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ガインとユウと

緑色の皮膚に尖った耳の男の身長は170cm台半ば程。銀の鎧に身を包み、大剣を背中に背負っている。ガインだ。ガインは幼女と手を繋いで歩いていた。幼女は果物を頬張りながら、ぴょこぴょこと跳ねる様に歩く。動きやすい子供用の布の服を着ている。おてんばな彼女の行動を見越しての服装だろう。幼女はユウ。エイミーの娘だ。ガインとユウの二人は、おてんばなエイミーが神殿に行っている間、街を見て回っていた。


今、ユウが頬張っているのはリンガの実。甘酸っぱくジューシーな人気の果実で、ガインは、二個を黒貨五枚で買った。食べ物をユウに与えて、おとなしくさせようという魂胆だった。実際に効果はあったのだが、二個ともユウが食べてしまっていること、まだまだ何かを食べたがるであろう雰囲気であることが、ガインを苦笑させた。というのも、様々なテント屋台の商店の売り子が声をかけてくる度に、立ち止まるユウにせがまれ、言われるがまま買い与えてしまっていたのだ。そんなガインの姿は、従者というよりも、妹に甘い兄の様相を呈していた。


「エイミーさんに怒られないかな…。」

食べ物を買い与えても怒られはしない。貴族とはいえジダール家は、おおらかな印象を受ける。ユウに本格的な教育をまだしていないだけなのか、意図的にのびのびと育てているのかわからないが、平民の子供と何ひとつ変わらない。ユウの無邪気な姿を見ていると、子供はこれぐらい自由でいい、とも思うが、遠慮のなさを見ていると、貴族の家の子としては少し、いや結構問題がある様にもガインには思えた。


天気がいい。ガインはユウを連れて噴水広場まで来た。日差しはそう強くはない。かといって肌寒くもない。何をするにも心地よい気候だ。ガインと共に噴水の縁に座ったユウは、露天で買った鶏の串焼きを食べている。口の周りがタレでベタベタだ。ガインはユウの口をハンカチで拭いてやろうとするが、ユウは自分の舌でタレをぺろぺろと舐め取って得意気な顔をした。ガインは苦笑混じりに微笑んで、やっぱりハンカチで拭いてやる。拭かれるのを鬱陶しがったユウが、体をねじらせ、すり抜ける様にして立つが、ガインは両手でユウを抱き抱え、膝に乗せて脇腹をくすぐった。ユウがきゃあきゃあと声をあげ、周囲にいた子供たちが寄って来る。ガインたちは、あっという間に子供たちに囲まれてしまった。


厳しい修行の末に剣と魔法を修得し、神殿から銀鎧を授けられるテンプラーは、子供たちにとっては正義の象徴だ。近寄って自分も遊んでもらいたい、という気持ちを抑えられない子供は多い。

「騎士さま!僕も抱っこして!」「あたしも!」

ガインは言われるがまま、見ず知らずの子供を順に抱え上げ、一歩二歩歩いて降ろす当たり障りのない行動をローテーションで繰り返した。ユウがつまらなそうに膨れながら並んで歩く。ひとしきり周りの子供を抱っこし終え、この微妙な集まりが何となく解散すると、ガインはまた噴水の縁に座った。すると、ガインの両足にユウが抱きついてきて、俯いて、額をガインの足に押し付けたまま黙っている。

「抱っこ?」

ガインが尋ねると、ユウはそのまま、「あい」と小さく返事した。ガインがユウを抱え上げて膝に乗せ、顔を見ると、ぽろぽろと涙をこぼしてユウが泣いていた。

「わあっ!?ユウ、どうしたの!?」

涙をこぼして尚、ユウはへの字口でこらえようとしている。

「ガインはユウを守る騎士さまだもん。他の子の騎士さまじゃないもん。」

そう言ってガインの首に抱きついたユウは、声もなくぐすぐすと泣き続けている。ガインの胸が、あたたかいもので満たされていく。ユウの背中をぽんぽんと叩く。実際はまだ、正式なジダール家の騎士ではない。だが、自分と母の危機に颯爽と現れ助けた騎士を英雄視し、慕うのは、幼い子ならば往々にしてある。しかも、その騎士が自分の保護者の様に付き添うのだから、独占欲だって湧くだろう。ユウの可愛らしい嫉妬の涙に、ガインの心は完全に溶かされてしまっていた。魔物の自分を慕うこの子の傍にいたい。必要としてくれる限り、この子を守ってあげたい。この子が幸せな気持ちになるならば、何でもしてあげたい。情も湧いているが、ユウは、ガインに自己肯定させてくれる。ガインへの慕情を隠さないユウの感情は、ガインにとって幸せな気持ちを溢れさせるトリガーだ。ガインは、ユウをぎゅうっと抱きしめた。ガインの目からも、一筋の涙がこぼれた。


四半刻ほど後、ユウは、ガインと共に来た道を戻っていた。頭に子供用のサークレットを付け、可愛らしいピンク色のドレスに身を包み、高価な魔除けのアクセサリーを多数胸から下げ、片手に焼きとうもろこし、もう片手にアメリカンドッグに似た食べ物を持って交互に頬張り、練り歩きながら。沢山の購入品を持って傍らを歩くガインはえびす顔で、鼻の下は伸び切っている。もはや、ワガママ小姫と、従者のダメ騎士にしか見えない。神殿の前で二人を待っていたエイミーは、こちらに向かって歩いて来る二人をちらっと視認し、目を見開いて二度見した。


ガインは、エイミーにこっぴどく怒られた。

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