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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
227/518

その225 メス豚、王都を臨む

 我々の旅は続いた。

 東へと逃れる避難民達の流れに逆らい、西へ西へ。

 朝は昇る朝日を背に受けて街道を進み。夕方は沈む夕日の下、宿場町に入る。

 旅の中でいつしか季節は移り、朝夕の冷え込みに冬の厳しさを感じるようになった頃。我々は遂にこの国の首都、王都アルタムーラへと到着したのだった。


「――てな感じにしんみり言ってみたけど、実はまだ四日しか経っていないんだよね。まあ、小さな国だからな」

「ん? クロコパトラ女王、何か言ったか?」


 私の呟きに副官のウンタが反応した。


「いや、別に。そろそろ王都が見えて来るのかなーなんて思って」

「結構上って来たからな。そろそろなんじゃないか?」


 さっきはつい、『王都アルタムーラへと到着したのだった』などと言ってみたものの、実は我々はまだ王都の姿すら拝んでいなかった。

 この国の王都は、今我々が進んでいる峠の先。南と東を山に、北を大河に囲まれた平地に作られている。

 恐らくは防衛上の理由でこの地が選ばれたのだろう。

 大昔の日本も、奈良や京都、鎌倉といった、山に囲まれ、守りに適した土地に都が作られたからな。

 特にこの国は、東にヒッテル王国という不仲な国が隣接している。

 東に対しての備えは特に万全である必要があるのだろう。


 その時、先頭を行くちょび髭達が速度を落とした。


「おっと、また関所か。こんな山の中にまで作っているんだな」


 私はちょっとワクワクして軽く身を乗り出した。

 街道にはやたらと関所が作られている。

 酷い時には、ほんの数キロの範囲に二つも三つも作られていたくらいだ。

 なぜ、そんなに関所が必要なのか。言うまでもなく、土地所有者が旅行者から通行税をむしり取るためである。

 それじゃ生活するのにお金がかかって仕方ないんじゃないかって? 心配ご無用。地元の人間は抜け道を知っていて、街道自体を使わないんだそうだ。

 橋とかそういう、どうしてもそこを通らなければならないような場所だけ、仕方なく使うらしい。

 要は街道は現代で言う有料道路――高速道路や自動車専用道路みたいな感じなのである。


 ちなみに関所の周りは旅人を当て込んだ休憩所や出店が集まっている。

 景色の変化の乏しい旅の中、そういった場所は私の密かな楽しみになっていた。


「いや、違うみたいだ。どうやらこの先に砦があるらしい」


 ウンタがちょび髭達の会話に耳を澄ませて呟いた。

 砦か。どうりで峠道がやけに曲がりくねっていると思った。


「どういう事だ?」

「だって道を真っ直ぐ作るよりも、曲がっていた方が先が見通せないでしょう? それに曲がり角に伏兵を潜ませる事だって出来るしね」

「なるほど」


 大男のカルネが感心したように頷いた。


「この国の人間の中にも、クロコパトラ女王ぐらい悪知恵が働くヤツがいるんだな」

「うぉい! 言い方!」


 誰が悪知恵じゃい!

 そしてみんなカルネの言葉にうんうん頷いている。こんな可憐で愛らしい子豚ちゃんに向かって失礼なヤツらだ。

 その時、私の膝の上のピンククラゲがフルリと震えた。


前方注意(何か来る)


 水母(すいぼ)のピンククラゲ・ボディーは、各種観測機器の集合体である。

 どうやら彼のセンサーに何か反応があったようだ。

 私は慌てて隊員達に警告した。


「前から何か来るわ。みんな注意して」

「おお。――って、何だありゃあ?!」

「化け物か?」


 隊員達の間にざわめきが広がる。

 我々の前に現れたのは大きな獣。牛とトカゲを掛け合わせたような謎の生き物だった。




 牛とトカゲを掛け合わせたような生き物。牛トカゲの数は三。

 長く伸びた首。大きさは本物の牛を一回り程大きくした感じ。

 顔には覆面レスラーのようなマスクを被っている。


「あれは砦の兵士か? じゃあ、この化け物はここの人間が飼っている家畜か何かなのか?」


 ウンタの言葉に良く見れば、牛トカゲの後ろには鎧を着た兵士達が続いている。

 あれっ? これってひょっとして・・・


「ねえ水母(すいぼ)。あの動物ってひょっとして竜なんじゃない?」

検索中(ちょっと待って)。・・・判明(あった)。クロ子の指摘が正解(言う通り)。あれは地竜』


 どうやら牛トカゲこと地竜は、最初に私に魔法を教えてくれた恐竜ちゃんのお仲間だったようだ。

 私が見た事のある竜は二種類。この国の王家が飼育している恐竜ちゃんこと走竜と、隣国の軍隊が使役した暴走竜こと貪竜。

 どうやら牛トカゲは三番目に出会った竜のようだ。


 ちょび髭はいつものように無駄に偉そうな態度で、兵士達に向かって馬を進めた。


「出迎えご苦労」

「はっ! 峠を出るまで我々が案内致します!」


 兵士達はしゃちほこ張った顔で答えた。

 どうやらちょび髭達は既に彼らと面識があるようだ。

 大男のカルネがホッとため息をついた。


「何だ。化け物が襲って来たんじゃなかったのかよ。脅かしやがるぜ」


 カルネ程ではないが、私もホッとしていた。牛トカゲも竜である以上、魔法が使えるはずである。

 仮に正面切って戦ったとしても、私が負けるとは思えないが、隊員達は別だ。

 なにせ相手がどんな魔法を使うかも分からないのだ。

 隊員達の安全を確保したまま、手の内の知れない相手と戦うのはかなり厳しい。

 私が安堵したのも無理はないだろう。


 というか、今さらだが、ちょび髭に案内を任せて本当に良かった。

 私らだけでは街道の関所で通行料を払えずに立ち往生していただろうし、今だって化け物が出て来たと思って攻撃していたかもしれない。

 毎晩のご馳走の件もあるしで、ちょび髭の株は私の中でかつてないほど爆上がりですわ。

 ちなみに食事は「旅の疲れが出た」と言って部屋で取らせて貰っている。

 おかげで私は義体から出て、のんびりご飯を頂いている。

 ちょび髭も怪しげな亜人の女王と一緒に食事をせずに済んで嬉しいのか、文句を言われた事は一度もない。

 ホンマ、ちょび髭様様やで。ちょび髭様には足を向けて寝られませんわ。


「みんな。今後は彼らに足を向けて寝ないように」

「? 何を言ってんだ?」


 どうやらこっちの世界には、お世話になった人がいる方角に足を伸ばすのは失礼、という考えが無いようだ。

 ウンタにキョトンとされてしまった。

 こうして牛トカゲ隊に先導される事少々。突然、隊員達から大きなどよめきが上がった。


「おい、見ろよ。スゲエぞ」

「ああ。あれが王都か」


 ん? ようやく王都が見えたのか?


水母(すいぼ)

言わずもがな(かしこまり)


 パシャリとブラインドが開くと、駕籠(かご)の中を涼しい山の風が吹き抜けた。

 いつの間にか峠の頂上に到着していたみたいだ。

 眼下には石造りの広大な町並みが広がっていた。


「これが王都アルタムーラ・・・」


 スマン。正直ちょっとナメていた。

 文明の劣った異世界の小国の都市なんてたかが知れている。

 そんな風に軽く見ていた。

 だが、私はこの世界の人間の力を侮っていたようだ。

 ごちゃごちゃと立ち並ぶ色とりどりの建物。区画整理された道路。小さな丘の上に建てられた大きな城。

 まごう事無く、コイツは大都市だ。


 クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達も、この光景には度肝を抜かれたらしい。

 みんなポカンと大口を開けて立ち尽くしていた。


「ス、スゲエんだな、人間の王都って」

「ああ。町でも十分驚かされたが、比べ物にならねえ」

「俺達、良くこんなヤツらに勝てたな」


 いや、私らが戦ったのは大モルトの軍で、この国の軍隊じゃないんだがな。

 私はボンヤリと呆けている大男のカルネに声をかけた。


「カルネ」

「・・・あ、ああ」

「ちょっとカルネ!」

「ん?! んんっ?! な、何だクロ子?!」


 この姿の時はクロコパトラと呼べって言ったのに。まあいいや。


「人間達がこっちを見てるわよ。いつまでも立ち止まってないで早く行って」

「そ、そうだな。おい! テメエらボンヤリしてんじゃねえよ!」


 カルネは慌てて隊員達の頭を叩いて回った。

 ようやく動き出した私達に、ちょび髭達は苦笑しているようだ。

 やれやれ、全く。

 私はブラインドを降ろそうと手を伸ばした。するとウンタが思い詰めた表情で近寄って来た。

 何ぞ?


「・・・クロ子。正直、俺達はこの間の勝ち戦で、知らないうちに調子に乗っていたようだ。だからお前から『人間達を甘く見るな』と言われても、いまいちピンと来ていなかったんだ。

 けど、この光景を見て、お前が何を恐れていたのかを――人間の何を恐れていたのかを――ようやく理解出来た気がする。

 俺達は甘かった」


 ウンタの言葉に隊員達は神妙な面持ちで頷いた。

 みんな・・・。

 どうやら眼下の光景は、彼らに敵の強大さと、自分達の置かれている状況の厳しさを再認識させてくれたようだ。

 最近ずっと気になっていた、どこか浮ついた空気は無くなっていた。


「しかしアレね。百聞は一見に()かずと言うか、瓢箪(ひょうたん)から駒が出ると言うか・・・」

「何だそれは?」


 私は隊員達を見回した。


「何でもない。それより、自分達の甘さが分かっただけでも、こんな所まではるばるやって来た甲斐があったんじゃない?」

「違いない」


 ウンタがそう言うと、みんなは小さく笑った。


 こうして我々は砦の牛トカゲ部隊の案内で峠を越え、夕方にはこのサンキーニ王国の王都、アルタムーラに到着したのであった。

次回「メス豚、感心される」

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