その140 メス豚と新たな戦いのゴング
私達の新兵器、”魔導大砲”の試作品は残念ながら失敗作だった。
とはいうものの、手ごたえは掴んだと思う。
――いや、別に言い訳でも負け惜しみでもないからな?
そもそも一度で完成させられるなんて、最初から考えていないから。
新兵器の開発には試行錯誤が付き物。そのくらい私だって分かっているから。
製作者のマニスお婆ちゃんも、きっと今回の反省を生かして、次の試作品ではより完成度の高い物を作ってくれる事だろう。
さて、そんな事があった翌日。
ぽっかりと空き時間の出来た私は、久しぶりに縄張りのパトロールに出る事にした。
久しぶりにあの沢――ショタ坊の軍と山越えをした時に休憩所にした沢――にでも行こうかな。
今日の私はヌタ場で泥んこ遊びをしたい気分なのだ。
遊んだ後はサワガニをバリバリ食べようぞ。
じゅるっ・・・。オラ何だかワクワクして来たぞ。
一刻も早く沢に行きたくなって来た。
今日は限界の向こう側まで飛ばしちゃおうかなぁ。ブイブイいわせとく?
「ワンワン!」
私の食欲を察知したのか、アホ毛犬コマがトレードマークのアホ毛を揺らしながら走って来た。
何よコマ。あんたも一緒に行きたいの?
「ワンワン! ワンワン!」
『? 一体どうしたの、コマ』
コマは懸命に私に何かを訴えかけている。
その時、コマの声を聞きつけて亜人の青年が駆け付けた。
「クロ子! 良かった、ここにいたのか! 人間だ! 村にまた人間の子供が現れたんだ!」
『! 人間の子供?! ショタ坊が?!』
それは新たな戦いの開始を告げるゴングだった。
「待てクロ子! そっちじゃない! 元々の俺達の村の方だ!」
『あっ、と。そうか』
村に向かって走り出した私だったが、すぐさま亜人の青年に呼び止められた。
そういや人間達はまだ新亜人村の場所を知らないんだっけ。
てか、今気が付いたけど、知らせに来てくれた青年の額には一本の角が生えている。
クロコパトラ小隊の隊員だったのか。
『いや、人間の相手をするならクロコパトラにならないと! 私は水母の施設に行くから、その間にあんたは隊員のみんなを集めといて! 集合場所は新兵訓練に使ったあの部屋ね!』
「わ、分かった!」
「ワンワン!」
『コマは群れの仲間と一緒に、村の周囲の警戒をお願い!』
私達を村の外におびき寄せておいて、その隙に手薄の村を襲うという可能性もゼロではない。
いわゆる陽動作戦というヤツだ。
軍事同盟を結んだばかりだし、まだ裏切られる可能性は低いと思うが、慎重に行動するに越したことはないだろう。
私は急いで水母の施設へと駆け込んだ。
水母の施設の奥でクロコパトラに化けた私は、小隊員と合流。
彼らの担ぐ駕籠に揺られて旧亜人村を目指した。
ちなみに集まった隊員の数は全体の半数ほど。
旧クロ子十勇士のカルネを始めとする残りの隊員達は、現在、村の外に狩りに出ていて連絡が取れなかったようだ。
カルネがいないのはちょっとばかり痛いかも。
私の副官、小柄な亜人ウンタが申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまん。クロ子――じゃなかったクロコパトラ女王」
『別にウンタのせいじゃないから。ショタ――人間が急に訪ねて来るなんて、誰にも分からなかったんだから仕方ないわ』
携帯電話もない異世界だからな。外に出てしまった人間を相手に連絡を取る手段なんて無いのだ。
とはいうものの、こういった有事の際に隊員の集まりが悪いようでは問題がある。
だからといって、彼らを専門の軍人として縛り付けておく事も難しい。
亜人村の生産力では四十人もの余剰人員を養う余力が無いためだ。
何か良い方法を考えないとな。
私はため息をつきたい気持ちを堪えた。
旧亜人村に近付くと、白い煙が上がっているのが見えた。
「何の煙だ?」
「俺が見た時は村の入り口の家のかまどを使っていた。多分、飯の仕度をしているんじゃないかな?」
ショタ坊達を見付けた隊員の説明によると、彼はたまたま巡回中に村から上がる煙を発見したそうだ。
何事があったのかと村の様子を見に行った所で、ショタ坊達、人間の騎士達を発見したという事だ。
てか、それって絶対に食事の煙じゃないじゃん。
「? どういう事だ?」
『どういうって、あんたが見つけてから、どれだけ時間が経っていると思っているの? あの煙はあんたが発見するよりも前から上がっていたんでしょ? それをあんたが見付けて、それから村に知らせに戻って、こうして私達全員で準備万端整えて向かっている。もしあれが食事の支度の煙だとすれば、どう考えても準備に時間がかかり過ぎでしょ。一体何人分の食事を作っているのか、って話よ』
「そ・・・そういやそうか」
多分あの煙は、ショタ坊が自分達が来た事を私達に伝えるために上げさせたものだろう。
上手い手だ。狼煙というのは大昔から使われている情報伝達方法だからな。
あれ? これって使えるんじゃない?
私はハタと思い付いた。
クロコパトラ小隊の集合の合図に、狼煙を使えばいいんじゃないだろうか?
それなら狩りに出ていても遠くから見える訳だし。
あっ! でも、それだと人間に村の位置が特定されてしまうのか。
ぐぬぬっ。痛し痒しだな。何か上手い方法はない物か。
私がクロコパトラ小隊の運用方法に悩んでいる間に、私を乗せた駕籠は旧亜人村へと到着したのだった。
やはり村に来ていたのはショタ坊達だった。
相変わらずのショタっぷりである。まあまだ別れてからひと月も経っていないんだがな。
そのショタ坊と、彼を護衛する武装した男達が十人程。
良く覚えていないけど、最初にこの村に来た時と同じ顔ぶれかもしれない。
私達の接近に気付いたのだろう。ショタ坊達は全員村の外に出て私達を出迎えた。
「水母。周囲に隠れている人間とかはいない?」
『人間は視界内で全員。建物内に隠れている者は存在しない』
ピンククラゲ水母には、動物が内包する魔力を計測するセンサーが内臓されている。
彼はそれらセンサーと赤外線カメラ等を組み合わせる事で、高度な探知能力を発揮するのである。
彼我の距離は50m程。
確か弓矢の有効射程は80mと聞いた覚えがある。
飛ばすだけなら400mは飛ぶが、敵に致命傷を負わせられる距離となるとそのくらいになるそうだ。
もちろん、それは日本の弓の話であって、この世界の弓がどの程度の性能なのかは分からない。
だが、大きく性能が変わらないのであれば、私達は既に相手のキルゾーン――殲滅可能範囲に踏み込んでいる事になる。
まあ私の魔法の攻撃範囲でもあるんだがな。
「ウンタ」
「ああ、分かっている。人間の貴族! 今日は何の用があって我らの村を訪れた?!」
流石は私の副官。ウンタは私に代わって私の聞きたい事を尋ねてくれた。
こちらの問いかけに応えて、ショタ坊は一歩前に出た。
「イサロ殿下の命を受け、亜人の女王に再び共同作戦を申し入れたく、やって参りました!」
金髪イケメン王子の?
てか、ついこの間、手伝ってやったばかりじゃん。
私自ら案内して、山越えして隣国の領地に攻め込んだばかりじゃん。
お前ら今度は一体何をやらせるつもりなんだ?
次回「メス豚、状況を説明される」




