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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十章 竜殺し編
328/518

その325 メス豚、言い訳を聞く

 ここはショタ坊村。

 私は村の村長のガチムチに詰め寄っていた。


『おうおう、ガチムチてめえ、私の忠告を無視しておきながら、よくもンな所からこっちを見下ろしていられんな。随分といい御身分じゃねえか。アアン?』


 村長ことガチムチ――ん? 逆か? ガチムチは、私の剣幕にキョトンとしている。

 おいコラ。そういうトコロやぞガチムチよ。

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の大男、カルネが背後から私に近付くとヒョイと抱え上げた。

 イヤン。

 おい、よせ、止めろ。てか、説教する方が抱っこされてたら様にならないだろうが。


「落ち着け、クロ子。何でお前は最初からケンカ腰なんだ? 大体、お前の言葉は人間には伝わらないって知ってるだろうが」


 ジタバタと暴れる私。ガチムチはそんな私を見て小さく呟いた。


「クロ子・・・。その魔獣はクロ子と言うのか? 確かルベリオが、ウチで飼ってた黒い子豚の事をそう呼んでいたはずだが」


 おっ、今の言葉。ひょっとして私の正体に気が付いたか?

 私はハッと我に返った。

 あれ? これってパターン入ったんじゃね?

 異世界転生モノのお約束に、序盤に登場したサブキャラに、「お、お前はまさか?! あの有名人が、俺がザコだと思っていたアイツだったなんて!」と驚かれるパターンがある。

 つまりは今の私の状況という訳だ。


『ふむ。良かろう。私とて、日本(ジャパン)に生まれ、ジャパニーズサブカルチャーに浸かって育った女。このお約束、ガッツリ受け止めてやろうじゃないか。

 そして私のセリフは当然決まっている。そう、アレだ。「あれっ? ひょっとして、私、またやっちゃいました?」だ。

 まさか私がこのセリフを言う日が来ようとは。

 これぞ転生者の醍醐味。よし、来るが良いガチムチ。カムヒアー!』

「いや、クロ子。お前一体、何を言ってるんだ?」


 興奮してブヒーブヒーと鼻息を荒くする私を、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の副官、ウンタが胡散臭い目で見つめた。

 ええい、お黙り。今はそれどころじゃないのだよ。

 ガチムチはそんな私をジッと見つめた後――ウンタに向き直った。


「それより今日は、そんな人数で押しかけて来て何の用だ?」


 おい! それよりって何だよ! 私の存在は?! お約束は?!

 どうやらガチムチは、目の前の魔獣のクロ子と、記憶の中の家畜のクロ子を結びつけるのを否定した模様。

 まあ豚って、大体、生後半年くらいで大人に育つらしいからな。

 あの子豚が今も子豚な訳はない、そう考えたとしても仕方がないのかもしれない。

 なんだよガチムチ。お前にはガッカリだよ。


「見ての通り、こちらはお前達の忠告に従って竜の襲撃に備えている所だが」

「俺達の忠告に従って、だと? 話が違うな。俺達は町に避難しておくように言っておいたはずだ」


 今のやり取りに、遠巻きにこちらの様子を窺っていた村人達の間にざわめきが広がった。

 何だ、コイツら? ひょっとして誰もガチムチから説明されていなかったのか?

 ガチムチは無表情。何を考えているのか読み取ることは出来なかった。


「俺の家に来てくれ。この話の続きはそこでしよう」

「――分かった。いいだろう」


 ガチムチが背を向けて歩き始めると、ウンタはその後に続いた。

 私はカルネの拘束が緩んだのを見て、『とうっ!』。スタッと地面に降り立った。


「あ、コラ、クロ子!」

『あーはいはい。そんなに怒鳴らなくても分かってるっての。大人しくしてりゃいいんでしょ』


 そもそも、私もあんな風にガチムチに絡むつもりなんてなかったのだ。

 ただ、あの顔を見た途端、どうしても家畜だった頃のあれやこれやの記憶が蘇り、つい頭にカッと血が上ってしまったのである。

 その結果、衝動的にガチムチに詰め寄ってしまったのだ。

 けど、一度感情を吐き出したおかげで、大丈夫。今はすっかり落ち着いてるから。


『だからホラ、私らも行くわよ』

「本当に大丈夫なのかよ。さっきは随分と興奮してたじゃ――いや、分かったって。分かったからそんなに睨むなよ」


 別に睨んでなんかないわい。

 どうやら私は、まだ自分で思っているよりも感情の昂りが残っていたようだ。

 まあ、それも歩いていればそのうち落ち着くでしょ。

 私はカルネ達を引き連れてガチムチ邸に向かったのだった。




 懐かしのガチムチ邸!

 実は私がこの家に入るのは二度目だったりする。

 一度目は二ヶ月程前。王都から帰って来て割とすぐの頃だ。

 あの時はクロコパトラ女王の姿でこの村を訪問したのである。

 そこで私はガチムチに、色々と事情を説明した。

 先ずは大モルト軍の指揮官、ジェルマン・”新家”アレサンドロと対談して、亜人村が正式に国に認められた事。

 王家との約束で(※正確にはショタ坊との約束で)、この村の所有権は私に譲渡されたが、その権利は放棄した事。

 その代わりと言ってはなんだが、商品の売買をして貰いたい、という事。

 鍛冶屋に作ってもらいたい物があるので、腕の良い鍛冶屋の手配を頼みたい、といった内容を説明した。

 ガチムチは終始黙って頷いていただけで、特に聞き返して来ることも無かった。

 あまりの手ごたえの無さに、私は「コイツ実は目を開けたまま寝てるんじゃないか?」と疑った程である。


 ガチムチは私達を連れて家に入ると、息子とお手伝い夫婦を外に追い出した。

 懐かしいな、コイツも。・・・名前は何だっけ?

 思い返せば、ショタ坊はいつも、この生意気そうなガキと、小ズルそうな女の子ちゃんの二人と、一緒にいた印象がある。

 ショタ坊よ。友達は選んで付き合った方がいいぞ。小さな村だし、他に同年代の子供はいなかったのかもしれないが。


「それで? なぜ、天空竜を迎え撃つという話になっているんだ? この村の戦力では犠牲者を出すだけだから、春になって山に動物が増えるか、天空竜のヤツらが別の場所に巣を移すまで町に逃げていろと言っておいたはずだが」


 おっと、昔の事を懐かしんでいる場合じゃない。

 今は話し合いに集中しないと。


「まさか、俺達の話を信じていなかったか? それとも、亜人には無理かもしれないが、自分達なら天空竜も倒せる。そう考えたのか?」

「おい、マジか?! テメエ、そんな風に俺達の事を見下していたのかよ!」


 ウンタの言葉に、カルネの顔に怒りが浮かんだ。

 隊員達も一様に不満そうな表情を浮かべる。

 ガチムチは少し顔を歪めた後、言葉を探しながら説明を始めた。

 てか、この空気の中、何気に平然としていられるガチムチはスゴイな。

 転生前の私なら、ストレスで胃が痛くなっていた所だ。

 ガチムチは心臓に剛毛が生えているのか、それとも危機感に乏しい不感症なのか。

 あるいは今の私と同じ――ここから最悪な状況になっても、自分なら無事に切り抜けられるという自信が――それだけの腕前を持っているという自負があるという事なのか。


「お前達亜人の戦士達は、イサロ殿下の指揮下で大モルト軍と勇敢に戦ったと聞いている。それにメラサニ山に攻めて来た大モルト軍の部隊を返り討ちにしたのも知っている。そんなお前達を見下すなどしはしない」


 大モルト軍が攻めて来た時、ガチムチ達は近くの町に避難していたそうだ。

 多分、噂という形で、私らの情報も耳にしていたのだろう。

 隊員達は、人間に侮られている訳ではないと知り、険悪な表情をいくらか和らげた。


「だったらなぜ――」

「ランツィの――この辺りで唯一の町になる、ランツィという町の代官に、村人の受け入れを拒否されたのだ」


 なに? どういう事だ?




 ガチムチは人に説明するのがあまり得意ではないようだ。

 つっかえつっかえ、どうにか苦労して事情を説明した。


「で、だからどういう事なんだ?」


 あ。コッチにも話が苦手なヤツがいたわ。

 ウンタは若干面倒くさそうにカルネに説明した。


「ホセ村長の(クロ子『誰それ? あ、ガチムチの事か』)言っているランツィの町というのは、この辺りで唯一の大きな町だ。周りを高い城壁で囲まれ、周りの村々の連中は、敵が攻めて来た時はそこに逃げ込むように言われているらしい。

 村長は俺達からの忠告を受け、村人達を避難させるために、この町の代官に頼みに行ったそうだ」

「それって俺達がこの国の王都に向かった時、最初の日に泊った町だろ。町全体を砦みたいに城壁で囲んでいたから良く覚えているぜ」


 あ~、あったなあ、そんな事。

 私らはこの国のお金なんて持ってないので、最初は町の外で野宿をしようとしたのだ。

 大モルト軍のちょび髭が代官に口をきいてくれたおかげで、立派な屋敷に泊まる事が出来たけど・・・そういや、その時、代官にも挨拶したんだっけ。

 有難い、と思った事だけは覚えているけど、どんなヤツだったっけ? ちょっと記憶にないなあ。


「町の代官か。ええと、確かボンティスとか言う太ったオッサンだったよな?」

『えっ?! ウソでしょ?!』


 私はショックのあまり呆然と立ち尽くした。

 私ですら覚えていないのに、あのカルネが覚えているだと。

 そんなバカな。


『私はカルネ以下だというのか?!』

「おい、クロ子! そりゃ一体どういう意味だ?!」

「いや、クロ子の気持ちは分かるぞ。だってカルネだし」

「ああ。今のは俺もショックだった」

「そうだよな。カルネって自分の家の場所を忘れて、他人に聞くようなヤツだし」


 カルネあんた・・・自分の家を人に聞くってどうよ?

 カルネは慌てて手を振った。


「違う! いや、確かに俺は家を忘れてたけど、あれは新しい村に引っ越して直ぐの頃の話だ! しかも忘れてたのは一度だけ、ていうか、お前らだって酔った時に間違えて人の家に上がり込んだりしてただろうが」

「あ~まあ、酔った時は仕方ないじゃないか?」

「ああ。新しい家は馴染みが無いし、前の村の時と違って、似たような形の家も多いし」


 隊員達は気まずそうに目を反らした。

 てか、一体何の話よ、コレ。

 ウンタが「ゴホン」と咳払いをした。


「話を続けていいか? それでホセ村長は町の代官の所に頼みに行った。この村の人間を町に受け入れて貰うためだ。しかし、代官は会ってもくれなかった。当然、受け入れの話も無し。拒否されたそうだ。そこでホセ村長は仕方なく、村人に指示を出し、天空竜の襲撃に備えようとしていた、という訳だ」


 カルネは「なる程」と頷いた。

 途中で妙な脱線はしたものの、ザックリ言えばそういう事だ。

 実際はこの辺は東サンキーニ家の領地で、東サンキーニ家は王家の分家で、本家である王家と仲が悪い、とか、ガチムチは元々王家の騎士団にいたから、東サンキーニ家の家臣である代官から疎まれている、とか、色々と事情も聞かされたのだが。

 まあ、カルネの理解力を考えたら、この辺りの事は省略しておいた方が無難だろう。

 しかし、国が滅んだ今となっても、王家に対する負の感情だけは忘れられないんだな。

 これはもう、人間という種が背負った(カルマ)なのかもしれない。

次回「メス豚と城塞都市」

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― 新着の感想 ―
[一言] この村が竜の被害を避ける為に逃げ出せたとしても、竜が空腹になれば得物を探しに遠くの村を襲い更には町にも手を出す様になるだろうから避難の問題と同時に退治の方法も考えないとだな
[一言] う〜ん…これは結局政治マターになっちゃうからクロコパトラとしてジェルマンに抗議して町を動かすのが一番スマートなんだけど問題はその時間があるかどうか…
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