匕首への峰打ち
その刹那。
超速で駆けたエタースがユウに斬りかかった。
いつの間にか右手に持ち変えられている匕首が振り下ろされるが、ユウは既にそこにはおらず、天井に、重力を無視したかの様に逆さまに立っている。
そこにシャサが殺到し、針で突く。
だが、ユウの姿は既に掻き消えていて、エタースの眼前に戻っていた。
驚いたエタースが、巨体に似合わぬ素早い斬撃を繰り出すが、ユウは目を見開き、白い歯を剥き出しにして嗤って、その顔のまま全て避ける。
シャサが長い足を利した左の上段蹴りで首を刈らんとするが、ユウは間合いを外して薄皮一枚の距離でかわし、シャサがその勢いのまま回転して放った右足での跳び後ろ回し蹴りも同じく薄皮一枚の距離で避ける。
シャサが左足を折り畳む。
エタースが、そのシャサの左足裏を掴み、押し出す様に腕を伸ばす。
「イィヤァァ!」
射出されたシャサが右の膝蹴りを繰り出す。
ユウの顔面に迫る膝だが、ユウは少し反っただけで難なくかわし、続いて放たれたシャサの左の膝も、首を捻りながら屈んでかわした。
そこにはエタースが匕首による突きを既に敢行しているが、ユウはその匕首の峰に、軽く曲げた左の人指し指の先を当てた。
すると匕首は床に刺さり、またもユウの姿が消えていた。
誰もがその動きを捉えられず室内を見回すと、ユウは元いたテーブル、そこにある自分が座っていた椅子に足を組んで座っていて、右手の人指し指と中指を揃えて敬礼の様に頭につけ、その指をエタースたちに向けて振った。
「峰打ちだ、安心するがいい」
ユウは、匕首の峰を指で打った行為を峰打ちと称した。
これはユウなりのジョークの様なものだったが、誰にも伝わらない。
その場にいる者たちは、ユウが混沌の二人に攻撃を打ち込んだと勘違いした。




