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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
245/518

その243 メス豚vs王都騎士団

 私が屋敷の一階で見つけたのは、王都騎士団の団員と思われる成人男性の死体。

 王都騎士団は現代で言うならば、警視庁の刑事にあたる存在だ。

 まさか仲間の騎士団員を殺し、闇から闇に葬っているとは。

 どうやら今回の一件は、私が思っていたよりも、深い闇を秘めていたようだ。


魔視(スキャナー)


 私は屋敷の中を索敵。

 残りの敵は十一人。全員、屋敷の入り口を囲む形に玄関ホールに散開している。


【出来れば極み(エクストリーム)化した酸素飽和度(オキシメーター)の魔法で一網打尽にしたい所だけど・・・】 


 それにはロビーは広すぎるし、一人だけ、やや後方に潜んでいるヤツがいる。

 多分、あいつが部隊の指揮官に違いない。

 あるいは男爵本人の可能性も十分にあり得る。

 ヤツには聞いておきたい事がある。攻撃に巻き込んで殺さないようにしないと。


【最初に奇襲で二~三人殺して、後は出たとこ勝負かな。念のため出来るだけ団員達も生かしておかないと】


 下っ端には何も知らされていないかもしれないけど、もしも男爵以外を皆殺しにしたところで、「秘密を明かすくらいなら」なんて自害でもされたらかなわない。

 背後に潜む黒幕へと続く貴重な手がかりを失ってしまう。


【じゃあ水母(すいぼ)。またよろしく】

了解(分かった)


 黒マントの中、水母(すいぼ)の触手が伸びて、私の胴体にスルリと巻きついた。

 触手プレイ再び。そこ。まるでロースハムとか言わない。

 乙女に対して失礼しちゃうわ。ブヒッ。

 水母(すいぼ)は私を抱えたまま、音もなく滑るように荒れた廊下を進んだ。


【おお。快適快適】

不注意(静かに)。相手に気付かれる可能性あり』


 おっといかん。あまりの面白体験についつい浮かれてしまった。

 真っ暗なので廊下の先は見えないが、すぐそこに玄関ホールがあるようだ。

 豚の鋭い嗅覚には、何人もの人間が息をひそめて潜んでいるのが丸分かりである。

 先ずは先制攻撃で敵の動揺を誘う。


酸素飽和度(オキシメーター)


 ゴトリ。

 武装した人間が床に倒れる音が大きく響いた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 王都騎士団団長、バリアノ・バローネ男爵は、捨てられたタンスの後ろでイライラと口髭をしごいていた。

 年齢は四十歳前後。三十を超えた辺りから出っ張り始めた下っ腹に、酒焼けした赤い鼻。

 鎧こそ王都騎士団の物だが、その下には趣味の悪い高価な服を着込んでいる。

 クロ子の言う優男君こと伊達男、ベルナルド・クワッタハッホ辺りが見れば、鼻で笑い飛ばしそうな、センスの欠片もない成金趣味丸出しの恰好だ。


「どうした? まだ入って来ないのか?」


 見張りが屋敷の外に不審者達を見つけたのは四半時(※約三十分)ほど前の事。

 相手の数は七人。全員男。その姿や恰好はどう見ても平民にしか思えなかった。


「平民共がこんな夜更けに、こんな場所に何の用だ?」

「分かりません。荷車を引いている所を見ると、おそらく空き家を家探しでもしに来たんじゃないでしょうか?」

「ちっ。火事場泥棒共か。しかし、よりにもよって今夜とはタイミングが悪い」


 バローネ男爵は大きく舌打ちをした。

 大モルト軍の侵攻によって、現在、王都の治安はかつてないほど乱れに乱れている。

 クロ子のいる商業区画――富裕層の住む区画はともかく、平民区画では追いはぎや強盗、空き巣狙いが溢れ、昼間でも一人では外を出歩けない程である。

 どうやら貴族街の外れにある、この空き家に目を付けた者達がいたらしい。彼らは夜にコッソリ忍び込んで屋敷を物色しようとしているようだ。


 ――知っての通り、この火事場泥棒はドン・バルトナの一行で、彼らはクロ子――月影(つきかげ)の到着を待っていたのだが、バローネ男爵達がそれを知るはずもなかった。


「捕えますか?」

「バカか貴様は! 俺達が今夜この屋敷にいた事をどう説明する気だ!」


 男爵は誰も住んでいないこの屋敷を、物資の隠し場所として利用して来た。

 彼の隠している物資。それは王都騎士団に支給されているはずの武器や装備である。

 そう。彼は長年に渡り騎士団の装備を横流しして、多額の利益を得ていたのである。


「口封じに殺してしまえ! 一人残らず皆殺しだ! いや待て、そうだ。どうせこの屋敷を利用するのも今日が最後になる。屋敷に火を付けてしまおう。そいつらは屋敷に忍び込んだ所を、火の扱いを誤って屋敷を延焼させてしまったのだ。よし。それで行こう」


 バローネ男爵は自分の思い付きがさも素晴らしいアイデアに思えたらしい。満足そうな顔で何度も頷いた。


「すると、切り殺す訳にはいきませんね」

「当たり前だ。焼け死んだはずの死体に切り傷が付いていたらおかしく思うヤツが出るかもしれん。例えばウチの副団長とかな」


 バローネ男爵は吐き捨てるように言った。

 騎士団の副団長は二十歳になったばかりのまだ若い女性である。当時、副団長だった父親が引退した際に跡を引き継ぎ、現在の副団長に就任している。

 良く言えば正義感の強い理想主義者で、悪く言えば融通の利かない生意気な女である。また、最近では騎士団の団長であるバローネ男爵の事を――彼の横領を――疑っている様子もあった。


「すぐに部下を玄関ホールに集めろ! 急げ! 火事場泥棒共が屋敷に入って来た所を一網打尽にする! 抵抗するようならその場で殺してもいいが、剣だけは使うな!」

「はっ!」


 団長の指示を受けて、部下の騎士団員は仲間の下へ走り去った。


 ――これが三十分程前の事になる。


 なぜか火事場泥棒達は、屋敷の前に集まったままで中々動き出さなかった。

 ついさっき(クロ子が合流した事で)、彼らはようやく敷地内に入ったと思ったが、すぐに元の場所に戻ってしまった。

 今の所、その後の動きはないようだ。

 バローネ男爵は彼らの行動が理解出来なかった。


(まさか、俺達の存在に気付かれた? いや、そんなはずはない)


 裏門から入れた荷馬車は裏庭に隠してある。ヤツらの位置からは見えないはずだ。

 それにカンテラにも覆いを被せて光が漏れないようにしている。明かりで気付かれたとも思えない。

 この屋敷は完全に無人。ヤツらがそう思っているのは間違いない。

 ならばなぜ? 屋敷に入るのを躊躇している。


 ゴトン。


 その時、何かが重い音を立てて床に倒れた。

 不注意な。バローネ男爵は頭にカッと血が上った。


「音を立てるなと言っただろうが! ヤツらに気付かれたらどうする?!」


 小声で怒鳴った男爵をあざ笑うかのように、ゴツン。

 再度、硬い物が床を叩く音が、今度は別の方向から聞こえた。

 次いで誰かの「おい、どうした?!」と仲間に問いただす声。

 何かが起きている?

 バローネ男爵はハッと目を見開いた。

 こういう所は腐っても騎士団団長だ。彼は素早く部下に命令した。


「注意しろ! 屋敷の中に誰か入っている! 狙われないように姿勢を低くして身を隠せ!」


 闇の中、部下達がギクリと体をこわばらせたのが分かった。

 しかしそれもほんの一瞬のこと。直ぐに彼らは命令に従って動いた。

 ガチャガチャと金属の擦れる小さな音が続く。

 バローネ男爵も頭を低くすると、腰の剣を抜き放った。

 コトリとも音のしない、シンと静まり返った濃密な闇。空気は極限まで張り詰め、息苦しさすら感じさせた。

 倒れた二人の部下が動き出す気配はない。

 どうやら既にこと切れているようだ。


(バカな! これだけ人数がいて、誰も敵の接近に気付かなかったとは。弓音はしなかった。という事は弓で射られた訳ではない。投げナイフか? いや。この暗闇の中、一度ならず二度も急所に正確に命中させられる者がいるとは思えん。あるいはただのまぐれか? それとも・・・)


 混乱した頭で、バローネ男爵は懸命に襲撃者の正体を求めた。

 やがて彼はある存在に思い当たった。


(いや! 可能性はある! 大モルト軍だ!)


 大モルト軍には暗殺や情報戦に長けた隠密部隊が存在しているという。

 まるで忍者のような(※バローネ男爵は忍者という単語を知らなかったが)その存在。

 実際にそういった者達が王都に入ったという噂は彼の耳にも届いていた。


(くそっ! 大モルトめ! どこまでも祟ってくれるわ! 一体俺に何の恨みがあると言うんだ!)


 その時だった。

 トンっと軽やかな音がした。

 何か小さな物が――例えば猫のような動物が――床に降り立ったような音。

 極わずかな異音だったが、張り詰めた神経に、その小さな音は妙に大きく感じられた。


【流石は王都騎士団――といった所か。気付かれる前にもう一人くらい殺しておきたかったが】


 それは低く、良く通る男の声だった。


【このままお前達を殲滅してもいいが、俺の質問に答えるなら見逃してやってもいい】


 見逃してやるだと?! ここに何人の騎士団員がいると思っているんだ!

 謎の声の言葉に、バローネ男爵は思わず剣を握る手に力が入った。

 ――いや、まだだ。落ち着け。ここは喋らせて相手の目的を知るべきだ。


【お前達の背後にいる者。黒幕の名前を白状してもらおうか】


 やはり、コイツは大モルト軍の工作員だったか!

 俺とサバティーニ伯爵の繋がりに気付いて調査をしていたに違いない!

 コイツを生かして返す訳にはいかない。

 バローネ男爵は勢い良く立ち上がると大きく剣を振った。


「全員やれ! その男を殺せ! そいつは大モルト軍の間者だ!」


 騎士団員達は一斉にカンテラにかけられた覆いを取り、頭上に掲げた。

 明かりに照らし出されたのは黒い影。

 全身をスッポリと黒いマントで覆った、小柄な男の姿だった。

次回「メス豚、呆れる」

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― 新着の感想 ―
[一言] ただの横領犯だったか…。しかしその横流しされた装備をクロ子たちは喜んで使うみたいだけど王国の制式装備を身に纏っていたらその気はないのに王国派と勘違いされて大モルトに攻撃されるのでは…?そこま…
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