あえての瞳術
イゴールは、焦燥に駆られていた。
敵は強い。
地下牢のタツキはまだ子供ではあるが、ナチュラルな身体能力、近接戦闘力でいえば、イゴールを凌駕するといえよう。
「一刀流奥義!血走り!」
「ぬうっ」
超速の居合い斬りを巨斧で受け止める。
しかし、やはりまだ子供なので、攻撃が単調なきらいはある。
が、身体能力で押されると、この薄暗い通路では分が悪い。
魔法が加わってくれば戦況も変わりやすいだろうが、イゴールは魔法を使うタイプではない。
平均的な術者が使う中位魔法程度ならば、吸収、放出出来るスキルを持ってはいる。
だがそれが、何だと言うのだろう。
敵の速さの前には、何の役にも立たない。
…と、イゴールは思っていた。
「瞳術…か」
灯りはある。
だが、煌々と明るく照らしてくれているわけではない。
これも、分が悪い理由だ。
暗闇ならば通常、夜目が効く吸血鬼が有利だ。
月の光と吸血鬼の瞳術は相性がよく、昼間よりも使い勝手がいい。
しかし、照明魔法は月の光ではない。
照明魔法で照らされた通路は、ぼんやりとしか明るくない。
これでは、瞳術の使い勝手悪過ぎるのだ。
瞳術は、読んで字の如く、瞳の術だ。
相手をリラックスさせた状態で、刷り込む様に使わねば効きにくい。
素直な子供が相手なので、月光の下でならば、かかりはいいだろうが、地下深くから地上まで引きずり出すというのは、現実的ではない。
「そうですよイゴール、瞳術です。いいですか…」
「!」
なるほどな、と口からついて出た言葉に、イゴールは赤く激しく笑む。
ビクトーがこの局面で提案してきた方法は、やってみる価値があった。




