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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
256/518

その253 メス豚と大モルト諜報部隊

 私は一陣の疾風(かぜ)となって疾走(はし)った。

 屋敷の入り口には血だらけの男が倒れている。

 ここの使用人だ。

 顔色は紙のように白く、ピクリとも動かない。

 ピンククラゲ水母(すいぼ)の診断では、とっくに死んでいるそうだ。

 私は心の中で「ナンマンダブ」と手を合わせると、血だまりを飛び越え、屋敷の中に入った。


 中に入った途端、生臭い血の匂いが鼻についた。

 どこかで物が壊れる音がする。そして男達の怒声。

 高価な絨毯はたっぷりと犠牲者の血を吸い、どす黒いまだら模様を描いている。

 壁と言わず、柱と言わず、あちこちにべったりと赤い血がこびりつき、屋敷の中で無残な殺戮が行われた事を雄弁に物語っていた。


『くそっ! 水母(すいぼ)! さっきの悲鳴の場所は――』

「テメエ、暴れるんじゃねえよ!」


 男の怒鳴り声にハッと振り返ると、私は屋敷の廊下を走った。

 あの部屋か?!

 私はドアが開け放たれたままの部屋に飛び込んだ。


 ここは物置だろうか?

 壁一面に棚が作られて、シーツや駕籠が積み上げられている。

 最初に目に飛び込んだのは使用人の死体だった。

 身なりの良い初老の男だ。

 この部屋に隠れていた所を襲撃者に発見されたのだろう。体中を滅多切りにされて殺されている。

 彼の顔は苦痛と恐怖に歪んでいた。


 血の匂いでむせ返る部屋では、三人の薄汚い男達が使用人らしき若い女性を凌辱しようとしていた。

 泣きじゃくる彼女の顔には殴られた跡がある。

 二人の男が女性を取り押さえると、残った一人が彼女のスカートに手を突っ込んで下着をずり下ろした。

 男の下半身は既にスタンバイ済みらしく、そこだけ妙に生白い尻がプリンとむき出しになっていた。


「おい、二人がかりで押さえてないで、どっちかは外を見張っとけよ?! もし誰か入って来たら――おい、なんだお前は?!」


 男がこちらを振り返ってギョッと目を剥いた。

 なんだお前は、だと? お前らゲス共に名乗る名などないわ。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)】(CV:杉田〇和)


 パンッ! という、乾いた音と共に、不可視の弾丸が男の顔面で炸裂した。

 外すような距離でもなければ、角度でもない。

 男の頭がはじかれたように跳ね上がると、ゴツン。男は女性を押しつぶすようにしながら倒れた。


「な、なんなんだテメエは――ぎゃっ!」

「い、一体何が――ぐひっ!」


 私は連続で魔法を発動。

 最も危険な銃弾(エクスプローダー)の無慈悲な弾丸は、強姦魔達の胸元に炸裂。

 彼らの心臓を破壊した。

 私は男達が動かないのを確認すると、襲われていた女性に声をかけた。


【そこの女。大丈夫か? ・・・あっ】


 女性は気を失っていた。

 恐怖のあまり失神した――訳ではないようだ。

 どうやら最初に殺した男。コイツの頭が、私の魔法を食らった衝撃でガクンとのけぞった時、後頭部が頭突きのような形で彼女の脳天に命中してしまったらしい。

 マジか・・・そういや、ゴツンって妙にいい音がしてたっけ。

 水母(すいぼ)の触手がヒョロリと伸びると、女性の下着を元に戻した。水母(すいぼ)さん、あんた紳士やで。


一過性(気絶)の意識消失(してるだけ)心配無し(おけまる)

『そ、そう? それなら良かったけど』


 危うく、助けようとして逆に命を奪ってしまう所だった。

 デカイたんこぶは出来てしまったかもしれないけど、レイプされるよりはましだったということで。

 上手くいけばショックで襲われた記憶も失くすかも・・・って、いくらなんでもそれはないか。


 彼女を起こしてもいいけど、下手に騒がれるより、今は気を失っている方が逆に安全だろう。

 スマンがこのままにさせて貰おうか。


 私は男達の死体を見回した。


『これが大モルト軍の兵士? ただの浮浪者にしか見えないんだけど』


 男達は着の身着のままで生活していたのだろう。シャツの襟首は垢で汚れ、体からは酸っぱい匂いが漂っていた。

 腰に佩いた剣だけは妙に立派で浮いている。

 それに王都まで乗り込んで来た兵士にしては、武器も持たない初老の使用人を殺すのに、あそこまで手間どっているのが不自然だ。


『数日前に始末したネクロラの信徒とやらが、丁度こんなヤツらだった気が――』

「おい、今の音は何だ?」


 開いたドアから別の男が姿を現わした。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』

「誰だお前――ぐはっ! ・・・一体」


 男の腹に、私の魔法が炸裂した。

 腹から血を流しながら倒れる男。


『こいつは浮浪者じゃない? まさか市民に偽装した大モルト兵?!』


 さっき殺したレイプマン共とは違い、男の身なりはちゃんとしていた。

 一見、どこにでもいるような市民の姿。しかし、こんな目をした市民はいない。

 コイツの目は私も良く知る目――人殺しの乾いた目であった。

 男は素早く何かを口に咥えた。


『! させるか! 最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』

「ピ――――ッ!」


 不可視の弾丸が脳天に命中。

 男は脳天を割られて即死した。


『笛?! こいつの狙いは攻撃じゃなかったって事?! クソッ! 仲間への合図か!』


 男は息絶える直前、小さな笛を吹き鳴らした。

 考えられる事は二つ。一つは侵入者の発見を味方に知らせる物。そしてもう一つは――


『退却の合図か?! しくじった!』


 ロバロ老人の予想では、敵の目的はサバ何とか伯爵への警告。

 白昼堂々ここまでやれば、立派に目的を果たした事になる。

 後はそこに転がっているようなレイプ魔達――王都で調達したネクロラの信徒共を残して、自分達(大モルト兵)だけは無事に撤退する。


『チクショウ! これ以上好きにやらせてたまるか!』


 自分のミスは自分で取り返す。

 私は屋敷の中を駆け抜けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 甲高い笛の音が響いた。

 屋敷の二階の一室。青い髪の青年が「ん?」と振り返った。

 若い男だ。パッと見、二十代半ば。短く整えられた清潔感のある髪におしゃれなシャツ。

 常に笑みを浮かべている細い目の下には、二つ並んだ泣きぼくろ。

 見るからに人の良さそうな、いかにも駆け出しの商人。といった感じの青年である。


「今の退却の合図、聞こえたよね? 毒蛾」


 細身の長身の男が立ち上がった。

 こちらは異様な男だ。顔といわず手足といわず、全身ビッシリと無数の傷に覆われている。

 傷のせいで人相が変わり、外見からは年齢すら分からない。

 男は――毒蛾と呼ばれた男は――縛られた少女を見下ろした。

 この屋敷の主人、ロバロ・オスティーニの孫娘、アンネッタだ。

 少女は青ざめた顔をこわばらせ、恐怖に怯えた目で襲撃者達を見上げている。

 もし、猿ぐつわを噛まされていなければ、ガチガチと歯の根が合わなかっただろう。


 今、この部屋で生きている人間は三人。

 縛られているアンネッタと、商人風の青年。そして青年から毒蛾と呼ばれた男。

 その他の者達は、全員物言わぬ死体となって、床に転がっている。

 いつもアンネッタの世話をしてくれる使用人の女性。先月三人目の子供が生まれたばかりのアンネッタの教育係の男性。最近、腰を悪くしている初老の使用人頭。アンネッタ達を守って、勇敢にも襲撃者に挑みかかった使用人の男達。


 全員、この二人に切り殺されてしまった。

 今も屋敷の中からは、男達の怒鳴り声と破壊の音が響いている。


(なんで・・・なんでこんな事に・・・)


 アンネッタの視界が涙で歪んだ。




 男達は突然、屋敷に乗り込んで来た。

 オスティーニ商会は王都に名高い金融業――金貸しを営んでいる。

 その商売の性質上、人に恨みを買いやすい事もあり、屋敷には武装した警備員が常駐していた。

 しかし彼らは、襲撃者の中に混じった手練れに手も足も出なかった。


(私もパパ達と一緒にお婆ちゃんの所に行けば良かった)


 現在、アンネッタの両親――オスティーニ商会の次期商会主、ブラッドとその妻ベルタは、息子のバジリオを連れて祖母の家に行っている。

 母の母、アンネッタの祖母は王都では有名な(まじな)い師だったが、今は腰を悪くして寝込むことも多くなっていた。

 祖母は気難しい上、気性の荒い人間で、今日の昼間、急に「大至急、ひ孫達を連れて屋敷まで来い」と連絡を入れて来たのである。

 ブラッドは、「バジリオがケガをしているので今日の所は勘弁して欲しい」と頼んだのだが、祖母は聞き入れない。「いいから急いで来い!」の一点張りだった。

 昔から言い出したら聞かない人なので、彼は仕方なく家族を連れて祖母の屋敷に向かう事にした。


 祖母がなぜ、突然、娘の家族を呼び付けたのかは分からない。

 ただの気まぐれ? ひ孫がケガをしたのを知って、自分の目で無事を確認したかった?

 あるいは、優れた(まじな)い師としての勘で、虫の知らせ的な何かを感じたのかもしれない。

 ともかく、屋敷を離れたおかげで、ブラッド達家族は奇跡的に襲撃者の被害に遭わずに済んだのである。

 日頃から祖母を苦手にしていたため、一人仮病を使って屋敷に残ったアンネッタを除いて。


 青年は毒蛾に尋ねた。


「娘を連れて行くのかい?」


 毒蛾は青年をジロリと睨み付けた。


「この仕事は俺の仕切りだ。お前の指図は受けん」


 青年は気取った仕草で肩をすくめた。


「聞いただけだって。僕達、同じ”草葉”の仲間だろ? 誰も仲間の手柄を奪ったりはしないさ」


 毒蛾は不機嫌さを隠そうともせず、「ふん」と鼻を鳴らした。

 彼らは大モルト軍の諜報部隊。”草葉”と呼ばれる組織の一員である。


 大モルト軍に反意を抱くサバティーニ伯爵。

 今回の襲撃は、その伯爵に対する警告を目的として行われた。


 ――大モルト軍はお前の企みなどお見通しだ。それでも敵対するつもりなら次はお前の番だ。


 そういったメッセージを込めて、伯爵の資金面での協力者、オスティーニ商会を襲う事にしたのだ。

 しかし、襲撃を指揮を任された毒蛾にとって、結果は不本意なものとなった。

 本来であれば一家揃って皆殺しにする予定だったが、直前でなぜか全員出払ってしまったのである。


(最初に聞いた話では、今日一日、家の者達は屋敷にいるはずだった。・・・まさか組織内の誰かが俺達”棘”の足を引っ張っている? そう考えれば、突然オスティーニ家が全員屋敷を出払ったのも理解出来る)


 一番怪しいのは目の前の男。

 潜入調査を担当する”枝”部隊である。

 実は枝部隊と棘部隊とは、同じ草葉であっても命令系統も生い立ちも異なっている。

 実力行使が目的の棘部隊は、騎士団から派生した暗部。組織内でもイリーガルな部隊なのだ。


(しかし、邪魔をしたという証拠はない・・・)


 疑心暗鬼に駆られる毒蛾。

 そんな中、彼らは商会主の孫娘が屋敷に残っているのを発見した。


「足からじわじわと皮を削ぎ落し、苦痛と恐怖で狂い死にさせるか、生きたまま飢えた獣にはらわたを食い破らせるか・・・。オスティーニ家を皆殺しに出来なかったのは失敗だが、その分、この娘には警告として役に立って貰わねばな」


 毒蛾はキズだらけの顔を醜く歪めた。

 あるいはこれがこの男の笑い顔なのかもしれない。

 アンネッタは恐怖に体を震わせた。

次回「メス豚、捜索する」

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― 新着の感想 ―
[一言] 怒ったクロ子は逃してたまるか…全員ぶっ殺す!みたいなモードだけど全滅させたらさせたでなお問題になる気がするw
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