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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
226/518

その224 メス豚と街道の旅

 街道の西に夕日が沈む。

 茜色に染まる空の下、我々の視線の先に大きな町が現れた。

 あれがこの辺一帯のハブ都市。名前は確かランツィだったか。


「どうにか夜になる前にたどり着けたか」


 先頭を行くちょび髭達から、ホッと安堵の気配が伝わって来た。


 砦を出発した私達は、直後にちょび髭達に呼び止められた。

 足を止めた私達に、彼らは「自分達が先導する」と、案内役を買って出た。

 ぶっちゃけいらないし。

 というか、人目があると義体から出られないので、私的にはむしろ迷惑なんだが。

 しかし、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の分隊長、大男のカルネは、意外な事に彼らの提案に乗り気だった。


「そうか。アイツらが一緒に来てくれるなら助かるぜ」

「意外ね、カルネ。あんたがそんな事を言うなんて」

「そうか? これから向かうのは人間達の国だぞ。おかしなヤツに絡まれねえように、案内をしてくれるヤツがいた方がありがたいだろう」


 な、なる程、確かに。

 人間の社会で、我々亜人の集団は悪目立ちし過ぎる。

 それに大モルト軍の兵士が話の分かる人間ばかりとは限らない。亜人という事でバカにして、門前払いする者だっているだろう。

 とはいえ――


「とはいえ、なんだろう。言われていることが正しいって分かっているのに、どこか釈然としないこの気持ち。まさかカルネに納得させられる日が来るなんて・・・。ぶっちゃけ、かなりショックだわ」

「いや、ショックって。お前俺の事を何だと思っているんだ」


 脳筋と思っていますが何か?


「クロ子――クロコパトラ女王の気持ちは分かる」

「ああ。頭では正しいと分かっていても、感情的には受け入れがたい。そういうのってあるよな」

「そうそう。ましてや相手はカルネだからな。カルネに言い負かされる俺って何なの、とか思うよな」

「お前ら流石に言い過ぎだ!」


 まあまあ。カルネも分隊長になって、成長したって事で。

 立場が人を作るとも言うし、これっていい傾向なんじゃない?


「ふん。どうせ俺はのうきん(・・・・)だよ」


 私達にからかわれて、カルネはすっかりへそを曲げてしまったのだった。


 てな事を思い出していると、駕籠(かご)の外から驚きや戸惑いの声が聞こえて来た。

 町に近付いた事で、街道を行き来する人の数が増えたようだ。

 我々は百人程の武装した集団。しかも半数が亜人という謎編成だ。

 そんなヤツらが凄い速さで行軍しているのだ。

 人目を引くのも当然というものだ。

 おっと、そろそろこの辺でいいんじゃないかな。


「ウンタ。みんなを止めて頂戴」

「分かった。みんな、止まれ! 今日の行軍はここまでだ!」


 突然止まった我々に驚いて、ちょび髭が慌てて引き返して来た。


「お前達、なぜ急に止まったんだ? 何かあったのか?」

「俺達はこの辺で野宿する」

「はあっ?!」


 ちょび髭が驚きの声を上げた。


「すぐそこに町があるではないか! なぜ、わざわざこんな場所で野宿をしなければならん!」

「いや、お前達は町に泊まって構わない。野宿をするのは俺達だけだ」

「だから、なぜ町に入らない! すぐそこまで来ているだろうが!」


 いきり立つちょび髭を護衛の隊長が止めた。


「ガナビーナ殿。彼らは亜人です。きっとこの国では亜人は町に入れないのでしょう」

「「ん? そうなのか?」」

「・・・いや、なんでお前が聞く」


 ウンタは小さく肩をすくめた。


「人間の町の事なんて知らない。俺達は生まれてからずっと山の中で暮らしていたからな。俺達が野宿をするのは、金を持っていないからだ」


 そう。我々は無一文なのだ。

 亜人の村は原始共産制。誰かの物はみんなの物。個人の所有物は身の回りの物くらいに限られている。

 当然、お金なんてものは存在していないのである。


 実は金目の物でいいのなら、ショタ坊と一緒に隣国を荒らしに行った時の略奪品が――アクセサリーや宝石が――あるにはある。

 それら盗品の数々(思い出の品々)は、今も私、クロコパトラ女王の体を飾っている。

 これを代価にすれば、町で宿泊するくらいは可能だろう。多分。

 とはいえ、この宝石にどのくらいの価値があるかは分からないし、そもそも、遠征軍のトップと会いに行くのに、装飾品も付けていないのではカッコが付かない。

 オシャレは女の戦闘服なのだ。


 といった訳で、我々は野宿をしながら街道を進む事にしたのである。


「・・・お前達。何のために我々が案内していると思っているのだ。金の事なら心配はいらないぞ」


 ちょび髭は堂々たる態度で自分を指差した。


「町の代官に話をつけるからな」


 お前が払うんじゃないんかーい。

 いやまあ、大モルト軍は占領軍。非支配者を従わせるのは当然か。そもそもコイツらもこの国のお金なんて持ってないだろうし。

 まあいいや。そういう事なら付いて行きましょう。

 下手に私らだけで野宿をして、何かのトラブルに巻き込まれても困るからな。

 私は大男のカルネに指示を出した。


「そうか? 分かった。おい、ウンタ! クロ子――クロコパトラ女王が『招待を受ける』ってよ!」

「ん? 分かった。では、そちらに任せる」

「うむ。付いて来るがいい」


 このちょび髭。自分も代官に奢ってもらうくせに、なんか偉そうじゃね?

 まあいいか。ここは素直にご相伴に預かりましょうか。




 門の外は町に入ろうとする人達でごった返していた。

 どうやら家族連れがほとんどのようだ。彼らの家財道具を積んだ荷車も並んでいる。

 この町はこの国で最も東に――大モルトが攻めて来た西から最も遠い場所に――位置している。

 この人達は戦火を避けて、ここまで避難して来たのだろう。

 町のキャパシティーも限界なのか、全員を受け入れる事は出来ないようだ。

 そんなあぶれた者達が集まって、門の周囲はちょっとしたキャンプ地のようになっていた。


 我々がキャンプ地に足を踏み入れると、周囲から好奇の目が注がれる。

 武装した騎士団と亜人の集団という異様な組み合わせは、かなり悪目立ちするようだ。

 人目の届かない駕籠(かご)の中にいるとはいえ、どっちかと言えば陰キャ寄りの私にはかなりキツい空気だ。

 そんな中、ちょび髭はいつものごとく威風堂々、偉そうに馬上でふんぞり返っている。


 ――お前、マジで凄いよ。


 私は初めてちょび髭を尊敬した。


 町の衛兵が慌てて我々に駆け寄って来た。


「お待ちを! お名前と用向きを伺いたい!」

「吾輩はガルメリーノ・ガナビーナ! この町には、大モルト東征軍の総指揮官、ジェルマン・アレサンドロ閣下から賜った任務の途中に立ち寄ったものである! 至急、町の代官に取り次ぎをせよ!」


 大モルト軍という言葉に、キャンプ地の避難民達が一斉にうろたえた。

 中には敵軍が攻めて来たと勘違いしたのか、慌ててテントを片付け出す者もいる。

 無理もない。彼らは皆、その大モルト軍から逃げてここまで来ているのだ。


「か、かしこまりました! し、しばしお待ちを!」


 数名の衛兵が慌てて町に駆け戻った。城壁の上に兵士達が集まり始める。

 不穏な気配にウンタがカルネの背中を叩いた。


「おい、カルネ。なんだかおかしな様子だ。念のためいつでも逃げ出せるようにしておけ」

「そうだな。おい、お前ら。俺達が合図したらこの場をずらかるぞ」

「「「おお」」」


 緊張で胃が痛くなるような時間がゆっくりと過ぎていった。

 体感で三十分――実際は十分も経っていないかもしれない――程後。町から高価そうな馬車がやって来た。

 馬車は我々の前に停まると、中から「いかにも貴族」といった感じの小太りの中年男性が降り立った。


「これはこれはガナビーナ様。お役目の途中でこの町に立ち寄られたとの事。ご苦労様でございます」


 中年男性は――この町の代官は――緊張でやや青ざめた顔にお追従の笑みを浮かべた。

 

「日も傾いております。先ずは当屋敷にご案内致しますので、そこでごゆるりと旅の疲れをお休め下さい」

「うむ、世話になる」


 ちょび髭は鷹揚な態度で頷いた。

 固唾をのんで成り行きを見守っていた者達も、今のやり取りで我々がこの町を攻めに来たのではない事が分かったのだろう。辺りに張り詰めていた空気が急速に緩んでいった。

 大男のカルネが小さく安堵のため息をこぼした。


「やれやれ。一時はどうなるかと思ったぜ。こんな事なら、最初から町の外で野宿した方がマシだったんじゃねえか?」


 せやな。

 前世は『空気を読む日本人』だった私としては、さっきの空気は針のムシロだったわ。

 正直言って二度とゴメンかな。


 そんなこんなで私達は・・・ええと、ここって何て名前の町だったっけ? まあ、ともかく。人間の町に入ったのだった。

 ちなみに、さっきまでは「もう二度とゴメンだ」と思った私達だったが、喉元過ぎれば熱さを忘れる。

 代官の屋敷で日頃お目にかかれないご馳走が出ると、「毎日こんな食事が食べられるなら、人間の町もアリかな」と思い直すのだった。

 特に食事に付いていたお酒は、隊員達に非常に好評だった。

 私? 私は飲んでないぞ。まだ生後半年ちょっとの未成年(子豚)だからな。

次回「メス豚、王都を臨む」

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[良い点] 義体で食事できるようになるなんてクロ子も成長したな…
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