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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
238/518

その236 メス豚、出迎える

 先日、私が野盗から助けた金持ち親子。

 彼らの実家はこの王都で金融業を営んでいる大商会だった。

 そして今朝。金持ちパパさんから私宛てに「挨拶に伺いたい」との連絡が来た。

 で、今に至る訳だが・・・


「いやまあ確かに、「どうせ暇してるし、いつでもいいよ」(※意訳)とは言ったけどさ。だからといってその日のうちに訪ねて来るなんてある?」


 私はクロ子美女ボディーの中でぼやいた。

 私が不機嫌な理由。

 それは金持ち親子がいつ訪ねて来てもいいように、朝からずっと屋敷の中をボルケッティ商会の使用人達がウロウロしているからである。

 おかげで今日は一日中義体の中に入っていなければならなかった。

 この国では、私は魔獣としてちょっとした有名人(有名獣?)だからな。うっかり子豚の姿を人目に晒して騒ぎを起こす訳にはいかないのである。


「俺達に黙って王都の見学になんて行くからだ」

「そうとも、羨ましい。俺達は一日中この家に閉じ込められているってのによ」

「まあ、やたらとデカイ家だから、あまり閉じ込められているって感じはしないけどな」


 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達がブーブーと文句を言った。

 金持ち親子の手紙のせいで、私は一連の事情を説明せざるを得なくなった。その結果、私がこっそり夜ウォーキングをしていた事がみんなにバレてしまったのである。

 おかげで私は彼らからチクチクと文句を言われ続けているのだった。

 その時、外で通りを見張っていた隊員が窓から顔を出した。


「おい! 馬車が来たぞ! 馬が二頭で引いてるデカいヤツだ! 多分アレがそうなんじゃないか?!」


 おう。ようやく来たか。

 屋敷の使用人達の間にサッと緊張が走る。

 女の使用人が(残念ながらメイド服ではなかった)、慌てて屋敷を飛び出して行った。

 おそらく母屋まで主人を呼びに向かったのだろう。

 なにせ相手は王都の金融を牛耳る大商会。いってみれば大銀行の頭取一家だ。絶対に粗相は許されない。

 屋敷を包む異様な空気が伝わったのだろう。さっきまでバカ話をしていた隊員達も、急にソワソワと落ち着かなくなった。


「な、なんだろう。俺まで緊張して来たぞ」

「あ、ああ。人間の軍隊と戦った時とは、また違う緊張感だな」

「いつまでも喋ってないで、ほら! みんな玄関ホールに並ぶ! 外にいる隊員達も中に戻って!」


 隊員達は私に促されて、慌ててワタワタと玄関ホールに並んだ。

 私は車イスで彼らの真ん中に。車イスを押すのは傷だらけの大男カルネ。右には副官のウンタが控えている。

 そして私の膝の上にはフルフルと震えるピンククラゲの水母(すいぼ)

 やがて外から人の話し声が聞こえて来た。


「お、おい! 来たぞ!」

「黙れカルネ。大きな声を出すな。外まで聞こえたらどうする」

「みんな静かに。来るわよ」


 ギイッ


 玄関のドアが開くと、身なりの良い夫婦とその娘が現れた。

 彼らの横には、派手な身なりの小太りの中年男性が、満面の笑みをたたえながら歩いている。

 親子は言うまでもなく、先日私が助けた金持ち親子。今日は弟くんは来ていないようである。

 そして彼らにまとわりついているビリケンさんのような福福しい男は、この屋敷の主人。ボルケッティ商会の商会長である。

 金持ちパパはビリケンさんのウザ目のお追従に、笑顔で対応している。

 出来る男だ金持ちパパ。私なら絶対顔に出てる所だ。

 金持ち親子は我々の姿を目にすると、ハッと驚いて立ち止まった。

 亜人の姿に驚いたのか、クロコパトラ(in私)の美貌に驚いたのか。

 なぜかビリケンさんがドヤ顔で我々を紹介した。


「オスティーニ様。こちらは亜人の女王、クロコパトラ陛下でございます」

「クロコパトラ女王陛下。本日は私共のためにお時間を頂き、誠にありがとうございます」

「ふむ。妾は見ての通りゆえ、座ったままの挨拶を許せ」


 見ての通りも何も、車イスに座っている、というだけしか分からんだろうが。

 しかし、彼らは「これは聞いてはいけないのだろうな」と思ってくれたようだ。察しが良くてありがたい。

 で、だ。金持ち親子は構わない。ビリケンさんもまあいいだろう。


 だが、お前は何でここにいるんだ?

  

「女王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく存じます。俺はバルトナ。この王都で人材の派遣を生業にしている者でございます」


 金持ち親子に続いて屋敷に入って来たのは、頬にキズのあるヤクザのような男。

 寄せ場の元締め、ドン・バルトナだった。




 我々が応接室に入ると、屋敷の使用人達が次々と荷物を運び込み、積み上げ始めた。

 どれも見るからに高級感をビシバシ感じさせる品々だ。


「先日は女王陛下の部下の方に窮地を救って頂き、感謝の言葉もございません。こちらはお礼の品となりますので、是非お受け取り下さい」


 女性への贈り物とあって、お高そうな宝石やアクセサリーも並んでいる。

 膝の上で水母(すいぼ)がフルフルと震えた。

 クロ子美女ボディーを飾り立てたい衝動に駆られているらしい。気持ちは分かるが、今はジッとしていて欲しい。

 お姉ちゃんは部屋に入ってから、ずっと周囲をチラチラと見回している。


「そちらのお子よ。何か気になるかの?」

「あっ! あ、あの・・・月影(つきかげ)様はいらっしゃらないのでしょうか?」


 どうやらお姉ちゃんは、黒マントこと月影(つきかげ)の姿を捜していたようだ。

 だが月影(つきかげ)もこのクロコパトラ同様、私の変装(アバター)だ。同時に存在は出来ないのだよ。スマンな。


「あやつはここではない場所で己が役目を果たしておる。後でお主達が来た事を伝えておこう」

「そ、そんな事は! あ、いえ、よ、よろしくお願いします」


 私は金持ちパパに向き直った。


月影(つきかげ)より事情は聞いておる。難儀であったそうじゃの」

「いえ。多少のケガはありましたが、月影(つきかげ)殿のおかげで、こうして無事に済みましたので」


 金持ちパパはそう言うとチラリと自分の左足を見た。

 そういや足をケガしてたんだっけ。さっきも庇いながら歩いていたな。


「息子のバジリオもお礼にお伺いするはずでしたが、申し訳ありません。キズが元で今朝から熱を出しまして。今は大事を取って寝かせております」

「デアルカ。無理をする必要は無いぞ」


 お礼なら昨日の夜に言って貰ったからな。


◇◇◇◇◇◇◇◇


(美女とは聞いていたが、よもやこれ程の美しさとは・・・)


 ブラッドは、女王クロコパトラの美貌に驚きを隠しきれずにいた。

 亜人達の女王が人間の若い女性である事は、事前にボルケッティ商会の商会主から聞かされていた。

 なぜか自分の事のように誇らしげに語る男に、「なぜお前が自慢する?」と不思議に思ったものだが、なる程。確かにこの美しさであれば、賛美したくなる気持ちも分からないではない。


(噂では、女王は見た事も無い魔法の力で、大モルトの一軍に多大な被害を与えたそうだが)


 人間に魔法は使えない。

 女王に会うまでブラッドは、ひょっとしてクロコパトラは人間に姿が似ているだけの亜人なのではないか、とも考えていた。


(しかし、こうして見ていても全く亜人には見えない。人間――にしては美し過ぎるが、それでも人間そのものだ)


 亜人は動物のように鼻から下が前に突き出している。亜人が人間よりも獣に近いと言われているゆえんである。


(それにクロコパトラ女王の部下達。彼らは全員、額に角が生えている。角がある亜人など聞いた事が無い)


 ブラッドは昔聞いた言い伝えを思い出していた。

 長く生き、角が生えた動物は魔法が使えるようになる、というものだ。

 そして女王の部下は全員角が生えている。これは何かの偶然だろうか?


(あるいは女王自身は魔法が使えず、女王が使ったと思われている魔法は実は部下の亜人が使っていた。という可能性もあるか)


 ブラッドは無意識に女王の隣に立つ小柄な亜人――ウンタを見た。

 彼は油断なくこちらを見張っている。ブラッドは「おそらく彼は女王の親衛隊なのだろう」と推察した。

 女王を守る騎士(ナイト)。それが彼の役目に違いない。


(おそらく、彼の実力は月影(つきかげ)と同等。いや、対人戦においては彼をも上回る腕前の持ち主に違いない)


 月影(つきかげ)は武装した十人もの男達を、容易く返り討ちにしてみせた。

 しかし、彼の本来の役割は女王の”影”。女王の身を守るこの男なら、武力においては月影(つきかげ)を上回るのは間違いないだろう。そうでなければ護衛の役は果たせない。

 ――もしも、ウンタがこの時のブラッドの推測を聞けば、「俺がクロ子よりも強い? タチの悪い冗談は止めてくれ」と憮然としただろう。

 彼はクロ子のデタラメな戦闘力を知っている。

 自分達全員よりも遥かに強いクロ子が、自分達の護衛など必要とするだろうか?


 こうして彼らの来訪は、問題無く行われた。

 ブラッドの中にいくつかの勘違いが生まれた様子だが、それはそれ。

 会談は何事もなく終わろうとしていた。

 話題も尽き、会話が途切れ気味になった所で、ブラッドはクロコパトラの前から退席する事にした。


「女王陛下。本日はお会い頂きありがとうございました。そろそろ失礼を致したく――」

「ちょっとよろしいでしょうか、女王陛下」


 ブラッドの言葉は頬にキズのある大柄な男によって遮られた。

 男は――ドン・バルトナはこの部屋に通されて以来、初めて口を開いた。


「そちらの月影(つきかげ)殿。彼に会わせて頂けませんかね? 俺は彼に仕事を手伝って貰う約束をしているんですよ」

次回「メス豚、乗せられる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] この時にもらった高価な宝石類を付けていけば267話でアンナベラに「よく見たら傷だらけの安っぽい装飾品」なんて侮られずに済んだと思うと口惜しいですね。でも敗軍の者がそんなの付けていったら失礼…
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