表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
259/518

その256 メス豚vs毒蛾

◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここはオスティーニ商会の屋敷。

 謎の襲撃者に襲われた屋敷から、四人の男女が逃げ出した。

 品の良さそうな中年の女性と、身なりの良い青年。それと二人の男達だ。

 屋敷を取り囲んでいた野次馬達から大きな声が上がった。


「た、助けて下さい!」

「あれはロザンナか! ロザンナ! こっちだ!」


 気難しそうな初老の男――オスティーニ商会の商会主、ロバロ老人が手招きをした。

 寄せ場の手配師の元締め、ドン・バルトナが振り返った。


「屋敷の使用人か?」

「あの女はな。ロザンナは父親の代からこの屋敷に勤めている。一緒の男達は誰だか分からん」

「そうかい。おっと、そこまでだ! 後ろの男達はそれ以上旦那に近付くじゃねえ!」


 ドン・バルトナはロザンナと青年達の間に割って入ると、彼らを押しとどめた。


「ロザンナ、無事だったか。屋敷の中はどうなっておる」

「は、はい。お屋敷は――」


 ロザンナの説明によると、屋敷に押し入った男達は五十人程。

 相当な手練れが混じっていて、屋敷の護衛は真っ先に彼らにやられてしまったと言う。

 賊は現在も屋敷を荒らしながら、使用人達を見つけては虐殺して回っているとの事である。

 彼女は咄嗟に衣装ダンスの中に隠れ、難を逃れたのだそうだ。


「逃げ出そうにも、石弓(クロスボウ)を持って外を見張っている男がいて、今まで身動きが取れませんでした」


 ロザンナはその時の恐怖を思い出したのか、青ざめた顔でブルリと体を震わせた。

 ドン・バルトナが青年達に顎をしゃくった。


「それでお前達は?」

「私はレイモンドと申します。アロルドからこの王都にやって来た商人でございます」


 レイモンドは見るからに人の良さそうな、いかにも駆け出しの商人。といった感じの青年である。


「商売で王都まで来ていた所、アロルド辺境伯領が大モルト軍に攻め込まれたため、戻るに戻れなくなりました。知り合いの商人に相談した所、手持ちの商品を担保にすればこちらでいくらか融資していただけるのではないか、と言われ、ワラにもすがる思いでやって来た次第でございます」


 そう言って彼が出した商人の名前は、ロバロ老人も良く知る王都の商店。その商会主だった。


「私はホルヘと申します。私も同じような事情でして」

「お初にお目にかかります。私はサイラムからやって参りました、カルロスと申します」


 ホルヘは赤ら顔の三十代半ばの商人。カルロスは小太りのヒゲの商人だった。

 カルロスの言うサイラムとは大モルトの国境近くの町で、アマディ・ロスディオ法王国と隣接している。

 二人は今回の大モルト軍の侵攻で西に戻れなくなり、仕方なく避難民に混じって王都にやって来たのだそうだ。


「ロバロ様かブラッド様のお帰りを待たせて頂いていた所、急にお屋敷が騒がしくなりました。慌てて部屋を出て確認しますと、丁度、ここの護衛が賊に切られる場面を目撃いたしまして・・・」

「私は部屋にいましたが、慌てて逃げ込んで来たホルヘから事情を聞きました。二人で安全な場所を探していた所でレイモンドとバッタリ出会ったのです」

「我々三人はあてもなく逃げ回っていましたが、もう逃げる場所がない、となった所で、突然、屋敷に黒マントの男が現れ、賊共をバッタバッタと薙ぎ倒し始めたのです」


 ドン・バルトナは思わず、「ほう。流石は月影(つきかげ)殿だ」と感嘆の声をあげた。

 レイモンドはその言葉を聞き逃さなかった。


月影(つきかげ)殿? あの黒マントのお方は月影(つきかげ)殿とおっしゃるのですね」

「それで? 賊はどうなった? 屋敷の者達は無事なのか?」


 ロバロ老人の問いかけに、三人はかぶりを振った。


「申し訳ございません。我々は自分の身を守る事で精いっぱいでしたので。ただ、逃げる時に見た限りでは、かなりの数の賊がやられていました。もうそれ程は残っていないのではないかと思われます」


 ロザンナも賊が殺されているのを見て、一か八か屋敷から脱出する事にしたのだと言う。

 そこでたまたまレイモンド達三人と出会い。彼女達はどうにか賊に出会わずに屋敷を逃げ出す事に成功したのだった。


 その時、手に手に武器を持った男達がゾロゾロと集まって来た。野次馬達が慌てて下がって道を開ける。


「ドン! 取り合えず使えそうなヤツらをかき集めて来やした!」

「おう! ひぃふぅみぃ・・・大体三十人ちょっとか。急いで集めたにしちゃあ上出来だ。それじゃ、ロバロの旦那。ちょっくらお屋敷の様子を見に行って来ますぜ」

「待て、ワシも一緒に行こう」


 ロバロ老人はそう言うと杖を手に取った。


「いやいや、危険だぜ! さっきの話を聞いてただろ?! 賊の中には手練れもいるんだぜ?!」

「なに、屋敷には月影(つきかげ)がおる。そのような手練れがおれば、真っ先にヤツが始末しておるじゃろう」


 ドン・バルトナはため息をつくと肩をすくめた。


「やれやれ。旦那は言い出したら聞かねえからな。だったら俺の側から離れないでくれよ。もしもあんたが切られておっ死んだら、恨まれるのは俺なんだからよ。天下のオスティーニ商会に睨まれるなんて、ごめんだぜ」

「それがイヤなら、手を抜かずにワシを護衛するんじゃな」

「はんっ。俺がそんなマヌケに見えるかよ。オラ、行くぞテメエら!」


 ドン・バルトナとロバロ老人は、寄せ集めの男達を率いて屋敷を目指して歩き始めた。

 この場に残されたロザンナにレイモンド達が近付いた。


「あなたが生きていてくれて本当に良かったよ、”松葉”――いや、ロザンナさん」


 アロルド辺境伯領から来た商人レイモンド。彼の正体は大モルト軍諜報員”紅葉”。

 そしてこのロザンナこそ、何十年にも渡ってこの国に潜伏している諜報員、”松葉”であった。


 昔の忍者の中には”草”と呼ばれる者達がいたという。

 彼らは一般人を装い、目標となる土地に移住。そこで現地の人間と家族を作り、完全に周囲に溶け込むという。

 そうやって誰からも怪しまれなくなってから、初めて情報収集や破壊活動を行ったというのだ。


 ロザンナも、そういった忍者の草と同様、この王都アルタムーラに長年に渡って潜伏し続けて来たスパイだったのである。

 なる程、紅葉が松葉の事を「替えが利かない貴重な人材」と言った訳である。


「あの黒マントの名前が分かったのは収穫だった。月影(つきかげ)ね。君は引き続き、あの老人から月影(つきかげ)に関して可能な限りの情報を聞き出してくれないかな?」

「分かりました」

「連絡先はいつもの商会で。それじゃ」


 紅葉は――レイモンドは軽く手を振ると、部下を連れてこの場を去って行ったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「散開しろ! ここでヤツを仕留める!」

「「「はっ!」」」


 大モルト軍イリーガル部隊のリーダー、傷だらけの長身の男の指示で、敵は一斉に散開した。

 傷だらけのリーダーは――何かカッコ良さげでイヤだな。悔しいのでキズ男で――キズ男はアンネッタを降ろすと大型ナイフを引き抜いた。

 どうやらこの場で私を仕留めるつもりのようだ。


 よかろう! その挑戦受けて立つ!


 私は屋根の上からヒラリと飛び降りた。


 私とキズ男達の距離は十メートル程。

 近くて遠い。まるで心惹かれ合う恋人同士のような――って、なんだそれ。

 要は、剣で切りかかるにはまだまだ遠く、かと言って弓矢を使うには近すぎる。そんな微妙な距離って事だ。


 キズ男はサッと手を動かした。

 左右の男達が後ろに回る。

 私は完全に包囲されたようだ。

 いや、包囲されたようだ、じゃねえよ。何ボンヤリしてんだ私。


【先手必勝! 最も危険な銃弾(エクスプローダー)×2!】

「なにっ?! ぎゃっ!」

「ぐわっ!」


 私は前を向いたままで後方に魔法を発動。

 後ろに回り込んでいた二人の男は、ボディーに魔法弾を受けて地面に崩れ落ちた。

 先ずは二人。


「今のは一体?! テメエ、何をやった?!」


 キズ男の顔色がサッと変わった。

 ブヒヒ、分かるまい。

 何せ月影(つきかげ)はずっとお前の方を向いていたんだからな。

 これぞ私の新技、”魔導式完全結界”!


 ・・・いやまあ、単に後ろを向いて攻撃しただけなんだけどな。

 相手の気配を狙ったのかと思ったって? いやいや、そんな曖昧なもので発動させられる程、魔法って融通が利くもんじゃないから。

 今の私は、言ってみれば水母(すいぼ)の骨組みで作った黒マント型テントにすっぽり覆われている状態だ。

 そこで私は、黒マントの向きはそのままに、中身の私だけ後ろを向いて、マントの下から後ろをチラ見して狙い撃ったのである。

 意外にショボいって? マジックなんて種明かししたらみんなこんなもんだよ。


 魔導式完全結界、続けて連続発動!


最も危険な銃弾(エクスプローダー)! 最も危険な銃弾(エクスプローダー)!】

「ぐっ!」

「ぐはっ!」


 私は驚いて足の止まった左右の男達を狙い撃った。

 不可視の弾丸は狙い過たず彼らのボディーに命中。

 男達は腹から血を噴き出しながら前のめりに倒れた。

 これで更に二人。

 魔導式完全結界の力は素晴らしい。

 あっという間に残すは敵は大将――キズ男ただ一人になった。


【ふっ。防具を身に付けていなかったのがあだになったな。逃げる際に邪魔になると思ったのか、それとも、人混みに紛れる際に目立つのを嫌ったのか。どっちにしろリーダーであるお前のミスだ】

「・・・テ、テメエ」

【なんだ、怒ったのか? それとも自分の失敗を認められないか? ああそうか。反省出来るおつむもないか。だからそんな傷だらけになったんだな。いつまでも失敗を繰り返していれば、そりゃあ傷だらけにもなるか】


 私のやっすい挑発に、キズ男の傷だらけの顔が怒りで醜く歪んだ。

 怖っ! マジで顔怖すぎなんだけど! ホラー映画の特殊メイク?! てか、今晩夢に見そうなんだけど!


 なぜ私が自分の精神力(SAN値)を削ってまで男を煽ったのか?

 それはヤツを激昂させ、少しでもアンネッタから意識を逸らすためである。

 彼女を人質に取られて手も足も出せなくなる。そんな状況を避けるためだ。

 そんな事より、とっとと魔法をぶち込んでしまえばいいだろうって?

 念のためだよ。

 いやね、強いヤツって大体、私の魔法が通じないっていうか、魔法の発動を読まれちゃうからさ。

 ショタ坊村のガチムチしかり、この間戦った大身槍(おおみやり)の髭モジャしかり、忍者野郎しかり。

 コイツがそんな強者じゃないって保証はどこにもないだろ?

次回「メス豚と初見殺し」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やれやれ、スパイはそのままか 勘のいい奴なら、気付いただろうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ