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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第九章 傭兵軍団編
318/518

その315 ~ウンタとマサさん~

◇◇◇◇◇◇◇◇


「ブヒヒヒ――ッ!(四天王! 討ち取ったりー!)」

「「「アオーン! アオオーン!(※単語的には意味のない遠吠え)」」」


 メス豚クロ子の高らかな勝利宣言。次いで野犬達の遠吠えが月夜のメラサニ山にこだました。

 暗い森の中を移動していた亜人の青年――クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の副官ウンタは、ハッと顔を上げると背後を振り返った。


「クロ子が来たのか。・・・それにしても四天王ってのは何の事だ?」


 またクロ子が訳の分からない事を言い出したらしい。

 ウンタは「現場を離れるのは早まったかもしれない」などと考えた。

 クロ子は数々の強力な魔法を操り、また、やたらと高度で豊富な知識と、その知識を生かす事の出来る高い知性を併せ持つ、唯一無二の不思議な子豚である。

 彼女は名実共に亜人達の(※中でも特にクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の)リーダーだが、時々妙なスイッチが入る事がある。

 そういった時――彼女が突飛な行動を取ったり、誰にも理解し難い事を言い出した時――大抵はウンタなり、カルネなり、彼女と親しい人間がフォローに入るようにしている。

 クロ子とは入れ違いになってしまったが、誰かクロ子のフォローが出来る人間が残っていた方が良かったのではないだろうか?


「ワンワン!」


 前を走っていたブチ犬がこちらに振り返った。


『ウンタ! もうすぐそこだ。足を止めるな』

「分かった、マササン。クロ子が仲間と合流したようだ。何か妙な事を言っていたようだし、どうにもイヤな予感がする。早く済ませて仲間の所に戻ろう」


 黒い角の生えたブチ犬――黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊のリーダー、マサさんは、「ワン」と吠えると、勢い良く走り出した。

 ウンタは「俺達の魔法(ウインドスプリント)」。身体強化の魔法を使うと、マサさんの後を追うのだった。




 二人がたどり着いたのは、戦場から少し離れた小さな広場だった。

 角の生えた犬が駆け寄ると、嬉しそうに尻尾を振りながらウンタとマサさんに体を摺り寄せた。


『ウンタ、リーダー! ウンタ、リーダー!』

『人間には見付かっていないようだな。良くやったぞ』

「プルナ! ここにいるのか?! 助けに来たぞ!」


 ウンタが呼びかけると、ガサリ。茂みが音を立てて揺れた。

 茂みの中から立ち上がったのは一人の少女。年齢は十代半ば。ウンタと同様、鼻から下が犬か猫のように前に突き出している。

 ヤマネコ団の偵察員にさらわれ、人質になっていた亜人村の少女、プルナである。


 少年傭兵ベネに解放された彼女は、身を隠すために一先ず森の中に入っていた。そこを黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達によって発見されたのである。

 黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達は出発前に、ボスのクロ子から、「人質にされている亜人の少女の安全を最優先にするように」と命じられていた。

 彼らはプルナの安全を確保すると、急いで自分達のリーダー、マサさんに少女の事を知らせに走った。

 マサさんからこの話を聞いたウンタは、第二分隊の分隊長、強面のトトノに部隊の指揮を任せると、単独でプルナを迎えに行く事を決めた。


「お前一人で行くってのか? それで本当に大丈夫なのか? 全員で行った方がいいんじゃないか?」

「ダメだ。大勢で動けばプルナの居場所が敵にバレてしまう。かと言って、前線から戦力を引き抜く訳にもいかない。今は黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の活躍もあって辛うじて持ちこたえているが、そう長くはもちそうにないからな」


 そもそも、プルナの身柄さえ確保出来れば、これ以上この場で戦う必要はないのだ。

 地竜という敵の目を潰す、という目的は既にマサさん達黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊が達成している。

 ならばクロ子と合流してから、改めて敵に戦いを挑んでも、こちらとしては別に構わないのである。


「ふうん。良く分からないが、お前がそう言うならそうなんだろうぜ。分かった。ここは俺達に任せてお前はプルナを迎えに行って来い」


 トトノも、第一分隊のカルネ程ではないにしろ、大概に脳筋だ。

 彼はアッサリ頷くと、ウンタの背中を叩いて彼を送り出したのだった。


 こうしてウンタはマサさんの案内でプルナとの合流を急いだ。

 ちなみにプルナは黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の存在を知らなかったが、角が生えた喋る犬を見て、これは間違いなくクロ子が関係しているに違いない、と直ぐに確信した。

 彼女は黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬の指示に大人しく従い、戦場から安全に離れ、この広場で誰か迎えに来るのをジッと待っていたのである。


 プルナはフラリとその場にうずくまるとワッと泣き出した。


「ウ、ウンタ。私、私・・・!」

「分かってる。もう大丈夫だ、村に帰ろう。人間達はクロ子と俺達で倒しておく。何も心配する事はない」


 人間にさらわれたという怯え。もう二度と家族の下へ戻れないという不安。大勢の男達から性欲に濁った眼で品定めされるという恐怖。

 今までどうにか気丈に耐えていたものの、プルナもまだ十代の少女でしかない。

 彼女の精神はギリギリの所まで追い詰められていたのである。

 やっと助かった。

 そう安堵した途端、堪えていた感情が堰を切ったように流れ出て、少女の目から涙となって溢れてしまったのである。


 ウンタは嗚咽をする少女の背中を優しく撫でた。

 クロ子が来ているのが分かった以上、一刻も早く仲間の下に戻りたい。

 しかし、彼には辛い経験をした少女を急かすような無情なマネは出来なかった。

 ウンタはプルナの気が済むまで待とうと、ジッとその場で彼女の横に寄り添うのだった。


 どれぐらいの時間、そうしていただろうか。

 ウンタが「そろそろ落ち着いたかな?」と思ったその時だった。突然、マサさんが森の奥に向かって鋭く吠えた。


『ウンタ! 何かがこっちに向かって来る! 鉄の匂い! 人間だ!』


 ウンタはハッと立ち上がると剣を抜いた。


「プルナ! さっきみたいに茂みに隠れ――」

「いたな! このブチ犬め!」


 バキバキバキ!

 巨大な棍棒が横殴りに叩きつけられると、大量の木の葉や木の枝が辺りにぶちまけられた。

 豪快な藪漕ぎで現れたのは、地味な恰好をした傭兵の男。

 ヤマネコ団の調教師(テイマー)、シレラであった。




「み、見つけたぞ、このブチ犬め! 地竜の仇だ! お、俺の棍棒で叩き潰してやる!」


 シレラは血走った目でマサさんを睨み付けた。

 その言葉から察するに、どうやらシレラは、殺された地竜の恨みを晴らすため、黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の犬達を――中でも地竜に致命傷を与えたマサさんを――探していたようだ。

 今までずっと走り回っていたのか、額からは滝のように汗が流れ、ゼイゼイと荒い息を吐いている。

 シレラの執念、恐るべし。

 それだけ彼は心を込めて地竜の世話をしていたのだろう。


 ウンタの表情が険しくなった。

 彼は決して剣の腕が立つ方ではない。クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の中でも真ん中かやや下くらいの強さだろう。

 対して敵はこんな巨大な棍棒を軽々と振り回している。侮れない強敵であることは明らかである。

 こんな相手とどう戦う?

 ウンタは緊張に剣を握りしめた。その時だった――


「ひっ・・・」


 シレラの鬼気迫る迫力に、プルナが思わずウンタの腕にしがみ付いた。

 ウンタは不意に片腕を塞がれ、ギョッと驚きに目を見開いた。


「プ、プルナ! その手を放してくれ! 後ろに下がるんだ!」


 ウンタはプルナに叫ぶが、プルナは固まったまま返事すら出来ない。

 余程怯えているのか、少女とは思えない強い力で腕に縋り付き、簡単には振りほどけそうにない。

 マズい。

 ウンタの顔に焦りが浮かんだ。


「プルナ! 頼むからどいてくれ――」

「ぬおおおおおおおおっ!」

「ワンワン!」


 ゴウッ!


 シレラの巨大な棍棒が唸りを上げ、マサさんに向かって振り下ろされた。

 マサさんはサイドステップで避けると、「ワンワン!」と吠えて威嚇した。


『こっちだ! 人間! こっちに来い!』

「ちょ、ちょこまかと逃げやがって! コイツめ! 死ねっ! 死ねっ!」


 マサさんは大きく吠える事で相手の注意を自分に引きつけようとしているようだ。

 もう一匹の犬は、棍棒に怯えて腰を抜かしている。

 マサさんの孤独な戦いは続く。敵はマサさんを執拗に追い回す。

 というよりも、シレラは最初からマサさんしか目に入っていなかったのかもしれない。

 実際、彼の狙いは地竜の命を奪ったマサさんであって、ウンタとプルナには、たまたまここで出会っただけでしかなかったのだろう。

 ウンタは状況を見て取ると、慌てて剣を鞘に戻し、自由になった手でどうにかプルナを引き剥がした。


「こ、この野良犬風情が! いい加減に当たれ!」

「キャイン!」


 その時、シレラの横殴りの一撃がマサさんの後ろ脚の付け根にかすった。

 かすっただけとはいえ、巨大な棍棒の一振りだ。マサさんは軽々と吹き飛ばされ、地面の上を転がった。


「や、やったぞ! コイツめ、止めだ!」

「させるか!」


 シレラは憎き仇に止めを刺そうと、棍棒を大きく頭上に振りかぶった。

 ウンタは敵に駆け寄ると、がら空きになったボディーに、剣を突き出した。


 ズブリッ


 剣はあっけなくシレラの横腹に突き刺さった。

 シレラが驚きの表情でウンタに振り返る。

 驚くべきことに、どうやら今の今まで彼の目にはマサさんしか見えていなかった――ウンタ達がこの場にいる事にすら初めて気が付いた――ようである。


「な、何だお前。なんで亜人がこんな所に・・・」

「うおおおおおっ!」


 ウンタはシレラに体当たり。二人は絡まり合ったまま地面に倒れた。

 ウンタは相手を地面に押しつけと、血に濡れた剣を鎧の胸の隙間に突き立てた。


「ごっ! ひゅっ――。ゴブッ」


 肺に血が入ったらしく、シレラは吐血した。

 ウンタは暴れる相手に何度も剣を突き刺す。

 やがてシレラはピクリとも動かなくなった。

 こうして調教師(テイマー)のシレラは、戦闘の中、復讐心に我を忘れ、それが原因で死んだのであった。


「はあっ! はあっ! はあっ・・・」


 ウンタは強敵が動かないのを確認すると、ようやく長い息を吐いた。

 彼の体はシレラの返り血でベットリと赤く濡れていた。

次回「メス豚、虐殺する」

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― 新着の感想 ―
[良い点] プルナ無事で良かったです。マサさん大丈夫かな? シレラは傭兵団に無理やり連れてこられたどこかの地竜の調教師なのかな? と思ってましたが普通に傭兵団の一味だったんですね
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