バンダーベルグの悔恨
門外に設けられている簡易関所の前で馬を降りたバンダーベルグに、市民たちが気付く。
バンダーベルグは飛空魔法を使えるが、市長としては魔法は使わない。
妖の正体と結び付く可能性は極力排除するのが、バンダーベルグの日常だからだ。
市長としての外出は、市長としての帰還にせねばならないし、陸路を行き、何かと空を飛びがちな妖との違いを創作しながら、入街時に市民と不便を共有する。
これが大事なのだ。
わざわざ馬を買って単身帰って来ることは、行動力のアピールにもなる。
市民は笑顔で、口々に話しかけて来る。
バンダーベルグは、その一つ一つに、そっけなく応対していく。
「市長、ご苦労様です」
「そちらもな」
「市長、どちらに行かれていたのですか」
「ブレブロまでだ」
「市長、お腹はすかれていませんか?いい干し肉があります」
「私はいい。よければそちらの坊やへ」
「市長、聞いてもらいたいことが」
「ここでよいのならば今聞こう」
「市長、自由に街に入れないのが、面倒で仕方ありません」
「私もそう思うが、街の平和の為だ。我慢してくれると助かる」
「市長、こちらへ」
市民の声の中に、移動を促す声が混じった。
バンダーベルグが見やると、待っていたのは、隣国レパードの大臣ブリスコだった。
魔法大国レパードの常用服、緑色のローブを着ているその姿は、この国で見ると、ただの怪しい風体の魔法使いにしか見えない。
その傍らには妖霊の騎士たち、ラスとクルーサリティス。
「何かあったのか」
バンダーベルグは市民たちに応えながら、足止めを食うことなく、門を素通りする運びとなった。
市民と同じ様に入街の苦労を背負う一方で、こうして有事には超越権を行使して入街するのも、市長の仕事だとバンダーベルグは思っている。
抵抗勢力には攻撃の材料を与えるが、それは効果的に使えば、さらなる支持を呼び込む為の餌となるのだから。
ブリスコもラスも、渋い表情をしている。
バンダーベルグは無言でクルーサリティスの顔を見た。
クルーサリティスの右目は、前髪を作っていないロングヘアーに隠れている。
左目には何の感情も見えない。
「ギルバーティの本体が消失しました」
馬など使っている場合ではなかった、とバンダーベルグは思った。




