その161 メス豚、やってしまう
”二つ矢”アッカムを狙ったウンタの射撃は、案の定当たらなかった。
そもそも、マニスお婆ちゃん作成の、”試製魔法銃・最初期型”は、集弾率が激渋なのだ。
ちなみに集弾率とは、銃を固定した状態で弾丸を複数発発射、最も遠い着弾点の中心どうしの距離から算出される値の事を言うそうだ。
ウンタは素早く空気取り入れ口を解放すると、銃口から次弾を装填した。
「・・・狙い良し」
「了解。――圧縮!」
パンッ!
乾いた音と共に、弾丸が発射される。
また外れだ。一応、さっきよりもターゲットに近付いている。のか? 着弾点が小さすぎて、よー分からん。
しかし、ウンタは何かしらの手応えを掴んだようだ。彼は弾丸を装填するのももどかしく、三度目の狙いを定めた。
その時、”二つ矢”アッカムがこちらに振り返った。どうやら二度の射撃で自分が狙われている事を察したようである
「狙い良し」
「了解。――圧縮!」
私が魔法を発動させたその瞬間。アッカムは背を向けた。
逃げられる!
いや、その体がグラリと崩れると、アッカムは枝から転落した。
「やった! 当たったぞ!」
「ざまあみろ!」
固唾を飲んで見守っていた兵士達から大きな歓声が上がった。
本当に当たったのか? 単に足を滑らせただけじゃ・・・いや、あの高さから落ちたんだ。どっちにしたって同じ事か。
「すごいです! クロコパトラ女王! この武器は一体どのような物なんですか?!」
ショタ坊が興奮に頬を染めて身を乗り出した。
男の子だからな。武器とか兵器とかに目が無いんだろう。
私はイタズラ心が頭を出し、ショタ坊を軽く煽る事にした。
「これは妾の秘密兵器じゃ」
「秘密兵器! おい、聞いたか! あれは女王の秘密兵器なんだと!」
「秘密兵器か! 凄いな! 亜人に伝わる特別な武器か何かだろうか?!」
「やっぱり秘密兵器か! そうじゃないかと思っていたんだよ!」
何だろう、ショタ坊より周囲の男達の方が食い付いてしまったんだが。
男はいくつになっても秘密兵器が大好き、という事だろうか? 女子の私には分からん感覚じゃわい。
浮かれる周囲を尻目に、ウンタは一人、真剣な表情でジッと木立の様子を窺っていたが、ハッと目を見開くと再び魔法銃を構えた。
「クロコパトラ女王! ヤツは死んでいない! このままだと逃げられる!」
私はウンタの声に慌てて”二つ矢”アッカムを捜した――が、ダメだ。一度目を切ってしまったせいで、どこに落下したのか分からない。くそっ。しくじった。
ウンタは既に魔法銃を構えているが、悪いが全く倒せる気がしない。そもそもさっきのも当たっていたのか?
こうしている間にもヤツに逃げられる。折角追い込んだというのに、ここで逃がしてしまえば水の泡だ。
ええい! だったら!
「私が直接やる! 水母、お願い!」
『待ってた』
「おい、クロコパトラ!」
私の指示を受けて、水母が魔力操作を行った。
フワリ。
「「「「おお~っ!!」」」」
兵士達の驚愕の声を背に、私を乗せた駕籠は宙に浮かんだのだった。
「おい、何だあれは!」
「駕籠? なんで駕籠が空を飛んでいるんだ?」
「おい、あの駕籠、見た事も無い女が乗っているぞ!」
私が移動するにつれ、戦場に大きなざわめきが広がった。
おおう。コイツは予想外に目立っちまったぜい。
あっ。指揮官の元優男君が「女王! 何をしているんですか?!」と慌てている。
すまぬすまぬ。許してたもれ。いや、マジで勢いで行動するもんじゃねえな。反省。
『現着報告』
おっと、私が空から戦場を見渡している間に、”二つ矢”アッカムの所に到着していたようだ。
見下ろすと、満身創痍、大小傷だらけの男が呆けた顔でこちらを見上げている。
コイツが”二つ矢”アッカムなのか?
どうやら水母は、ちゃんとアッカムの落下地点を把握していたらしく、最短ルートで私をこの場所まで運んでくれたらしい。
さすが高性能センサーの集合体。相変わらず頼りになる存在ですわ。
「ありがとね。水母」
『謝礼無用』
クールに返事をしながらも、ピンククラゲボディーが満足そうにフルリと震えたのを私は見逃さなかった。
まあ、わざわざ指摘する程野暮じゃないけどな。
”二つ矢”アッカムが、私を見上げながら呆然と呟いた。
「――何で女が」
おっと、先ずはコイツを始末しとかないと。
手負いのまま逃がしてしまうのが一番マズイ。
こういう時、私は結構やってしまいがちだからな。ここは確実に止めを刺す。
私は頭の四本の角に魔力を集中。魔法を極み化させた。
「EX最も危険な銃弾」
強化された不可視の弾丸は、アッカムの胸部に着弾。大きな破裂音と共に彼の上半身を消し飛ばした。
うおっ! グロッ! EX化した最も危険な銃弾を人間に向けて発射したらこうなるのか。
うへえ・・・失敗したぜ。
私としては確実を期したつもりだったが、どうやら完全なオーバーキルだったようだ。
「ううっ・・・上手くいっても失敗しても、結局、私はやってしまう訳ね」
『別に問題無し』
いいわけないし。
私はいたたまれなくなってアッカムの下半分から目を反らした。
すると、こちらを見上げる五十人程の赤鎧の集団と目が合った。
「何だろう、何だか手強そうなヤツらね。折角ここまで来たし、ついでにアイツらもやっつけておこうか」
『寄り道上等』
私の指示を受けて、水母は鎧の集団へと近付いて行った。
男達の顔は驚愕と恐怖で凍り付いた。
「な、なんだあの女は! こっちに向かって来るぞ!」
「隊長! ポルカ隊長はどこに行った?!」
「く、来るな! 化け物!」
化け物とは酷いな。こんなに美人さんなのに。
いやまあ私も、問答無用で仲間の上半身を木っ端みじんに吹っ飛ばす女が、空を飛んでやって来たらビビって逃げ出すと思うわ。
美人な分だけ余計怖いというか。
まあいいか。ここは戦場。そして私は死を運ぶ黒衣の美女。敵対する者達には静かなる死を。
「最も危険な銃弾乱れ撃ち×10」
「「「「ギャアアアアアアアッ!」」」」
同時に十発の散弾銃式最も危険な銃弾を連続で十回。
合計百発の不可視の弾丸が彼らに襲い掛かった。
通常の最も危険な銃弾では、鎧に阻まれてしまうが、これだけ雨あられと降らせれば流石に無傷とはいかないはずである。
「これで良し。みんなの所に戻りましょう」
『了解』
私は血まみれの敵軍団を尻目に、悠々と味方陣地に引き上げたのだった。
陣地に戻った私を待っていたのは、兵士達の熱狂的な出迎えだった。
「「「「クロコパトラ女王万歳! 我らの守護者、クロコパトラ万歳!」」」」
ええと、ナニコレ?
いつの間にか陣地に戻っていた指揮官君は、困り顔で苦笑している。
駕籠が地面に着くと、ショタ坊が駆け寄った。
「ご苦労様でした、クロコパトラ女王。女王のご活躍はここから拝見させて頂きました」
ああ、そういう事。
”二つ矢”アッカムと、敵の一部隊をあっさり壊滅させた事で、兵士の中で私の株が爆上がりしたらしい。
私がここに来た目的は、戦果を挙げてこの国に恩を売る事だった。
どうやら目的に向けて一歩前進したようだ。
副官のウンタが、魔法銃を手に少し残念そうに呟いた。
「出来れば俺の手で仕留めたかったが・・・。距離を考えれば仕方が無いか」
ああうん。横からウンタの獲物を奪う形になっちゃってゴメン。
けど、絶対に逃がしたくなかったから。
「分かっている。この武器の威力では、余程当たり所が良くないと命は奪えないだろうからな」
ウンタは魔法銃をジッと見つめた。
「クロコパトラ女王。女王は俺にこれを伝えたかったんだな」
ん? 私がウンタに? 何を。
「俺は仲間の中で、一人だけ完全な形の圧縮の魔法を覚えられなかった。けど、この武器を使ってみて分かった。この武器は二人一組で使うものだ。一人が狙いを付けて、一人が圧縮の魔法で弾丸を打ち出す。だから魔法が使えないからと言って役に立たない訳じゃない。むしろこの武器で大事なのは狙いを付ける者の方だ。俺は仲間の誰よりもこの武器の狙いを上手くなってみせる。クロコパトラ女王の期待に応えて見せるよ」
ウンタはそう言うとグッと拳を握りしめた。
ああうん。そうそう。それそれ。私の言いたかった事が伝わったようで何より。私は君に期待しているよ。
『疑わしい』
違わい! ウンタを選んだのは最初からそれが狙いだったから。決して、ウンタとカルネ以外に、まだ小隊員の名前を覚えてないとか、そういうのじゃないから。今更「君の名前って何だっけ?」とか聞くのはばつが悪いとか、そういった理由じゃないから。
この時私は、こちらの攻撃が想定よりも上手くいった事で、少々いい気になっていた。
しかし、私が陣地でささやかな勝利に浮かれていたこの瞬間、戦場ではクロコパトラ小隊隊長のカルネが、”赤備えの騎士”ポルカと死闘を繰り広げていたのだった。
もしもこの小説が気に入って貰えたなら、私の書いた他の小説もいかがでしょうか?
『レベル1の最弱が上限突破の最強レベルに~スキル・ローグダンジョンRPGで俺はダンジョンの中では最強~』
https://book1.adouzi.eu.org/n1567fk/
長いタイトルですみません(笑)。こちらは完結作品となっています。
十年前に異世界に転移してしまった少年(今は青年ですが)が、日本に帰る手段を求めてダンジョンに潜る話です。
どちらかといえば、バトルよりもドラマ寄りのお話だと思います。
話数にして150話程(約50万文字)なので、小説を読み慣れている方であれば二~三日で最後まで読めるかもしれません。
読みごたえのある完結作品を探している方は是非。
次回「カルネvs赤備えの騎士ポルカ」




