? 結構、壮観だ。
この世界の常識は知らないが、城壁としてはかなり高い部類に入るのではないだろうか。
堀がないからその分だけ高く設計されているのかもしれない。
城壁の上は歩廊と呼ばれる通路になっていて、その幅は人がすれ違える程度。意外と広い? 良く分からん。
町の外側に面する部分には胸壁が作られ、敵の攻撃から兵士達を守るようになっている。
西洋の城の城壁やてっぺんにある、ファスナーみたいな形をした凸凹のアレだな。
ちなみにこの凸凹にはちゃんと名前が付いていて、凸の部分はメルロン。凹の部分はクレノーと言うそうだ。なお、おフランス語である。英語では別の名前だったはずだけど忘れた。
直前まで、ここでは守備隊の兵士達が天空竜に対して攻撃を行っていたのだろう。
あちこちにクロスボウや、矢の詰まった箱なんかが転がっている。
人の姿はどこにもない。
この場を放棄して逃げ出したのか、あるいは全員、天空竜かハイエナ竜にやられてしまったのか――
『グオオオオオッ!』
腹に響く大声に振り返ると、城壁の下、こちらを見上げて腹立たしそうに吠える天空竜の姿があった。
『悔しかったらついて来い! 町の外で相手してやるわ!』
私は『風の鎧!』。身体強化の魔法をかけ直すと、城壁の上から町の外にヒラリと飛び降りたのだった。
次回「メス豚と最後の悪あがき」




