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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第六章 メラサニ山の戦い編
210/518

その208 メス豚と大仕掛け

◇◇◇◇◇◇◇◇


 秋の日はつるべ落とし。ましてや山は暗くなるのが早い。

 太陽が西の山の稜線に沈むと、森には闇が落ち、瞬く星々が暗い夜空を覆い尽くした。


 ここはクロ子達によって要塞化された亜人村。

 昼間の戦いで、この村は”双極星”コロセオ率いる仇討ち隊によって占拠されていた。


 現在、土塁の上にはかがり火が焚かれ、見張りの兵達が周囲を警戒している。

 指揮官コロセオは、今夜、亜人達の夜襲があるに違いない、と考えていた。

 実際、クロ子達は襲撃のために既に動き始めていたので、彼のこの予想は正しかった事になる。


 見張りの兵士達は十分に警戒していた。

 彼らは昼間の戦いで、亜人達の手強さと勇敢さを思い知らされていた。

 しかし、彼らは誰も気付いていなかった。

 村の外を警戒する兵士達。その足元で――松明の明かりの届かない深い堀の中で――黒々とした闇が、音も無く静かに動いていたのである。




 兵士達が食事を終え、かがり火の明かりが夜の闇を照らし始めた宵の口の事。

 亜人の村の一件の家で、ちょっとしたボヤ騒ぎが起った。

 この時、”五つ刃””不死の”ロビーダは村の中を警戒していた。

 彼はいち早く現場に到着したが、その時には既に火は消し止められていた。


「何があった?」

「そ、それが・・・その・・・」


 火事を起こした者達は、気まずそうに彼から目を反らして口ごもった。

 彼らの赤い顔。そして酒の匂いから、ロビーダは大まかな事情を察した。


「酒を持ち込んで騒いでいたのか」


 作戦中に勝手に酒を持ち込む事は禁止されている。ましてや今夜は敵の襲撃が予想されている。

 指揮官のコロセオからの命令で、装備を着たまま寝るようにと言われている程である。

 ちなみにロビーダも、コロセオのこの判断は正しいと考えていた。

 しかし、そんな中でも「酒が無ければ寝られない」等と言って、飲酒が止められない者達はいるのだ。

 男達は慌ててかぶりを振った。


「そ、そんな! 騒いでいたなんて! ちょっとした不注意なんです!」

「そうなんです! まさか、亜人達は屋根裏にワラを保存するなんて、知らなかったもので!」

「――どういう事だ?」


 話によると、彼らは家の中で五~六人でコッソリ酒を回し飲みしていたそうだ。

 決して泥酔する程の量では無く、周囲にバレない程度の少量だったという。

 その際に、一人が誤って明かりの火を倒してしまった。

 パッと火の粉が舞い上がると、その一部が天井に到達。天井裏に山積みになっていたワラ束に火をつけ、燃え上がったんだそうだ。


 男達の話を聞いたロビーダは眉間にしわを寄せた。


「ワラ束だと?」

「はい。あの、見て頂ければ分かります」


 男達に案内され、ロビーダは家に入った。

 この時、半透明の塊が家の上をフヨフヨと漂っていた事に気付いた者は誰もいなかった。




 男達は明かりを手にロビーダを家の中に案内した。

 火は失火してすぐに消し止められたらしく、床には煤が落ちているものの柱までは焼けていない。

 男が明かりを上に掲げると、確かに天井は黒くすすけている。


「火はすぐに消し止めましたが、天井裏にはまだ焼け残ったワラ束が大量に残っています」

「貸せ」


 ロビーダは男の手から明かりを奪うと、口にくわえてジャンプ。

 天井の柱を掴むと、懸垂の要領で自分の体を引き上げた。


「これは・・・」


 男の言ったように、確かに天井裏はワラ束が大量に詰め込まれていた。

 亜人達はなぜ、こんな場所にワラを保存していたのだろうか?

 そして、たまたまこの家だけが天井裏にワラ束を保存していたのだろうか?

 あるいは、村の家は全て天井裏にワラ束が積まれているのかもしれない。

 そこまで考えた時、ロビーダは、ハッとその理由に思い当たった。


「――まさか、女王の狙いは!」


 その時、外の兵士達が騒ぎ始めた。

 ロビーダは天井裏から飛び降りると、兵士達を怒鳴りつけた。


「くそっ! 全員家から離れろ! これは女王クロコパトラの仕掛けた罠だ! ここにいると全員焼け死ぬぞ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 私達クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)のメンバーは、闇の中、密かに亜人村に接近していた。

 ようやく村が見えて、これから敵の見張りの位置の確認――というタイミングで、首から下げた通信機がブルブルと震えた。ピンククラゲ水母(すいぼ)からの緊急連絡だ。


『こちらクロ子。どうぞ』

村で失火発生(ボヤ騒ぎあり)。推測。罠露呈(バレたっぽい)


 シット! ちくしょう!

 先行して偵察してもらっていた水母(すいぼ)の説明によると、村でボヤ騒ぎがあったらしい。

 火元は私が天井に仕込んでおいた大量のワラ束。

 どうやら、火口(ほくち)として準備していた乾いたワラの存在が、敵にバレてしまったようだ。


 全身傷だらけの大男、第一分隊隊長のカルネが私に尋ねた。


「どうするクロ子。中止にするか?」

「――やるわ。全員、急いで持ち場について!」


 迷っている時間は無い。私は即座に決断した。

 奇襲ではなく、強襲になるが仕方がない。いや、まだ敵にこちらの動きが知られた訳ではない。急いで行動に移せば間に合うはずだ。

 今では五十人程に減ってしまった隊員達が、暗闇の中、一斉に走り出した。

 この場所を担当するのは第一分隊。カルネの分隊だ。


『カルネ。私が飛び込んだらすぐに騒ぎになる。だけど――』

「分かってる。焦って飛び出すなって言うんだろ。ちゃんと作戦くらい分かっているさ」


 なにそのドヤ顔。あんたは猪突猛進の猪武者じゃん。

 まあ、他の隊員達が「カルネの事は俺達に任せとけ」って顔をしてるから信じるけどさ。


水母(すいぼ)! 今から作戦を開始する! あんたは予定通りに村で待機! いくぞ、EX最大打撃(パイルハンマ)!』


◇◇◇◇◇◇◇◇


 見張り兵達は土塁の上、周囲を警戒していた。

 先程は村の中が何やら騒がしかったようだが、今はもう収まっている。

 大方、血の気の多い兵士がケンカでもしたのだろう。

 そんな事を考えていると、ふと足元に振動を感じた。


「ん? 何だ? ――うわああああああっ!」


 ドザザザザーッ


 突然、足元が崩れたかと思うと、大量の土が覆いかぶさって来た。

 見張りの兵士は危うく生き埋めになりそうになりながら、慌ててはい出した。

 かがり火が倒れ、周囲が闇に包まれる。

 暗闇の中、彼は恐怖に血走った目で周囲を見回した。


「何だ?! 何が起こったんだ?! 土塁が崩れたのか?!」

「み、見ろ! 空だ! 空に大きな岩が浮いているぞ!」


 周囲の兵士達が騒ぐ声が聞こえた。

 驚いて空を見上げれば、月明かりの中、巨大な岩が宙に浮かんでいるのが見えた。


「なっ・・・こ、これは女王クロコパトラの魔法?!」


 兵士達の体は恐怖のあまり硬直した。間違いない。これはあの日、戦場で見た光景だ。

 空に浮かんだ岩は十個。

 村を囲んだ土塁はあちこちが大きく崩れている。

 どうやらこの岩は土塁の基礎として、土の中に埋め込まれていたようだ。

 兵士達が見つめる中、岩はゆっくりと村へと動いて行った。 


「こ、こっちに来るぞ!」

「ひいいいっ! に、逃げろ!」


 岩の進行方向の兵士達が、算を乱して逃げ惑う。

 必死に逃げる兵士達の目の前で、十個の岩は次々と落下した。


 ズシン。ズシン。ズシン・・・バキバキバキ


 半分ほどの岩は何も無い道に落ちたが、いくつかの岩は着地点にあった家を砕きながら落下した。

 幸い、どの家にも人はいなかったようだ。全員、外の騒ぎに驚いて、家を飛び出していたようである。

 家の中の明かりが消え、暗くなった――と、思った途端、パチパチと乾いた音と共に火が燃えあがった。

 どうやら倒れた明かりが建物に――屋根裏に大量に積まれたワラ束に――燃え移ったようだ。


「うわああああっ!」

「ひいいいいいっ!」

「何をしている! 急いで火を消せ!」


 隊長らしき男が、消火作業を命じているが、恐怖で混乱した兵士達は聞く耳を持たない。

 そうこうしているうちに、あちこちの家から火の手が上がる。

 もし、ここに落ち着いて周囲を見回している者がいれば、屋根の上を駆け抜ける黒い子豚がいた事に気付いただろう。

 子豚は家の屋根を飛び移りながら、『EX点火(イグナイト)!』。魔法で火を付けて回っていた。


「落ち着け! むやみに騒ぐな!」

「もう空に岩はない! 落ち着いて消火に取り掛かれ!」


 騒ぎの中、鎧の一団が現れると兵士達を一喝した。

 指揮官の”五つ刃””双極星”ペローナ・コロセオと、彼の部下達である。

 コロセオは怯える兵士達に問いただした。


「敵の襲撃か! 敵はどこにいる?! この中に敵の姿を見た者はいないのか?!」


 兵士達は互いに顔を見合わせるばかりで何も言えない。

 敵襲も何も、誰も亜人一人見ていないからである。


「ならこの騒ぎは何だ?! 一体誰の仕業だ?!」


 まさかこのコロセオの言葉に答えたのだろうか。

 この時、不気味な声が村に響き渡った。

次回「メス豚と炎の亜人村」

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