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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
242/518

その240 メス豚とお約束

 月明かりに照らされた屋敷の屋根に、一人佇む怪しげな黒い影。

 クロコパトラ女王の”影”。私の第二のアバター。

 黒マントの忍者・月影(つきかげ)(in私)である。


水母(すいぼ)、具合はどう?』

快適(よさげ)


 今までは町で見つけた黒い旗(こちらの習慣で、死者を悼んで揚げる旗らしい)を頭から被ってマント代わりにしていたが、今回は正真正銘のマントである。

 いつまでも旗で代用するのもどうかと思ったので、私らの世話係のハンスに頼んで用意して貰ったのだ。

 ちなみに黒いマントから覗く木の仮面は水母(すいぼ)のお手製である。

 目の部分がポッカリと空いた人の顔を模したマスクで、サバゲー・フェイスマスクとかヒップホップ・ダンスマスクとか言われるヤツに良く似ている。

 確かミカエルとかガブリエルとか、そんな名前のユーチューバーがこういうマスクを被っていたんじゃなかったっけ?

 水母(すいぼ)が木を削って、あれよあれよという間に作ってしまった。

 相変わらず器用な対人インターフェイスだこと。


『じゃあ行くわよ。風の鎧(ヴォーテックス)


 私は身体強化の魔法をかけると、ヒラリ。

 屋根から屋根へとび移り、待ち合わせ場所へと向かったのであった。




【・・・まさかお前がいるとはな(CV:杉〇智和)】

「俺も悩んだが、部下に任せっぱなしってのもどうにも不安でよ」


 待ち合わせ場所には、一台の荷車。

 その横に頬にキズのあるゴツイ中年男が――昼間別れたばかりのドン・バルトナが――立っていた。

 それと彼の部下と思われる男達が五~六人。

 明らかに堅気ではない面々が雁首を揃えて私の到着を待っていた。


 ここは貴族街の外れ。大通りから外れた寂れた区画。

 もう何年も誰も住んでいなさそうな荒れた屋敷のすぐ前だった。

 見るからに、”幽霊屋敷”という言葉が相応しい館だ。


 しかし私も変わったな。

 私は少々感慨深い気持ちになった。

 前世ならこんな場所を夜中に訪れるなんて、考えもしなかった。

 ぶっちゃけホラー映画とか、大の苦手だったし。

 そして目の前の強面の男達。

 前世なら、町でこんな集団を見かけたら即座に回れ右して全力ダッシュで逃げていた所だ。

 怖そうな幽霊屋敷に強面の男達。正にあの世とこの世の最恐コラボレーション。

 これで平然としていられるんだから、私の神経も随分と図太くなったもんだ。


【しかし、良くこの酷い面子で貴族街に入れたな】

「蛇の道は蛇ってな。こういうのはどこにだって抜け道が存在しているもんなのさ」


 さいで。

 私の物言いが気に入らなかったのだろう。男達の顔にサッと怒気がみなぎった。


「ドン。本当にこんなヤツが必要なんですかい?」

「ふざけたマスクを被ったヒョロヒョロのチビじゃねえか」

「ドンの言葉を疑う訳じゃありませんが、俺にはコイツが強いとはとても思えやせんぜ」


 男達は私を威嚇するように近付いて来た。

 ふむ。これはアレだな。異世界転生のお約束。

 冒険者ギルドで絡まれる新人冒険者。

 まあ、ここは暗い街角だし、コイツらは冒険者どころか無法者みたいな感じだが。

 ドン・バルトナは慌てて私達の間に入った。


「おい、よせ。殺すんじゃねえぞ」

「ドン。大丈夫ですぜ」

「ああ。殺しやしませんぜ。ただちょっと実力を見せて貰うだけでさ」

「バカ野郎! 今のはお前達に言ったんじゃねえよ!」


 ボスの言葉に男達はキョトンとした。

 ふむ。実力ねえ。

 私は黒マントの隙間からキョロキョロと辺りを見回した。

 おっ? アレなんかいいんじゃないか?


【おい、そこのお前。一番ガタイのいいお前だ】


 私は男達の中でも一番の巨漢に声をかけた。


【もう少し右に立て。少し後ろ。そう、そこだ】

「ん? ここが何だって――なななななっ?!」

「おい! こりゃあどういう事だ?!」

「う、浮いてる! 宙に浮いているぞ!」


 私はコッソリ最大打撃(パイルハンマ)の魔法を発動。

 男の足元の大きな石を、上に乗っている男ごと宙に浮かせた。


 最大打撃(パイルハンマ)の魔法は物を浮かせる事に特化した魔法だ。

 効果がシンプルな分、持ち上げられる重量はかなりの物となる。

 ただし色々と制約もある。例えば持ち上げられるのは、岩などの完全に重心が固定されている物だけ。

 柔らかい物や動く物を――つまり水や砂、人間などを――持ち上げる事は出来ないのだ。


「お、おい、よ、よせ! お、降ろしてくれ!」


 男は真っ青になって震えている。

 高さにして三メートル弱。

 随分と大袈裟に騒いでいるが、うっかり転落しても死ぬような高さでもないだろうに。


【実力を見せろと言われたので、見せたつもりだが。もういいのか? なんなら、あそこに見える王城の屋根まで持ち上げてやってもいいぞ】

「じょ、冗談じゃねえ! 十分! もう十分だ! あんたの実力は良く分かった! もう勘弁してくれ!」


 このまま大声で騒がれ続けると、不審に思った誰かが来るかもしれない。

 私は大男の乗った岩を元の場所に戻してやった。

 岩はスッポリと元の位置に収まった。他より少し出っ張ってしまったが、大きな岩だし、自重で沈んでそのうち元の平らな状態に戻るだろう。多分。


「い、今のはなんだったんだ? あの男、ライターのヤツに一体何をやったんだ?」


 大男ことライターは、腰が抜けたのか地面にへたり込んでいる。


「ドン。この男は一体?」

「・・・だから最初に言っておいただろうが、月影(つきかげ)殿は魔法を使えるってよ。それなのに全く。無駄に血の気の多いヤツらめ」


 ドン・バルトナは顔をしかめると大きなため息をついた。


月影(つきかげ)殿。俺の部下がすまなかった。だがコイツらも今のであんたの力が分かっただろう」


 男達はすっかり毒気を抜かれて小さくなっている。

 示威行為(デモンストレーション)としての効果は十分だったようだ。


「すまなかったな。アンタの実力を疑ったりして」

「ドンも人が悪いぜ。こんなスゲエ魔法が使えるヤツなら、そう言っておいてくれればいいのに」


 いや、ドン・バルトナも知らなかったはずだぞ。コイツの前では最大打撃(パイルハンマ)の魔法は見せてないからな。

 実際、ドン・バルトナも微妙な顔をしている。

 それはそうとさっきから気になっていたんだが、コイツの部下はみんなコイツの事を「ドン」と呼ぶんだな。

 私はドン・バルトナに振り返った。


【俺もドンと呼んだ方がいいか?】

「――止めてくれ。アンタにそう呼ばれるとムズムズする」


 あっそ。

 ドン・バルトナはイヤそうに顔をしかめたのだった。




 異世界転生のお約束(?)を終えて満足した私は、幽霊屋敷に振り返った。


【それで? ここが昼間お前が言っていた、例の武器の隠し場所なのか?】


 ドン・バルトナは表情を引き締めると「そうだ」と頷いた。


「今は暗くて見えねえと思うが、昼間なら門の外に轍が付いているのが分かるはずだ。こんな何年も人が住んでいない屋敷にだぜ?」

【つまり最近、ここに馬車が出入りしているという訳か】


 ドン・バルトナの部下が門を押し開いた。

 錆びついた扉がキイイイと甲高い音を立てた。


「ちょっと騒いじまったが、幸い誰にも聞かれていねえようだ。おう、テメエら行くぞ」

「「「へい!」」」


 我々は屋敷の敷地内に踏み込んだ。

 手入れのされていない敷石の隙間から、草が伸び放題生えている。


 確かに。最近踏まれた跡がある。

 誰かがこの屋敷に入ったのは間違いない。

 とはいえかなり広い屋敷だ。この暗闇の中、屋敷のどこにあるかも分からない武器を探すのは難しいだろう。

 その辺の部屋に無造作に置かれているならともかく。屋根裏や地下、隠し部屋なんかに隠されていたら発見するのはほぼ不可能だ。


『ヒソヒソ(水母(すいぼ)、どうかな? あんた武器の隠し場所とか分かる?)』

『索敵対象、並びに索敵範囲に難あり』


 水母(すいぼ)のピンククラゲボディーは高度な観測機器の集合体。言ってみれば万能計測器だ。

 とはいえ、彼の本来の機能は対人インターフェイス。専用の計測機器のようにはいかない。

 この屋敷のように、厚い壁で囲まれた広い範囲を外から探る事は出来ないようだ。


「どうした月影(つきかげ)殿」


 急に立ち止まった私をドン・バルトナが訝しんだ。

 男達も私に振り返る。

 ふむ。ここは最近覚えたての魔法を試しに使うチャンスなのかもしれない。

次回「メス豚、頼られる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 巨石や大木など重心の固定されたものであれば「最大打撃」で浮かせられるとなるとエレベーター的に使って複数人をふわふわと高所に移動させたり高所から高所に移動させたり応用方法がいっぱいありそうで…
[気になる点] 高さにして五メートル弱。  随分と大袈裟に騒いでいるが、うっかり転落しても死ぬような高さでもないだろうに。 いや、5メートルって普通に落ちたら死ぬからw
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