喜色と怒気と困惑と
「己を恨むがいい、透明の魔物よ。今宵は貴様を生かしては帰さん」
ガインが大剣を振ると、滴る血が数滴飛んだ。
その血は赤く、まだ少し刀身に付着していて、刃が燃えているかの様だ、とガインは思った。
「貴様の血は赤い、か。……まるで人間であるかの様に」
ガインは大剣を肩に担ぎ、じりじりと摺り足で、右方へと移動する。
対する穴倉も、右方へと。
穴倉の体には、多数の斬り傷。
血塗れの穴倉は、息荒く、足どりもおぼつかない。
だが、口は回る。
何だか、喋らずにはいられない。
「帰さんだと?俺に帰る場所なんてないよ。あるのは、目の前の醜い化け物を殺して緑の血を飲んでやる、って気持ちだけだ」
追い詰められれる程に、穴倉の目は輝いていた。
ロイドは穴倉を見る。
姿形も醜悪で、発言もおぞましい。その挑発的な言葉には、無邪気な喜びの感情が乗っていて、自分たちとは違う生物なのだと強く思う。
ガインが苦々しげに吐き捨てる。
「貴様のその欲望の為に、何人のゴブリンが犠牲に……ッ!」
穴倉は鼻で笑う。そして無機質な、しかし喜色に溢れた声でガインに言葉を投げかける。
「お前こそ何人殺したんだ?化け物」
ガインが歯噛みした。
ロイドは、ガインへ視線を移す。
ロイドにとってガインは恩人であり、尊敬の対象。男としての手本に見えていた。
しかし、その顔を歪ませ、苛烈な怒りの気を体全体から迸らせながら、憎々しげに穴倉を睨みつけるガインは、ロイドにとっては困惑の感情を抱く存在へと、変わりつつあった。
ゴブリンであるガインの顔は、醜い。




