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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第六章 メラサニ山の戦い編
208/518

その206 メス豚、退却命令を出す

 かつて私が水母(すいぼ)の施設で戦った角の生えた生物達。

 正確に言えば、水母(すいぼ)によって角を移植された生き物達、だが。

 その中の一匹――角イタチが使用した魔法。それはまるでスタングレネードのような魔法だった。


 スタングレネードとは、炸裂と共に大きな爆発音と強烈な閃光を放つ、非殺傷性の兵器の事を言う。

 怪我をさせずに犯人を麻痺させるために開発された兵器で、人質の救出や暴徒鎮圧、対テロなどの牽制制圧に用いられるそうだ。


 角イタチが使ったスタングレネードの魔法は非常に強力だった。

 ただし、欠陥魔法でさえなければ。だ。

 そう。この魔法は必ず使用者も巻き込まれる、自爆必至の特攻魔法だったのである。


 しかし、魔法それ自体はシンプルかつ、効果も非常に魅力的なものだった。

 私はこの魔法を解析。圧縮(コッキング)という新たな魔法を作り出した。

 その製作過程で生まれたのが、今回、私が使った”猫だまし(フラッシュ)”の魔法なのである。




『コイツで決める! 猫だまし(フラッシュ)!』


 魔法を発動した瞬間。私はギュッと目を閉じた。

 音も無く、熱も無く、唐突に空間の一点が閃光を発する。

 まぶた越しに太陽を見た時のような、白い光が溢れる。

 光は一秒にも満たないほんの一瞬で消滅した。

 それで終わり。私は目を開けた。


 ギャリン!


 うおっ!

 その途端、金属がこすれる甲高い音と共に、目の前に火花が散った。

 直後にゴッツイ槍の刀身が私の体をかすめる。危なっ!


 バツン! ビシッ!


 視界の片隅に、黒い影が高速でぶっ飛んで行くのが映った。


「うわああああっ!」

「ぎゃああああっ!」


 兵士達の悲鳴が上がる。

 何だ? 何が起きた?


 猫だまし(フラッシュ)の魔法は、その名の通り、猫だまし――目くらましの魔法である。

 角イタチのスタングレネードの魔法から、発光する部分だけを再現した魔法となる。

 カメラのフラッシュを想像して貰えばいいかもしれない。

 ちなみに、光量自体は、カメラのフラッシュよりもずっと小さいと思う。

 この魔法では、これ以上光を強くすると安定しないのだ。不安定過ぎて、極み(EX)化も出来ない程である。

 本当に目くらまし程度にしか使えない、不完全な魔法なのだ。

 しかし、音も無く、光量も抑えられたおかげで、こちらが自爆する心配はほとんど無くなった。

 あ。閃光を直接見たら別だぞ。いくら私でも流石にそんなマヌケな事はしないが。


 ちなみにこの時は、こんな事をのんびり考えているヒマはなかった。


 目の前には槍を突き出した姿のまま、顔を背けている敵の指揮官。

 閃光を直視してしまったのだろう。顔を大きく歪め、目を閉じている。

 完全に流星鎚(ブラッディ・スピナー)の攻撃範囲だ。

 しかし、さっきまでうなりを上げて私の周囲を旋回していた流星鎚(ブラッディ・スピナー)の姿が無い。

 どうやら、敵指揮官の攻撃は、猫だまし(フラッシュ)の魔法で狙いが逸れ、流星鎚(ブラッディ・スピナー)を両断してしまったようだ。


 破壊された流星鎚(ブラッディ・スピナー)は、その勢いのままぶっ飛び、野次馬達の中に飛び込んだ。

 さっき私の視界の隅をかすめたアレは、流星鎚(ブラッディ・スピナー)の残骸のようだ。

 そしてあの悲鳴は、被害にあった兵士達のものだったのである。


 ――といった事情を、私は瞬時に理解した。

 流星鎚(ブラッディ・スピナー)という武器は失ったものの、敵の視力はまだ回復していない。

 今がチャンスだ。

 ここでこの戦いを終わらせる。


最も危険な銃弾(エクスプローダー)!』


 私の前方の空気が渦を巻き、必殺の弾丸が生み出される。

 外すような距離でもなければ、躱されるような状況でもない。


 取った!


 私は勝利を確信した。


魔力障壁(ばりやー)


 だから、私の背中のピンククラゲが何をしたのか、咄嗟に理解出来なかった。


 ガキン!


 金属音がして、黒い何かが地面にポトリと落ちた。

 鋭利な刃物。ナイフ――いや、クナイか。刃の部分が変色している事から、何かしらの毒物が塗られているのが分かる。

 そう。どこからか、毒クナイが飛んで来たのだ。

 私は慌てて振り返った。


 アイツか!


 全身黒ずくめの男が、次のクナイを手に立っていた。

 この一ヶ月の間、私の仕掛けた罠をことごとく見破って来た、あの忍者野郎。敵の手強い指揮官だ。

 私はカッと頭に血が上った。

 コイツは一体、どれだけ私の邪魔をすれば気が済むんだ。


 水母(すいぼ)のピンククラゲボディーは、高性能な観測機器の集合体である。

 彼は飛んでくるクナイを察知し、瞬時に障壁を張って敵の攻撃から私の身を守ってくれたのである。


 くそっ! 私はマヌケか!


 元々私は、敵が正々堂々、一対一(タイマン)で勝負して来るなどとは考えてもいなかった。

 越前国の戦国武将、朝倉宗滴も「大将というものは、犬と言われようが、畜生と言われようが、 勝つことこそが最も大事」という言葉を残している。

 戦争というのは勝たなければ意味は無い。勝てば官軍。勝った者こそが正しいのである。

 私は、絶対に勝負の最中に横やりが入るだろう、と考えていた。

 しかし、思わぬ苦戦を強いられた事で、いつの間にか私の頭からは、目の前の強敵以外の存在がスッポリと抜け落ちていたようだ。


「くっ! 何だ今の光は?!」


 ちいっ。髭モジャが視力を取り戻したか。

 猫だまし(フラッシュ)の魔法の光は大して強くはない。夜ならまだしも、昼間にはそれほどの効果はないのだろう。


 この髭モジャ(強敵)に加えて、忍者野郎も一緒に相手にするのは自殺行為だ。

 悔しいがこの場は退くしかない。

 私は大きく飛び退きながら、首に下げた通信機に向かって叫んだ。


『クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)! 全軍退却! 現在の持ち場を即座に放棄して、全員村から脱出! 負傷者は近くの者がカバーする事! 急いで!』


 敵指揮官との勝負は引き分け。だが、あと一歩。あとほんの一~二数秒あれば、必殺の魔法をお見舞いしていたはずだった。

 私は諦めも悪く、憎っくき忍者野郎を睨み付けた。

 あそこでコイツさえしゃしゃり出て来なければ、上手くいったのに。


 イタリアのギャングは、ブッ殺すという言葉を使う必要がないという。

 ブッ殺すという言葉を頭に思い浮かべた時には、もうすでに終わってる――相手を殺した後なんだそうだ。バトルアニメで得た知識だけど。


 ギャングはブッ殺すという言葉を使わない。だが、私はあえて言おう。


『次に会った時、必ずお前をブッ殺す』


 これは負け惜しみなんかじゃない。決意表明みたいなものだ。

 私は踵を返すとこの場から逃げ出した。

 やっぱりチンピラの負け惜しみにしか聞こえないって? うっさいわ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 魔獣は風のように走り去って行った。

 コロセオは青ざめた顔で槍を構えていたが、魔獣が戻って来ない事が分かると、大きく息を吐いて肩から力を抜いた。

 そして彼は憮然とした表情で、同僚を――”五つ刃””不死の”ロビーダを――睨み付けた。


「不死の。お前に助太刀を頼んだ覚えはねえぞ」


 助けて貰っておきながら随分なもの言いだが、付き合いの長いロビーダには、コロセオが強がっているのが丸分かりだった。

 コロセオ程の達人が、自分が九死に一生を得た事に気付いていないはずはない。

 だが、今ここでその点を指摘した所で、コロセオは絶対に認めようとはしないだろう。

 指揮官として、そして彼自身のプライドが、素直に負けを認めさせないのである。


(バカげた意地だ)


 ロビーダは内心でため息をついた。

 彼は、一時の勝ち負けなどどうでもいい、という考えだった。どんな手段を使おうが死ななければ良いのだ。

 生きてさえいれば、何度だって再戦出来るし、最終的に相手を殺せば勝ちになる。

 そういう意味では、勝ち目がないと分かった途端、素早く逃げ出した魔獣の方が、まだロビーダにとって共感できる相手であった。

 

(同僚よりも獣の方に共感出来るというのも、我ながらどうかと思うが)


 ロビーダは気持ちを顔に出さないようにしながら、コロセオに返事を返した。


「そうか、スマン。後方で休憩を終えて戻って来た所で、丁度、魔獣の姿を見つけたものでな。咄嗟に攻撃してしまったんだ」


 ロビーダはサラリと嘘をついた。実は彼が戻って来たのはコロセオが魔獣に――クロ子に戦いを挑んだその時だった。

 つまり、事の最初からずっと見ていたのだ。

 とはいえ、彼も本当に魔獣がコロセオの挑戦を受けるとは思っていなかった。

 意外な展開に興味を持って、ジッと見ているうちにコロセオがピンチになり、つい手を出してしまったのである。


「・・・邪魔するつもりがなかったんなら、別に謝る必要はねえ」


 コロセオはロビーダの性格を良く知っている。十中八九、口からの出まかせだと思いながらも、ここは彼の噓に乗る事にしたようだ。

 ロビーダはもうコロセオを見ていない。クロ子の去って行った方向をジッと見ていた。

 

「それでコロセオ。どうするんだ?」

「勿論、逃がすつもりはない。――が、ずっと攻めっぱなしで負傷者も出ている。一度引いて部隊を再編成し直す事にする」


 明らかに自分の疲れを誤魔化すための詭弁だったが、兵士達に攻め疲れが見えているのも事実だった。

 後退の角笛が吹き鳴らされると、兵士達は後方に下がり、休憩と簡単なケガの治療を行うのだった。


 約三十分後。彼らは部隊の再編成を終えると、第二次攻撃を開始した。

 そして彼らは何の抵抗も受ける事無く、亜人の村への突入に成功した。


 村には誰の姿も無かった。

 亜人達は村を捨てて逃げ出していたのである。

次回「メス豚、行動を開始する」

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― 新着の感想 ―
[一言] 威力を下げた魔法を複数同時発射すれば瞬殺なのでは?
[良い点] クロ子∶太陽拳! 水母∶著作権的にその名前はちょっと… …という冗談はさておきクロ子がここまで苦戦させられるとはね… [気になる点] 彼らはクロ子と女王が同時に攻撃をしかけてこないこ…
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