狂騒のビクトー
ビクトーはきびすを返し、クマガイを抱え上げた。
「ええ、仮初めの魔王。私は、主の体と悪魔ビクトーの融合体なのです」
ビクトーがクマガイを抱えあげる。
そして、再び祭壇をのぼり始めた。
「…何をする気だ。何をする気なのだ、ビクトー!」
イゴールは止めるべきだと思った。
しかし、止めるべきではないとも思った。
見てみたかった。
ビクトーは何か重大なことをしようとしていると、わかったのだ。
だから、イゴールは動かない、いや、動けない。
上段まであがると、ビクトーは十字架の合間を縫う様にして中央に立ち、クマガイを掲げた。
「我が女神イオよ!我ここに敵方の黒き魂、魔王の体、そして我自身と、我が主の体を捧げます!代価として我が真の主であらせられる魔王、アプリコット様の魂の再臨を!お願い致します女神よ!ひらに!ひらにいいいい!」
初めて見る、ビクトーの狂騒。
奴は、ビクトーは吸血鬼ではない。
悪魔だ。
甘言で惑わし、欺き嗤う、悪魔だ。
その悪魔が、魔王の支配から解き放たれて尚、この忠誠心である。
異常だ。
イゴールの脳裏には、主フォンテスの顔が浮かんだ。
真祖のフォンテス、純血種のイゴール。
自分はここまで主に執着出来るだろうか?
己が主を欺かれたにも関わらず、イゴールは怒りではなく、羨望の思いでビクトーを見つめていた。
玉虫色の後光が消え、数瞬の後、朝日の様な夕陽の様な眩い輝きが放たれた。
そしてギルバーティの体は、幼い少女のかたちへと、その姿を変えた。




