表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第九章 傭兵軍団編
294/518

その291 メス豚と村の鍛冶屋

 ショタ坊村改め、グジ村に到着した私達は、本日の目的地、鍛冶屋の工房を目指した。

 村の外れに近付くと、カチーン、カチーンと鉄を打つ音が聞こえて来る。

 おお。やっちょる、やっちょる。

 煙突からモクモクと黒い煙を噴き上げる古びた家。

 鍛冶屋の工房である。

 我々が入り口に向かうと、丁度タイミング良く家の中から若者が出て来た。

 ヒョロリと背の高い、前世の私と同い年くらいの(つまりは高校生くらいの)男子だ。

 赤茶色の巻き毛にそばかす。寒い季節なのにシャツ一枚で額に汗を浮かべている。

 彼は鍛冶屋の弟子の・・・ええと、何だっけ。

 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の大男、カルネが彼に呼びかけた。


「よう、ミレット。頼んでいた物は出来てるか?」

「あっ! 亜人の皆さん」


 そうそう。ミレットな。

 ミレットは私達にペコリと頭を下げると背後を振り返った。


「オヤジ! 亜人の皆さんが来たよ! オヤジ!」


 鉄を打つ音がピタリと止まった。

 副官のウンタが「おい、作業の途中で呼び止めてよかったのか?」と尋ねた。


「それなら大丈夫です。今は釘の形を整えているだけなので」

「――むっ。来たか」


 ミレットを押しのけるようにして、小太りの中年男が現れた。

 短く刈られたイガグリ頭に太い眉。赤く酒焼けした丸い鼻。

 オヤジこと鍛冶屋の親父、名前は・・・ええと・・・ええと、とりあえずオヤジで。


「――頼まれた品なら出来ている。見てくれ」


 オヤジはぶっきらぼうに言い捨てると、私達の返事も聞かずに建物の中に戻って行った。

 見てくれって言われてもなあ・・・


『全員で入る訳にはいかないわよね?』


 そう。我々の人数は二十人程。流石に全員はこの建物の中に入り切れないだろう。

 詰め込めばワンチャンいける? いや、無理か。


「俺達は外で待っているよ」

「ならここは俺とカルネ。それと――」

「あっ! 俺も俺も! 俺も行きたい! 前回は一緒に来れなかったし、鍛冶屋の中も見てみたいから!」


 第八分隊の分隊長、ハッシが鼻息も荒く立候補した。

 彼は村の職人、マニスお婆ちゃんの孫である。職人の見習いとしては人間達の技術に興味があるのだろう。

 ウンタがミレットに振り返る。ミレットは「三人なら全然大丈夫ですよ」と答えた。


「そうか。じゃあ行こう」

「はい。・・・あの、その魔獣も来るんですか? あ、いえ、何でもありません」


 ミレットは当然のように建物に入ろうとした私を見てビクッとしたが、それ以上は何も言わなかった。




 工房の中は熱気がこもり、冬だというのに暖かった。

 焦げた炭の匂いとツンと金気臭い匂いが鼻につく。

 早速ハッシが興味深そうにしながら落ち着きなくあちこち見回している。


「――ほれ。コレだ」


 鍛冶屋のオヤジが太い鉄の棒を取り出すと、ウンタに渡した。


「ああ。・・・って、重いな」


 オヤジは何気に片手で掴んでいたが、結構な重量物だったらしい。

 ウンタは取り落としそうになった所を慌てて抱きかかえた。

 長い鉄の塊にハッシが目を輝かせる。


「へえ。コイツが婆ちゃんが作った魔法銃(・・・)の完成形かあ」


 そう。私がアイデアを元に水母(すいぼ)が図面を引き、それをハッシのお婆ちゃんが製作した魔法銃(・・・)

 大まかな見た目と仕組みは、元の世界にあったライフル銃とさほど変わらない。

 最大の違いは本体下部に引き金(トリガー)が無い所だ。引き金(トリガー)が無い以上、用心金(トリガーガード)も付いていない。当たり前だな。

 それと魔法銃は、火薬の爆発で弾丸を飛ばす装薬銃ではなく、魔法の力で空気を圧縮、解放された空気圧で弾丸を飛ばす空気銃である。

 残念ながら、亜人の村には冶金技術を持つ者が――つまりは鍛冶屋がいなかったため、銃身も何もかも全て木で作らなければならなかった。

 そのため試作品は強度の面で大きな問題を抱えていた。

 設計者の水母(すいぼ)からダメ出しを食らった程である。

 人間と直接取引が行えるようになって、私が真っ先に考えたのは、お婆ちゃんの作ってくれた試作魔法銃を元にして、鉄製の――実用に耐えうる魔法銃を作る事だったのである。


 新しいおもちゃを与えられ、嬉しそうにガチャガチャといじる男達。

 男ってホント、こういうのが大好きだよな。


『ハイハイ。いつまでも遊んでないの。ウンタ――いや、カルネ。どこかで試し撃ちさせて貰えないか頼んで頂戴』

「ああ。オヤジ、早速、撃ってみたいんだが、構わないか?」


 オヤジは黙ってうなずいた。

 妙に自信満々な彼に比べ、弟子のミレットは心配そうにしている。


「持ち込まれた木製の品と同じ物を作ったつもりですが、我々人間では扱えない仕組みとの事で、不具合のチェック等は出来ませんでした。一応、木製品と同じ動きが出来るようにはなっているはずですが、思わぬ危険があるかもしれません。違和感を感じたら直ぐに試し撃ちを中止して下さい」

『カルネなら殺しても死なないから大丈夫』

「コイツなら問題無い」

「カルネの体は頑丈だから」

「おい、お前らいい加減にしろよ」


 私達の素っ気ない返事にカルネがムッと顔をしかめた。

 魔法銃を持って外に出ると、待ちかねたように隊員達が集まって来た。


「へえ、これがマニス婆ちゃんが作った魔法銃を鉄で置き換えた物か」

「カッコいいじゃん。俺達にも使えるのか?」

「それを今から試すんだよ。大きな音もするし、少し村から離れるか?」

「ああ、そうだな」


 私達はぞろぞろと村の外まで移動した。


「もうこの辺でいいんじゃないか?」

「そうだな――って、あっ!」


 カルネは銃を構えようとして大声を出した。


「しまった! 弾の事を忘れてた!」


 弟子のミレットが苦笑しながら小さな布袋を取り出した。


「はい、これです。鉛で作ったので良かったんですよね?」

「そうそう、コレだよコレ。よし、狙いはあの木でいいか。みんな下がってろ」


 カルネは袋から弾丸を一粒取り出すと銃口に詰めた。

 そうして銃身から伸びたハンドル――ボルトハンドルを起動位置まで引っ張った。


「じゃあ撃つぞ。圧縮(コッキング)


 カシャン。

 魔法の発動と同時に、シリンダー内の空気が圧縮され、ボルトハンドルが下がり、ロックされた。

 そして約一秒後。


 パンッ!


 乾いた破裂音と共に銃口から鉛の弾丸が発射された。

 弾丸はカルネの狙い通り、十メートル程先の木に命中した。


「よっしゃ! 当たったぜ!」

「いや、それは当たるだろ。目と鼻の先じゃないか」


 大喜びでガッツポーズをとるカルネ。

 すかさず仲間からツッコミが入る。

 鍛冶屋のオヤジと弟子のミレットは目を丸くして驚いた。


「話には聞いていましたが・・・これが魔法ですか」

「――たまげた」


 正確に言うと、魔法はシリンダー内に圧力を生み出すのに使われているだけだがな。

 私の背中でピンク色の塊がフルフルと揺れた。

 おっと、分かったって。

 私はカルネの足を鼻でブヒっとつついた。


『上手く動作したみたいね。水母(すいぼ)が調べたがっているから、銃を下ろして頂戴』

「ああ、ほらよ」


 カルネが銃を地面に置くと、待ちかねたようにピンククラゲから細い触手が伸びた。

 触手は銃を――特にボルトアクションの部分を念入りにチェックし始めた。


『どう? 水母(すいぼ)

『ちょい意外。工作精度(パッと見)許容誤差内(よさげ)


 オヤジの腕前は中々のものだったようだ。

 水母(すいぼ)はボルトハンドルを掴むとガシャガシャと動かした。

 動作を確かめているのだろう。水母(すいぼ)の触手は華奢に見えるが、実は意外と力があるのだ。


「えっ! じゅ、銃がひとりでに動き始めた?!」

「――これは一体どういう事だ?!」


 鍛冶屋の師弟がギョッと目を剥いた。

 どうやら彼らの位置からは水母(すいぼ)の触手が見えなかったようだ。突然荒ぶりはじめた魔法銃に、怪奇現象に出くわしたような顔になっている。


追加実験を求む(もっとデータが欲しい)使用感想があれば(サンプルが)なおの事良し(もっといる)

『そう。じゃあ、みんなも使ってみてくれない?』

「待ってました! 次は俺な!」


 職人見習いのハッシが喜び勇んで銃を手に取った。


「俺はカルネよりも離れた場所から狙うぜ」

「なっ! さっきは試し撃ちだから遠慮しただけだ。俺だってこのくらいの距離、当てられるっての。ちょっと、貸してみろよ」

「待て待て、カルネはさっき使っただろ。次は俺の番だって」

「そうだ。ズルいぞ」


 隊員達は列を作って自分の順番を待った。


 パンッ!


「あれっ? 俺の弾はどこに飛んで行った?」

「ハハハ、ハズレだ。次は俺の番な」

「待ってくれ、もう一度。もう一度だけやらせてくれ。今度は命中するように近くで撃つから」

「ダメダメ、順番だ。撃ちたかったら列の後ろに回ってくれ」

「おい、お前ら・・・遊びじゃないんだぞ」


 すっかりテンションがアゲアゲの隊員達に、副官のウンタが呆れ顔になった。

 隊員達は、その後も飽きることなく魔法銃の試射を続けた。

 途中で弾丸が無くならなかったら、魔力が切れるまで射撃を続けていたんじゃないだろうか?

 全くコイツらにも困ったもんだ。

 それはそうとして、試作品の動作に大きな問題は見つからなかった。

 これでようやく、私の考える”魔法部隊”の編成に目途が立ったようだ。

次回「メス豚と試作魔法銃」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ちょうど試し打ちにぴったりな連中がのこのこ来てるんだよなぁ…w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ