14話 小さな追放者は その3
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むかしむかし。
まだ王国が存在する前のこと。
ユングフレイとイニスが、部族同士の揉め事を仲介してやるために、共に遠方へと出かけた帰りのこと。
故郷の村へと帰って来た二人が見たのは、焼き払われた家々と、無残に殺された村民たちの姿でした。
遠征へと出掛ける前に笑っていた幼子たちは息絶え、二人を慕って静かに暮らしていた者たちは皆焼かれ、突き刺され、斬られて潰されて転がっていました。
二人の家族もみな、死体となってその村に放置されていました。
それは多くの部族を纏め上げるユングフレイとイニスという若者のことを、快く思わない者たちの凶行でした。
怒り哀しみ、正気を失ったイニスは、罪人たちを必ず捕らえ、苦痛を与え、彼らの親族からその部族に至るまで焼き払い、拷問し、その魂が永遠に天へと昇らない方法で皆殺しにしなければならないと言いました。
ユングフレイは正気を失ったイニスを止めようとしましたが、イニスはもはや彼の話を聞こうとはしませんでした。
少年の頃から共に歩んだ二人の道は分かれ、世界に暗黒が訪れようとしていました。
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「ということで、どうにかならんものかのう?」
ポルボの雑貨店。
エステルは店のカウンターの上で、つんのめって足をプラプラとさせながらそう聞いた。
「車椅子ー? ウチだって在庫にないよー?」
カウンターで何やら帳簿を計算し続けているジュエルが、そう言った。
あの件以来、ジュエルは一時的に、ポルボの店にお世話になっている。
「店長ー? ウチ、車椅子なんてないですよねー?」
ジュエルが振り返ってそう聞いた。
ポルボは奥の部屋で何やら座り込み、大きな身体を丸めてテーブルに向かっている。
「ンドゥルフフフ……たしかに無いネ……ンドゥフ」
「作るなら、どうすればいいじゃろうかな?」
「元になる車椅子さえあれば、私が複製してあげられるんだけどね」
「そこは鍛治一族のアレで、何とかならんものかー?」
「簡単な金属加工ならできるけど、そういうのは専門外」
ジュエルが帳簿を次々にチェックしながらそう言うと、ポルボが奥の部屋から声をかけた。
「ンドゥルフフフ……王都から取り寄せることもできるネ……」
「それ、どれくらいかかるんですか?」
「ンドゥフ。基本特注になるから、数か月は見た方がいいカネ……あとは、かなりお金がかかるヨ」
「数か月も待てないのだー! どうにかならんものかー!?」
「というか、ぶっちゃけ錬金スキルならあの食堂の店長の方がずっと高いよ。頼んでみれば作ってくれるんじゃない?」
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「ああ? 俺の錬金スキルなんて、そんな大したものじゃねえぞ」
カウンターで『脱冒険者、飲食店開業マニュアル!第五版』を読んでいたデニスは、エステルにそう答えた。
「そんなこと言っても、お主はレベル100ではないかあ!」
「いや、そうなんだけどよ。俺の錬金って結局、調理器具とか調味料しか作れねえし」
「えっ? そうなの?」
エステルはきょとんとした様子で、そう聞いた。
「俺は色々と特化型だからよ。料理関係のスキルなら使えるんだが、錬金とか魔法とかは必要な分だけだな。あとそもそも俺、ほとんど魔法使えねえし」
「いやでも、普通に使ってるではないかあ!」
「使えねえことも無いんだが、我流だから色々雑なんだよ。炎の魔法使いがやるような、自分の衣服だけは燃えないみたいなことできねえし。炎を纏う系の魔法使うと、俺普通に裸になるぞ」
「で、では! 余はどうやって車椅子を作ればいいのだあ!」
「えらい限定的な悩みを抱えてるな……」
その様子を見て、同じくカウンターに座っていたビビアが答える。
「街の人たちにも声をかけてみれば、誰か出来たりするんじゃないですかね?」
「声かけるったってなあ。たとえば?」
「たとえば……鍛冶屋のおばあちゃんとか?」
「まあ金属加工に関しちゃ、俺よりずっと上だよな」
「あとは、よくカツ丼食べに来る馬車屋のおじさんとか」
「馬車屋に頼んでどうするんだよ」
「まあ……車輪とか?」
「ポワゾンにも声かけたらどうだ?」
「車椅子に毒属性付与するのはまずいですよ」
そうやって、ビビアとデニスが何かと話し始める。
その様子を見て、エステルは何か決心したようだった。
「まあ、あれか! とにかく声をかけてみればいいのだな!」
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「ということで、本日みなの者に集まってもらったのは他でもない!」
エステルは街の広場で、集めた町民たちに向かって演説を行っている。
「車椅子を作るためである!」
エステルがそこまで言ったところで、集められた町民たちがひそひそと話し始めた。
「なんで車椅子なんだ?」
「なかなか無い状況だよな」
「あれだろ、石膏屋の娘さんじゃないのか?」
「ああ、メジフの子供か。でも、あの娘って……」
町民たちが話している前で、エステルは手を振った。
「ということで! たしかに車椅子そのものを一人で作れる者はなかなか居ないと思うが、みなの力を合わせれば車椅子っぽいものはできると余は信じておるぞ!」
「車椅子っぽい物でいいのか」
「とにかく! 車椅子っぽく使えればいいのー! それでいいでしょー!」
エステルがそう叫ぶと、町民の一人が声を上げる。
「支柱は鍛冶屋のばあちゃんのところで作ってもらえばいいよな」
「全部作らせるのは大変じゃあないか?」
「あれだ。前に複製スキル使った盗人娘がポルボの店にいるだろ。規格が同じ物は、あの娘に頼んで増やしてもらえばいい」
「それなら手分けして材料を作りながら、必要なところ複製してもらえばすぐできそうだな」
「それこそ、車輪なんて馬車屋の馬車借りて複製しちまえばいい」
「おお! よいぞよいぞー! これぞ民の力! 束ねて立ち上がる力であるなあ! 治世って感じがするのう!」
エステルは嬉しそうにそう言うと、町民たちに混ざって案を出し始めた。
その様子を遠巻きに眺めていたデニスは、隣に立つビビアに話し掛ける。
「ああいう姿を見てると、さすが王族って感じがするな」
「なんというか、統率能力ありますよね」
「統率能力というよりは、行動力と決断力の塊だな」
「まあたしかに。あれから一人で街中駆け回って、すぐに集めちゃいましたもんね」
ビビアがそう言った。
「良い悪いはともかくとして、とにかく先頭切って迷わず突っ走ってる奴には着いて行きたくなるよな」
「物怖じしないですよね。王様っていう感じがするなあ」
デニスとビビアがそんなことを話している間も、町民たちは次々とアイデアを出しているようだった。
「細かい部品はどうする?」
「食堂の店長が錬金使えるだろ。適当に見繕ってもらえばいいさ」
「あの店長、調理器具しか錬金できないぞ」
「フライパン錬金してもらえば取っ手ができるだろ」
「フライ返し曲げれば足置きになる!」
「おおー! 頭良い! お主らすごい!」
「いや、違うだろ。考え直せ」
「デニスさん、逃げられないですよ」




