742/2233
止まる理由
「止まれ」
フォンテスの硬い、静かな声が響いた。
駆け寄ろうとするメは、その主の硬さが、自分への警戒心からのものであると思った。
フォンテスの緊張は、その場にいる全員に瞬時に伝わり、吸血鬼一行、そしてジャン・ジャックが立ち止まる。
「主、何ヲ……」
メは、尚も一行へ向けて歩を進めようとする。
フォンテスは掌をメに向け、制止の構えだ。
「止まれ。そして黙れ」
鳥や獣、虫の音すらも止んだ。
言語ではなく、殺伐とした雰囲気、フォンテスの発する殺気を感じた様であった。
「マシアス」
「はいよ」
フォンテスに呼ばれたマシアスが、短剣を構える。そして、投擲した。
「はい、死んだ♪」
マシアスの手を離れた短剣は、最初は真っ直ぐ、そして徐々に上昇する様に飛び、メの直前で軌道を変えて、垂直落下で真下に突き刺さった。そこには、木の根が張っている。何の変哲もない森の木の根だ。短剣は、この木の根に突き刺さった。
「……やはりな」
短剣が刺さる直前から、フォンテスの顔が険しくなっている。
木の根には、メから伸びた影がかかっていて、フォンテスたちに向かって、真っ直ぐ伸びている。
しかし、変だ。
短剣が刺さる寸前に、メの真横に向かって、影が伸びた。
「影が、二つになっタ!?」




