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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第五章 大モルト侵攻編
152/518

その150 メス豚、やり辛さを覚える

「全く、世話を焼かせないでくれ!」


 私を叱りつけるウンタ。私は口いっぱいに頬張ったどんぐりを噛み砕きながら言い訳をした。


『ボリボリボリボリ・・・』

「――何を言っているか分からん」


 口の端からポロポロと食べかすが落ちた。ああ、山の恵が。



 久しぶりにクロコ美女ボディーから解放され、テンションの上がった私は、内なる野生の衝動に突き動かされて逃走した。

 私は本能に導かれるままに野山を駆け巡った挙句、必死こいて追いかけて来たウンタによってこうして捕獲されたのだった。


 ウンタは私を小脇にかかえたまま、仲間と合流するべく山を駆け降りている。

 てか、あまりに自然に使っていたので気が付かなかったが、ウンタは劣化・風の鎧(ウインドスプリント)の魔法を使ってたんだな。

 私の視線に気付いたのだろう。ウンタはうんざりしたように言った。


「当然だ。使わなきゃ絶対に追いつけなかったぞ。お前、どれだけ本気で逃げるつもりだったんだ」


 ・・・なんかゴメン。

 私は申し訳なさで一杯になった。

 いやね、今回はずっと街道を使っていた事もあって、クロ子美女ボディーから出る機会が少なかったのよ。

 久しぶりに自由になったし、しかもここって山じゃない。二重の意味での解放感で、私の中の野生が目覚めてしまったのよ。

 逃げ出すつもりはなかったのよ。不可抗力だったのよ。


『ボリボリボリボリ・・・』

「だから何を言っているか分からんと言ってるだろうが」


 私の言い訳はウンタには届かなかった。




 小隊員達は足を止めて私を待っていた。


『ちょっとアンタ達。そんな所で何やってるのよ? 早く敵の荷車隊を追わないと!』

「「「「「お前が言うな!」」」」」


 ごもっとも。


 ウンタは私を抱きあげると、クロ子美女ボディーに押し込もうとした。


『止めて! ゴメン! もうしないから! これ以上勝手な事はしないから、もう少しだけこのままで! 裸のままでいさせて!』


 私はプギー、ピギーと鳴いて暴れた。

 てか、泥んこのまま入るのなんてイヤじゃ! せめて体が乾くまで待っておくれ!


「裸のままでって・・・。お前、言いたい事は分かるが、他に言いようがあるだろうに。ハア――。おい、ウンタ。クロ子も反省してるみたいだし、自由にさせてやれよ」


 クロコパトラ小隊一の大男、第一分隊隊長のカルネが、呆れたようにため息をついた。

 カルネの言葉にウンタが不満顔を見せた。


「だが、カルネ――」

「まあ聞けよ。我慢強いクロ子がこれだけイヤがっているんだ。無理強いしてやるなよ。こいつなら必要な時が来れば自分で女王の体の中に戻るさ」


 カルネ・・・あんたって男は。

 あれか? 私に惚れているのか? 私にぞっこんなのか?


「それはない」


 イヤそうにするカルネと、ウンウンと頷く小隊員達。

 ガッデム。取り付く島もないとは正にこの事だ。泣いてもよかですか?

 ところで私は我慢強いのか? 自分では、どっちかと言えば根性無しの部類に入ると思っているんだが。

 今正直にそれを言うと、美女ボディーの中に突っ込まれそうだから言わないけどさ。


 ウンタは「お前が責任を持つなら」と言うと、私を駕籠(かご)の上に乗せた。


「責任ってお前――。お、おい、大丈夫だよなクロ子? な?」


 途端に不安そうな顔になるカルネ。

 あんた、さっきのカッコよさが台無しだよ。

 大丈夫。信頼を裏切るような事はしないって。


『多分』

「多分って何だよ! 多分って!」


 こうして我々は何事もなく出発したのだった。




 途中で思わぬアクシデント(※原因は私)もあったものの、我々はなんの問題も無く敵の荷車隊の追跡を続行した。

 荷車の列は街道の近くの小さな村に入って行った。


「おい、クロ子。あれ」

『そうね。どうやらここが連中の物資集積場みたい』


 敵軍は小さな村を占拠。物資集積場として使っていた。

 村の中央の広場には、大きな布を被せて養生された物資の山が見える。

 ここからだと村人の姿は見えない。全員逃げ出したのか、あるいは殺されてしまったのか。

 なぜ村を集積場に? とも思ったが、街道に近い上、警備の兵が寝泊まりするための家もあって便利だったのだろう。


 私は隊員に、遅れているショタ坊達を呼びに向かわせた。

 しばらく後。


「すぐに人間達が来るぞ」

「分かった」


 私はクロ子美女ボディーの中から返事をした。

 やがてショタ坊が息を切らせながらやって来た。


「女王。遅れて申し訳ありません」


 急いで走って来たのだろう。汗に濡れた前髪が額に張り付いている。

 ズボンも泥だらけでヨレヨレだ。慣れない山道の移動に随分と苦戦したらしい。


「構わぬ。それよりもあれを見りゃれ」

「敵の物資ですか。荷車隊が見当たりませんが」

「それなら村を抜けて更に後方に下がっていったの」


 ここまで追って来た荷車の列はここにはいない。

 ケガ人を乗せたまま、村を通り抜けて行ったのだ。

 まあ、我々の狙いは荷車のケガ人の止めを刺す事ではない。

 こうして物資集積場が見つかった以上、荷車隊(あちら)はもう用なしだ。


「・・・妙に手薄ですね。守備隊は出払っているんでしょうか?」


 そう。村を警備している守備隊の数は意外と少なかった。

 襲撃などは無いと高をくくっているのか、それとも周囲のパトロールのために出払っているのか。

 もし、そうだとすれば、こちらにとってはラッキーだ。

 我々の戦力は少ない。

 敵の数が少ない今こそ、襲撃をかけるチャンスじゃないだろうか?

 あるいは念のためにしばらく様子を見てから攻め込むか。


 私ならどうする?

 迷っている時間は無い。兵は拙速を尊ぶ。攻撃だ。


 ショタ坊は空を見上げた。

 太陽はかなり西に傾いている。


「――ここは夜を待ちましょう」

「デアルカ」


 ショタ坊の判断は様子見。

 確かに、そろそろ日が暮れるし、ショタ坊達は慣れない山歩きで疲れている。

 ならば休憩しながら夜を待つのもありだろう。

 判断としては、これはこれで間違いではないかもしれない。

 しかし――。


(慎重だな。苦手な相手だ)


 目の前のチャンスに釣られないタイプか。

 かといって消極的という訳でもない。

 こうして寡兵で敵の補給基地に挑んでいるし、私達に同盟を求める際には大胆に決断もしている。

 自分の中に確固とした基準があって、それに沿ってメリットとデメリットを計算し、行動に移せる人間、という訳か。


 もし、ショタ坊と戦う事になれば、私にとっては相性の悪いイヤな相手になるかもしれない。


 私は無意識のうちに、ショタ坊が敵として相対した時の場合を考え、やり辛さを覚えていた。 

次回「燃える集積場」

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