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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第七章 混乱の王都編
222/518

その220 メス豚とちょび髭男

 私が水母(すいぼ)の施設を出ると、一匹の犬が嬉しそうにアホ毛を揺らしながら駆け寄って来た。

 アホ毛犬コマだ。


「ワンワン!」

『こら! コマ! 邪魔しない!』


 コマは私に構って貰おうと摺り寄った。

 てか、お尻の匂いを嗅ごうとするんじゃない!


猫だまし(フラッシュ)! ――ぐわっ! 眩しっ!』

「キャイン!」


 猫だまし(フラッシュ)は、一瞬だけ強い光を放つ魔法だ。

 カメラのフラッシュみたいなものだと思って貰えばいいだろう。


 強い光を直視して、私とコマは悲鳴をあげた。

 なんでお前も引っかかってるんだって?

 いや、まあそうなんだけどさ。ついイラッとして、考えなしに使ってしまったんだよ。

 いくら殺傷力が無いからって、気軽に使うもんじゃないな。



 悶える私に、亜人の男達が駆け寄った。


「クロ子。今、集まれる者はこれだけだ」


 集まったのは五人。全員、額に角が生えている。

 歩兵中隊(カンパニー)の隊員達だ。

 他の隊員達は砦の警備と、山に狩りに出ていて村にはいないらしい。


 先日の防衛戦でクロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)には大きな被害が出ている。

 死者十三名。部隊に復帰出来ない大ケガを負った者八名。

 八十一人中、二十一人。全体の約三割もの欠員が出た事になる。

 これはクロカンの設立以来、初めて経験する大きな損耗だ。

 しかし、三千の敵軍を迎え撃ったと考えれば小さな被害とも言える。

 実際、村のみんなは大勝利に沸き返っていた。

 人間達に――それも強力な軍隊相手に――ろくな装備も持たない自分達が勝利したのだ。

 お祭り騒ぎになるのも当然だろう。

 だが、私は浮かれてはいられなかった。

 なにせ分隊長にすら死傷者が出ていたのだ。

 敵の攻撃は今回で終わりとは思えない。早急に部隊を再編制する必要があった。

 そもそも、討伐軍三千といえども、数万の敵本隊の極一部でしかない。

 勝ったのはこちらだが、敵は毛程もダメージを負っていないのである。


 ――と、いかん。今は砦に現れた敵軍に集中しないと。


『すぐに砦に向かうわ。みんな準備して』


 私達がさっきから砦と呼んでいるのは、要塞化された旧亜人村の事だ。

 戦いの後、残った建物を修理して、現在は砦として使っていた。


「分かってる。さっき砦から狼煙が上がるのが見えた。また人間達が攻めて来たんだろう?」

「この間やられたばかりなのに懲りないヤツらだぜ」


 隊員達の間に小さな笑いが起きる。

 良くない傾向だ。前回の大勝利に、みんな自分達の力を過信しているようだ。

 過剰に敵を恐れて逃げ腰になるのは困るが、緊張感に欠けるのも良くない。


『まだ攻めて来たと決まった訳じゃないから。それと人間の軍隊を甘く見ない事』


 私は彼らを諫めると、砦に向かって走り出した。




 砦まで女性の足で三~四時間。魔法で身体能力を上げた我々ならば一時間とかからない。

 砦の周囲に敵の姿は見当たらない。まだここまでは来ていないようだ。

 物見台の見張りが我々の姿を見付けると、正面の門が開いた。

 中に入ると、小柄な亜人の青年が出迎えた。


「クロ子。早かったな」


 今日の当番はクロカンの副官ウンタだったらしい。


『人間の軍隊が現れたって?』


 私が尋ねると、ウンタはアホ毛犬コマと追いかけっこをしている野犬を指差した。


「ああ。アイツらが見つけてくれたんだ。今、隊員達を確認に向かわせている。そろそろ戻って来てもいい頃だ」


 なる程。群れの野犬達には、山に人間がいるのを見たら、誰かに教えるように命令してある。

 どうやら彼らの捜索網に侵入者が引っかかったようだ。

 今のところ相手の正体も規模も不明。

 軍隊、というのは私達の早とちりだったらしい。

 狼煙だけでは詳しい情報が伝えられないから仕方がない。

 出来れば無線機が欲しい所である。


 見張り台の男がこちらに振り返った。


「おい! 偵察に出ていたヤツが戻って来たぞ! 門を開けろ!」


 門に人が一人、通れるくらいの隙間が開くと、二人の男がブチ犬を連れて入って来た。


『マサさん! 人間達を発見したのはマサさんだったのね!』

『黒豚の姐さん。コマ。来てましたか』


 アホ毛犬コマは嬉しそうにブチ犬マサさんに鼻面を摺り寄せた。


『こら、コマ。邪魔をするな。それで姐さん。山に入った人間達ですが――スミマセン。あっしには大勢としか』


 私の視線を受けて、偵察に出ていた隊員が口を開いた。


「相手は二~三十人。全員が馬に乗っていたから、もうすぐここにやってくるはずだ」

「たったの三十人? そいつらの後方には後続部隊はいなかったのか?」


 ウンタの質問に、隊員はかぶりを振った。


「分からん。急いで知らせに戻った方がいいと思ったからな。ヤツらをやり過ごして調べに行った方が良かったか?」


 どうだろう。後方に別動隊がいないのなら、行っても無駄足になるだけだろう。

 それどころか、やり過ごしそうとした所を見付かって、捕虜になっていた可能性だってある。


『いや、いい。良く調べてくれたわ。偵察ご苦労様』


 しかし、馬か。

 討伐隊のやつらが作った道を放置しておいたのは失敗だったかもしれない。

 いずれ人間社会と交易をするなら、道の整備は必須となる。

 そう思って手を付けずにいたのだが、防衛上、潰しておいた方が良かったのかも。

 私の貧乏性が足を引っ張ってしまった形だ。


『取り敢えず、相手の目的が何であっても対応できるように準備だけはしておきましょう』

「そうだな」


 こうして待つ事、約十分。

 三十人程の騎馬隊が砦の前に到着したのだった。




 騎馬隊の人数はざっと三十人。

 戦闘力としては結構なものだが、軍隊として考えればかなり物足りない。


 騎馬隊、とは言ったが、明らかに毛色の違う人間が一人だけ混じっている。

 ちょび髭の中年男性だ。彼だけ鎧を着ていないどころか、武器すら持っていない。

 見るからに高価そうな服だし、馬の上で偉そうにふんぞり返っているしで、この騎士達は彼の護衛なのかもしれない。


 ちょび髭が列から離れて歩み出た。


「ウオッホン! 亜人共に告げる! 吾輩はガルメリーノ・ガナビーナ! 大モルト東征軍の総指揮官、ジェルマン・アレサンドロ閣下よりお言葉を賜ってこの場に赴いた! お前達が礼節を知らぬ汚らわしき野人であるならば腰の剣を抜くが良い! だが、違うというのであれば、閣下の代理人たる吾輩に敬意を表し、己が行動で自らを証明してみせよ! さあ、返答はいかに!」


 砦の亜人達は戸惑った表情で顔を見合わせた。

 ウンタが小声で私に尋ねた。


「クロ子。あの人間が何を言ったか分かったか?」

『ああうん。自分は大モルト軍の使者だって。だから丁重にもてなせってさ』


 私の超意訳に周囲から「ほう~」という感嘆の声が上がった。


「俺はケンカを売っているのかと思った」

「俺もだ。俺達の事を汚いとか言ってたし」

「確かにお前は汚いけどな」

「何だとこの野郎!」


 ハイハイ、そこ。ケンカをしない。それとちょび髭は「汚い」とは言ってないからね。「汚らわしい」と言ったから。

 似たようなもんだろうって? まあそうだわな。

 ウンタが私に振り返った。


「それで? どうするクロ子。お前は人間と話し合いをするつもりだと言っていたが」


 まあね。

 完全に人間と敵対してしまった場合、どう転んでも我々に未来はない。

 なにせ相手は国家。こちらは吹けば飛ぶようなしがない山村だ。

 戦いで力は見せ付けた。ならば次は話し合いで落としどころを見つける番だ。

 私は馬上でふんぞり返っているちょび髭を見つめた。


『――とはいえ、相手があのちょび髭かぁ。流石に先行きが不安になって来るわね』


 ちょび髭はピクリとも動かず、ジッとこちらを睨み付けている。

 こうしていても仕方がない。先ずは相手の話を聞かないと。


『じゃあウンタ。よろしく』

「俺か?!」


 私は鼻面でブヒっとウンタの足を押した。

 だって仕方がないでしょ。クロ子美女ボディーがあれば私がやるけど、ここにはないし。

 戦いになるかもしれないと思ったから、砦には持って来なかったのよね。

 ウンタは私に押されて渋々立ち上がった。


「俺がここの砦の代表だ! あんたを歓迎しよう! そちらの話を聞くからあんただけ入ってくれ!」

「わ、吾輩一人でか?!」


 ちょび髭がギョッと目を見開いた。

 騎士達の間にざわめきが広がる。


「わ、吾輩一人で亜人の砦に入れというのか?! そ、そんな事が出来るか!」


 ウンタは困った顔で私をチラリと見た。

 仕方がないなあ。じゃあ、私の言葉を繰り返して頂戴。

 ウンタは小さく頷くとちょび髭に向き直った。


「ならば護衛として三人だけ同行を許可しよう! 護衛は帯剣を許すが、馬はその場に残して徒歩で砦に入ってもらう! これで如何か?!」

「それは・・・し、しかし」


 ちょび髭が何か言う前に、一人の騎士が馬を降りた。


「アレクとブルーノ。お前達も俺に続け。構いませんね、ガナビーナ殿」

「ぐっ。た、隊長に任せる」


 ウンタは振り返ると、入り口の隊員達に告げた。


「よし! 入り口を開け! 彼ら四人を入れてやるんだ!」

次回「メス豚、スルーされる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] また大モルトも小物っぽいのをおくりつけてきたね…まぁ実際クロ子たちと戦ったのは王子軍と戦ったのちに内紛で敗れた連中だけで本隊とは鉾を交えてないからしょうがないか…。
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