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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
262/518

その259 メス豚、トンズラする

 娘の無事な姿に安堵の涙を流す金持ち親子。

 そんな彼らの姿に、私の胸もジンと締め付けられるのだった。


 ・・・と、いかんいかん。親子の再会に感動している場合じゃなかった。


【では、これにて失礼する】

月影(つきかげ)殿! 一体どこに行くつもりだ?!」


 踵を返した月影(つきかげ)こと私を、騎士団の副団長、リヴィエラが呼び止めた。

 どこに行くも何も、仲間の所に帰るに決まってるだろ。


 色々あって、結局私は無断外泊してしまった。

 これが前世なら、親が大騒ぎしている所だ。

 実際にそんな事があったのかって? ある訳ないだろ。私は真面目な女子高生だったっつーの。

 それに、グズグズしていると、寄せ場の元締めドン・バルトナと、金持ち一家の父親、オスティーニ商会の商会主ロバロ老人が戻って来てしまう。

 最悪、今晩も拘束されてしまうやもしれない。

 やることもやり終えたし、そうなる前にサッサと退散させて貰うとしよう。

 自由を愛する私は、いい加減、この月影(つきかげ)型テントから解放されたいのだ。


月影(つきかげ)殿?! なんで屋敷の外に?!」

月影(つきかげ)! お前、今までどこにおったのだ!」


 シット。

 どうやら遅かったようだ。

 屋敷の中からドン・バルトナとロバロ老人が、男達を連れて姿を現した。


「お義父様! 月影(つきかげ)さんがアンネッタを助け出してくれました!」

「アンネッタだと?! アンネッタは無事なのか?!」

「はい、父さん。今は気を失っていますが――」


 おっと。ロバロ老人はさらわれていた孫娘に気を取られている。

 今がチャンスだ。


風の鎧(ヴォーテックス)


 私は身体強化の魔法を発動すると、家の屋根の上にヒラリと駆け上った。

 周囲の野次馬達から「おお~っ」と、大きなどよめきが上がる。


「あっ! コラ! 月影(つきかげ)! 待たんか!」

【話はそこにいる者達から聞いてくれ。それでも足りなければ、後日、女王にでも聞くんだな】


 まあ、その女王も私なんだが。

 私は身を翻すと、さっととトンズラ。夜の王都の町に消えたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


月影(つきかげ)! くそっ! アイツめ、逃げ出しおった!」


 オスティーニ商会の商会主、ロバロ老人が忌々しそうに吐き捨てた。

 そんなロバロ老人を、強面の大男、寄せ場の元締めドン・バルトナが「まあまあ」となだめた。


「そう言わずに月影(つきかげ)の事情も察してやれよ。アイツは女王の影――本当ならこんな場所に出て来るようなヤツじゃないんだからよ」

「むっ・・・確かにそうか」


 月影(つきかげ)はクロコパトラ女王の影。

 影である存在がこんな目立つ場所に出て来る事こと自体、不本意なのは間違いない。

 ドン・バルトナは言葉を続けた。


「今回はそれを曲げてまで、あんたの孫娘を助けてくれたんだ。逃げ出したからって文句を言うのは、恩知らずってもんじゃねえか?」

「――みなまで言わんでも分かっとるわい」


 ロバロ老人はそう言うと、腹立ちまぎれに杖をガツンと打ち鳴らした。

 ちなみに今更言うまでもない事だが、月影(つきかげ)はクロ子のアバターだ。女王の影というのは、あくまでもクロ子が作ったただの設定である。

 ロバロ老人は怒りを収めると、部下から報告を聞いている女騎士をジロリと睨み付けた。


「お前は――王都騎士団の副団長だったか?」

「ああ。副団長のリヴィエラ・ビアンコだ」


 女騎士――王都騎士団副団長、リヴィエラは慌てて老人に向き直った。

 なぜ、彼女がここにいるのか?

 リヴィエラの腹心の部下、ラルクは、拘束していたドン・バルトナの手下を送り届けるため、ロバロ老人の馬車に遅れてオスティーニ商会の屋敷に向かっていた。

 ラルクはその途中でこの騒ぎを知り、急いで上司であるリヴィエラを呼びに走ったのである。


「屋敷の方はどうなっておる?」

「この屋敷を襲った賊は全員捕らえたようだ。だが、何分にも広い屋敷なので、捜索も万全とは言えない。まだ敷地内のどこかに賊が隠れている可能性はあるだろう」

「ふん。この暗さじゃ。やむを得んだろうな」


 ロバロ老人は、「ふん」と鼻を鳴らすと、今も屋敷から運び出されている賊の死体に目を向けた。

 彼らの着ている衣服は粗末な物だ。

 しかし、服から覗く体は健康的だ。

 おそらく、最近になって王都に流れ着いた避難民ではないだろうか?


「またネクロラの信徒か」

「いや。捕らえた者達の話によると、金で雇われたらしい」

「なんだと?」


 ロバロ老人の推察通り、彼らは大モルト軍から逃げて来た避難民達だった。

 王都までたどり着いたものの、食い詰めて路上生活を送っていた所を、知らない男達に声を掛けられたんだそうだ。


「武器を渡すので、一緒にこの屋敷を襲うよう誘われたそうだ。護衛の始末は自分達がするので、後は勝手に暴れるだけで良いと。それに屋敷の中で手に入れた物は、好きなだけ持って帰っていいとも言われたらしい」


 荒らされた屋敷を思い出したのだろう。ロバロ老人の眉が怒りでつり上がった。

 彼が怒りを爆発させる前に、ドン・バルトナが慌てて横から口を挟んだ。


「そ、それで、アイツらを雇った男達ってのは捕まえられたんですかい?」


 リヴィエラは顔をしかめるとかぶりを振った。


「いや。十人程いたらしいが、誰一人捕らえる事は出来なかった。死体だけならそれらしい男が何人か見つかっているが。ちなみにどの死体も、腹部や頭部が弾けたように抉れていたそうだ」

「ああ。そいつは多分、月影(つきかげ)殿の魔法でやられたんでしょうな」


 ドン・バルトナの推測にリヴィエラは頷いた。 

 彼女は昨晩、月影(つきかげ)の魔法によって殺された死体を見ている。

 騎士団の装備を横流ししていた団長、バリアノ・バローネ男爵の部下だった団員達だが、どの死体も今回のように体の一部が大きく抉れていた。


「確か、エクス・・・なんとかという魔法だったか。実際に彼に魔法を使って貰ったが、凄い音と威力だったよ」


 そしてリヴィエラは月影(つきかげ)に――クロ子に魔法を見せて貰った事もある。

 空き部屋で壁に向けて放った魔法だったが、あまりの派手な音に、部屋の外にいた団員達が慌てて駆け込んで来た程であった。

 ロバロ老人が口を開いた。


「それで男達の正体は? 王都にたむろった食いつめ者共を集め、ワシの屋敷を襲わせた者共の素性は分かったのか?」


 リヴィエラは申し訳なさそうに首を振った。


「残念ながら今の所は何も。誰も男達の素性は聞いていなかったようだ。ただ、彼らが言うには男達の言葉には大モルトのなまり(・・・)があったそうだ」

「大モルト?! ――くっ。やはりそうか・・・」


 大モルトと聞いた途端、ロバロ老人の顔色が変わった。

 予想していた中でも最悪の予想。それが的中してしまったのである。


(やはり今回の裏には大モルトがいたのか。目的はこのワシに対する警告――いや、ワシが支援しているサバティーニ伯爵への見せしめといった所か。くそっ! サバティーニの無能めが! 大モルトに易々と尻尾を掴まれおって!)


 ロバロ老人はサバティーニ伯爵に心の中で悪態をついた。

 現在、王都には大量の避難民達がなだれ込んでいる。

 彼らに混じって大モルト軍の諜者が多数、潜り込んでいると考えられていた。


(それにしても、まさか大モルトがこのような軽挙に及ぶとは・・・。ワシは大モルト軍の指揮官、ジェルマンとやらを買い被っておったか)


 大モルト軍は王都アルタムーラには入らず、その南、パルモの地で陣を敷いている。

 それをロバロ老人は、大モルト軍は王都を無傷で手に入れたいため、と見ていた。

 そして実際に彼の読みは正しい。

 大モルト軍の指揮官、ジェルマン・”新家”アレサンドロの真の狙いは、”執権”アレサンドロの支配から逃れる事にある。

 執権に命じられるがまま大人しくサンキーニ王国に攻め込んだのも、この国を手に入れ、執権の力が及ばない地で独立するためであった。

 その目的のためには、兵士による略奪などもってのほか。王都は可能な限りその機能を損なわない形で――出来るだけ無傷で手に入れなければならなかった。


(王都の経済はワシのオスティーニ商会抜きでは回らない。これは己惚れなどではなく、純然たる事実じゃ。なのにまさかそのオスティーニ商会を排除するような暴挙に出るとは。それほど近視眼な者だったとはな)


 オスティーニ商会は、言ってしまえば、この国最大の銀行である。

 商会の危機に王都騎士団が慌てて駆け付けたのも当然だ。

 もしも潰れてしまえば、王都の経済に与えるダメージは計り知れないものになるだろう。

 大モルト軍も、当然それは知っていると思っていたのだが――


(・・・これは大モルト軍に対しての考えを改める必要があるようじゃの)


 実は今回の襲撃は、大モルト軍諜報部隊の認識の甘さから来た勇み足――実情は現場の実行部隊である”棘”部隊の暴走に近い。

 大モルト軍の指揮官であるジェルマンは、当然知らされていないし、”枝”や”根”といった情報収集を専門にする部隊の者達も、今回の作戦には否定的であった。

 しかし、その事実を知らないロバロ老人は、大モルト軍指揮官の意志であると勘違いをしてしまったのである。

 彼はサバティーニ伯爵を損切りする決意を固めた。


(サバティーニは切り捨てる。幸い、屋敷にも大きな被害が出ておる。このままジッとしていれば、大モルトはワシが怖気づいたと――自分達の警告が上手くいったと――思うじゃろう)


 サバティーニ伯爵の策。

 それは、大モルト軍に囚われの身となっている国王バルバトスとイサロ王子を密かに奪還。彼らを旗頭にして国内の貴族を纏め、反大モルト軍勢力を築く、というものである。

 これは国を憂う気持ちに突き動かされた伯爵の無償の行動――などではない。

 全ては反大モルト軍勢力の中で自らが主導的な立場に立つため。そして大モルト軍を退けた後は、サバティーニ伯爵家が王城で権勢を振るう事を狙った、一種の賭け(ギャンブル)である。


(そして、サバティーニの行動が既に大モルト軍に知られている以上、策が成功するとは到底思えん)

 

 ロバロ老人は、チラリとドン・バルトナの様子を窺った。


(じゃがワシには、こやつと立てた例の計画がまだ残っておる)


 そう。彼にはサバティーニ伯爵から協力を持ちかけられる前から、密かに進めていたとある計画があった。


(どんな犠牲を払ったとしても、ワシは必ずやこの国を大モルトから取り戻してみせる!)


 決意を新たにする過激な愛国者、ロバロ老人。

 彼はドン・バルトナが、そんな自分を不審な目で見ている事に気付いていなかった。

次回「メス豚、打ち明けられる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 月影型テントw まぁそのテントから出ても今度は女王型寝袋にはいらないといけないんですけどww [気になる点] 一応降伏するために来たはずの相手と戦ってばっかりな気がする(ぉ
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