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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
223/518

その221 メス豚、スルーされる

 大モルト軍からの使者を名乗るちょび髭男。

 彼は護衛の騎士を連れておっかなびっくり、我々の砦に入って来た。


「なんだ。意外と中は閑散としているのだな」


 ここは元々は亜人達の住む村だったが、先日の戦いで多くの家が焼け落ちている。

 ――まあ、焼いたのは私なんだが。

 新たに建てた家も無いし、殺風景なのは致し方ないだろう。


 私の副官、ウンタが入り口に近い家を指差した。


「あの家に入ってくれ。そこで話を聞こう」

「ふむ。みすぼらしい小屋だが仕方があるまい」


 ちょび髭が馬を降りようとした時、彼を警護していた騎士(確か隊長とか呼ばれてたはずだ)がハッと腰の剣に手を掛けた。

 突然の反応にウンタ達が慌てて身構える。

 隊長は私の姿を警戒していた。


「角の生えた黒い子豚! そいつはまさか魔獣か?!」

「なっ! ま、魔獣だと?!」

「この黒い子豚が?!」

「本当ですか隊長?!」


 ちょび髭と護衛の騎士達がギョッと目を剥いた。

 どうやら彼らは私の事を知っているようだ。

 てか、先日の戦いでは、散々彼らの仲間を蹴散らしてやったし、それも当然かもしれないな。

 ふむ。

 私はトコトコと彼らに近付いた。


「何っ!」


 騎士達の間に緊張感が走る。

 私はクルリと彼らにお尻を向けると、トコトコと歩いて元の場所に戻った。


「戻るのかよ!」


 隊長がドンと足を踏み鳴らした。

 ウンタが「お前何やってんの?」と言いたげな目で私を見下ろした。

 いや、なんつーかお約束? 彼らがあまりにビビってたもんでつい、ね。

 真面目にやれって? サーセン。

 なんかこのちょび髭を見てると、妙にからかいたくなってしまうんだよね。


 ちなみに(くだん)のちょび髭は驚きのあまり足を滑らせて、派手に馬から落ちていた。

 腰を打ったらしく、背中を丸めて呻いている。

 なんかゴメンな。


 ウンタは隊長に向き直った。


「お前達人間がコイツの事を何と呼んでいるのかは知らない。だがコイツは俺達の仲間だ。剣を抜くなら俺達全員が相手になるぞ」


 ウンタの言葉に、周囲の隊員達もうんうんと頷いた。

 みんな・・・。

 私は温かい気持ちで胸が一杯になった。


『それはさておき。ねえ、私って人間達の間でどんな風に言われている訳?』


 隊長は私の言葉には答えず、剣の柄から手を放した。


「失礼した。そちらの魔獣の噂は色々と聞いていたので、つい警戒してしまった。アレク、ブルーノ。お前達も剣をしまえ」


 騎士の二人はためらっていたようだが、隊長に重ねて命令されると、渋々警戒を解いた。


『いや、だからその魔獣の噂ってのが聞きたいんだけど』

「では案内を頼む。ガナビーナ殿、大丈夫ですか?」

「う、うむ。な、何でもない」

「分かった。付いて来い」


 うおい! 私は無視(スルー)かよ!

 ちょび髭と隊長達はウンタの案内で家の中に入って行った。

 ポツンと取り残された私の背中で、ピンククラゲがフルリと震えた。


感想が(ねぇ今)あるなら聞く(どんな気持ち?)

『・・・いや、人間に私の言葉が通じない事くらい知ってるから。最近、ずっとクロコパトラとして人間達と会話してたから、義体が無いと話が通じないってのをうっかり忘れてただけだから。別にショックとかないから』


 私は翻訳(トランスレーション)の魔法を使って会話をしているが、これで話が通じるのは魔法が使える亜人達だけ。

 魔法を使えない人間には、私の言葉は豚の鳴き声にしか聞こえない――つまり、会話は成立しないのだ。

 だから、水母(すいぼ)。触手を水平に広げて私の周りをグルグルと回るのは止めなさい。

 ねえねえ、今どんな気持ち、をやるんじゃありません。


『ホラ、水母(すいぼ)。いつまでも遊んでないで行くよ』


 私は水母(すいぼ)を連れて、ちょび髭達に続いて家に入ったのだった。




 私が建物に入ると、隊長達の「何でお前までくるの?」とでも言いたげな視線が集中した。

 私は彼らの視線をスルー。ウンタの横にチョコンと座った。


「それで? お前達は何をしに来たんだ?」

「はあ? なぜお前ごときに話さねばならん」


 ウンタの質問にちょび髭がいきり立った。


「急ぎお前達の女王に取り次ぐが良い! 吾輩はジェルマン・アレサンドロ閣下から直々に命を受けてここまで来たのだ! いわば閣下の名代! 吾輩を軽視するという事は閣下をないがしろにするも同然! ひいては大モルト軍八万を敵に回す行為だと知るが良い!」


 ウンタが困った顔で私を見た。

 せやな。気持ちは分かる

 けど、女王はここにいるんだよな。

 村までクロコパトラボディーを取りに戻るのも面倒だし、ここはウンタに頑張って貰おうか。じゃ、私の言葉を通訳よろしく。


「クロ子、お前・・・。ゴホン。ええと、お前が閣下の名代であるように、俺は女王の代理人(エージェント)だ。女王への話は俺を通して行ってもらいたい」

「えーじぇんと? 聞きなれぬ言葉だが、それはどういった役職なのだ?」

「・・・俺に聞くな」


 ウンタは私の言葉を伝えてるだけだからな。

 ちょび髭は納得いかない顔をしていたが、このままでは話が進まないと思ったのか、ひとまず飲み込む事にしたようだ。


「まあいい。ではお前達の女王に閣下の言葉を伝える。ブラマニ川での(いくさ)においてサンキーニ王国は破れ、そちらの国王と王子は我が軍に捕えられている。

 我が軍は王都アルタムーラを望む位置に布陣。いつでもこの国の王都を落とせる状態にある。

 既にお前達の国王バルバトスは、民の犠牲を避けるため、ジェルマン・アレサンドロ閣下に恭順を誓った。

 これ以上の抵抗は無意味である。

 お前達も国王に倣い武器を捨てるがいい。さすれば閣下がお慈悲を下さるであろう。ここに吾輩ガルメリーノ・ガナビーナの名において約束する」


 ふむ。お前達の国王は負けを認めたので、お前達も無条件降伏せよと。つまりはそう言いたい訳だ。

 ちょび髭の名前で約束されたところで、信じて良いものかどうかは知らんが。

 内容から考えて、コイツは多分本物の使者で間違いないだろう。


 ――実はワンチャン、大モルトの使者を偽ったこの国のタカ派の計略、という可能性も考えていた。

 こちらが到底飲めない条件を突きつける事で、我々の激発を誘うのだ。

 当然、大モルト軍は我々の討伐に動くだろう。

 その隙を突いて一斉に蜂起。王都を取り戻し、徹底抗戦に移る。そんな計略の可能性も無くはないと思っていたのである。

 当然、我々は利用されただけ。亜人を使い捨てる事が前提の作戦である。

 人を人とも思わない悪辣な策だが、タカ派――というか、保守派だろうが急進派だろうが、極端な考えを持つ人間は、自分の目的のために平気で他人を犠牲にするものである。

 なにせこの国は今、国家存亡の危機的状況にある。

 目的が手段を正当化すると考え、暗躍する者達がいたとしても、何らおかしくはないだろう。


 ピンククラゲ水母(すいぼ)が私の背中でフルリと震えた。

 おっと、いかん。今はちょび髭との会話に集中しないと。

 降伏ね。条件次第では受けてもいい。

 というか、条件を引き上げるために戦ったと言ってもいい。

 理想は本領安堵。現代風に言えば自治区として取り込まれる形である。

 その辺どうなんだろうか? ウンタ、確認よろしく。


「降伏すれば、ほ、ほんりょうあんど? を約束してくれる。そう考えていいんだな?」

「その約束をする権限は吾輩にはない」


 ないのかよ。てか、権限も無いくせに名代を名乗っていいのかよ。

 結局、コイツは何なんだ? ただの使い走りメッセンジャー・ボーイなのか? これならショタ坊の方がまだマシだったぞ。


「つまりお前は使い走りなのか?」

「なっ?! 貴様、亜人の分際で吾輩を愚弄するのか?!」


 やべ。つい声に出てたみたいだ。私の言葉を聞いたウンタが、馬鹿正直に翻訳してしまった。

 激昂するちょび髭を隊長が慌ててなだめる。

 隊長は私を警戒しているようだ。

 そりゃまあ、魔獣なんて呼ばれているシロモノが目の前にいたら、護衛としては警戒するわな。

 隊長の苦労の甲斐あって、ちょび髭はどうにか落ち着きを取り戻した。

 話し合いを再開する前に、隊長はウンタに尋ねた。


「あの。先程から気になっていたのだが、その魔獣を外に出す訳にはいかないのか? その・・・さっきから会話の最中にブヒブヒ鳴いているのが気になって仕方がないのだが」


 ああ、うん。それはさぞや気になるだろうね。

 でも追い出されるのは困るかな。


「追い出されるのは困る」

「そ、そうか。分かった。続けてくれ」


 隊長は困り顔で引き下がった。

次回「メス豚、事情を知る」

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― 新着の感想 ―
[一言] こういうときパイセンが生きていれば…って思いますね…
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