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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第六章 メラサニ山の戦い編
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その215 ~アレサンドロvsオルエンドロ~

 決戦の日は、あいにく朝から曇り空だった。

 ここはサンキーニ王国の西、アモーゾ領バハッティ平原。

 曇天の下、平原を埋め尽くす敵の軍勢を前に、情の薄そうな若い騎士が呟いた。


「結局、間に合わなかったか・・・」


 彼の名は”双極星”ペローナ・ディンター。

 ”ハマス”オルエンドロ軍の親衛隊、”五つ刃”の一人である。

 現在、ハマス軍に五つ刃は彼唯一人。


 ”フォチャードの”モノティカは、彼らの主人、”古今独歩”ボルティーノ・オルエンドロと共に戦場で討ち死に。

 ”双極星”ペローナ・コロセオと”不死の”ロビーダ、それに”一瞬”マレンギの三人は、兵を率いて勝手に軍を抜け出し、その敵討ちに出向いていた。


「戦闘が始まる前に、彼らに戻って欲しかったんだが」


 古今独歩ボルティーノ・オルエンドロの戦死。あれから全ての歯車が狂ってしまった。

 ハマス軍の総大将であるカルミノ・オルエンドロは、義理の息子の死にショックを受けたあまり酒浸りに。

 手綱を握る者がいなくなったことで、部下達は――将軍達は、身勝手な言動を繰り返すようになっていった。

 彼らは遠征軍の総指揮官、ジェルマン・”新家”アレサンドロからの再三の命令を無視。

 遂には総指揮官から反乱軍の烙印を押される事になった。

 ディンターはこの報せを受けた時、真っ青になって立ち尽くした。

 しかし、将軍達はむしろ意気軒昂。事態を重く見るどころか、逆に益々鼻息を荒くしていた。


「我らが反乱軍だと! はんっ! 名前だけアレサンドロの小僧が何を抜かす!」

「そうとも! 我らをオルエンドロだと甘く見るでないわ!」


 相手は三役に就いていない無役の新家とはいえ、主家筋のアレサンドロ。

 片や彼らの主人は、大都市ハマスを本拠地とする、名門とはいえ分家筋のオルエンドロ。

 将軍達の言葉には、嫉妬や妬みを含んだ歪んだプライドが見え隠れしていた。


 ジェルマンは、ハマス軍を反逆者と断じると、その討伐のために本隊を南下させた。

 新家アレサンドロ軍迫る。

 この報を受け、流石のカルミノも、いつまでもふさぎ込んではいられなくなった。

 一ヶ月ぶりに軍議の場に姿を現したカルミノは、酒に体をやられ、顔色も悪く、頬もげっそりとこけていた。


「ハマス様! これは身の程知らずの小僧に思い知らせる好機ですぞ!」

「左様! 相手はたかが新興のアレサンドロ。我らハマスとの格の違いを思い知らせてやりましょう!」


 ハマス軍は、元々、大軍同士の野戦を得意としている。

 要害に立てこもるイサロ王子軍を相手に攻めあぐねていたのはそのせいだ。

 短い軍議の末、カルミノ・”ハマス”は部下の言葉を受け入れ、新家アレサンドロ主力部隊との戦いを決意したのであった。


 ”双極星”ディンターは、この連絡を受けた時、思わず天を仰いだ。


「なんという愚かな決断を。この戦い、我が軍に何の大義がある。若様が――ボルティーノ様が生きていらしたら、絶対にお義父上をお止めしたものを」


 負ければ賊軍として名声は地に落ち、勝っても指揮官を裏切った軍として後ろ指を指される。

 どちらに転んだとしても、本家の当主、アンブロード・執権アレサンドロは、自身の面子を潰したハマスを許さないだろう。

 ハマスは詰んでしまったのだ。


「わああああああああっ!」


 兵士達の歓声にディンターはハッと我に返った。

 敵軍の中から騎馬の一団が進み出ている。

 今から開戦前の口上が述べられるのだ。

 先ずは舌戦。互いに自分達の正当性をアピールし、逆に相手の軍の非を鳴らす。

 開戦前の様式美のようなものである。


(我が軍の行動に正当性などあるはずもない。一体、どこで間違えたのか)


 まるでこの曇天の空のように、ディンターの心は晴れなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 大モルト遠征軍を二つに割ったこの戦い。

 決戦の場はバハッティ平原。バハッティ平原のあるアモーゾ領は、川から遠い事もあって水利が悪く、乾いて痩せた土地しか持たない貧乏領地である。


 北に布陣しているのは、遠征軍本隊、ジェルマン・新家アレサンドロ軍。

 戦力は約三万二千。

 対して南に布陣しているのは、反乱軍となるカルミノ・ハマス・オルエンドロ軍。

 こちらの戦力は約二万一千。

 戦力比としては三対二。反乱軍の方が不利となる。


 しかし、ハマス軍も、元々は四万近い戦力があったはずである。それがこの時点では約半数にまで減少している。

 戦闘による死傷者、降伏して来たイサロ王子軍を見張るために残した兵、クロ子と戦っている仇討ち隊三千を引いたとしても、少々、少なすぎるのではないだろうか?


 実はここにいないほとんどの兵は、本隊と戦う――自分達が反乱軍になった――と聞いて、ハマス軍を脱走してしまったのである。

 中には勝手に部隊を離れて周辺の村々の略奪にいそしむあまり、そのまま野盗になってしまった者達もいたようだ。


 しかもハマス軍は一か月もの間、無為に過ごした時間によって、兵の士気は振るわなかった。

 ハマス軍にとっては非常に厳しい状況で戦闘は開始された。




「かかれぇーっ!」

「ウワアアアアアアアアアッ!!!」


 弓兵による射撃戦もそこそこに、ハマス軍が一斉に本隊に肉薄した。

 この勢いは流石に新家の軍も予想外だったようだ。

 戦いはハマス反乱軍が押し込む形で始まった。

 開戦早々、本隊は、一方的な防戦を強いられる形となったのである。


 本陣の総指揮官、ジェルマン・新家アレサンドロの下に、前線の指揮官からの救援の要請が届いた。


「敵の猛攻は凄まじく、このままでは持ちこたえられません! 至急、援軍の派遣をお願い致します!」


 前線の危機に、しかし、ジェルマンはこともなげに言い放った。


「必要無い。手持ちの戦力で持ちこたえよ」

「そ、それは! し、しかし、それでは――」


 ギョッとする連絡兵にジェルマンは涼しい顔で答えた。


「必要無いと言っている。大体、お前が戻る頃には敵は崩れているだろうよ」


 果たして、連絡兵が部隊に戻った時には、既に敵は開戦当初の力を失い、逆に押し返されていた。

 ジェルマンは敵が部隊間の連携が取れていない事を――各々が勝手に動いている事を――見抜いていた。

 仮に一部の部隊が敵を押し込んでも、助けが無いから戦線を維持出来ない。

 そうしているうちに攻め疲れすると、今度は逆に押し返される。

 ハマス反乱軍はそうやって、無意味に力を浪費しては、空回りを続け、次第にやせ細って行った。


 ジェルマンは本陣で独り言ちた。


「よもやこれ程までにハマスが弱っていたとはな。また()の言った通りになったか」


 ジェルマンの言う()とは、彼の妻であるアンナベラ・アレサンドロ。

 執権アレサンドロ家の当主、アンブロードの孫娘である。

 幼い頃から才女との誉高い彼女は、数多くの縁談を全て断り、四年前、自分の意思でジェルマンの下に――新家アレサンドロに嫁いでいた。

 この時、本陣に連絡の兵が駆け込んで来た。


「殿! 右翼のお味方が敵の軍を突き崩しましたぞ!」

「ステラーノか。老いたとはいえ百勝の腕前は、まださび付いていないと見える」


 大モルトにその名を知られる”七将”。

 ”百勝”ステラーノはその一人に名を連ねる名将である。

 知勇兼備の七将に比べれば、ハマス軍の五つ刃など、ただの腕自慢の兵卒に過ぎない。

 ステラーノは、アンナベラが輿入れの際、彼女の実家である執権アレサンドロ家から引き抜き、ジェルマンの幕僚に加えていた。


「これは勝ったな」


 ジェルマンはこの時、勝利を確信した。




「これは負けたな」


 ジェルマンが勝利を確信したその時。戦場の反対側では一人の騎士が自軍の敗北を悟っていた。

 五つ刃、双極星ペローナ・ディンターである。

 聡明な彼は、戦いがピークを越え、挽回不可能な流れに入った事を敏感に感じ取っていた。


 ちなみに彼は自分が他人よりも聡明な事を知っている。その上でそれを事実として隠すことなく態度に表すため、周囲からは鼻持ちならないイヤなヤツだと思われていた。

 特に同じ双極星、ペローナ・コロセオはディンターを毛嫌いしていて、日頃から「なんでアイツが味方なんだ。いっそ裏切って敵になれば、この俺が切り殺してやるのに」などと公言してはばからなかった。


 その時、ディンターは不意に何かに気付いた。


「裏切り・・・。まさか五つ刃の中に、新家に内通していた者がいたのでは?」


 それはふと浮かんだ思い付きだった。

 双極星ペローナ・コロセオ率いる仇討ち隊。彼らがこの戦いに間に合わなかったのは、偶然では無く、人為的なものではないだろうか?

 誰かが裏切り、故意に情報を仲間に知らせなかった。そう考えれば、彼らが戻らなかったのも説明が付くのではないだろうか?


「直情的なコロセオが裏切るとは思えない。なら、不死のロビーダか一瞬マレンギ。二人のうちのどちらかになるが。いや、まさか・・・。だが、あの時、彼らは何と言って部隊を去ったんだったか」


 そうだ、マレンギ。彼は最後にディンターに「お主も来るか?」と声をかけたんだった。

 ロビーダの方はこちらに見向きもしなかった。

 あの時は気にも止めなかったが、あれはなんらかの布石だったのではないだろうか?

 あの一言があったからこそ、ディンターは「マレンギは話せる相手だ」と考え、こちらの状況を伝える手紙を彼宛てに送ったのだ。それが――


 その時、前方から大きな悲鳴が上がった。


「敵だ! 敵が来たぞ!」

「うわああああっ! に、逃げろ!」


 どうやら前線が突破されたようだ。ディンターの指揮する部隊は親衛隊だ。彼の後ろには総指揮官カルミノが控える本陣しかない。

 ここで持ちこたえられなければ全軍崩壊である。


「怯むな! すぐに味方の助けが来る! それまで、この場を死守するんだ!」


 こうなっては、本当にいるのかいないのかも分からない内通者の事を考えている場合ではない。

 全ては生き残った後の話。目の前の戦いに集中しなければ、いかにディンターといえ生き残れない。

 こうしてディンターは激しい戦いの中に飲み込まれていったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 新家本隊と、ハマス反乱軍との戦いから数日後。

 ここは戦場から遠く離れたメラサニ山の麓。

 双極星ペローナ・コロセオは、同僚の五つ刃、一瞬マレンギから信じられない言葉を聞かされていた。


「・・・どういう事だ? ハマス軍が負けた? 俺達が反乱軍だと?」


 マレンギは眉一筋動かさずに、コロセオの言葉に答えた。


「言葉の通りだ。ハマス軍は総指揮官の命令を無視し続けたため、反乱軍となった。本隊のジェルマン閣下は反乱軍を討伐するために軍を進め、バハッティ平原でこれを打ち破った。

 反乱軍の指揮官カルミノは主だった将軍達と共に逃亡。兵の半数は捕虜として捕らえられたそうだ」

「ふざけた事を言ってんじゃねえ!」


 コロセオは愛用の大身槍(おおみやり)をマレンギに突き付けた。


「ジェルマンが”閣下”だ?! 殿が”反乱軍の指揮官”だ?! 一瞬の、テメエは一体、どっちの味方だ!」


 コロセオの剣幕に、流石にマレンギも剣の柄に手を掛けた。


「カルミノは反乱軍の指揮官だ。そして俺は総指揮官の命令に従っている」


 この瞬間、コロセオは全ての理屈を飛び越えて、直感で真相にたどり着いた。

 彼は怒りで体を震わせながら怒鳴った。


「テメエ、一瞬の! 今までずっと俺達を裏切ってやがったな!!」

次回「”一瞬”vs”双極星”」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 敵討ち舞台は、戦略的に意味があるものでなくただの自己満足だった…? 一ヶ月も何やってたんだと、本陣は思うだろうね
[良い点] 敵軍の内輪もめに乗じて第3王子とショタ坊が反旗を翻すきっかけになりそう。 [気になる点] アレサンドロとオルエンドロってなんか名前似ててどっちがどっちかよくわからなくなる…
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