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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
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その178 ~ブラマニ川の戦い・決着~

 話は数日前に遡る。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここはアロルド辺境伯の領地との境となる川。ブラマニ川。

 その東西の両岸では、大モルト軍の本隊とサンキーニ王国軍とが、互いに陣を敷いて睨み合っていた。


 大モルト軍三万六千に対し、サンキーニ王国軍二万八千。

 戦力の上では大モルト軍が優勢だが、絶対的な差とは言えない。

 攻め勝つ事が勝利条件の大モルト軍に対し、サンキーニ王国軍はこの地を守り切れば良いのである。

 そういった意味では、サンキーニ側が有利とも言えた。


 サンキーニ王国軍を指揮するのは、国王バルバトス。

 四賢侯の一人に数えられる名君にして名将。

 彼が選んだ作戦は、川という地形を利用した”漸減(ぜんげん)作戦”であった。

 敵を順次、こちら岸に渡らせ、局地的に数的優位を作り出した状態で叩く、という策である。


 戦いが始まって既に半月が経過していた。

 大モルト軍はどうにかして川を越えようとするが、王国軍はそのことごとくを返り討ちにしている。

 しかし大モルト軍は、粘り強く攻撃を続けた。

 その効果と言ってもいいのだろうか? 国王は疲労の蓄積で体調を崩し、前線で指揮が執れなくなっていた。


「陛下。どうかここは我々に任せて、お体を大事にして下さい」

「しかし今、私がここを離れては――いや、分かった。皆の言葉に従おう」


 国王は彼の体を心配する将軍達の勧めで、しばらく後方に下がって養生する事になった。

 国王は「自分がこの場を離れて大丈夫か?」という不安があったが、前線にいても病で倒れて指揮が執れないのでは同じ事となる。

 彼は不安を抱えながらも、今は体を休める事を優先して、一日でも早く前線に復帰する事に決めた。

 結論から言えば、この時の彼の不安は的中する事となる。




 国王が後方に下がって直ぐに、王国軍では部隊間の連携が乱れ始めた。

 絶対の指揮官のいない今、指揮官達が個別に敵に対応するようになっていたためである。

 漸減(ぜんげん)作戦で重要なのは、攻め時と引き時である。

 攻め時を失うと敵に攻め込まれ、引き時を失うとズルズルと乱戦に引き込まれる。

 大モルト軍も当然、この弱点には気付いていた。

 彼らは手を変え品を変え、ずっと揺さぶりを掛け続けて来たが、国王バルバトスは水も漏らさぬ巧みな指揮で、敵に微塵も付け入る隙を与えなかった。

 その鉄壁の防衛線が、今、崩れようとしていた。


 崩壊のきっかけを作ったのは、王国軍に吸収されたアロルド辺境伯の残党軍だった。

 アロルド城が落とされ、再起を誓って脱出した彼らは、東に逃れた所で王国軍と合流。

 そのまま国王バルバトスの指揮下に入っていた。

 とはいえ、元々彼らは辺境伯の軍――独立性の強い部隊だ。国王バルバトスの目が光っている間は大人しく従っていたが、彼が目が届かなくなった途端、行動に歯止めが利かなくなってしまった。


「敵は逃げ出したぞ! 追え! 我らの領地を荒らしたヤツらを許すな! アロルド様の仇を討つんだ!」


 彼らは敵軍の後退に引っ張られる形で、ブラマニ川へと突撃した。


「いかん! あれはどこの部隊だ?! このまま深追いすれば対岸の敵から狙い撃ちにされるぞ!」


 将軍達が気付いた時には遅かった。

 アロルド辺境伯軍の突撃は、川の半ばで水に足を取られて鈍ってしまった。

 対岸の大モルト軍は、しめたとばかりに一斉に矢を射かけた。

 冷たい水の中にバタバタと倒れる辺境伯軍の兵士達。ここで遅れて、前線の兵士達も川に足を踏み入れてしまった。

 戦場(いくさば)の兵士は、限られた狭い範囲の情報しか見えていない。

 味方が突撃したのを見て、遅れないように自分達も前に出てしまったのである。


「しまった! ダメだ! よせ! 後退しろ!」


 事態に気付いた将軍達が慌てて後退を指示したが、時すでに遅し。

 何日も粘り強く相手の隙を伺っていた大モルト軍の指揮官が、みすみすこの好機を見逃すはずはなかった。


 すぐさま敵の突撃が始まった。

 怒涛ごとく押し寄せる大モルト軍に、装備も練度も劣る王国軍はなすすべがなかった。

 王国軍はまたたく間に押し込まれていった。


「後退するな! 耐えろ! 押し返すんだ!」


 後退しろという命令が最前線に届いた時には、今度は後退するなという命令が出される始末。

 王国の将軍達は、急激な戦況の推移に付いて行けず、場当たり的な指示を出す事しか出来なかった。


「陛下を! 大至急バルバトス陛下をお呼びしろ! 陛下でなければ、この混乱を治める事は出来ない!」

「わ、分かりました!」


 こうして病床の国王が、急遽、前線に呼び戻される事になった。

 しかし、この判断が国王の運命を決めてしまうのである。



 一度崩れた戦線は、容易には立て直す事は出来なかった。

 やがて敵の一軍が川から上がり、こちら岸に橋頭堡を築いた。

 こうなってからはあっという間だった。

 この半月の均衡は何だったのかと目を疑う程、大モルト軍は次々と攻め上がり、やがてはサンキーニ王国軍の陣地にまで届いた。


 なすすべなく青ざめる将軍達。

 しかし、本当に彼らが血の気を失うのはこの後だった。


 額から血を流した騎士が、血相を変えて本陣に駆け込んで来た。


「た、大変です! 陛下が! 陛下が敵に捕らわれました!」

「なっ! そんなバカな!」




 全てはタイミングと言う他はない。

 後方から本陣に移動中の国王バルバトスの馬車が、突出していた敵の部隊と鉢合わせをしてしまったのだ。

 サンキーニ王国軍にとっての不運は、大モルト軍にとっての幸運だった。

 激しい戦いの末、大モルト軍は馬車の護衛をことごとく打ち倒し、国王の身柄を確保した。


 ここに戦いの帰趨(きすう)は決した。


 大モルト軍は次々と渡河を果たし、次第に王国軍を押し込んでいる。

 国王は捕らわれ、野戦でも負けようとしている。

 実際に一部の貴族家は戦いを放棄、既に敗走に移っていた。

 ここからの逆転はあり得ない。


「こ・・・後退しろ。陛下が療養されていた後方の陣まで後退するのだ」


 このまま戦いを続けていても、戦死者が増えるだけである。

 事ここに至って、ようやく将軍達は後退を決断した。

 大モルト軍からの追撃は無かった。

 全軍の渡河を優先させたためと思われるが、激しい戦いに案外、相手も追撃するような余裕が無かったのかもしれない。

 こうしてこの日の戦闘は、大モルト軍側の大勝利で終了した。


 翌日。大モルト軍からの使者がサンキーニ王国軍の陣地を訪れた。

 互いの使者の行き来があった後、その翌日には、陣地の外で直接話し合いの場が持たれた。

 ここで合意がなされ、王国軍は武器を捨て、大モルト軍へと下る事が決まった。


 サンキーニ王国軍の敗北である。


 この後、国王の書状を携えた使者が、別戦場で戦うイサロ王子の下へと出立した。

 そこには敗北の事実と、至急戦いを止めて投降するように、との命令が書かれていた。

 王子は国王の命令を受け、大モルト軍に投降する事を決定するのだった。


 こうしてサンキーニ王国は、大モルトの”新家”アレサンドロ、ジェルマン・アレサンドロによって滅ぼされたのである。

次回で第五章が終わりとなります。


次回「イサロ王子の投降」

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