通り過ぎた闇風
イゴールの戦斧が薙ぐ。
あずみは木枝の壁を駆け、イゴールを通り過ぎようとしたが、ジャン・ジャックが立ちはだかった。
メスを構えたジャン・ジャックだが、影化したあずみが股下をくぐろうとする。
「ナメやがってッ」
闇の中、一層色濃い闇色をした影が地面を這う。突き立てられるジャン・ジャックのメス。
しかし影は一旦二股に割れ、メスを避けた。
そして一つになりながらジャン・ジャックの背後で、背中合わせで実体化する。
「南無三」
ジャン・ジャックの背後に現れたあずみの手には、これまた闇で出来たクナイが逆手に握られており、ジャン・ジャックの背中に向けて、刺突が繰り出された。
「ちぃッ!」
前方に一歩踏み込むジャン・ジャック。
あずみはすぐさまジャン・ジャックと逆方向(進行方向)に走り出し、フォンテス、シャノンの首筋をクナイで切り裂いた。
フォンテス、シャノンが首筋を押さえながら崩れ落ちる。
止血の為の圧迫だ。
「てめえッ」
マシアスが短剣を横一文字に凪いだが、既にあずみの姿はそこにはなかった。あるのは、クナイの形をした、無数の闇。おびただしい数のそれが、マシアスの眼前の空間に浮かんでいた。
「闇風忍術、影苦無」
「やべえッ」
マシアスは、とっさに両腕を心臓の前で交差させた。闇のクナイがマシアスの全身に突き刺さり、まるで散弾を至近距離で食らった様に、菱形の穴が無数に開いた。心臓は守ったが、一斉に吹き出す血のせいで、マシアスの目が眩んだ。
「何……だと……!」
片膝をついたマシアス。
あずみは少しだけ振り返る。
「……ちょっとスッキリしたでござる。ナイフ男、次に会う時がお主の最期ゆえ、それまで悔しがってろでござる」
あずみはそう言うと、前を向いて駆け出し、影化によって森の木枝の影と同化しながら姿を消した。
「マジで、なめてくれやがって……!」
ジャン・ジャックは、あずみの消えた方向、その闇をしばし睨みながら、ぽつりと呟いた。




