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牢屋の男
反対側の壁際の浅い位置。
そこに陣取ったビクトーも、イゴールと同じく、石床の上に座っていた。
左足は曲げ、左の掌で左膝を包み、右足は伸ばし、前方に投げ出しているその姿は、着ている服はさておき、見るものを見惚れさせる気品と美しさに満ちている。
だが、ここには明かりがない。
それでは、この場においては、彼の端麗な容姿を目にすることは出来ない。
逆に、ビクトーは、明かりのない真っ暗な牢の中を、問題なく把握していた。
それというのもビクトーは、眼球鏡を付けたままのイゴールとは違い、とっくに眼球鏡を外していたから。
イゴールは、厳密には吸血鬼のものとは言い切れない悪魔の眼で、牢の中を、今一度見渡した。
二人が入れられた牢には、先客がいた。
スーツ姿の、恰幅のよい、眼鏡をかけた男。
男は、イゴール側の壁の、浅い位置に座っていた。
真っ直ぐ見据えるその視線の先には、ビクトー。
そう、ビクトーと男は、壁を背にして、真正面から向き合っていた。




