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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第六章 メラサニ山の戦い編
195/518

その193 メス豚、自分の立場を知る

 さて。今回の防衛戦の準備を開始するにあたって、私はピンククラゲ水母(すいぼ)をアドバイザーに任命、敵軍の動きの予測をして貰った。

 大勢の人間が移動、長期滞在するとなれば、適当な空き地でOK、というわけにはいかない。

 そこには効率的な計画が求められる。コンピューターの水母(すいぼ)なら、むしろそういった理詰めの計算は得意なんじゃないかと思ったのだ。

 

 そんなわけで私は水母(すいぼ)が立てた、敵軍の移動予想を元に、地形を利用したいくつかの罠を考えた。

 結構、ノリノリだったのはここだけの秘密である。いやね、前世ではタワーディフェンスもののゲームにハマっていた時期もあったんだよ。


 私の考案した罠は、基本的には亜人達でも作れる物ばかりだったが、一つだけ、水母(すいぼ)の持っている前人類の技術――魔法科学文明の技術――を利用した物があった。

 それが今回使った落とし穴である。


 落とし穴、とは言ったが、実は穴じゃない。ただの窪地だ。

 その窪地に蓋をするように板で屋根を作って、落とし穴として使えるようにしたのである。

 蓋の建材自体は普通の木の柱と板。それらを組み合わせたものとなる。その組み立てに使った品が前人類の技術によって生み出された物という訳だ。

 その品物とは接着剤。

 しかもただの接着剤ではない。普通の接着剤と同じように乾くと固まるが、なんと魔力を流すと接着力が弱くなるという、優れものの接着剤だったのだ。


 私と水母(すいぼ)の会話を聞いて、村長代理のモーナが不思議そうに首を傾げた。


「接着剤として強力なのは分かったけど、魔力に反応して接着が剥がれる部分は、むしろ邪魔になるんじゃない? そんなの本当に役に立つの?」


 モーナの言いたい事は分かる。例えばこの接着剤を使って家を建てたとしよう。誰かがイタズラで魔力を流したら、途端に倒壊してしまうのだ。

 そんな危ない家には誰も住みたくないに違いない。少なくとも私はイヤだ。


「イタズラじゃなくても、小さな子供がうっかり魔力を暴走させてしまう、なんてことは割と良くあるし。その度にこの接着剤を使った物がバラバラになっていたら困るんじゃないかしら?」

 

 そうかもしれない。でも、分かってない。分かってないよモーナ。

 私は鼻息も荒く彼女に説明した。


『あのねモーナ。これはね、ロマンなんだよ。魔法科学の生み出したロマン。研究者達が「俺、こんな性質を持つ物質を見つけちゃったぜ、これって凄くね?」「マジかよ! だったらこんな物を作ってみようぜ!」「お前天才かよ!」等々。きっとそういったやり取りがあって生まれた物なんだよ。研究者のロマンの結晶なんだよ』

完全否定(そんな訳ない)


 水母(すいぼ)はヒョロリと触手を伸ばすと、ヤレヤレのポーズをとった。

 なによ水母(すいぼ)。あんたも私のロマンを否定するわけ?


 ちなみに水母(すいぼ)の説明によると、この接着剤は部品の仮止めに使う物らしい。これで仮止めをしておいて、その後でネジ穴なりなんなりを開けて、パーツをしっかり固定するんだそうな。

 だったら普通の接着剤でいいだろうって? それだと二度と分解出来なくなるからダメとの事だ。


『なんだつまらん』

「ていうか、研究者ってそんな人達なの?」


 いや、知らんけど。

 けど、漫画や映画に出て来る研究者や科学者って、大抵、エキセントリックなキャラじゃない? 何かもの凄い発明をしたら、世界を征服せずにはいられなくなるような、そんなブッ飛んだ人種っていうか。(※個人の感想です)

 もちろん、現実は真面目な研究者が多いと思うけど、創作物であの手のキャラが良く出て来るって事は、やっぱり一定数はそういった人達がいるって事になるんじゃないかな?


意味不明(何言ってんの?)

「う~ん。今回はスイボちゃんに同意かな」


 私は二人に呆れられてしまったのだった――って、何の話をしてるんだ私は。そうそう。そのロマン接着剤の話な。

 私は水母(すいぼ)に頼んで、そのロマン接着剤を大量に作ってもらい、落とし穴の蓋を組み立てたのだ。

 破壊力を出すために、穴の底には尖った石を撒いておくのも忘れずに。

 最後に蓋の表面には分厚く土を盛って、カモフラージュしてもらった。

 後は敵軍が落とし穴を通過するタイミングで魔力を流せば、木材がバラバラになって敵は奈落の底(いや、元が自然の窪地なので、一番落差のある個所でもたかだか二~三メートルなのだが)へと転落するという仕組みである。




 といった訳で実戦スタート。私はいい感じに敵軍が通った所で、罠に魔力を流した。


『EX成造マニュファクチャリングソイル!』


 魔法は何でもいいが、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の隊員達も見ているので、彼らに練習させている成造マニュファクチャリングの魔法にした。

 私もこの魔法で随分と鍛えられたし、単純だが技術力の差が出る、寿司職人にとっての卵焼きのような魔法なのだ。


「す、すげえ」


 おっ。その思わず漏れた賞賛の呟き。私の耳は聞き逃さなかったぞ。

 私の耳は豚の耳。褒め言葉と悪口には特に敏感なのだ。

 今の声には聞き覚えがある。クロカンの小隊長、魔法使いハリィだな。

 彼は人一倍、魔力を感知する力に優れている。かつては私が使っている風の鎧(ヴォーテックス)の魔法を見抜き、教えを請いにやって来た事もある程だ。


 EX化した成造マニュファクチャリングソイルの魔法によって、兵士達の足元の土がズルリと動いた。

 それと同時に落とし穴の蓋に魔力が流れ、接着剤の力が無くなり――ドドドドドドッ。

 派手な轟音と共に、大きな土煙を上げながら地面が陥没した。


「うわああああっ!」

「ぐあっ! 足が! 足が折れた!」

「か、体が埋まる! た、助けて!」

「ひいいいいいっ!」


 よし。大成功。

 巻き込まれた兵士の数は、ざっと四~五十人といった所か。

 敵に与えた被害としては、さっきの丸太の罠の方が断然多い訳か。まあ、こっちは心理的なダメージも期待しているからな。贅沢は言うまい。


「なあ、クロ子。敵は十分に混乱してるし、今ならお前の魔法でヤツらを倒せるんじゃないか?」


 むむっ。副官のウンタが、何だか魅力的な提案をして来たぞ。


「そうそう。あの岩を落とす魔法なら、敵のヤツらを押しつぶせるんじゃないか?」

「そんな魔法があるのか?」

「ああ。家みたいにデカイ岩を空に浮かせるんだよ。あれはたまげるぜ」


 隊員達も口々に私をそそのかし始めた。

 どうしよう。いっそこの場は、そそのかされちゃおうかな。

 ・・・・・・。


『――いや。今回は止めておくわ』

「そうか。ならいい」


 うぉい! あっさり引き下がってんじゃないよ!

 普通は、もう少し残念そうにするとか、「そう言わずに是非」「いやいや、無理だから」「ほんの少しだけ。先っちょだけでも」「・・・そ、そう? まあ、あんたがそこまでお願いするなら」みたいなやり取りがあるもんじゃない?!

 あれか? 駆け引きか? 押してもダメなら引いてみたのか?

 チクショウ。上手い事やりやがって。ちょっとだけその気になっちゃったじゃない。


「何言ってんだ?」

「クロ子が止めておいた方がいいと判断したのなら、俺達がどうこう言うような事じゃないだろう」

「ああ、そうだな」


 ウンタ達は当たり前のように言い放った。

 他の隊員達からも全く不満の声は上がらなかった。


 えっ? 何で?


 この瞬間、私は頭から冷水を浴びせられたような気がした。

 彼らは私の判断に一切の疑問を覚えない。

 軍隊としては――指揮官と部下としては理想的な関係かもしれないけど、これって本当に大丈夫なんだろうか?


 私は半年ちょっと前までは、日本の女子高生だった。

 戦争どころか、ケンカだってした事が無い。スクールカーストで言えば二軍の、極々普通の冴えない女子だった。

 自分では先頭に立たず、一軍の子らの後ろに付いて行く。私はそんな、その他大勢のモブキャラの一人でしかなかったはずである。

 今でこそ成り行きでみんなを指揮して戦っているが、本来ならばそんな立場にいていいような人間じゃないのだ。


 ヤバい。何か分からないけど、これってヤバい。


 今後は考えて行動しないと――いやまあ、今までもちゃんと考えてたつもりなんだけど――そう、あれだ、より慎重に考えて行動をしないとダメだ。

 みんなの命を預かる覚悟は決めてたはずだけど、そういうのじゃない。もっと根本的に考え直さないとダメなヤツだ。


 後で落ち着いて考えてみると、私は心のどこかで、まだ小隊員達の事を”仲間”だと思っていたのだろう。私は全員の代表。スポーツで言えばキャプテン。そんな風に思っていたのだ。

 しかし、いつの間にか私は亜人達の代表となる村長の上、指導者となっていたようだ。

 キャプテンのつもりでいたら実は監督だった。どうやらそんな感じだったらしい。

 キャプテンと監督では、おのずと任される役割が異なって来る。

 キャプテンは先頭に立ってみんなを引っ張って行けばいいが、監督はチームを俯瞰で捉え、自らが理想とする方向に導いていかなければならない。


 果たして私なんかに、そんな事が出来るだろうか?


 今後、私は大きな壁に直面する事になるだろう。――が、この時の私は、底の見えない深淵の縁に立たされたような不安にただただ混乱するだけであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 クロ子の仕掛けた落とし穴の罠にかかった敵兵の数は四十六人。

 死者はゼロ。

 歩けない程の重症を負った者はたったの三人に過ぎなかった。

 丸太の罠の時とは比べ物にならない程、軽微な被害に終わったが、仇討ち隊の兵士に与えた心理的な影響は計り知れなかった。


 被害現場が見通しの良い場所だったため、多くの兵士が、仲間が罠にかかった瞬間を目撃してしまったのである。

 腹に響く轟音と共に何十人もの人間が生きながら大地に飲み込まれるショッキングな映像は、彼らの心に強い恐怖を植え付けた。


 しかもこれは、踏んだら抜けるような普通の落とし穴ではない。

 つい先ほどまで、大勢の兵士が何事も無く歩いていた地面が、何の前触れもなく突然抜け落ちたのだ。


 自分達が立つ地面が信用出来ない。


 空を飛べない人間にとって、これ程恐ろしいものはないだろう。

 これ以降、兵士達は過剰に罠を警戒するあまり、歩きやすい開けた場所を避けるようになってしまった。

 そうなってしまうと当然、普通の場所を歩くよりも疲労は増すし、神経もすり減らしてしまう。集中力が落ちれば、つまらないミスでケガをする者も続出してしまう。


 こうして落とし穴の罠は、まるでボディーブローのように、じわじわと彼らの体力を奪っていく事になるのだった。

次回「メス豚、挑発される」

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