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宿屋の男
歩を進めた先は、古びた安宿だった。
扉を開けると、埃っぽいエントランス。
カウンターには、禿げ上がり太った中年の男が、突っ伏して寝ていて、いびきをかいている。
「仕事する気ねえな、こいつ…」
マシアスは、男の喉を切り裂いてやりたい衝動にかられ、短剣に手をかけた。
ミラーが慌てて制止し、男を起こす。
「ああ…お帰んなさい、ミラーさん。んん?お連れの方々は?」
「ギルバーティさんを雇いたいという方ですのよ」
「ああ商談ですか…ならどうぞ」
世間的にはギルバーティは蕀のリーダーだ。
しかし、それは仮の姿でしかない。
実際には元魔王であり、人間の敵だ。
あくびをしながら、手で階段へと促す男を見て、誰もが、のんきなものだ、と羨望混じりの呆れ顔になった。
この階段の先に魔王だった男がいるとは、夢にも思うまい。
そんなことを各々思いながら、ところどころに埃がこびりついた階段を上がり、奥の角部屋の前に立つ三人であった。




