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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
156/518

その154 メス豚、戦場を観戦する

 翌朝。空が白み始めると共に、あちこちで兵士達が起き出す気配がする。


『あ~、朝が来ちゃったかぁ~。あ~、憂鬱だわ~』


 私はテントの片隅でブヒブヒと鼻を鳴らした。

 気分はまるで月曜日の朝。

 今日は一日、窮屈なクロコパトラボディーの中で過ごさなければならない。

 自分で決めた事とはいえ、自由と自然を愛する野ブタには辛過ぎるモノがある。

 ていうかさ。義体の中はぶっちゃけ暑いし息苦しいのよ。

 いくら水母(すいぼ)が多少は改善してくれたとはいえ、相変わらずクロ子美女ボディーの居住性は劣悪なんですわ。


 あ~、やだやだ~っ。こうして一日テントの中でゴロゴロしていたい~っ。


 私は差し入れのお芋をボリボリと齧りながら、クロ子美女ボディーを恨めしそうに睨んだ。


「――おい、クロコパトラ女王。入るぞ? いいか?」


 テントの外から私の副官、亜人の青年ウンタが声をかけて来た。


 ちいっ。時間切れかよ。とうっ!


 私は嫌々気合を入れると跳躍。クロコパトラ女王の背中にイン。

 ビカッとクロコパトラの両目が光ると、女王の義体に命が吹き込まれた。


発言の(そんな)訂正を求める(機能はない)


 クロコパトラの膝の上でピンククラゲがフルリと震えた。

 うん、まあ確かに、目が光ったってのはウソだがな。イメージだよイメージ。ホラ、演出のお約束ってヤツ?


意味不明(あたおか)


 誰があたおか(頭おかしい)じゃい!

 全く、コヤツは一体どこでこんな言葉を覚えて来るんだか。


「クロコパトラ女王。連絡の兵士が来ている。人間の指揮官がお前に会いたいそうだ」


 いい加減に焦れたウンタの声に、私は「案内して」と答えた。




 兵士達の朝食が終わると共に、陣地の周辺に砂煙が立ち込めた。

 敵軍のご到着である。


 さて、ここで王子軍の陣地を紹介しておこう。

 ここは南に街道を望む小さな丘の上。まるで前方後円墳のような形をした丘、と言って通じるだろうか?

 メインの丘は広くて低い。てっぺんは平たく整地されていて、木の柵で取り囲まれている。

 ここには王子軍の兵士達のテントが所狭しと並んでいる。

 その丘の北東には高くて小さい丘がくっついている。

 今私らがいる場所だな。

 こちらにはイケメン王子の本陣が作られている。


 つまり高くて狭い丘が”本丸”。低くて広い丘が”二の丸”というわけだ。

 柵はあっても城は無いがな。

 本丸の丘の斜面には二箇所の張り出した広場が存在している。

 一つは本丸防衛用の広場”腰曲輪”。

 もう一つは、井戸が掘られた、いわゆる”水手曲輪”である。


 丘の周囲はグルリと堀が掘られている。水の入っていない”空堀(からぼり)”というヤツだ。

 工事の途中なのか、場所によって幅や深さに結構な差があるようだ。

 とはいえ、狭い場所でも四~五メートルはありそうで、陸上選手ならともかく、武装した人間が飛び越えるのはまず不可能だろう。

 そういった場所は激戦区となっているらしく、堀の中には捨てられた兵士の死体が点々と転がっている。

 疫病の問題や兵士の士気にも関わって来るため、死体の片づけは行われているようだが、それでも全てという訳にはいかないらしい。

 そもそも、敵に周囲を取り囲まれている王子軍は、死体を埋める場所にも苦労しているだろうしな。


 敵はぐるりとこちらを包囲しているが、一番布陣が厚いのは、やはり街道のある南側となる。

 逆に一番薄いのは西側だ。

 こちらは深い堀がある上に――ええと、食事中の方には大変申し訳ないが――兵士達のトイレが集中しているためだ。

 バッチイ話をするなって? サーセン。

 とはいえ、人間だろうが動物だろうが、生き物は食べれば出す物を出す。命に貴賤なしである。

 で、だ。流石に一万人からの兵士が何日も立てこもるとなれば、その間に生産されるおしっこやウンチの量も馬鹿にならなくなってしまう。


 この国は北に大河が流れている関係で、昼間は北から南、日が落ちてからは南から北へと風が吹く。

 そういった理由で北や南にトイレを作ると、風で陣地に匂いが運ばれてしまうのである。

 匂いだけならまだ我慢出来ても(いやまあ、普通にイヤだろうけど)、不衛生な環境で疫病が発生しては敵わない。

 何せ一万人もの兵士達が同じ釜の飯を食い、同じ場所で寝泊まりしているのだ。ソーシャルディスタンスどころの話じゃない。

 きっかけ一つでクラスター発生待ったなし、なのである。


 といった訳で、敵軍の攻撃は主に南から、本丸のある東にかけては激しく、北はそこそこ、西はおざなり、といった感じになっているそうだ。

 王子軍は堀を乗り越えて来た敵兵を迎撃。今の所どうにか互角の勝負に持ち込めているようである。


 てな説明を、私は王子の副官のロマンスグレーのオジサマからされたのだった。




 私は王子の本陣のある本丸から、眼下の戦いの様子を見下ろしていた。

 駕籠の存在は案外目立つのか、たまにこっちに目掛けて矢が飛んでくる。もっとも、一本も届く事無くパラパラと斜面に落ちているんだが。


 お前は見ているだけなのかって?

 仕方がないだろ。王子から直々に「黙って見てろ」と言われたんだから。

 いやまあ、流石にそこまで露骨に言われた訳じゃないが、王子が私達の存在を持て余しているのはハッキリと分かった

 どうやら王子は、亜人を入れる事で部隊の足並みが乱れ、防衛網に弱点が出来る事を危惧しているようだった。


 まあ確かに。

 言っても私らもたった四十人そこそこですし。戦力として頼りないのは分かるけど。

 けどさ。せっかく遠路はるばるやって来た援軍に対して、「邪魔するな」的な扱いはいかがなものなんでしょうね?

 一国の王子に面と向かってそう言ってやる度胸は私には無いわけですが。


 しかし参ったな。便利に使い潰されるんじゃないかとは警戒していたが、よもや邪魔者扱いされてしまうとは思わなかった。コイツはちょっとばかり予想外だったよ。

 けど、考えてみれば無理もないか。彼らは最前線で戦って来た軍人達。

 私ら村の亜人達が押っ取り刀で駆け付けて来た所で、「今更何しに来たの?」的な感じなのだろう。


「なあ、クロコパトラ女王。本当に俺達はここで見ているだけでいいのか?」


 クロコパトラ小隊、第一分隊隊長のカルネが、大きな体を小さくしながら私に尋ねた。

 みんなが戦っているのに、自分達だけサボっているみたいで落ち着かないのだろう。

 元々血気盛んなヤツだし、力を持て余してウズウズしているのかもしれないな。


 だが、いくら私がショタ坊に行動の自由を約束させたとはいえ、勝手に戦場を荒らして良いことにはならない。

 もしもそれが原因で前線が混乱、崩壊でもすれば、困るのはむしろ私達の方なのだ。

 

「仕方がないでしょ。大人しくしてろって言われたし。一先ず言う事を聞いておくしかないんじゃない?」

「けどよ――」

「まあ待てカルネ」


 ここで副官のウンタが口を挟んだ。


「俺達はここのヤツらの戦い方を知らない新参者だ。言ってみれば新人の狩人のようなもんだ。狩場には狩場の、チームにはチームの決まり事やルールがある。先ずはヤツらの戦い方を見てそれを学ぼう」


 おおっ! さすがはウンタ。アンタ今、いい事を言った!

 この説明にはカルネ達も納得した様子だった。

 彼らは退屈そうな態度から一変、熱心に眼下の戦いを見下ろし始めた。

 やる気が出るのはいい事だ。ふむ。ここは指揮官である私も、何かそれっぽい事を言っておくべきだな。


「ホラ、これはあれよ。私達はサイドデッキのカードみたいなものね。メインデッキで対応出来ない相手デッキに対抗するための、いわばメタカードなのよ。なくてはならない切り札って訳ね」


 トレーディングカードゲームではデッキの種類は千差万別。強い弱いの差はあっても、「これを使っていれば絶対に勝てる」といった万能デッキは存在しない。

 相手のデッキの種類によっては得手不得手が発生し、デッキ間の相性というものが存在する。

 カードゲームの大会は三本勝負の二本先取。

 サイドデッキとは入れ替え用のカードの事で、プレイヤーは二本目以降、自由にカードの交換が出来るのだ。

 つまりあれだ。スポーツで言えば”ベンチ入りしている交代用選手”のような物なのである。


 どうよ、今の例え。結構的を得ているんじゃね?

 みんな感心してくれてもええんやで?


「いや、何を言っているのかさっぱり分からんし」

「さいどでっき? めたかーど? 何の話だ?」


 ウンタとカルネ。そして小隊員達は、可哀想な人を見る目で私を見つめていた。

 さっきのウンタの言葉に対する反応とは雲泥の差だ。

 ガッデム! これだからエンジョイ勢共は! いやまあ、私もメインで使っていたのは環境デッキじゃなかったし、決してガチ勢では無かったんだが。


 などと私達がのん気な会話をしている間にも、丘の周囲では王子軍と大モルト軍の戦いが繰り広げられているのだった。

もしもこの小説が気に入って貰えたなら、私の書いた他の小説もいかがでしょうか?

『戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ』

https://book1.adouzi.eu.org/n6946fj/

昔のレシプロ戦闘機(四式戦闘機)に転生してしまった青年が、異世界の貴族の少女にドラゴンと勘違いされてしまう物語です。

タイトルにこそ戦闘機と付いていますが、ミリタリー色は全然控え目で、軽く読めるお話になっていると思います。

結構長く続いているので、ボリュームのある小説を探している方は是非。


次回「メス豚と防衛戦」

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― 新着の感想 ―
[良い点] …これは正面にひきつけておいて西から奇襲があるフラグッッ! [一言] 他作品の紹介コーナーは個人的にはとても効果があると思っています。毎回宣伝されてると一回見てみようかな…と思うことが多い…
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