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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第八章 陰謀の湖畔編
277/518

その274 メス豚と領主の夫人達

 新家アレサンドロ夫人、アンナベラが主催するお茶会。

 この国の領主の夫人達を招いてのお茶会は、意外な程大人しい空気の中で進められた。

 何がそんなに意外なのかって?

 同じサンキーニ王国に所属する領主とはいえ、仲良く付き合っている家もあれば、ライバル同士、なんなら敵同士の家だってあるだろう。

 なにせ、それぞれが領民の利害を代表しているのだ。

 世の中お金が絡めばきれいごとだけでは済まないのである。

 そんな彼女達だが、流石にアレサンドロ夫人の前で、醜く言い争うようなマネは出来なかったようだ。

 そもそも彼女達、領主の家族の目下最大の関心事は、この国を占領したジェルマン・”新家”アレサンドロが、自分達をどうするつもりなのか。その一点のみと言ってもいいだろう。

 領民はどうなる? 領地はどうなる? そもそも、自分達の命を助ける気はあるのか?

 領主達は戦々恐々。情報がなければ、身動きが取れない。

 そんな状況に追い詰められていたのである。

 まあ、この辺の事情は私ら亜人も全く一緒なんだが。


 お茶会の間中、領主夫人達は、時には間接的に、時には直接的に、アンナベラから情報を――彼女の夫、ジェルマン・新家アレサンドロの真意を――探り出そうとしていた。

 その度にアンナベラは辛抱強く、何も心配する事は無い、と教え諭していた。


「我が殿は、いたずらに戦火を広げ、むこの民を苦しめるを良しと致しません」

「この国を最も良く知っているのは、長年に渡って領地を治め、土地の民に慕われている、あなた方領主達です。我が殿は皆さんと協力して国を治めて行きたいと考えております」

「大モルトの庇護に入ることで、今まで以上にこの国は繁栄していくでしょう。いずれは東のヒッテル王国に煩わされるような事も無くなると思いますよ」


 アンナベラは夫の名で夫人達に本領安堵を約束した。

 勿論、耳障りのいい言葉を囁く事で一時的に反抗の芽を摘み、いずれ国内が安定した所で、あれやこれやと難癖を付けて領地を取り上げる。そんな事を企んでいる可能性もゼロじゃない。

 日本でも関ヶ原の合戦後、徳川家康は自分達東軍に味方してくれた旧豊臣家臣に恩賞を与え、厚く報いた。

 しかし、徳川家の力が盤石となると次第に締め付けを強め、取り潰したり、所領を削って転封したりしている。

 代表的なのは、加藤清正の死後、改易(取り潰し)を受けた熊本藩だろう。

 そしてこれは何も徳川家オリジナルの策じゃない。

 洋の東西を問わず、どこでだって行われた鉄板の統治方法なのである。


(とはいえ、分かっていても本領安堵の魅力には勝てないか。だからこそ、この方法が有効なんだろうけど)


 相手が約束を守るという保証はない。だが、守らないという根拠もない。

 だったら信じたくなるのが人情というものだ。

 大きな組織の上に立つ人間は、普通は冒険が出来ないものだ。

 それは昔の領主であろうが、現代の大会社の社長であろうが変わらない。

 人間は安定を求めるものなのである。

 アンナベラは卓越した話術で、領主夫人達に、自身に対する信頼感を植え付けていた。


 お前はどうなのかって?

 いや、亜人村の話は一度も出なかったから分からんな。

 ていうか、最初に自己紹介の時間くらいはあると思っていたけど、まさかそれすら無いとは。

 どうやら領主夫人達は既に全員顔見知りだったらしく、知っているのが当たり前の状態で会話が始まってしまったのだ。


 なんてこったい。


 考えてみれば、今日ここに集まっているのは、貴族家の中でもトップ中のトップ。領主のご夫人達なのである。

 そりゃあ互いに交流ぐらいあるか。

 なんなら領主の姉か妹が、他の領地の領主の家に嫁いでいる。つまりは、親戚関係にある家だって普通にあるだろう。

 そういや、アンナベラも、実家は”執権”アレサンドロ家だったんだっけ。


 といった訳で、私は一人、テーブルの隅で気配を消してボッチ飯を決め込んでいるのだった。

 あ、蝶々。秋にも蝶々がいるんだな。

 蛾じゃないよな?

 確か蝶々と蛾の見分け方って、羽をたたんで止まるのが蝶々で、羽を広げたまま止まるのが蛾だっけ。


否定(いいや)種類による(それは俗説)


 ああ、そうなんだ。羽をたたんで止まる蛾もいれば、広げたままで止まる蝶々もいるんだ。一つ賢くなったわ。

 けど水母(すいぼ)。隣に座ったご夫人が、あんたの声に驚いて振り返っているから。

 黙って静かにしていようね。


反省(ごめん)

「いや、だから静かにって・・・もういいや」


 などと私は軽く現実逃避。何杯目かのお茶を喉に流し込んだ。

 これ、義体だからいいけど、実際に飲んでたら何度もトイレに駆け込んでいただろうな。




 私にとっては退屈な長い時間。

 しかし、この国の現状を知るという意味では、意外と有用な時間はこうして過ぎて行った。

 やがて会話も途切れがちになり、「そろそろお開きかな?」と思った頃に、アンナベラが私に声をかけた。


「クロコパトラ女王も、楽しんでいらっしゃいますか?」

「「「「女王?!」」」」


 ご夫人達はギョッと目を丸くして私に振り返った。

 どうやらアンナベラと会話をしながらも、「最初から隅に座っているあの人は、一体誰なんだろう?」と不思議に思っていたようだ。

 逆にアンナベラは、ご夫人達が驚いた事に驚いている。


「皆さんご存じなかったのですか? あの方は亜人の代表、クロコパトラ女王ですよ」

「「「「亜人の代表?!」」」」


 ご夫人達から更に驚きの声が上がった。


「亜人がなぜこんな所に?」

「それよりどう見ても人間にしか見えないんだけど?」

「そもそも、亜人に女王がいるなんて聞いた事がないわ」


 ふむ。絶賛混乱中といった所か。

 皆さん、亜人に女王がいた事も、その女王が人間の女性だった事にも驚いていると。

 まあ、実際は女王ってのは私の自称だし、正体は人間どころか豚なんだけどな。ブヒヒ。


「さよう。妾は亜人の守護者。女王クロコパトラじゃ。皆の者よしなに」


 今の言い方はちょっと偉そうだったかも。

 いかんな。前から思っていたけど、マジモンの偉い人達相手だとどうにもやり辛い。最初に女王なんて名乗らなきゃ良かった。


「さ、さようでございますか」

「ヒソヒソ(言葉は通じるのね。見た目通りの人間なのかしら?)」

「ヒソヒソ(亜人ってメラサニ山の山奥の洞窟で、半裸で暮らしているって聞いた事があるわ)」

「ヒソヒソ(まあ本当? まだ若い娘なのに、そんな生活をしているなんて大変ね)」


 おばちゃん達の視線が痛い。むき出しの好奇の視線と可哀想な娘を見るような目が痛い。

 そしてそこ。小声で話してるけど、豚って聴覚が優れているからな。

 普通にまる聞こえだから。

 てか、人間の間では、亜人は洞窟に住んでいると思われているのか。なんだよそれ。原始人じゃあるまいし。

 亜人だってちゃんと家を建てて服を着て、文明的な暮らしをしているっつーの。

 まあ私は豚だし、年中マッパだけどな。


 その時、ご夫人達の一人がハッと何かに気付いた。


「クロコパトラ女王のお顔。もしかして、アレサンドロの奥様と同じお化粧をしているんじゃありません?」


 その瞬間、この場の空気がガラリと変わった。

 今までの気の毒な娘を見る目から一転。おばちゃん達の目が獲物を隙を狙うハンターのそれへと変わる。

 いや、マジで何なのよ、これ。

 超苦手な雰囲気なんだけど。


「ええ。私のナチュラルメイクは、クロコパトラ女王から教わったんですよ」

「「「「!!」」」」


 うぉい、アンナベラ! お前何、燃料を投下してくれてんだよ!

 なんか嬉しそうだな! そこはかとなく「言ってあげたわよ」感漂うその顔は何だよ?!


 あ、これ分かったかも。

 アンナベラはご夫人達が私の事を軽く見ているのを敏感に察して、援護射撃をしてくれたつもりなんだ。

 亜人は山野に生きる野人じゃない。大モルトの大貴族も認める文化も持っている。

 そう言外に示す事で、私の地位向上を手助けしてくれたんだ。

 いや、気持ちは分かったけど、正直あまり嬉しくないっていうか。

 意図せず味方撃ち(フレンドリーファイア)になっているっていうか。

 私にはグイグイくるおばちゃん達の相手は荷が重いんだけど。


「ヒソヒソ(水母(すいぼ)助けて)」

救済不可能(ムリゲー)


 デスヨネー。




 この後、私は必死に説明して、なんとかご夫人達に納得してもらった。

 いや、マジで疲れたよ。

 手元のなんちゃってBBクリームのストックが尽きていたのが幸いだった。

 あったら私の宿舎まで突撃して来かねない勢いだったからな。

 まさかメイク一つでこんな騒ぎになるなんて思わなかったわい。

 昨日、アンナベラの使いでサンドラが来た時、「そんなに気に入って貰えたのなら、残りも全部あげていいか」と、調子に乗って大盤振る舞いした自分を褒めてやりたい気分だ。

 あれっ? これって逆に、手元にBBクリームを残しておけば、領主夫人達に恩を売れたのかも?


 ・・・いや、ないな。

 全員にプレゼントするには用意した量が少な過ぎる。

 中途半端な形であちこちに媚を売るくらいなら、最高権力者の奥さん――アンナベラに全張りした方が効果が期待できるというものだ。


 ん? まさかアンナベラは、ここまで読み切った上で、私にBBクリームを要求して来たのか?

 私って、ひょっとして気付かない間に踏み絵を踏まされていた?


 むうっ、分からん。


 頭のいい人間を相手にするのはこれだから困る。

 どこまでが偶然で、どこまでが狙いなのか、私の頭じゃ推測すら出来やしない。

 今回の件でハッキリしたのは、「アンナベラは敵に回してはダメ」という事だ。

 もし、彼女と戦わなければならなくなった時は、開幕一番、有無を言わせぬ力で押し切るか、私が敵に回ったのを悟らせない形での騙し討ちを狙うしかないだろう。

 どっちにしろ厄介な上に、強制縛りプレーを要求されてしまう。

 これはアレだ。大会で暴れ回っている環境デッキと戦う時のような感じ。

 メタカードマシマシで対応しないと相手にならないので、デッキ選択の自由度がなくなってしまうあの感じ。

 つまりアンナベラはクソゲーという訳だな。うん。


中身のない発言(たわごと)


 こうして最後に思わぬ一騒動があったものの、アンナベラ主催のお茶会は無事に終了したのだった。

 今日はもう疲れたよ。早く家に帰ってゴロゴロしたい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだろう…友人から結婚式に招待されていったものの知り合いが新郎しかいなくてなんとも居づらい感じだった記憶が思い起こされますね…(苦笑)
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