その330 メス豚と不毛な話し合い
私こと女王クロコパトラの巫女ヒミコ(CV:早〇沙織)と、町の代官・・・ええと、何て名前だっけ? いいや、薄っすらハゲで。酷いあだ名だって? いいんだよ、こんなヤツはこれで。
私と薄っすらハゲとの話し合いは難航していた。
というよりも、こんなのは話し合いでも何でもない。コイツは最初から私の言葉を聞く気なんて微塵も無かったからだ。
「お前達の狙いはお見通しだ! いい加減に白状せんか!」
薄っすらハゲが私を怒鳴り付ける。
またかよ。
私はうんざりした。
話し合いが始まってからもう三十分。代官は二言目には、狙いを言え、白状しろと、同じ言葉を繰り返している。
マジで訳が分からん。一体、コイツは我々の何をそんなに疑っているのだろうか?
てか、お見通しなら白状しろなんて言う必要あるか? お前、たった一文の間に矛盾してるぞ。自分で言ってておかしいとは思わないのか?
私達の狙い、と言うか計画は、ご存じ、メラサニ山に巣を作ったDQN竜こと天空竜の排除である。
現在はそのための準備期間中。ないしは作戦を練っている最中だ。
しかし天空竜は我々の都合など考えてはくれない。
ヤツらは獲物を探して、日に日に行動範囲を広げている。
このままでいけば、麓の村に――ショタ坊村の上空に――姿を現すのも時間の問題かと思われた。
私的には人間の村なんてどうなろうが構わない・・・と言いたい所だが、流石に虐殺される未来が分かっているのに、放っておくのは気分が悪い。
それにクロカンの隊員達も村人達に情が移っているみたいだからな。
私の精神衛生的にも、隊の士気を保つためにも、この戦いが終わるまで村人達には安全な後方に避難しておいて貰った方がいい。そう判断したのである。
後、これはクロカンの大男、カルネに言いかけた話でもあるのだが、私はこの話し合いに人間側からも戦力を出して貰えないか、その点も代官に相談してみるつもりでもいた。
具体的には町を守っている守備隊。その何割かを天空竜との戦いに貸し出して貰えないだろうか? そう打診してみるつもりだったのだ。
当然、人数は多ければ多い程いい。
数の力は、イコール、戦力だ。
勿論、装備や練度も重要な要素だが、それはあくまでも「あった方がお得」といった感じに過ぎない。
ぶっちゃけ、中世レベルの切った張ったの世界では、人数と根性さえあれば大抵の所は何とかなってしまうのだ。
社会科の授業で習った事があるだろう。百姓一揆に打ちこわし――つまりは戦いに無縁の一般市民の武装蜂起でさえ、武士の――つまりは戦闘のプロの支配を脅かしていたのだ。
それ程、数の持つ力というのはバカに出来ないのである。
正直に言おう。天空竜と戦うには、現在の我々の戦力だけでは心許ない。
夏の大モルト軍との戦いに始まり、つい先日の傭兵軍団との戦い。この二つの大きな戦いで、我らクロコパトラ歩兵中隊の戦力は五十人程までに落ち込んでいる。
最近新たに黒い猟犬隊という戦力も増えたが、彼らはどちらかと言えば補助的な使い方で生きる戦力だ。
私の好きなカードゲーム、『遊☆〇☆王OCG』で例えれば、”打点の低い効果モンスター”といった所か。
勿論、そういったカードを中心に組んだ強いデッキもあるにはあるのが、やはり基本となり王道となるのはモンスターの攻撃で相手ライフを削り切るデッキ。いわゆるビートダウンデッキになるだろう。
力こそ正義! 力こそパワー! なのだ。
といった訳で、我々は猫の手も借りたい状況なのである。
ショタ坊村の村人の安全の確保。そして戦力の増強。
私は代官との面談でその二点について話し合うつもりでいた。
まあ、御覧の通り、現実には話し合いどころか、要求すら出す事が出来ずにいるのだが・・・
【ですから、実際に見て貰えば分かって貰えると思います。先ずは山に偵察隊を派遣して――】
「分かると思う、とは何事だ! 隣国の政情が不安定な中、思う、などという不確かな情報で、町の守備隊を割く事は出来ん!」
【――思うと言ったのは私の失言でした。しかし、先程から私が言っているのはそういう所ではなくて】
「何だその態度は! お前は私が言葉尻を捕らえて揚げ足取りをしているとでも言いたいのか?!」
いや、いいたいのか、もクソも、そのまんまやんけ。
お前、ずっと私の揚げ足取りばっかりしてるやんけ。
全く中身の無い不毛なだけの話し合いに、私の我慢は限界に達しようとしていた。
もう何度、席を立ってこの場を立ち去りたいと思ったか分からない。
我ながら良く耐えているもんだ。
もし、骨組みになってマントを支えてくれているピンククラゲ水母から、「やっちゃっていいよ」とか言われたら、即座に薄っすらハゲの眉間のど真ん中に得意の魔法をぶち込んでいたかもしれない。
『魅力的な発想』
『・・・いや、本当にはやらないから』
代官を殺してお尋ね者になるなんてゴメンだし。
折角、あれだけ苦労して大モルト軍に亜人村を認めさせたばかりなのに、そんな事をしたら全部台無しになっちゃうから。
てか、水母もこの話し合いにうんざりしてたのね。
あんた、コンピューターだから感情が無い設定なのにそれでいい訳?
あるいは、今日この瞬間に心が生まれたとか? 『何だこのざわつく物は。今までの私のデータには無い情報――ハッ! まさかこれが”怒り”という感情?!』みたいな?
スゲエな、薄っすらハゲ。感情の無いコンピューターに心を芽生えさせるとか。
全くシビれないし、憧れもしないけどな。
「何をブツブツ言っておる! このような場で独り言をつぶやくとは無礼であろうが!」
無礼とか、お前にだけは言われとうないわ。
ホント、マジでコイツどうしてくれよう。
最初の頃は地味にフォローを入れてくれてたメス豚夫人――この町の商業ギルドのギルドマスターだっけ?――も、一歩も前に進まない話に流石に匙を投げてしまったようだ。
今ではギラギラと飾り立てられた巨大な置物と化している。
何とも羨ましい。
私も出来ればそっち側に行きたい。
「そんなに村の人間が危険だと言うなら、お前達亜人はどうなのだ?! よもや、お前達もこのランツィの町に避難したいと言うのではあるまいな?!」
【そのような事はありません。村の者達は既に水母――コホン。安全な場所に避難させていますし、我々には戦う力もあります。それにクロコパトラ女王は強力な魔法も持っていますから】
「ならばグジ村の者達も、その安全な避難場所とやらに匿ってやれば良いだけではないか! 何かそれが出来ない理由でもあるのか?!」
あるに決まってるだろうが、この薄っすらハゲ。話にもならんわ。
水母の施設は人間達に対する我々の切り札。絶対にその存在を知られる訳にはいかない。
村人を中に入れるなどもっての外。いくら彼らの命がかかっていようが、これだけは譲れない。
我々だって自分達の身の安全、自分達の命が大事なのだ。
(・・・もういいか。見捨てても)
私は心が冷めていくのを感じた。
仕方がないよね。だってコイツ、全然話が通じないんだもん。
世の中、同じ言葉を喋っているはずなのに会話が成立しない人間もいる。ネットの掲示板やSNS、ゲームのチャットとかではいくらだっている。
そういったヤツらは人の言葉は聞かないし、自分の考えも決して変えようとはしない。そしてもし、明らかに自分が間違っている場合でも、絶対に認めないし謝りもしない。
なまじ同じ日本語を使っている分だけタチが悪い。そんな相手とは会話をするだけ時間の無駄なのである。
(こんな分からず屋を相手に私は良く耐えたよ、ウン。頑張ったよ私)
私はマントの中で遠い目をした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
応接室での不毛な話し合いは続いていた。
とはいえ、亜人達の代表、女王クロコパトラの巫女ヒミコ(※その正体はクロ子)は、少し前から明らかに会話の熱量が引いていた。
代官のボンティスはそれを敏感に感じ取り、ここぞとばかりに攻勢をかけている。
(このままいくと、じきに話は終わりそうね)
結果は勿論、物別れに終わるだろう。
ド派手な恰好をしたふくよかな中年女性。ランツィの町の商業ギルドの元締め、マダム・ボーナは内心でため息をついた。
(この亜人の少女は人間の役人に失望し、彼女から報告を聞いた女王クロコパトラも人間の狭量さに呆れ、マイナスの感情を抱く。ここから女王の信頼を取り戻すのは大変そうね)
亜人の村との取引にどれだけの商機が眠っているのかは分からない。
しかし、王都の金融を取り仕切る巨人、オスティーニ商会の商会主、ロバロ・オスティーニを後ろ盾に持つ商人ザボが彼らとの取引を重視している以上、マダムとしては決して軽く見る事は出来なかった。
そうでなければ、わざわざ代官のボンティスに貸しを作ってまで、この場に参加はしていない。
最も、その結果は彼女にとっては望ましい形にはならなかったのだが。
(まさかボンティスがここまで亜人に対して悪感情を抱いていたなんて・・・。流石に予想外だったわ)
マダムは女王クロコパトラが、大モルト軍との戦争に参加する際、二つの条件を出していた事を知っている。
一つは亜人をこの国の国民として認める事、そしてもう一つが――こちらが問題になるのだが――メラサニ山の麓にあるグジ村の支配権を要求していた。
これは極一部とはいえ、このトラベローニの地を治めるトラベローニ侯サンキーニ家の領地を、女王が手に入れようとしていた事を意味している。
結果として女王はグジ村の支配権は放棄したものの、トラベローニ侯の家臣は女王クロコパトラに対して、領地を狙う略奪者として、激しい警戒心を抱くようになったのであった。
ボンティスは先祖代々、トラベローニ侯の禄を食む家臣である。
しかしつい先日、女王と取引をしている商人ザボから法王国の銘酒を送られて喜んでいた、という話も聞いている。
マダムの見立てでは、ボンティスは忠誠心よりも俗物的なモノ――つまりは金品に重きを置く俗物である。
ならばボンティス本人は、それ程女王に対して思う所はない。ないしは、儲けになるようなら気にならない。そんな風に思っているのではないか? そう考えていたのである。
そして彼女のこの判断は間違っていた。
そう。マダムはボンティスという男のプライドの高さを低く見積もっていたのである。
(ここで亜人の代表者と顔つなぎが出来れば、ザボの商売の足を引っ張る事も出来ると思ったのだけど・・・失敗だったわね。やはり商売にせっかちは厳禁ね)
女王の巫女ヒミコのボンティスに対する印象は最悪だろう。そして当然、同じ場にいたマダムに対しても良い感情は抱いていないと思われる。
マダムは、これも自分の焦りが招いたミスと考え、この失敗を戒めとして今後の取引に生かす事にした。
こうしてヒミコとマダム、二人の女性がどこで話し合いの終わりを切り出そうかと考えていたその時だった。
突然、ノックも無しに、勢い良く部屋のドアが開かれた。
その音に全員が驚いて振り返る。
「だ、代官様! 大変です!」
転がるように部屋に駆け込んで来たのは、町の守備隊の青年だった。
その顔は血の毛を失って青ざめ、体はガクガクと震えている。
「ま、町が! 町が怪物に襲われています! バカでかい怪物が空を飛んで――城壁を飛び越えて町に入って来ました! ヤツは人間を食っています! ひ、人食いの化け物です!」
「な、なんだと?!」
その時、ドドーンという落雷に似た轟音が辺りに鳴り響いた。
次回「メス豚と襲われた町」




